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剣と魔法と世界と箒  作者: 久乃 銑泉
第壱部・弐章 交々者事・いろんな ものこと ありまして
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第玖話 白衣字魔・かつき

 早々に一日置き連投稿は断念しました。話数2桁になるまで続かなかったぜ。

 とりあえず次は3日に一回投稿目指します。なんたって、こんな短いので週一とかやってちゃ終わんないですから。

 頭が、痛い。別に頭痛を発症したわけでなく、何かしら能力が覚醒しそうになっているわけでもない。しかし、今夕依は頭が痛かった。原因は主に最近出会った旅の連れの行動に拠るものだ。なお念のため、比喩表現である。

「カナちゃん、一体そっち行ったよ!」

 件の原因の呼ぶ声で思考を現実に引き戻す。今は戦闘中、それ以外のことは一旦頭から追い払うべきだろう。双羽をとっちめるのは後回し。

 迫り来る牛頭の魔人が振り上げた左手を見据え、落ち着いて右に回避する。

「しっかり押さえておけ。俺が崩してやろう」

「…呪術・金縛り」

 ちょうど今襲ってきたのは、暴走した6体のうち3体目の魔土偶だ。戦闘場所は再深部の物置から移動し、どこぞの神社の境内となっている。

「さて、貴様にはこいつをくれてやろう。…“貫け”」

 動きにくそうな白衣を翻し、意外な素早さで魔土偶へと接近する華月。動きの止まった魔土偶の弱点に、手早く“貫”の一文字を書き込む。その墨汁滴る絵筆がどこから出現したのとかは、多分聞いてはいけないのだろう。

 …数瞬後、牛頭人身の魔土偶は、その背から腹へと貫通した大穴によって膝をついた。力を失った土人形は自重に耐えられず、白い砂利へと崩れ落ちる。

「ざっとこんなものだ」

 華月の魔法、どうやら字を書き込むことによってそれに応じた効果を発揮するという代物らしい。発動に一手間掛かるものの、汎用性と威力はかなり高いようだ。即効性に優れた夕依の魔法とは対極に位置する性質と言っていいかもしれない。

「もひとつ行くよ!」

 双羽からのかけ声に反応し、次の相手を視界に捉える。不細工なライオンとしか表現できない四足歩行の獣が、こちらへ顔を向けていた。その更に奥では、残る2体の魔土偶が双羽の駆る箒に翻弄されている。

 双羽がその機動力で敵を牽制、集団から外れた魔土偶を夕依と華月のコンビネーションで速攻撃破。やり合ううちに自然とできあがった配置だ。相手が単純思考のみの人形だからこそ有効となる戦法でもある。

「…悪夢・見上げれば釣天上」

「“乾け”」

 何かにつられて魔土偶が上を向く。その隙に足元へと潜り込んだ華月によって、その両の前足はパラパラと崩れ落ちた。“乾”の字が、粘土細工から水分を奪い崩壊を促したのだ。

 そうやってバランスを崩し地に伏した魔土偶の背の弱点を、華月が思い切り踏み抜く。

「ていやーっ!」

 見れば向こうでは、ちょうど双羽が魔土偶の弱点へと箒諸共体当たりを敢行したところだった。同時に箒の先端を突き刺し、箒自体を伸ばすことでその場より離脱。横手より襲い来る尻尾の一撃を回避してのける。

「貴様が最後だな。…“壊せ”」

 完全に双羽へと注意を向けていた最後の一体は、華月によって文字通り弱点を“壊”され、沈黙した。

「…終わった」

「ふぅ、疲れたー」

「そもそもが貴様の自業自得だがな」

 なんだか茶色い土だらけになってしまった神社の境内を眺め、三者三様に呟く。

 …ふと、華月が双羽を見据えた。

「把臥之、貴様は強いな。相性の問題もあるといえ、魔土偶を複数体同時にあしらうとは」

「空飛べるって、便利だよねー」

「…余程戦い慣れているようだが」

「この世界に来たの2日前だけどね」

「そうか」

 それだけ言って、いそいそと泥を片づけ始める華月と泥で遊び始める双羽。

 なんとなくあぶれた夕依は、とりあえず再深部の物置へと戻ることにした。一時は住んでいたこともある場所なので、一切迷わず目的地へと辿り着く。物置はふたつ並んでいるのだが、今はそれぞれドアを内と外に吹き飛ばされた状態だ。これはなかなかに滑稽な光景である。

「…これと、これ…あ、これ、壊れてる…」

 元来の目的通り、置きっぱなしにしていた私物や役立ちそうな魔法道具を回収していく。いくつか先の戦闘時に壊れたと思しき物があったのは残念だ。この塔を象った置物など、お気に入りだったのだが。

「…ふぅ…」

 一通りめぼしい物を回収した夕依は、堆く積み上げられた本の山に腰掛けつつ溜息を吐く。意外と安定していて座り心地も良い。考え事にはお誂え向きだ。

 …あの、華月という青年。どうやら夕依の昔の知り合いと縁ある人物らしい。彼の言っている経歴が本当かどうかは分からないが、まあ嘘は混じってなさそうだ。あと、こちらと敵対したくない、という意思が見え隠れ、というか見えまくっている。敵意が無いのも真実と判断して良いだろう。

 ただ、単に今までここに住んでいただけとは思えない。先の戦闘では、自らの魔法の特性を理解し、使いこなしていた。あれが相手無しの鍛錬だけで修得できるモノだとは考えづらいのだ。嘘を言ってはいなくとも、真実を全て伝えたわけではないということか。

「…敵でないなら、別に何でも…」

 別にこれから生死を共にするわけでなく。少しばかり一緒に戦ったりもしたが、それだって一時の同盟関係。たった今敵対しないのであれば、彼についてこれ以上考えるべきことも特に無いだろう。

「…疲れた」

 戦い続きの疲れもあったのか。そのままの姿勢でウトウトと船をこぎ始める夕依であった。


……


 双羽にとってこの異世界での3泊目となる宿は、なんだか変な小屋、その最奥にある物置となった。夕依は何故かその場所での一泊を嫌がっていたが。彼女の元々の予定では今日中に沼地を抜け、その先の草原地帯で野宿をするはずだったらしい。しかしあの騒動に時間をとられていたため、結局は小屋で寝ざるをえなかったのだ。というか、そんなに小屋にいたくなかったのだろうか。

「…双羽、何笑ってるの」

「わ、笑ってないけど…」

「じゃあ黙ってて」

「ふひゃい」

 そして、今現在。双羽一行は昼下がりに沼地を抜け、その先を歩いている。…のだが、彼女がなんだかとっても不機嫌なのは何故だろう。口調とかいつも通りなのだが、明らかに言ってることが理不尽だ。だけど双羽のチキンハートでは逆らえる気がしない。なるほどこれが世の不条理というヤツなのかそうなのか。

「どうした金峰、まるでこの世の真理に気づいた肉牛みたいな顔して…」

「うるさいわね」

 そしてまたその不機嫌の原因8割方を占めるであろう人物が余計なことを言う。翻る白衣にマッドサイエンスなその横顔、文字魔法を使う華月だ。

 …今、彼は双羽たちと同行しているのだった。

「ほう、うるさいと。しかし口を開けば音を発するのは人として当然の」

「じゃあ閉じてて」

 どうも夕依、華月が付いてくることが不満なようだ。なんで不満なのかはさっぱり不明なのだが、それが不機嫌の原因なのはまあ十中八九間違いない。

「まったく。把臥之、よくこんなヤツと旅ができるな」

「えと、いっつもこんなんじゃな…」

「黙ってて」

「ふひゃい」

 もう会話への参加すら許可してもらえないこの状況。理不尽だ。

 どうも夕依、華月ととことんウマが合わないらしい。華月の方はわざとからかってる節があるけれども、夕依は本気だろう。イライラしているのが目に見える。

「双羽。箒降りて」

「え」

「降りて」

「ふひゃい」

 まあどうでもいいと言えばどうでもいいのだが、こちらへとばっちりが来るのは頂けない。

「くくく…そうか、嫌よ嫌よも好きの内、と…」

「…バカじゃないの?」

「残念、バカと言った方がバカなのだよ。小学生でも知っている知識だろうそうだろう」

「……」

 …新しく増えたこの同行者、とりあえず賑やかな旅だけは約束してくれそうだ。


……


 ベンフィード公国から北西へまっすぐ、更にまっすぐ行けば、とある山脈にぶつかる。連なるのは、赤茶けた岩肌の見える険しい山々だ。名をキシニィ山脈という。険しいとはいえ、草木の一本も生えぬほどではない。人という逞しい種族はこの地域にもちらほら集まり、村を形作って息づいていた。

 そんなこの地に住む人々の間で、聖地とも地獄の入り口とも言われる場所がある。レケヲク、と呼ばれるその渓谷には、死者の霊魂がさまよっているとされていた。実際ここへ入り、狂気をと共に帰還した者も多くいる。そのため、この話は広く信じられていた。実害もでているのだから、誰だってこんなところにすき好んで入らない。

 …そんな渓谷に、討伐隊より命からがら逃げ出した盗賊団が身を潜めた。ある意味苦渋の決断だったと言える。またとある女性が、ここではないどこかより降り立った。よくあることでは決してないが、そこまで極端に珍しいことではないかもしれない。

 そしてこのふたつは、出逢うべくして出逢った。それが結果何を引き起こすかなんて、誰の知るわけもなかったのだが。

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