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剣と魔法と世界と箒  作者: 久乃 銑泉
第壱部・弐章 交々者事・いろんな ものこと ありまして
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第拾肆話 交々理由・なぜなに そのわけは

 気がつけばバトルばっかりしてる双羽たち。なんと全話の1/3は戦闘シーン。こりゃ多い。

 ということでタグにバトルとか戦闘とか入れようかどうしようか悩み中。さてどうしよう。

 激戦から一夜明け、まだ朝靄の霞む時間。起き抜けの双羽一行は宿屋裏手の中庭に集まっていた。宿の部屋はすでに引き払い、全員しっかりとした旅装である。本来チェックアウトは昼頃なのだが、部屋やら扉やらぶち壊したことで半分追い出される形となってしまった。弁償はきっちりしたのだが、まあ心証的にしょうがないところではあるだろう。

 それにしても、3人とも妙に元気が無い。夕依はあちこちに傷跡が見えるし、双羽の右肩にはこれでもかと包帯が巻かれている。快調なのは華月くらいのものだ。それでも昨晩は残り2人の処置に係りきりだったため、寝不足の感は否めない。結果として全体に疲労の空気漂う一行であった。

「くそ、こんなところに埋めやがって…」

「…お前ら人をなんだとボヘェッ!?」

「…あんた…人じゃ、ないでしょ」

 そんな湿っぽい空気もなんのその、地面から生えていた頭のうちふたつが騒ぎ立てる。そしてジト目の夕依に踏みつけられ、更に沈む。

 生首オブジェとなって中庭に鎮座するのは、今は頭の上しか見えない人形含めて3つ。残りのひとつはアリアだ。なんかロープとかで縛っただけだと抜け出しそうだったので、縛った上でこうして首まで土に埋めてある。ちなみにこの状態、華月の文字魔法“埋”で3秒だった。

「…それで、大田宮。こいつら何なのよ」

「普通の人、じゃないよね。まず半分以上人じゃないし」

「ふむ、それなのだがな」

 双羽と夕依がアリア相手に頑張っていた間、華月は残る人形2体を尋問していたのだ。昨晩は色々と忙しくて、その結果内容を聞けなかったのだが。さて、一体この襲撃者たちは何者なのか。

「実は、さっぱり何も分からんのだよ」

「…は?」

「いやだから、こいつら何しても口を割らんのでな。さてどうしようかと思ったところで貴様らが戻ってきて、あとは知っての通りだ」

「……」

「うーん、せめて襲ってきた理由だけでも分かんないとねー。またいつどこで襲われるか、って予測もできないや」

 ピンポイントでこちらが狙われているのか、偶然巻き込まれただけなのか。この町この地域故の出来事なのか、どこへ行こうと付きまとうだろう事件なのか。そこのところが分かるか分からないかで、この旅の幸先も大きく変わってくる。

「この人形共をいくら脅そうとしても無駄だ」

 …と、今まで会話に参加していなかったアリアが口を開いた。相変わらずの棒読みだ。赤く腫れた顎が痛いのか少し喋りにくそうだが、誰も気にしない。

「…どういうこと?」

「こいつらは決して裏の事情を話さないよう設定されているからな例え体が粉砕されようと話さないだろう」

「ちょ、アリア殿…」

「…もごもご(それは喋ってはダメなのでは)!?」

「ヨクヲクテウェ、貴様らは黙っていろ」

「「……」」

 アリアが一言呟き命令すると、あれほどうるさかった人形はピタリと口を閉じる。まあ片方は埋まっているため分かりづらいが。

「ほう、特定の呪文を用いて命令する事によって操れる、と。面白いな」

「残念ながら登録された個人でなければ命令は不可能だ」

「なるほど、そいつは確かに残念だ。早速色々試そうかと思ったのだが」

 なんだかよく分からないところに食いつく華月。それにしっかり返答するアリアも存外律儀な性格だ。

「…ちょっと。そんな話、するために…わざわざ、人形黙らせたの?」

 しかし、このままでは話が進まない。そう思ったであろう夕依が華月とアリアの会話を止める。放っておけばこの話題で日が沈みかねない、と。そう思わせる何かがあった。

「いや違うぞ」

 そしてその質問にも律儀に答えるアリア。性格が窺える。

「じゃあ何さ」

「端的に言うとおまえたちが気に入ったので情報を教えようと思ったのだが」

「ほう。気に入った、と?」

「私は強者が好きだからな」

 何とも武人気質な女性だったようだ。

「…ありがとー。じゃ、教えられることだけでいいから、よろしく」

「分かったまずはそうだな私たちはベンフィード公国に属する者でその役目は召還した来訪者の選別で周囲の町に散在した上でやってくる来訪者を篩に掛けるということをしていたのだがこの人形2体はその補助用に作られたカラクリ人形で私の命令に従うよう設定されている」

「なるほどなるほど」

 納得顔でうなずく双羽。しかしその後ろでは、黒マントと白衣が顔をつき合わせている。

「…聞き取れた?」

「部分的には、な。早口な上に棒読みで言葉に節が無いせいで、まるで呪文か何かのように聞こえたぞ」

「…そうよね。…じゃあなんで、双羽は…しっかり、理解できてるのよ…?」

 もう一度首を捻る思案顔の2人だが、まあ答えが出るわけでもなく。結局、双羽ならいつものことだと納得していた。それでいいのか。

「うーん、それだけ?」

「そうだ残念ながら今私が教えられることはこのくらいだ済まないな」

「そっか。ま、知りたいことは分かったし、いいかな」

 ちなみにこの会話、片や土の中な状態で行われている。生首相手に屈んで話す少年というのも中々シュールな光景だ。

「…まあ、必要なことは聞けたようだな。出してやるか」

 そろそろこの何とも言え無さに耐え切れなくなってきたらしい。呟きつつ、“出”の文字を生首3つに書き込む華月。

「“出”てこい」

 ばすん、と飛び出すアリアと人形たち。唐突な解放だったが、それでもしっかり余裕をもって着地したアリアは流石だろう。

 一瞬遅れて人形ふたつが両脇にぺちゃりと落ちてきた。まあ普通はこうなる。

「出してくれてありがとう済まないな礼を言う」

「ま、元々埋めたのは僕たちなんだけどね」

「そうされても仕方のないことをしたのだしょうがない」

 元々の元々を辿れば、双羽たちはただ襲撃されただけの被害者なのだ。今この状況だけ見ていると忘れそうだが。

「ところで済まないついでにひとつそこの少年に聞きたいことがある」

「ん、僕?」

「そうだ」

 何だろう。向こうの知らない情報をこちらが知っているとは思えないのだが。

「私は今まで負けたことが無いとは言わなくとも負けた理由が分からなかったことは無かったのだが少年があの戦いの最後に何をしたのかが未だに分からないので是非教えてもらえないだろうか」

「ああ、それね。それなら簡単、こうしただけだよ」

 取り出した箒の柄を持ち、誰もいない方向へと勢いよく突き出す。呼応して伸びた箒は建物ひとつ分遠い石塀に傷を付け、次の瞬間には双羽の手の中に元通り収まっていた。実際には箒の柄を高速で伸び縮みさせただけなのだが、傍目には神速の突きと見えないこともない。箒が伸縮自在であることを利用した、双羽唯一にして最速の遠距離攻撃である。

「この箒、自由に長さを変えられるんだ」

「戦闘中は一切そんな素振りは無かったがそうかなるほどつまり私はまんまとハメられたわけか」

「人聞き悪いよ?」

 ハメたのではない、歴とした情報戦略だ。どこが違うんだという意見はもちろん却下。

 …つまり、のっけから全力で戦っているフリをしつつ、意図的にこちらの能力を一部隠蔽するわけだ。情報を与えないことによって、ここぞというところで相手に作った隙をつく。ここでいう隙とは、あの街灯による一撃だ。それでも仮にアリアが箒の伸縮機能を知っていたなら、それを踏まえた上で体勢を立て直しただろう。最後の突撃時に魔法での迎撃という選択肢を選んだのも、ひとえに双羽のリーチを読み違えた故。知ってさえいれば、あの状況をもすら潜り抜けてきたに違いない。

 ちなみに決め手となった街灯転倒攻撃だが、アレは双羽の仕業ではない。夕依の“凶運・頭上注意”だ。“凶運”とは対象に特定の不運を呼び込む魔法である。その一種である“頭上注意”、これは文字通り相手の頭上から何かが降ってくる魔法なんだとか。少し前だが、海パン野郎を伸したのもこの魔法だそうな。海パン野郎を伸したという情報そのもの初耳だったがそこは置いておく。

 本来相手に当てるべきこの魔法を、あのとき夕依は双羽の箒に対して発動させた。これと同時に箒の位置をアリアの真上に持って行けば、もちろん落下物は彼女にも被害を与える。夕依の魔法の着弾点を的確に見切る、あの超反応を逆手に取ったのだ。結果として、自分を狙っていないと判断したアリアは倒れてきた街灯に対する反応が遅れた。

 …変則技による精神的な圧迫、そこに先入観を利用した不意打ち。このふたつが重なってはじめて、双羽たちは勝利を得ることができたのである。

「そこまで詰められていたのかそれならば私の敗北も必然だな」

「…そんなこと全部蹴散らしそうなくらい強かったけどねー」

「ほんと…あれだけうまくいったのって、奇跡よね…」

 もちろんあのとき夕依は双羽の作戦を知っていた。それに合わせて動いた結果がアレなのだから。

 しかしそこに今の解説を聞いて、改めてあの戦いの綱渡りっぷりが実感できたようだ。双羽に言わせればアリアのあのチート性能が全部悪いのだが。

「さて、もう俺たちは宿をチェックアウトしてきたわけなのだが。アリアとやら、貴様らはどうするつもりだ? 仮にも俺たちとは敵同士なのではないのか?」

「公国側の目的としては強者の選別なのでここで見逃すことには特に問題無いというよりそちらの強さが判明した後も戦い続けたのはただ単に私の趣味だ」

「「……」」

 そんなことで命の危機やらされたのかという意味のジト目×2が、アリアを睨みつけた。本人は堪えているのかどうか分からないくらい無表情だが。

「済まないな悪かったとは思っているがどうもああなると抑えが効かんのだ」

 反省の色も怪しいアリア。彼女、武人気質かつ根っからのバトルジャンキーでもあるようだ。いい性格をしているが、巻き込まれる側としてはたまったものでない。

「というわけで私の方からそちらへこれ以上の干渉は無いので安心して旅を続けて欲しい」

「ん。それじゃ、これでお別れだね」

「そうだなそちらが公国を目指すのならばまた逢うこともあるかもしれんが」

「…次会うときは、敵じゃないと…いいわね」

 まだしばらくはこの町に残るらしいアリアたちに別れを言い、双羽一行は旅を再開することにした。目的地のはっきりとしたこの旅、さっさと終わらせるに越したことはない。寝不足気味の体に文句を言われつつ、3人は先へと進む。

 …町を離れ、それからしばらく。最後尾を歩く双羽がふと呟いた。

「…やっぱ、アリアリ、かな。うん」

 実は朝からずっとアリアの愛称考えてた双羽なのであった。

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