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剣と魔法と世界と箒  作者: 久乃 銑泉
第壱部・肆章 遺都大戦・たたかいと そして たたかいと
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第卅玖話 一時落着・ひとときの やすらぎ

 とりあえず、留まる。4人でちょっとばかり話し合って、出た結論であった。どこって勿論、絶賛復興中のニテイフキに、である。

 直前の遭難で大半の荷を失ったことに加え、先の戦闘で夕依や華月の負った怪我もある。魔法の不思議パワーで4、5日あればある程度治るのだが、それでも長旅を続けるにはもう少し様子見が必要だ。

 そこで、必死で建て直しを図る街、というニテイフキの現状がこの場合好条件となる。

 通常、素性のはっきりしない者が収入を得るのは難しい。旅人といえば、ある程度纏まった金を用意した上で行う、もしくは身分が証明できる物を携帯している、のどちらかが一般的だ。あとは交易商とか、まあ職業柄旅してる人ばかり。まわりまわれば、来訪者が同士討ちを続ける要因だってココにある。

 そんな中、ちょっと通常とは言えないくらい人手を必要とする街がある、というのは僥倖以外の何物でもない。今なら旅人4人、素性云々、年齢云々など全く気にせず喜んで労働力扱いされるだろう。と、いうことで。

「さーて、アタシらはそろそろ行くわよ、双羽」

「うん。んじゃカナちゃん、行ってきまーす」

「…いってらっしゃい」

 ちゃんと働き、正当に賃金を戴こう、と相成ったわけである。あの事件より3日。未だ安静必須な夕依は何もしていないが、把臥之姉弟は即席市場のテント張り、華月は歩かず済むよう、発掘された生活用品の修理の手伝いなどして金を稼いでいる。…何でもこれら仕事の給金、街の貯蓄金、の他にニテイフキ町長のポケットマネーから出されてるんだとか。確かニテイフキ町長は特権階級などではなく、一般人より選出されただけの街民だったはず。ご苦労なことである。

「…暇、ね」

 早々代わり映えしない頭上の布地を眺め、夕依は呟いた。双羽や朝美はついさっきこのテントを出たところ。華月は小物イジリが性に合ったのか、朝早くから夜遅くまで職人の住むテントへ通い詰めている。筋は良いと褒められたんだそうな。

 独り寂しく、という経験自体は慣れているが、全くもってやることの無い状態というのは初めてだ。独り旅では、寝るなら寝る、歩くなら歩く、と常に何かをしていた。同行者が増えてからはやることも減ったが、そんなときは誰かと話すことで暇を潰していたのである。こんな時こそ本を読みたいものだが、持っている本は全て読破済み。いやまあもう一回読んでもいいのだが、一日あれば3周できる冊数。流石に読み飽きた。

 それならばとりあえず寝ようと目を瞑るが、ここ数日ほとんど寝てばかりなため睡魔の欠片もやってこない。それでも目を閉じたまま、考え事で時間を潰そうとする。

 …この事件で、ニテイフキをほとんど破壊し尽くした犯人。街の中心付近で出会った、黒衣の男。ご察しの通り、彼は夕依の知り合いである。もっと言えば、元仲間、だ。

 粘土細工を操る来訪者。名は白河 貴斗。相当以前に呼び出された来訪者、のはずだ。なんせ夕依がこの世界へ落ちたとき、彼は既に熟練の旅人であり、魔法使いであった。金には困っていなかったのだろう。彼に助けられた夕依は、そのまましばらく旅を共にしていたのだ。だが。

「貴斗…」

 本来ならば、恩人。感謝こそすれ、このような憎悪混じりの感情を向ける相手ではなかったはずだ。

 別れた時を、思い出す。単なる別離ではなく。袂を分かつ、に近い。何があったかなど、思い出すのも嫌なのだが。…信頼というのは、諸刃の剣。あればあるほど、いざ裏切りにあったとき受けるダメージは大きくなる。言うまでもなく、体験談だ。

「……」

 なんだか思考が悪い方向へ引きずられていることを自覚し、目を開ける。細かい時間など分かるわけもないが、多分、考え込んでいたのは大した時間でもなかったはず。の割に汗がひどいのは、知らず興奮していたのか。

 ふと横を見れば、きちんと畳まれた黒いフード付きマント。普段だって就寝や入浴のときくらい脱いでいたが、これだけ長い間着なかったのは久しぶりだろう。幾度と無く戦闘を経験したこの厚布は、しかし今見ても傷ひとつ無い。どことなく古ぼけた雰囲気だが、だからといって特に大きな解れも見あたらない。…ここまで言ってしまえば察することだろう、このマント、実のところ普通のマントではない。これまた貴斗との記憶に関連することなのであまり思い出したくないのだが、とても強力な“再生能力”を持っている。特に何かを防いだりはしてくれないが、ある程度布地が残っていればいつの間にか元通り。凄いのは凄いのだが、まあ実際そんな役には立たない代物だ。単に長持ちするだけである。あと、どの程度までの損傷なら戻るのか、なんてことも試していないので知らない。

「…はぁ。暇、ね…」

 ひとしきり身の回りに思いを巡らせてみたが、特に時間は経過することも無く。それから双羽たちが帰ってくるまでの間、夕依はひたすら羊を数えることに集中するのであった。


……


「おーい坊主、そっちの端押さえててくれや!」

「はいはーい」

 風でバサバサと舞い上がるテントの布地をしっかりと押さえ込む。かなりの面積をもった巨大な布地は風を良くはらみ、小柄な少年一人くらい軽々と持ち上げてしまいそうだ。実際双羽は、全体重をかけた上でなんとか浮き上がる布端を地面に押しつけている状況である。

「よーし、いいぞいいぞ、その調子でしっかり…っとうおぉっ!??」

「え? ど、わぎゃぁっ!!」

 元々風の強かったこの悪天候に一際強く吹き抜ける突風一陣。ガタイのよろしいおっちゃんですらたたらを踏むこの強風に、ちっこい子供が独りで立ち向かえるわけもない。もちろん双羽、吹っ飛ぶ。

「わわわわっ、とと」

 一瞬上下無用の空中遊泳しかけた双羽だが、そこは常人と違って飛行慣れした身。すぐ体勢を整え、んでもって空に浮く。風が強過ぎて完全に浮いてしまっているらしい。一応テントは地面に一角だけ固定されていたため飛んでいく心配は無いが、作業員の多数いるこんなところで箒を出すのも躊躇われる。無論本当に危なくなれば構わず飛ぶが、今のところ布地から手さえ離さなければ大きな問題も無い。降りられないが。

「お、おい坊主! 大丈夫か!」

「うーん、大丈夫、っちゃ大丈夫なんだけど…降りれないよ」

 困り顔で風に浮く双羽を見、とりあえずは大丈夫かと安心する作業員おっちゃん。すぐに2、3人の作業員が集まり布を引っ張るが、よほど巧く風に乗っているらしく、簡単にはたぐい寄せられそうにもない。どうやらもうしばらく双羽は空の上らしい。

「すまん、ここにいる人数じゃ引き下ろせねぇ。今もーちょい人呼んでくるから…」

「…うーん。それよりさ、お姉ちゃん呼んできてよ」

「ん? あの…可愛い嬢ちゃんか? あの娘坊主の姉さんだったのか…じゃなくてだな。女の子一人連れてきたって…」

「うんにゃ、騙されたと思って呼んできてよ。別に急いでないしさ」

 急ぎ走って行くおっちゃんを見送りつつ、双羽は思わず半眼で天を仰いだ。何って朝美の認識のされ方について、だ。

 …姉のことを“女の子”なんて呼ぶ人は、その弟にしても久し振りに見た。元々住んでいたあたりじゃ朝美の気性は知れ渡っていたし、初対面の人も二言三言話せばその本性に気づく。良くも悪くも裏表の無い気質で、良くも悪くも男気に溢れていて。女性に対しての評価ではないが、見事当てはまっているのだからしょうがない。それがこの場所じゃ“女の子”。まあ力仕事の職場だし、女性そのものが珍しいんだろう。うん、そうに違いない。

「そだよねー。そーでもなきゃあのお姉ちゃんが“女の子”…」

「へぇ、双羽。アタシが女の子、で悪いかしらねぇ?」

「…え」

 …思ったよりも、早かったようだ。呼びに行ったおっちゃんは遠くの方でゼイゼイやってるあたり、朝美一人とんでもない速度で走ってきただけだろう。そんでもって会話を妨げる程度の息切れも無し。元々たいがいだったが、こっちの世界に来てその超人っぷりに磨きが掛かった気がする。

 いや、当面の問題はそんなことではなかった。

「え、いや、えーと…お姉ちゃんが、こう…やっぱり女の子だったのかな、なんて…」

「花も恥じらう乙女に向かって失礼な」

「…え、むしろラフレシアでも誇らし」

「うるっ、さい!」

「どげぴゃっ!」

 右腕のみで思い切り引き下ろされたテントは大きくうねり、巧い具合にそばの花壇へと双羽を叩き込んだ。確かさっき大の大人数人掛かりでびくともしなかったはずなのだが。

「双羽。何か言うことは?」

「…ごめんなひゃい」

 なんだか元の世界にいた時と変わらないやりとりだ。あの頃も、こういうちょっと理不尽なことで制裁を受けたものだった。なんだかんだでそこまでヒドいことにならないよう加減されてるのが、相変わらずでまた何とも。

「…ふふ」

「何よ?」

「なんだかさ、懐かしいな、って」

「そーねぇ」

 空のどこともつかない点を、二人して見上げる。別にそっちが帰る方向だとかいうことでもない、だけど何となく。周りのおっちゃん連中が喝采と共に寄り集まってくるまで、姉弟はしばし空を見上げていた。

 …やすらぎ…?

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