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剣と魔法と世界と箒  作者: 久乃 銑泉
第壱部・弐章 交々者事・いろんな ものこと ありまして
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第拾参話 剣速術師・ありあ

 題名は適当。あと双羽がなんかアレなのも仕様。

 しかしまともな長さに仕上げたの久しぶり。続かない人間なので…

 敵が、増えた。アリアの体はその悦びに震える。求めるは強者。もしくは強い敵。

 そこらの来訪者ごときなら、何人来ようとその剣の敵ではない。所詮平和の中から抜き出された者たち。生まれてこのかた剣を持っていない時間の方が少ないアリアにとって、その存在は蟻のようなもの。組織だった行動をもって初めて一矢報いることが可能となるような、そんなか弱い存在に過ぎない。報いるであろう一矢にしても、指が腫れた程度の損害がせいぜいだ。

 その点、あのトモハネとかいう少年は違う。宿の外に潜むアリアの気配に気づき、彼女の剣閃を受け切る戦闘力。

 …いや、そんなことではない。彼からは、同じ匂いがするのだ。仕方なくこの世界へと順応した来訪者とは違う、人生そのものに戦いを組み込まれた者たち特有の、匂い。詰まるところ、彼女は“同族”の気配をそこから感じ取っていたのである。

 結果として“試す”という大目的をきれいさっぱり忘れているアリアであったが。

「…呪術…」

「遅いな」

「えっ!?」

 魔法を使おうとした黒マント、その懐へと瞬間移動の如き速度でもって飛び込む。静から動へ、一瞬で。少年には効かなかったが、常人ならば確実にこちらの姿を見失うだろう。

 案の定、黒マントはすぐ脇へと滑り込んだこちらに気づけていないようだ。明後日の方向に注意が向いている。

 余裕をもって的確に狙った足払いは、しかし地面へと突き立てられた箒によって防がれた。少年の援護だ。

「カナちゃん、下がって!」

 掛けられた声に合わせ、後方へと跳ぶ黒マント。追い打ちを狙うが、高速回転する箒に進路を阻まれる。その隙に体勢を立て直した黒マントの右手がこちらへ向いた。

「今度こそ…呪術・金縛り」

 ぐ、と収束される力。その雰囲気からして、どうも動きを封じる魔法らしい。が、まあ当たらなければ意味は無いわけで。

 上体を逸らし、結集した力から座標をずらす。

「単純過ぎるな」

「また…避けられた…!?」

 今までこのタイミングで避けられたことは無かったのだろう、動揺が目に見える。しかし、それの収まりを待つほどこちらもお人好しではない。

 隙を突いた必中の切り上げは、しかしまたもや箒に阻まれた。いちいち支援が的確過ぎる。…これは、本当に全力で行くべきか。

「しょうがない出し惜しみはもう無しにしよう」

「…わざわざ教えてくれてありがとー」

「…まだ全力じゃなかったの」

 揃って項垂れる少年と黒マント。2対1とはいえその年齢でアリアの本気を引き出せたのだ、もっと嬉しそうな顔をすればいいのに。

 まあいい、初めの一撃はサービスだ。不意打ちは彼女としても望むところではない。

「ツンセケハリクムアヤニェノイジノスアスウチスセニソ」

 ぱす、と。なんだか気の抜けたような音が駆け抜ける。咄嗟に反応した箒の少年だが、こちらの狙いはそこではない。もっと、後ろ。

 気づいたのか、油の切れたカラクリ人形のような動きでギギギと振り向く少年少女。そこには、細切れになった街灯の残骸が。

「…カナちゃん質問。この世界の人って、0.3秒で鉄の棒一本くらい簡単にバラせたりする?」

「それ言って、信じてくれる人…捜すのは、大変ね」

「うん、安心。あの人が怪物なだけなんだね。良かった」

「…全然良くない」

「そろそろ良いか行くぞ」

「良くない、って言ってんだたけどね!」

 ここまでサービスしたのだ、楽しそうな掛け合いまで終了を待ってやる義理は無い。地を蹴り、右方上空へ。民家の二階部分に足を着き、次はそこを踏み台に箒少年へと跳ぶ。

「ヤコチシウツシコンアヤニェノイジノスアヤリツネウィヘソ」

 同時、黒マントに向けて炎魔法を発射。直線状に伸びる炎筋の速度は中々だったが、辛うじてかわされる。しかし着弾時の爆風は流石に避けきれず、大きく吹き飛ばされる黒マント。民家の端に積んであった布袋の山へと突っ込み、盛大に粉塵が立ち上った。

「カナちゃん!」

「他人の心配をするとは随分と余裕のようだが私はこちらだ」

「…っ、わわっ!」

 一旦少年の背後へ着地し、そこから跳ね返るような急突進。遠心力を乗せ、剣速よりもパワー重視の一撃を放つ。しっかりと防御されたものの、そこに先の怪我。踏ん張りが効かなかったのだろう、少年は丁度黒マントの吹き飛んだ方向へと転がっていった。

 …まあ、双方まだくたばってはいないはず。そうでなければつまらない。

「えっと、さ。ちょーっと、強過ぎるんじゃないかな?」

「…あの剣技に、あの魔法って…反則じゃないの…?」

 ステレオの文句と共に姿を現す2人。少年には肩の傷、黒マントは裾の方が少し焦げているようだ。

 満身創痍、というわけでもない。しかしもって、このままではアリアを倒すに不十分。さて、どうする。

「…ふぅ」

 少年が、短くため息を吐く。何が変わったわけでない。が、しかし。

「カナちゃん、さっき言ってた通りに動いて」

「良いけど…どうしたの、双羽?」

「どうもしてない。ただ、少しは頑張らないと、って」

「…そう」

 いやいや明らかに何か違うだろ、なんて無粋なツッコみ役はここにいない。アリアだってそうだ。

「そうかそうかそれは楽しそうだな少年! …シダコスヲサカウドリクミアヤニェノヌラウイジノスアネウィヘスキゾン」

 つつけばつつくほど何か出てくるあの少年、面白い。さて次は何だろう。期待を全身に巡らせ、先の炎筋より更に一段階上の魔法を発動した。数多の刃が地より突き出で、宙を舞う。

 そうやって発生した無数の氷刃に紛れ、目指すは少年。それだけで軍の一隊を消し飛ばすであろう氷の刃群、これらが全てアリアの意のままに動くのだ。

「あれは…戦略魔法!? 双羽…あれ、戦争で、大砲代わりに使われるような魔法…なんだけど…」

「大丈夫、なんとかなる」

 言うと同時、少年は箒でもってこちらへと一直線に駆ける。正解だ。

 この過多の魔法、つまり面で迫る攻撃に対しての最善手は“全てを相手にしない”こと。事実、少年は極一部の氷刃だけを回避しつつこちらへ迫る。外周に位置する刃は内側の氷が邪魔になり、彼に届かない。

 このまま接近戦に持ち込んでも良いのだが、それはアリアの流儀に反する。

「ウィクサケアヤニェノノスアネウィヘセ」

「わ、っと!」

 指先に収束した雷光を少年めがけて解き放つ。それに対し、少年は急ブレーキののち箒を避雷針代わりに回避してくる。…だが、こんなもので終わりではない。

「シコンアヤニェノイジノスアリススウェ」

「シドハジイアヤニェノイジノスアヴァケジンテウェ」

「クノネセリウアヤニェノイジノスアチツナカテ」

「わ、と、と…って、早口言葉!?」

 熱線が飛び、真空の刃が振り抜かれ、そこに細長い氷槍が一撃。通常の人間相手ならば単発でもって制圧可能であろう魔法の連撃を、苦労しつつも少年はかわし切る。流石は来訪者、常識を知らない。

 ちなみに、黒マントの方は氷刃群によって射線を塞いでいる。あの手の位置指定型魔法は大抵、相手の現在地をしっかりと認識する必要があるのだ。数度散発的に放たれてはいるが、この状況で当たる方が難しい。

「なんで、当たらないのよ…!」

「だから言っただろう単純だとそれから不用意に言葉を発するのは狙ってくれと」

「てぃやっ!」

「言っているような、おっと」

 黒マントを狙おうと手を出しかけたが、絶妙のタイミングで少年が飛びかかってくる。

「…呪術…」

 さらに、そこに向けて魔法を放つ黒マント。一旦氷刃を集合させた壁としてそれを防ぎ、少年の箒をはじく。そのままバックステップをとった少年を追撃、したあたりで異変に気づいた。

 氷刃群が、動かない。基本、こちらの動きに追随するよう設定していたはずなのだが。

「何故氷が動かないとなるほどそういうことかやられたな」

 黒マントの魔法を妨害せんと集めた氷刃が、逆にその魔法の標的とされたのだ。固めて壁としたことにより、一気に動きを止められたのだろう。

 頭の片隅でそんな思考をしつつ、少年を追撃する手は緩めない。残念ながら、あの氷刃の大半を無効化されたところで黒マントの魔法には当たらないのだ。そもそもが防御より威圧用の戦略魔法。こうして少年が懐に飛び込んできたことで、既にその役目を終えている。

 少年の方はといえば、流石に流血が効いてきたらしく辛そうな顔をしていた。動きも先より悪く、防戦一方に加えて下がりっぱなしである。もう先は短い。

「わわっ!」

 …と思う内に、こちらの切り上げを捌き切れず箒が宙に浮く。すくい上げられた箒はその場で急停止するが、一瞬少年の手には何も無いという状態が発生した。慌てず騒がずそこを狙う。

「…っ!」

 対して少年、転がるように大きく後退。こちらとしても予想外の動きだったため初撃は外すが、この無理な動きによる体勢の崩れは致命的だ。小細工は無し、大きく踏み込む。

 頭上にあった箒が振り下ろされるが、これはしっかりと剣で受け止めた。これで箒のやっかいな自動操作を一時的に押さえ込める。

「凶運・頭上注意!」

 黒マントも援護に魔法を放ったようだが、慌てたためか照準は見当違い。無視して前進し少年を剣の間合いに収めた。

「これで終わりだ」

「…君が、ね!」

 少年の言葉を聞いた瞬間、アリアの第六感が警報を鳴らす。思わす上を見た彼女の視界に、倒れてくる街灯が映った。

「なんだ一体何が」

 ピンポイントでこちらに向けて倒れてくる鉄の棒。そこに疑問を差し挟む余地も無く、アリアは背後へ跳ぶ。なんとかこの一撃こそ回避はしたものの、これによって崩した体勢は致命的。まさか数秒前の台詞が我が身に返るとは思わなかった。

「たぁっ!」

 そこを見逃す少年ではない。箒を縦に構え、真正面から打ち込んでくる。これも足を踏ん張りなんとか防御。

「…呪術・強制リバウンド」

 直後、体全体に尋常でない重圧がのしかかった。ここにきて、街灯の一撃以後黒マントが意識から外れていたことを思い出す。失策だ。

 そうやって後悔する時間も短く、今現在速度で勝る少年が後ろへ回り込むのを確認。慌てて振り向くも、そこにはもう少年の姿は無い。回り込むと見せかけ、アリアの周りを一周したのだ。

 その事実に気づいた彼女は振り向いた体を戻しつつ、後ろへと跳ぶ。体の重さ故に転がるような移動となったが、少なくとも少年の接近まで一瞬の間を作ることができた。

 少年は高速でこちらへ突進してくるが、この距離ならば魔法が間に合う。黒マントはこの重量魔法を維持するのに手一杯のようだ。いける、なんとかなる。

「シコンアヤ…がっ!?」

「はい残念」

 アリアの頭部を、予想だにしなかった衝撃が貫ぬく。しっかり脳を揺らしたその一撃は致命傷に遠く及ばず、しかし彼女の意識を刈り取るには十分な威力を持っていて。その閉じてゆく視界に、未だ警戒の眼差しを向ける少年。久々の強者との出逢いに感謝しつつ、アリアはその強固な意識を手放したのであった。

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