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剣と魔法と世界と箒  作者: 久乃 銑泉
第壱部・肆章 遺都大戦・たたかいと そして たたかいと
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第廿捌話 刻前大事・ことが おこるの ちょっとまえ

 前話、ちょっと長さと尺があんまりだったんで加筆修正しました。

 結構変ってるんで、一応見といた方がいいかも。

「よお姉ちゃん。こんなとこ一人で彷徨くたぁ、いい根性してるな?」

「知ってるか? そういうのを無謀、って言うんだよ」

「ま、悪いことは言わねえ。有り金全部置いてとっとと出て行っちまいな。これでも俺たちゃ優しい方なんだぜ?」

 見るからに頭の悪そうな3人組が目の前でペチャクチャやってるが、まあそんなに重要そうな案件でもないので、意識から除外する。当面の問題は…

「ここ、どこかしらねぇ」

 現在地点がさっぱりもって不明であること、だ。

 一人宿を出た朝美は、気の向くままフラフラとその辺りを彷徨いていた。もちろん行くアテとかそんなモノあるわけ無い。よって目的地も無く、道を考えもせず歩き回っていたのがいけなかったのか。ふと、そろそろ小腹が空いたし戻ろうか、と考えたときには見知らぬ道。いやまあ見知らぬ街なんだから、当たり前っちゃ当たり前なわけだが。

「や、しっかし参ったわねぇ。やっぱり双羽たちに付いていくべきだった、って、そりゃまあお邪魔よねぇ、流石に。いくらアタシだって、弟のデー」

「聞いてんのかテメェ、いい加減にしねぇとはったおすぞコラ!?」

「を妨害するほど、って、ん?」

 なんか今、思考に別の声が割って入った気がする。…まあ、気のせいか。

「…って、なんでまたそこでもう一回思考に入る!?」

「こいつ…さてはこっちを舐めてやがんな?」

「そうかそうか、口で言って分かんねぇ、ってんなら仕方無いよなぁ…?」

「なに言ってんの? よく分からないんだけど」

「フザケんな、コラァッ!」

 分からないモノを分からないと聞いただけなのに、何故か激高して殴りかかってくる男。それに対し、とりあえず成り行きで受け止め内に逸らし手首を取って外側に180度。まあアレだ、小手返し片手Ver.、みたいな。逆らわず吹っ飛べば楽なモノを、ほらそうやって抵抗するから手首が極まる。

「な、いっ!? いでででで!!」

「てめ、何しやがる!?」

「やー、そりゃこっちの台詞なんだけど」

 後手なんだから、こちとら立派な正当防衛だ。文句言われる筋合いは無い。

 というか、こちとらこの迷子状態を早く何とかしなければいけないのだ。こんな奴らに付き合っている暇は…

「あ。良いこと考えた」

「何訳の分からなぎゃぶっ!!?」

 ふと、名案が浮かんだ。素晴らしき閃きを妨害しようとした男その2の顔面に空いた右手で綺麗なストレートを打ち込みつつ、考えを詰める。よし、我ながら名案だ。

「やー、アンタたちってさ」

「な、何だ?」

「どーせ、ここら一帯には詳しい、って手合いでしょ?」

「…は?」

「アタシちょっと迷っちゃっててねぇ」

 知らない道故迷ったが、考えてみればちょうど良い水先案内人がいるではないか。目の前に、3人ほど。

「宿まで案内してくれると嬉しいんだけど」

「テメ…」

「あ、報酬とかそういうのは無しよ? あんまお金持ってないし」

「…んなこと聞いてねぇっ!」

 結局、前2人と変わらず殴りかかってくる3人目。軌道、狙う場所まで同じとは、なかなかに息の合った3人組ではないか。

 と、まあ、そんなことは置いておいて。とりあえず、正当防衛、だ。まず飛来する右拳を体を左に捻ることで回避。次に体を起こしざま、ちょうど顎を掠める軌道で…

 ……

 …それから、しばらく。

「「「すいませんでしたっ」」」

「分かればいいわよ。で、案内はしてくれるのよねぇ?」

「「「よ、喜んで!」」」

 めでたく道案内×3をゲットした朝美であった。


……


「…何故俺はここにいる」

 今頃宿屋の一室で寝ていたはずなのに、と華月はボヤいた。心の中で、とかそんなみみっちい事はしない。この状況の原因たる相手に聞こえるよう、しっかり口に出している。

 コレで今飲んでるコーヒー似の飲料が不味けりゃ、問答無用で帰っているところだ。

「私が連れ出したからじゃねぇの?」

「そんな正論期待してはいないというか相変わらず一人称のバグった奴め」

「そっちこそ、変に言葉繋げる癖は消えちゃいねぇな」

 そこそこ落ち着いた雰囲気の、カフェっぽい店。その店内でテーブル挟んで交わすには、少々荒いやりとりだ。

 しかしまあ、こうなるも仕方無いといえば仕方無い。邪魔者を部屋から追い出し、さてようやくゆっくりできる、と思ったところを急に出現した土人形につまみ出されたのだ。そのまま建物群を過ぎ、大通り一本裏手の人目に付かないところでポイ、である。

 ここで一般人なら、出来事に付いて行けず目が白黒、ってなところだろう。しかし華月はこの下手人に心当たりがあった。土塊を手足の如く操るこの魔法。

「…まあ、元気そうで何よりだな、白河しらかわ

「そういう急な話題転換も変わっちゃいないぜ、大田宮」

「変える必要も無いんでな」

「ま、そりゃそうだ」

 この世界へ呼ばれた当初、行き倒れた華月を介抱、ついでによく分からん施設の管理丸投げしてどこかへ行ってしまった知り合い。土人形改め“魔土偶”の制作者にして来訪者。名を、白河 貴斗たかとという。

 まるでウニのようなツンツンヘアーに、ゴツい黒マント。これだけ見ても、この人物の変人度は伝わるだろう。比較的服装がファンタジーなこの世界基準でだって、それは同じ。知り合いでさえなけりゃ、とりあえず避けて通るべきタイプの人間だ。

 さっきからカフェ店内の他の客がこちらをチラチラ窺ってくるのも、こいつの纏う雰囲気故だろう。

「…で、何だ。確かに久し振りだしな、貴様がこんなところにいるのには驚いた」

「最後のはそっくりそのまま返すぜ」

「まあ貴様が驚こうと何だろうと知ったことではないが、ひとつ聞くぞ。まさか積もる世間話のためだけに俺を拉致連行したわけではないだろうな?」

「いやぁ、偶然見かけたんでつい懐かしく…って、冗談だ冗談! その“炎”って字消せ危ねぇ!」

「…ちっ」

「おい、何故そこで舌打ちが入る」

 そりゃもちろん、このにっくき変人青年を焼き尽くせなかったからに決まっている。寝る寸前の人間を拉致るとは言語道断。一度丸焼きにでもなった方が、この手合いは大人しくなると思うのだがどうだろう。

「…と、そんなアホ話はさておき。この強制連行ってな、実は結構真面目な理由があったりするわけなんだが」

「ほう?」

「まあ内容としちゃ簡単だ。言うぜ」

 す、と貴斗の目が細くなる。珍しい、本気で真面目な話するときの癖ではないか。

「…今すぐ、この町から出な。何なら魔土偶で送ってやるぜ」

「また急な話ではないか。理由も言えんのか?」

「言えねぇな」

「ふむ」

 別にこの町に居座るべき理由とかは特に無い。よって街を出るだけなら問題も無いが…

「そうだな…旅の連れがこの町の中だ。周囲の街なんぞ知らん。あと眠い。…そこはどうする?」

「周囲の街なら、街道沿いに行きゃどっかに着くだろ。テメェが眠いとか正味知ったこっちゃねぇ。…旅の連れに関しては、ま、縁が無かったと思え」

「そうか」

 さて、恩人の言葉だ。できれば今後の指針に生かしていきたかったのだが。…双羽や夕依、そして朝美。彼ら抜きの一人旅は、まあ嬉しくないし現実的でもないからして。

「…うむ、無理だな。残念ながら貴様の忠告には耳を貸せそうもない」

「そうか。そいつぁ確かに残念だな。…ま、忠告、ってか“警告”はしといたぜ。せいぜい、頑張りな」

「ふむ…礼を言うべきか?」

「いらね。そんくらいなら、ここの飲みもん代でも払っといてくれ」

「金は置いていけ」

「…ちっ、ガメツい奴だな」

 渋い顔でボヤきつつも、飲み物一杯分に相当するコインを取り出す貴斗。テーブルにそれを押しつけ、よっこらせ、と立ち上がる。

「…ま、気だけ張っとけ。それで死にやしねぇだろ」

「ククク…重ね重ね、とだけ言っておく。では、な」

 最後の台詞には答えず、貴斗は足早に店を出て行く。その目立つウニ頭が見えなくなって、少ししてから華月も店を出た。メインストリートの、更に増えた人通りが目に痛い。

 朝方に到着したこの町も、そろそろ昼時だ。太陽は双方真上に昇り、しっかり大地を暖めている。

「…まずは、集合することから、か」

 貴斗の言葉を反芻し、やるべき事柄を組み上げる。

 何かが起きるのは間違い無いとして、それがどういった現象か分からない以上、集合が第一。次に双羽、夕依、朝美の行きそうな場所は…

 …しばらくして、華月の考えは一応のまとまりを見せる。しかし、それと遠くから爆発音が鳴り響いたのとは、ほぼ同時であった。

 長い、永い、ニテイフキの一日が始まる。


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