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剣と魔法と世界と箒  作者: 久乃 銑泉
第壱部・肆章 遺都大戦・たたかいと そして たたかいと
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第卅参話 三協組闘・すりーまんせる

 正面に、こちらへ真っ直ぐ突進してくる巨大な猪型の魔土偶が一匹。建物ひとつ吹き飛ばす破壊力なのは先だって確認済みだが、まあ軌道が直線過ぎて当たる方が難しい。よって問題無く回避。

 …回避ついで、足下に仕掛けてあった“爆”符を起動させる。地雷よろしく地面から吹き上がった爆風は、路地裏の土を空高く舞い上げるに止まらず。こちらの狙い通り、見事猪を転倒させることに成功した。これで、弱点である背の窪みはきっちりあちらを向いたわけだ。

「後は任せたぞ」

「はいはい。ここを殴れば、いいんでしょっ!」

 この大きな隙を逃さず、大盾の女性が前へ出る。頑丈さ故の重量を誇るその大盾だが、ひとたび振り上げれば鈍重なる打撃武器へと早変わり。前進の速度までのせられた一撃は、易々と魔土偶の弱点部位を貫き、崩壊させた。

「しっかし、こんな弱点があったなんてね。早く気づいてればもっと楽だったのに」

「いや、まあ気づく気づかんの問題でもないと思うが。…因みに、だ。弱点狙いはこういったバランスの悪いヤツ限定だな。足下のしっかりした相手なら、熱か何かで乾燥させての自壊を狙った方が楽だぞ」

 現状は見ての通り、目下、蠍戦にて合流した旅人2人と共に魔土偶の殲滅中だ。

 …一見タフで強力な魔土偶。しかし弱点さえ把握しておけば、相対する戦闘はぐっと楽になる。

 先の巨大蠍戦の種明かし後、とりあえず手近な魔土偶で解説を交えて実演を行ったのだ。初めこそ、まさか、と怪訝な顔を返していた2人だが、今では華月のアドバイスに基づき手際良く魔土偶に対処している。撃破のペースにしたって、蠍との戦闘からは考えられないほど早い。まあ、あの蠍が特に戦闘力の高い個体だったというのもあるだろうが。

「とはいえ、コイツでやっと…9体目、か。まったく、全部でいくついることやら」

「それでも倒さないよりは、ね。放っておいたら、あっと言う間にこの街が無くなるよ」

 思わず漏れた愚痴に、やれやれ、といった体で大盾の女性が相づちを打つ。彼女の名は“メルア”だと先程聞いたのだが、どうにもそんな丸っこい名の示すような女性には見えない。ニヤッと笑いの似合う似非クールビューティだ。

「なるほど、町が無くなる…言い得て妙だ」

 どうもこれまで見た限り、魔土偶たちの破壊目標はこの街の建造物全般らしい。近くに敵対者のいない個体は、基本的に直近の建物に攻撃を加えていた。捕捉したとたんこちらを狙ってくるのは、あくまで単なる自己防衛のためのようだ。

 自己の安全を確保した上で、後は建物の破壊が最優先。…なんだろう、赤いレンガに恨みでもあるのだろうか。

「…しかし、視界が悪い。まったく見えんわけでもないが…索敵全部を他人頼りというのが、またどうもな」

「ま、こういうときは役立つからね、この子。そんなときくらい頼ってあげなよ。…で、リアリナ。何か聞こえた?」

 魔土偶による建造物の大量破壊、加えてこの街の建物が大抵先述の通り赤レンガ製であること。これら要因が重なり、今現在のニテイフキはここから確認できる限り赤っぽい土煙に覆われている。お陰様で、さっきから周囲は赤霧にでも包まれたかのような状態だ。

 華月の目測からして、視界は大凡30メートルといったところか。中距離以内の戦闘行動にそれほど影響は無いが、少し遠くなると全く見えなくなってしまう。

「ちょっと待ってください…あちこちで大きな音がし過ぎてて、距離を見分けるのが…」

 そこで役に立ったのが、風使いの少女の持つとある魔法だった。

 …ちなみに彼女、名をリアリナというらしい。蠍との戦闘後、停止状態から復活するなり急に自己紹介されたのである。…あの時は驚いた。思わずこちらも名を教えてしまったくらいだ。

 そして、そんな彼女の魔法“広域音探索の法”(一般的な魔法の名前なんて大抵こんなもんである)が、この視界不良な状態を打開することとなった。

 件の魔法、簡単に説明すると、“遠距離での空気振動を任意で選び取り、音として聞き取る”魔法なんだとか。ソナーをイメージしてもらえれば、まあ最終的な現象としては間違っていないだろう。原理は全然違うが。

「…ええと、あっち方向の直近に衝突音を捉えました! 多分誰かが戦ってます!」

「ふむ…あちらか」

「すぐに行こう。今の状況で、只の喧嘩って事も無いだろうし」

 リアリナの得た情報を元に、町の中央部方向へと駆ける。進むにつれ、華月たちの耳にも甲高い金属の衝突音が聞こえ始めてきた。聞くに、音の発生源はかなり近い。もうすぐそこだろう。

「えー、こっち…は建物があるので、あっちから回り込みましょう!」

 妙に細長い建物を避け、走り出たそこは、今まで通り抜けてきたものより遙かに規模の大きな道だった。この街の、メインストリートである。

 蠍と一戦交え、リアリナやメルアたちと出会ったのも、この馬鹿デカい道でのことだった。順次最も近くにいる魔土偶へと進路を取っていたのだが、いつの間にやらUの字を描いて戻ってきたらしい。自身の感覚を信じるに、ここはスタート地点より少々街の中心部寄りの位置だろう。この街のシンボルと聞いた中央の巨大時計塔が、さっきよりもかなり近くに見える。その大きな輪郭は相変わらずの赤靄に霞んでいた。

「えと、あ、あそこ! あそこです!」

「アレは…」

 赤く染まった空間に、舞う銀色の軌跡。出会った当初はただ速いだけだったその飛行も、最近では目視による追随すら難しいレベルの“技”にまで昇華している。

「…こんなところにいたのか」

 言わずもがな、そこで戦っていたのは双羽であった。

 それにしても、どうやら相手はかなり強力なヤツらしい。姿は見えないが、あの双羽がかなり全力の飛行を見せているのだ。どうせこの霧ではそう他人に見られることも無いと踏んでいるのか。

 まあどちらにせよ、連れの2人をこれ以上進ませるのは得策でないだろう。自身に賞金の懸かる“来訪者”として、その証左となる特殊な魔法をそう他人に見せるわけにもいかない。華月自身、札を“魔法道具”と偽ることで先から誤魔化しを続けているのである。

「…どうかした?」

「いや、どうもあそこで戦っているのが知り合いのようでな。人見知りする輩なので、俺1人で助太刀したいのだがだが」

 少し、苦しいか。案の定、メルアは何かを探るような目をこちらへと向けてくる。

「ふーん? …まあ、別に構わないよ。私たちは私たちで討伐を続けるし」

 …が、まあ深く踏み込んでくることも無かった。伝えたくないことがあるのだろう、という認識で止めてくれたようだ。ありがたい。

「大分慣れてきましたからね! カツキさん居なくたって何とかなります!」

「なるほど俺はいらない子か」

「え…と、え?」

「…いや、済まん。気にしないでくれ」

 なにやら鋭い眼光でもってメルアに睨まれた。リアリナの方はといえばなんの事やらさっぱりのご様子。軽いギャグのつもりだったのだが、両人共にいまいち冗談が通じなかったようだ。かなり別方向ではあるが。

「…まあいいよ。それより、そっちはこの後はどうする? この霞んだ中で合流するのは骨が折れそうだけど」

「いや、こちらはそのままこちらだけでやろうと思っている。先も言ったとおり、連れがあまり見知らぬ者と会いたがらないのでな」

 気を遣いつつ同行するよりは、ある程度好き勝手できた方がこちらとしてはやりやすい。

 そもそもの話、華月はこの件の首謀者を知っているのだ。双羽との遭遇が無くとも、一段落ついたところで別行動をとるつもりだった。…大量破壊なんぞやらかすその真意、しっかりと問い質してやらねばなるまい。

「分かったよ。じゃあこうしよう、この騒動が一段落したところでもう一度合流。…どう?」

「ふむ…それならば、まあ別に構わんが」

 何故か、メルアは妙にこちらとの合流を提案してくる。戦力的に、この女性2人でそう問題も無いと思うのだが。

「カツキさんカツキさん、宿どこですか? 聞いておかないと合流できないです」

「風水亭、という宿だ。場所は北東の端あたりだな。まだ残っていればいいが」

 白河によって連れ出されたときに大体の荷は持ち出せていたが、今日の分の宿泊賃をまだ支払っていない。それにまあ、立地こそ悪けれ良宿だったのだ。できれば、無事であって欲しい。

「へぇ、あの辺りに宿なんてあったの。覚えてる限りじゃ、スラム街のど真ん中だったと思うけど」

「あるんだな、それが。周囲の環境にさえ目を瞑れば、まあ、良い宿だったぞ。…さて、そろそろ俺は行くとしようか」

「そう。…それじゃ、また後で」

「カツキさんなら大丈夫と思いますけど、気をつけてくださいね!」

「ああ。そちらこそ、また無事で会おう」

 軽く手をあげ、その場をあとにする。しばらくは背中に視線を感じていたが、霧のせいか、気がつけばその気配も薄れて消えていた。

「さて…ひとつその顔を拝んでやろうか」

 双羽をここに釘付けるような猛者。この騒動、およびその首謀者と少なからず関わる者なのは確かだが、果たしてどんな人物なのか。少し楽しみでもある。

 両の手に札を鷲掴みし、華月はまたひとつの戦場へと足を踏み入れるのであった。

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