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剣と魔法と世界と箒  作者: 久乃 銑泉
第壱部・弐章 交々者事・いろんな ものこと ありまして
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第拾伍話 道中小話・ちょっとした

 なんだか説明回になってしまった。必要な話なんだけど、でももうちょっとなんとかならなかったのかな、と。技術不足です。

 物語、として語られる内容は、大抵にして大きな出来事である。そもそも日常から外れているからこそ語る価値があるというもので、それ自体は必然の帰結だろう。が、ことこの一行に関しては、そもそも異世界を旅するという日常自体が非日常であるからして。

「…後ろ」

「ああ。…7人、といったところか。大所帯ではないな」

 例えば、今。長大な乾燥地帯を旅する彼らは、盗賊と思われる集団に追跡されていた。

 この年代の少年少女にとって、自らの命と身ぐるみを狙われる事例は決して小事ではない。15歳の折に暴漢に襲われた、なんて出来事を経験すれば、それはその人物にとって人生の一大イベントとして記憶されるだろう。が、異世界を往く彼らにとってそれはちょっとした出来事であり、特筆すべきことも無い日常だ。

「うーん。今見る限り人いないけど、なんでここで襲ってこないのかなー?」

「見晴らしが良すぎる、というのは要因の一つだろうな。この先は少し草の丈が高くなる、そこを狙っているのかもしれん」

「なるほど。後はじゃあ、夜襲考えてるとかもありそうだねー」

「だな」

 彼らが異様に手慣れた対応をしているのも、ひとえに経験値のなせる技。年若い3人組、という時点で盗賊の類からは獲物にしか見えないのであろう。華月合流後の旅だけでも、既に両手の指では足りない回数の襲撃を受けている。

「…それで、どうするの…?」

「ま、いつもどーりでいいんじゃないかなー。捕まえても意味無いんでしょ?」

「正確には、コストパフォーマンスが悪すぎる、という話なのだがな」

 世界は違えど、盗賊稼業が他にとって害悪であることは間違いない。ゆえに襲撃してきた賊を逆に捕え、近隣の街の自警団あたりに引き渡せば謝礼金がもらえる。腕の立つ旅人などには、盗賊の襲撃を臨時収入なんて呼ぶ者もいるとかいないとか。

 だが、まず今居る場所から最も近い自警団の居る街まで徒歩3日。それだけの距離捕縛した大人数を連れ歩くのは現実的でない。さらに、この一行も実のところお尋ね者なのである。下手に自警団なんぞに接触すれば余計な面倒に巻き込まれかねない。リスク面でも得が無いのだ。

 となれば、取るべき方策はひとつ。

「んじゃ、逃げよっか」

「だな。やり合う必要性など無い」

「…すぐ逃げても、大変だと思う…」

「そだねー。じゃ、暗くなる頃に決行、襲ってきたら適当に逃げる、ってことで」

「うむ」

 先も言ったが、ここは見晴らしの良い大草原。今すぐ逃げだしたとて、撒くのにも一苦労だ。どうせ盗賊側も様子見であるのだから、暗くなるまで待てばいいのである。

「それじゃ、お昼ご飯にしよっか」

「…そうね。ちょっと、お腹すいた…」

「今日の昼の食料は…ああ、俺の手持ちか。ちょっと待て、今出す」

 やること決まれば、腹ごしらえ。後ろから賊が着いて来てようと来てなかろうと、目的地へ向かう足を止める理由になどならない。

 …数刻の後、3手に分かれて薄闇に追手を撒くまで、彼らは普段と変わらず歩を進めたのであった。


……


 時に人は、自らより優れたるを憎む。生まれたときから自分よりモテる幼なじみ然り、酒の席の盛り上げスキル持ちかつ上司のお気に入りな同僚然り。

 まあそのあたりはしょうがないものなのかもしれない。人間妬んでなんぼの生き物だ。そこは認めよう。

 …しかしまあ、妬まれるという受け身側の体験は、中々に辛いものがある。

「…不公平よ」

「えー。だってしょうがないじゃんか、僕が選んだんじゃ…」

「…理不尽よ」

「えー」

 …何って、双羽の箒魔法が不公平かつ理不尽だというのだ。こっちは歩いてるのにその横を飛ぶのが目障りなんだとか。選択の余地無く修得させられた魔法について、さて上記のしょうがないは当てはまるのだろうか。

「…でもさ、例えばカッちんの魔法…」

「…あ? 何だ、よく聞こえなかったのだが」

「ん、“カッちん”? もちろん華月君のことだよ、略してカッちぺぎゃ」

「早急に撤回しろ」

「ふぁい」

 前々から考えてはいたのだが、どうやらお気に召さなかったようだ。残念。

「…で、俺の魔法がどうしたと?」

 そうだ、そういえばそんな話題だった。

「例えばさ、華月君の魔法で“速”とか“浮”とか使えば、もっと早く移動できるんじゃないの?」

「何を言っている。貴様とは違うのだから、そんなことをすればすぐヘバるぞ俺は」

「そなの?」

 ヘバる、とはどういうことだろう。そもそも魔法の使用制限なんてあっただろうか。

「…双羽。魔法はね、体力を使うの」

「体力?」

「体力、だな。魔力とかそういうファンタジーな何かしらではなくて、普段肉体を動かすのに必要な体力、スタミナというやつだが…」

「じゃ、魔法使い過ぎると普通に疲れるんだ」

「そうよ。…あと、これは来訪者なら知ってることだから…」

 来訪者なら知っていること。つまり、召還された際に植え付けられる基礎知識に含まれているのだろう。知らぬ様子のこちらを見、華月が不思議そうな顔をするわけだ。

「…あれ、じゃあなんで僕疲れないの? 最近いつも飛びっぱなしなんだけど」

「知らないわよ。…だから、理不尽、って言ってるの」

「確かにそうだな。俺も“飛”で飛べるが、正直マラソンと同じ程度には疲れる」

 思っていた以上に魔法というのは燃費が悪いものらしい。唯一使える箒魔法がそのあたりチートだったため、今初めてそのことを知った双羽である。思った以上に恵まれた状況だったのかもしれない。

 ちなみに彼は知らないが、魔法の消費体力には種類に関わらず法則がある。基本的には発生する現象分のエネルギーを消費し、さらに消費量は発生地点と使用者との距離に比例するのだ。例えば物を動かす魔法の場合、“重量×移動距離×使用者からの距離”だけ体力がさっ引かれる。ゼロ距離で使えば手で持って運ぶより楽なものの、そう頻発できるものでもないのだ。

 あとついでなのだが、アリアが戦闘で使っていた魔法の消費体力合計はフルマラソン数回分ほど。流石人外である。

「魔法って便利みたいだけど、思ったより使うの大変なんだね…」

 この世界、日常生活でも簡単な魔法は使われている。が、それに頼り切った文明が形成されてないのもこの性質に拠るところが大きい。まあ、そこで機械文明の代わりに魔法道具が発達しているわけなのだが。

「ま、楽なことばっかりしてちゃ、人間成長しないもんね!」

「…じゃあ歩け」

「…ヤダ」

 結局話はそこに帰着するのであった。

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