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剣と魔法と世界と箒  作者: 久乃 銑泉
第壱部・伍章 湖上難路・ふねの いくさは すきですか
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第肆拾捌話 一対一擬・いっきうち

予約忘れてたー

 銀閃が舞い、追うように空が爆ぜる。同時に水壁がその軌跡を遮り、雷はある一定方向への進路を塞ぐ。

「ちっ、ここまでやって捕まらんってか!」

「ふふーん、まだ捕まんないよー。…ところで風、水、雷、って増えたけどまだ何かある?」

「あっても教えるとは思ってないだろ」

「うん。聞いただけー」

 それらを全てかわしつつ話しつつ攻撃しつつ、なんて能力双羽には無い。大体逃げの一手な現状だ。

 まあ、向こうもそろそろ手札の大半が表になってはきている頃合い。だからと言って、ここから更に奥の手が無いなんて保証も無いが。むしろ有った方が自然、と双羽は考える。

「(ま、こっちだって、ね)」

 双羽の戦闘手段、技の類に関しては正直このくらいで打ち止めだ。先ほど見せたアリア直伝(?)の奇襲技が“奥の手”に当たる。

 一応、アリア戦を決定付けた箒の自在伸縮もまだ見せていない。ただ、こちらの位置を正確に狙ってくるアディルの魔法相手に、そう披露できるものでもない。

 しかしながら、隠し持った技術だけが手札ではないのだ。この場の状況、地理的要因。周囲の環境と自己の能力、加えて相手の手札まで。そんな山札から、自己の選択肢を新たに抜き出す。

 今回用いるは、相手のきった手札。情報から推測し、推測故のブレを検討。ブレの範囲内、尚且つリカバリ可能な手段でもって、試行する。

「だーくそ、いい加減止まれ!」

「止まれ、って言われて止まる訳無いでしょー」

「分かってんよ、言っただけ…」

「まあ止まるんだけど」

 会話の流れにこれ幸いと、タイミング計っての急停止、次いで後退。丁度今し方爆ぜた空間へと飛び込み、直後眼前で爆風が発生。しかし、双羽を傷付けるには至らない。

「っ、お前さん…」

「…どしたの? 攻撃、止まっちゃったけど?」

「分かってて言ってんだよなー、それ。性格の悪いことで」

「ありがと」

「もちろん誉めてねぇからな」

 つい今し方までの間断無い追撃が、止む。双羽を中心とした空白地帯。無論、完全な安全を保証するものではない。“タネも仕掛けもある”魔法、そのタネと仕掛け故に発生する追撃不能領域である。

 …アディルの魔法は、おそらく“不可視の爆弾”。一定の空間に仕掛け、一定のキーワードで起爆する。そう考えれば、初め船を砕いた一撃も多重設置からの一斉起爆で説明が付いた。異様に短い呪文は、単なる起動ワードに過ぎなかったわけだ。

「…で、仕掛けたあともちょっとぐらい動かせる、じゃなかったら隠れて仕掛けられる、ってとこかな?」

「…ネタばらしどーも」

 驚くべきは、これを悟らせぬアディルのその制御能力だろう。

 単に仕掛けた魔法による波状攻撃ならば、すぐどこかに穴が空く。それを避けるため、用いる部位を吟味し、今言った機能で密かにカバーするわけだ。

 で、この作業を戦闘中継続。言うは易し、である。

「アレだね、やっぱり剣と魔法の異世界なわけだね。みんな怖い」

「お前さんこそ大概だっての」

「えー」

 双羽としては至って心外である。

「…さーて、タネを暴いた箒少年、次はどうする? ここまで大業に解説しといて、んのままジリ貧、てのは望むとこじゃぁないぜ」

「もっちろん。そんなこと無いから安心して良いよー」

 わざわざ足を止めての解説。無意味な行動では決してない。

 今いる角度と位置を再確認し、ほんの少しだけ姿勢を前傾とする。距離から考えても、また戦略的に見ても、対応は無駄でなければ必然でもない距離、僅かなる変動。しかしその微差に、アディルは微か且つ確実な反応を返す。

 一手間かけてその事実を確認した後、俄かの急降下。しかし勿論の如く不意をつくには至らず、逆に風水雷の手厚い飽和爆撃を受ける。比喩でなく隙間の無いソレに対し、双羽は一瞬自身を空へ放る荒技にて対応。主を捨てた箒は瞬間的に人の目に映る限界を超え、舞った。衝撃閃光その他を物理的に封殺、主の手に戻ったのは双羽が重力に引かれるより僅かに早い。

「あの形でまあ、格好いいことしやがる」

 地道に磨かれてきた箒の操作技能は、既に人を乗せた乗り物としての限界を突破していた。普段、双羽自身が耐えられる速度にまで抑えてアレである。耐久力という制限を取っ払った超機動は、十分にアディルの注目を集めたようだ。

「ったくこのガキンチョ、逐一予想外してきやがる」

「ふふ、速いでしょ。…見えた?」

「ロクに目で追えるもんじゃないな、ありゃ。ただまぁ、至近で迎撃、ってんなら無理な相談じゃない」

「そっか、残念」

 先までの近接技能から見るに、アディルの言葉はほぼ事実と判断できる。ならば箒を飛び道具として用いた時点で決着がついてしまうことだろうし、双羽に元よりその気は無い。

 再度飽和爆撃を受けるより先に、こちらから仕掛ける。アリア式の移動術を機動力頼みの二段構えで用い、迎撃の爆弾を回避。衝撃の隙間を縫い、瞬きの間にアディルへと肉迫する。

「っ、てい!」

「甘い、って言ってんだろ!」

 勢いそのまま大上段より箒を振り下ろす。しかし今更この程度で不意をとれる相手ではない。落ち着いた迎撃の棒は箒を絡め取り、次いで放たれたカウンターは、しっかりと双羽を捉え…

「っ、…ばっくおーらい」

「!」

 アディルの背後より、鋭い刺突。迎撃された箒がアディルの意識の外となる瞬間、縮小した箒を背後へまわしたのだ。双羽自らを囮として用いた、必殺の一撃。

「ぬぐっ!」

「…わぉ」

 しかし、避ける。今まで実に一歩たりとも動かなかったアディルだが、今回限りは大きく身を捻り、全力でもってかわす。

 流石に追撃は無い。が、しかし双羽は無傷でない。むしろ痛み分けにすらほど遠い、結果。突き出す箒の勢いで空中へと大きく待避はしたが、結局アディルはノーダメージである。

「…ふぃー、焦った。が、まあ、残念だったな。結果はこの通りだ」

「いてて…。ま、いっか」

「切り替え早くてよろしい。んじゃ、再開といこうぜ」

 双羽のうつべく手段は、ここまで。これ以上彼一人でやり合う術は無い。

「ふふ」

「…どした」

 まあ、そんなこと既に問題ではないわけで。

「ところでさ。ひとつ、忘れてない?」

「忘れ…?」

「…くらうが良い、極光裂断(レーザービーム)!」

「んなっ!?」

 轟く破裂音。空間が、真っ白に塗りつぶされた。

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