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剣と魔法と世界と箒  作者: 久乃 銑泉
第壱部・参章 遥狭異界・いがいと せまいぞ このせかい
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第廿話 心情内情・うちに ひめたる

 …話 が 進 ま な い。

 もっと一気に沢山書くべきかもしれないですね…

「…双羽の…お姉さん、ね…」

「なんというか…偶然というのも、ここまでくるとまあバカにできんものだな」

 激戦の痕残る船底の廊下、そこに直接面したとある船室にて。とある姉弟の久方ぶりであろう語らいを、ぼけっとした顔で見守る夕依と華月が居た。上記の台詞は、そんな2人がどちらと無く漏らした言葉だ。まず姉弟にしては全然似てないだとか何だとか、そーいった小さいことはこの奇跡的出会いの前に霞んでしまっている。

 なんたって、拉致同然に連れて来られた異界で同様の境遇を持つ肉親に遭遇したのだ。偶然、で済ませるには勿体ないサプライズと言えるだろう。再会した2人の心中は推して知るべし。

「……」

「どうした金峰。…思い出しているのか?」

「…そうね。もう、ほとんど忘れかけてたけど…」

「奇遇だな、俺もだ」

 無論、というか何というか。今やこの世界にも相当馴染んでしまった華月だが、元居た世界に帰りを待つであろう人はいる。夕依だってそうなのだろう。本来ならば祝福すべきこの再会の場面が、しかしどことなく寂しい空気を持っていること。それは、彼らがここにいる理由。いつか必ず帰るべき場所を持つ、彼らの。

「…帰れると、思う?」

「ふむ…俺たちを召還したという、あの国まで行けばいいのではなかったのか?」

「そう…よね。そのはず…」

「……」

 …ひとつ、華月には不思議に思えることがある。明確な目的を与えられた来訪者の中にあって、何故夕依は未だベンフィード公国へと辿り着いていないのか。

 華月の場合、あの小屋を本拠地に少しづつ行動範囲を広げる計画だった。そうしてこの世界の常識を学びつつ旅の準備を整え、全てがしっかり用意された状態で旅立つつもりだったのだ。基本彼は用心深い人間なのである。まあ、結局は本拠地を滅茶苦茶にされたことで半強制の出立と相成ったわけだが。

 対して夕依。彼女が既に長い旅暮らしだということは、見ていればなんとなく分かる。一行の中で最も旅慣れているのは確実に彼女だ。しかし双羽と出会った経緯を聞くに、ベンフィード公国を目指していたとも考えづらい。どこかしらよりあの国へ至るにあたって、どのルートを用いるにせよキヅキを経由するのは不自然なのである。一応無理して通ることも可能だろうが、旅慣れた人間の採る旅程としては理に適っていないこと甚だしい。そんな仮定より、彼女は全く別の目的を持って旅していた、という方が余程可能性として有り得る話だ。

 それだけのことを考え合わせ、思い至る可能性。道中への異様な詳しさ、そして公国が近づくにつれ次第に悪くなってゆく顔色。そこに今の煮え切らない発言が加わり、華月はほぼ確信に近いものを得た。

 …夕依の旅の目的地、それは公国でないどこか。そして彼女の“今の”旅の出発点、それは恐らく“ベンフィード公国”。つまり、夕依は一度あの国へ到達し、そして何らかの理由をもってこの旅を続けている。そう考えれば、様々な事象の辻褄が合うのだ。

「…まあ、とりあえずはベンフィード公国を目指すしかないだろう。俺たちに与えられた目的は、それのみなのだからな」

「…そう、よね…」

 しかし、以上の思考は全て華月の仮定に過ぎない。全て、あの国に着けば分かることだろう。ここで辿り着いた結論。それは、今のところ彼の心中で完結させておくべきことなのである。

 そう結論づけ、華月は未だ頭に渦巻くそれらへの思索を振り払った。

「あ、そうだ。カッちんカッちンギャゥ」

 そうしておいて、何の前触れ無く謎の名を連呼し始めた双羽に殴符を投げつけ黙らせる。こういう時、発動の早い札術は便利だ。もう少し種類を増やしてみようか。

「イ、イタイ…」

「…双羽って、懲りないわよね…」

「…で、なんだ。何か用事か?」

 なんだか危険な感じに目を光らせた朝美より目を背け、話題を進める。まだ一度魔法合戦しただけだが、その性格ならなんとなく掴めた。あの手合い、隙を見せれば喜々として人の弱点抉ってくるタイプだろう。この渾名ネタからはとっとと離れるに限る。

「あ、それなんだけどさ。乗客の人たちに、盗賊捕まえました、って言っとこうかなって」

「でも…他の盗賊は、まだ…」

「あーそれねぇ。実はアタシら、通信用の石持ってんの。それでアイツらには降参って伝えといたし、まあアタシが言うならって納得してたわよ」

 ちなみに彼女、今回の件起こした盗賊団のリーダーなんだとか。ついさっきそれを聞いた直後は驚いたが、少し考えるとなんだか納得してしまった。まだ彼女とは出会って少ししか経っていないが、早くもそのキャラクターが見えてきた気がする。

「…なるほどな。そんな物を持っていたからこそ、俺たちを見つけられたわけだ」

「そーいうこと。副長から連絡来ないんで、ちょっと気張ってたのよ。そしたら、隅っこでこそこそと気配隠してる2人組見つけたってわけ。ま、白衣のアンタは隠すの下手だったけど」

「ふむ、そいつは手厳しい」

 …なんとこの女性、華月や夕依の隠遁魔法を素で見破っていたらしい。重ね重ね本当に人間かと問いたくなるスペックだが、まあ双羽の血縁というからには分類的には人族なのだろう。魔法だ何だとファンタジーなこの世界においても、残念ながら未だ華月は人間以外の知的生命体を聞いたことが無い。だから多分、鬼だとか魔人だとかそーいうのではない、はず。多分、きっと。

「それでさ、僕とカッ…華月くんでお客さんの誘導しようかなって」

「…全員で、やらないの…?」

 そういう作業は多人数でやった方が効率が良い。その観点からは夕依の言うことも尤もなのだが、何かワケがあるのだろう。

「実はねぇ、アタシが行っちゃぁマズいのよ。なんせアタシ、あの貨物室で荷物の受け取りしてたから。大半の乗客に盗賊だってことバレてるのよねぇ、多分」

「なるほど。まあ、そんな貴様が行けばパニックになるのは当然か。…では、金峰が残るのは何故だ? 今更貴様を独りにしたところで、そう裏切りなどするとは思えんのだが」

 そもそも、双羽と合流した時点で朝美の拘束は解いている。彼女なら、今の時点でこの場の3人から逃げ出すなどわけも無いだろう。そこに夕依一人残したところで意味があるとは思えないのだ。

「そりゃま、アタシが暇だからよ」

「「…は?」」

 聞き間違いだろうか、と。己の耳を疑い過ぎて、不覚にも夕依とハモってしまった。不覚だ。重要なことなので2度言った。

「やー、流石に独りこの部屋で待つのは暇過ぎるでしょ。だから話し相手が欲しいな、って。それにできれば同性が良いし」

「……」

「…何故だろうな、今の説明に納得してしまう俺がいる」

「しょーがないよ、お姉ちゃんいつもこんなだもん」

 自分勝手というかマイペースというか、いや何なのだろう。当初、弟であるはずの双羽とはえらく似ていないと思ったものだが。しかしもって、朝美の行動原理を成す独自のリズムにはどこか彼を彷彿とさせるものがある。まあ、それでも対極姉弟であることに変わりは無いのだが。取り扱い辛さばかり似るとは、どうにも傍迷惑な血筋だ。

「…んじゃ行こっか、華月くん。カナちゃん、大変だと思うけどお姉ちゃんをよろしくね」

「そうだな…うむ、まあ金峰、精々頑張ると良い。応援だけはしておくぞ」

「…え、と。頑張って朝美さんの相手、を…って、あれ、頑張って…?」

「なーんかアレねぇ、アタシの扱い悪くない?」

「ん、気のせいだよきっと。それじゃ行ってくるねー」

 言うことだけ言って、とっとと部屋を出て行ってしまう双羽。こういうところが似ていると思うのだが、さて彼らに自覚はあるのか。…いや、自覚有りの方がいくらか厄介な気もする。

「む。流石に一人任せにするのは悪いな。…ということで俺も行くとしよう」

 適当に理由を付け、部屋を出る。その際夕依が何か言っていた気もするが、まあ聞こえない。当たり前のように部屋の前で待っていた双羽と合流し、船後部の階段へと歩を向ける。

「僕がお客さん飛び越えて上の階に行くよ。華月くんはこの階の人お願い」

「ふむ、理には適っているな。よし、良いだろう。この階は任されたぞ」

「ん、お任せします」

 いつも通り箒で楽する双羽に並び、あちこち抉れた廊下を歩く。改めてこう見てみるとアレだが、派手にドンパチやらかしたものだ。とはいえ、まあ残る傷跡の大半は朝美なわけで。いやしかし、全くもって豪快な女性である。そしてやっぱり、双羽とはほとんど似てない。ホント似てない。

 …しかしそんな朝美が、弟にだけは似合わぬ優しげな表情を向けていたこと。まああれだ、兄弟のいない華月にとっては羨ましさ半分、といったところか。

「…んー、お姉ちゃんも遠慮無しだね…華月くんとかカナちゃんがやったんじゃないんでしょ、コレ」

「俺にこんな大量破壊可能な技は無いぞ。ほぼ逃げていただけだ」

「そっか。…うちのお姉ちゃんが、ご迷惑おかけしました、と」

「まあ、確かにご迷惑は被ったな。…が、良い姉ではないか。弟を、本当に大事にしている」

「ふふ…そだね。僕の、自慢のお姉ちゃんだよ」

 そう言って、自然に笑みを浮かべる双羽。今までのどこか何かを被ったような、作り物臭い笑いでなく。恐らく華月には初めて見せたであろう、素の表情だ。

 …また少し、思い出してしまう。あの日、こちらへ来なければまた出会っていただろう人たち。やっていたであろう様々なこと。兄弟云々は置いておいて、また双羽に何か羨望に似たものを感じる華月であった。

「おっと」

 少し考える間に足が止まっていたのだろうか。気がつけば少し先行していた双羽の箒を、心持ち早足で追いかける。

「済まんな把臥之、少し遅れ…」

 軽く掛けた声は、しかし途中で中断する羽目となった。ちらと見えた少年の目に溜まった、透明な滴のせいだ。

「あ、華月くん…えっとね、別にちょっと目にゴミが…」

「…把臥之」

 なんかよく分からないまま言い訳じみたこと言い始めた双羽を、華月は手で制した。先まで自分のこと考えてた頭を、手早く外向的に切り替える。口八丁は華月の得意とするところ、ここは自分の役目だ。

「ひとつ言うがな。年下に遠慮されるほど、俺は落ちぶれた記憶は無いぞ」

「…うん?」

「まあ聞け。…俺はな、貴様が外見より上の年齢だろうことは分かっている。精神的なものなら更に上をいくのだろうことも、なんとなくだが理解はしている。俺たちを完全には信用していないことも、な。むしろ、警戒している、と言った方が近いか」

「…華月くん…」

 泣き顔寸前の目でこちらを見上げてくる少年。しかしその実、精神的なものではこちらを遙かに凌駕する人間。

 旅は人の内面を浮かび上がらせる。その節々で見えた彼の聡明さに、似合わぬ落ち着きに、何度違和感と驚きを感じたことか。

「だがまあ、ここまで一ヶ月程の旅路を共にしてきたわけだ。そろそろ少しは信じてくれても良いだろう」

「えっと、でも僕は…」

「聞けと言っているだろう。貴様が話すと簡単に言いくるめられかねん」

「……」

「何があったか、貴様は身の丈にそぐわん精神力を手に入れた。そして、それを誤魔化しながら生きているわけだ。まあそこに何かしら理由は有るのだろうが、俺は聞かん。興味はあるが、ここでは聞かん。貴様が自発的に話すまではな」

 押し黙ったまま、見上げる目に真剣さを宿す双羽。その表情は、暗に華月の指摘を肯定するものだ。

「しかし貴様はひとつ忘れている。貴様はな、まだ子供だろう」

 華月だってまだ法律的には子供だが、それとこれとは別の話。今はツッコむべきでない。

「子供が泣くのを控えてどうする。感情を思うままに発散してこそ、だ」

「でも僕は、そんな…」

「だから聞けと。…ただ泣くのを控えていれば、それで良い。そう、思うか? 貴様なら分かるだろう。感情を押さえつけること、その弊害。外面ばかり気にしていては潰れかねん」

「……」

「まあここまで偉そうなことを言っておいて何だが、ひとつ免罪符を用意してやろう。…男泣きというのはな、女に見せないことで許される。嬉し泣きならなお良しだ。…どうする、ここにその条件を邪魔する者はいないぞ?」

「…ぅぐ、ひっぐ…」

 割と適当に言ったのだが、最後の台詞は一番効果が有ったようだ。俯いたまま、軽くしゃくりあげる声が聞こえ始める。ここで女性なら抱きしめるなり何なりしてやれば良いのだろうが、あいにく華月にそっちの気は無い。代わりに、軽くポンポンと頭に手を置いてやった。

「泣け泣け、たまには感情表に出してみろ。しっかり泣いて、それが終わってからやること見据えればそれで良い」

「…ぅう、ひぐっぐ…」

 決して大声は出さず、しかし俯いた顔には満面の笑みと涙を浮かべ、双羽はしばらく泣き続けた。無論華月もそれに付き合う。

 …似合わんことをしたな、と、こっそりシリアス疲れを吐き出す華月であった。

 最後の華月君の一言は作者の代弁に近いです。マジメなお話は疲れる。もっとこうノリの軽い会話を書きたいなー。

 まあ必要だと思ったから書いたんですけどね。

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