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就活全滅で故郷に逃げ帰った陰キャの俺、五年前に告白できなかった高嶺の花と再会したら「ずっとあなたの小説読んでた」と言われて人生逆転した件

作者: uta
掲載日:2026/05/04

【第一章 逃げ帰った夏】


「就活、全滅だってさ」


誰に言うでもなく、俺は呟いた。


車窓の向こうを、見慣れた田園風景が流れていく。東京行きの特急とすれ違うたび、逆方向に進む自分が惨めになる。


藤原蒼太、二十二歳。

大学四年の夏に、実家に逃げ帰る負け犬。


スマホの通知を見る気にもなれない。どうせ高梨あたりが「内定3つ目ゲット!」とか投稿してるんだろう。


(……あいつ、俺が落ちた会社だよな)


「まあお前は向いてなかったんじゃない?」


最後に会った時の高梨の言葉が、まだ耳にこびりついている。


向いてない。

取り柄がない。

何者にもなれない。


分かってる。自分が一番分かってる。


電車が減速し、聞き覚えのあるアナウンスが流れた。


「間もなく、終点——」


窓の外に、錆びた看板と古い駅舎が見える。

五年ぶりの、故郷。


俺は重い足を引きずって、ホームに降り立った。


蝉の声が、やけにうるさい。


改札を出ると、むわっとした熱気が肌にまとわりつく。アスファルトが陽炎で揺らいでいた。


実家まではバスで二十分。でも今日は歩く気力もない。


タクシー乗り場に向かおうとして、足が止まった。


財布を開く。


千円札が二枚と、小銭が少し。


(……歩くか)


炎天下の道を、とぼとぼと歩き始めた。


何をやってもダメだ。

就活も、人生も、金の管理すらまともにできない。


汗が目に染みる。

視界がぼやけてきた。


「……っ」


涙じゃない。汗だ。

汗に決まってる。


三十分かけて、ようやく実家に着いた。


「ただいま——」


「おかえり! 兄ちゃん、久しぶりー!」


玄関を開けた瞬間、妹の陽菜が飛び出してきた。


「うわっ、汗くっさ! シャワー浴びてきなよ」


「……ああ」


「お母さーん、兄ちゃん帰ってきたー!」


騒がしい。

相変わらず、うるさい妹だ。


でも、少しだけほっとしている自分がいた。




【第二章 あの日のままの場所】


翌日から、俺は逃避行動を開始した。


避難場所は、すぐに決まった。


町外れの古びた図書館。

高校時代、俺が入り浸っていた場所だ。


「……変わんねえな」


カビ臭い空気と、埃っぽい本の匂い。窓際の特等席は、あの頃のまま残っていた。


家にいると母さんが気を遣うし、陽菜はうるさい。

ここなら誰にも会わずに済む。


俺は棚から一冊の文庫本を抜き取った。


『夜明けの向こう側』


——高校二年の夏、彼女が薦めてくれた小説だ。


「藤原くんなら、きっとこの本好きだと思う」


あの時の笑顔を、五年経った今でも覚えている。


白石凛花。

学年一の才女で、誰もが振り返る美人で。

俺なんかと釣り合うはずのない、高嶺の花。


(……まだ持ってんのかよ、この本)


未練がましい自分に嫌気が差して、ページを開こうとした時だった。


「——久しぶり、藤原くん」


心臓が、止まった。


西日の差す窓際。

逆光の中に、信じられない人影が立っていた。


「まだ本ばっかり読んでるんだ」


五年前と変わらない、柔らかな笑顔。

少しだけ大人びた、透き通るような横顔。


白石、凛花——?


「その本……」


彼女の視線が、俺の手元に落ちる。

『夜明けの向こう側』。

彼女が薦めてくれた、あの一冊。


凛花が小さく息を呑んだのが分かった。


「……覚えて、たんだ」


「え、いや、これは——」


違う、たまたまだ。偶然だ。

五年間ずっと大事にしてたわけじゃない。


——嘘だ。

本当は、何度も読み返した。

彼女のことを思い出すたびに。


「私ね」


凛花が、一歩近づいてくる。


「この本、藤原くんにだけ薦めたの」


西日が、彼女の横顔を金色に染めていた。


五年ぶりの再会。

逃げ帰った故郷で。

よりにもよって、この本を手にした瞬間に。


俺の心臓が、馬鹿みたいにうるさく鳴っている。


「——久しぶり、白石」


それだけ言うのが、精一杯だった。




【第三章 帰ってきた理由】


「東京、辞めたの」


図書館の古びたソファに並んで座りながら、凛花はあっさりと言った。


「辞めたって……出版社?」


「うん。おばあちゃんの介護、私しかいないから」


彼女の声に迷いはなかった。


有名出版社の編集者。

誰もが羨む、輝かしいキャリア。

それを捨てて、この田舎町に戻ってきた。


「……もったいなくないのか?」


「ううん」


凛花は窓の外を見つめた。


「大切なものの順番、間違えたくなかっただけ」


(強いな、こいつ)


就活に全滅して逃げ帰ってきた俺とは大違いだ。


「藤原くんは? 大学、東京でしょ?」


「……帰省だよ。夏休みだから」


嘘だ。

逃げてきただけだ。


「そっか」


凛花は追及しなかった。

でも、その目は全部見透かしているようで。


「ねえ、藤原くん」


「……なに」


「私たちさ、高校の時、あんまり話せなかったよね」


「まあ……そうだな」


クラスは違った。

接点は図書室と、たまにすれ違う廊下くらい。

俺が一方的に見ていただけだ。


「やり残したこと、たくさんあった気がする」


凛花がこちらを向いた。


「ね、この夏——」


その目が、真っ直ぐ俺を捉える。


「一緒に、取り戻さない?」


「……は?」


「高校時代にできなかったこと。全部やり直すの」


何を言ってるんだ、こいつは。


「夏祭り、行けなかったでしょ? 花火も見れなかった。読書会もしたかったし——」


「いや、待て待て」


「この夏だけ。期限付きでいいから」


凛花の頬が、少し赤くなっている。


西日のせいだ、きっと。


「……なんで、俺なんだよ」


「なんでって」


凛花は少し拗ねたように唇を尖らせた。


「藤原くんしか、いないでしょ」


その言葉の意味を、俺はまだ理解できていなかった。




【第四章 やり残したことリスト】


翌日、凛花は本気だった。


「じゃーん」


図書館に現れた彼女が広げたのは、一枚のメモ用紙。


『高校時代やり残したことリスト』


・夏祭りで金魚すくい

・深夜の海で花火

・廃校になった母校に忍び込む

・二人だけの読書会

・屋上でタイムカプセルを掘り起こす


「……お前、いつの間に」


「昨日の夜、考えてたの」


(寝ろよ)


「金魚すくいとか、子供じゃないんだから」


「高校生の時できなかったんだから、子供でいいの」


「いや、でも——」


「藤原くんはやりたくないの?」


上目遣いで見上げられて、言葉に詰まった。


「……別に、嫌とは言ってない」


「じゃあ決まりね」


凛花がふわりと笑う。

この笑顔に、昔から弱いんだ。


「夏祭り、来週の土曜日。迎えに行くから」


「俺が迎えに——」


「いいの。私が誘ったんだから」


強引だ。

高校の時は、もっと大人しい印象だったのに。


「……変わったな、白石」


「凛花でいいよ」


「は?」


「だから、凛花。高校の時からそう呼んでほしかったの」


俺は思わず目を逸らした。

心臓がうるさい。


「……考えとく」


「えー、今すぐがいい」


「無理」


「じゃあ夏祭りまでに練習しといてね」


勝手に決めるな。


でも——


(悪くない、かもしれない)


五年ぶりに、夏が楽しみになっている自分がいた。




【第五章 妹の鉄槌】


家に帰ると、妹が待ち構えていた。


「兄ちゃん、今日どこ行ってたの?」


「……図書館」


「へー。誰と?」


「誰とも——」


「嘘。目、泳いでるよ」


陽菜の観察眼は、昔から鋭すぎる。


「別に。たまたま知り合いに会っただけだ」


「知り合いって?」


「……白石」


瞬間、陽菜の目が見開かれた。


「え、あの白石先輩!?」


声がでかい。


「兄ちゃんが高校時代ずっと見てた——」


「見てねえよ!」


「見てたじゃん。『白石さんまた図書室にいた』とか『今日は白石さんと目が合った』とか——」


「言ってねえ!」


言ったかもしれない。


「兄ちゃんさ」


陽菜がニヤニヤしながら近づいてくる。


「白石先輩の話するとき、昔っから声のトーン変わるんだよね」


「……変わんねえよ」


「今も変わってる」


「うるさい、もう寝る」


「まだ七時だよ?」


部屋に逃げ込もうとしたら、背中から陽菜の声が飛んできた。


「兄ちゃん、就活のことは私、なんも言わないよ」


「……」


「でもさ、白石先輩と再会したの、何かの縁じゃない?」


振り返ると、陽菜はいつもの茶化すような顔じゃなかった。


「兄ちゃんの書く話、私は好きだよ。だから、もうちょっとだけ——自分のこと信じてあげなよ」


妹に励まされるとか、情けなさすぎる。


でも——


「……ありがとな」


「へへ、今度お菓子おごってね」


結局それか。


でも少しだけ、胸が軽くなった気がした。




【第六章 夏祭りの夜】


祭り囃子が、夜空に響いていた。


「藤原くん、こっち!」


浴衣姿の凛花が、人混みの中で手を振っている。


紺地に白い花の柄。

髪は普段と違って、ゆるくまとめられている。


(反則だろ……)


「どうしたの、固まって」


「いや……」


「似合ってない?」


「似合って……る」


「ふふ、ありがと」


凛花が嬉しそうに笑う。

耳が赤いのは、提灯の明かりのせいだと思いたい。


「ほら、金魚すくいあったよ!」


手を引かれて、屋台の前に連れて行かれる。


「藤原くんも、はい」


紙を渡される。


「……俺、こういうの下手なんだけど」


「いいの。できなくても楽しいの」


凛花は真剣な顔で金魚を追いかけ始めた。

こういうところ、昔と変わらない。


「あ! 破けた!」


「だから言っただろ」


「うー……もう一回!」


結局、二人とも一匹も取れなかった。


「悔しい……」


「おまけでいいよ」


屋台のおじさんが笑いながら、小さな金魚を一匹くれた。


「わあ! ありがとうございます!」


凛花が金魚袋を大事そうに抱える。


「名前、何にしよう」


「……知らねえよ」


「じゃあ藤原くんが決めて」


「は? なんで」


「私たち二人の金魚だから」


二人の、という言葉に心臓が跳ねる。


「……夏」


「夏?」


「夏に会ったから」


「……いいね、それ」


凛花が、袋の中の金魚に話しかける。


「夏ちゃん、よろしくね」


祭りの喧騒の中で、二人だけの世界みたいだった。


「ねえ、花火そろそろ始まるよ」


「ああ」


「手、繋いでいい? はぐれちゃうから」


「——別に、いいけど」


凛花の手が、俺の手に触れる。

小さくて、少し冷たくて。


「……行くか」


「うん」


花火が上がる。

色とりどりの光が、夜空を染めていく。


「きれい……」


凛花の横顔が、花火に照らされている。


「高校の時もさ、一緒に見たかったな」


「……ああ」


「藤原くんは?」


「俺も——」


同じこと思ってた、とは言えなかった。


でも繋いだ手は、最後まで離さなかった。




【第七章 深夜の海と花火】


「やり残したことリスト」の二つ目。

深夜の海で花火。


「完全にアウトだろ、これ」


「大丈夫、健吾が見張りしてくれるって」


「柴田が?」


砂浜に着くと、高校時代の友人が待っていた。


「おお、生きてたか陰キャ!」


「……うるせえ」


柴田健吾。

日焼けした肌と、相変わらずの大声。

今は地元で漁師をしているらしい。


「しっかし、お前ら両片思いだったの、俺以外みんな気づいてたぞ?」


「は?」


「え?」


俺と凛花が同時に声を上げた。


「なんでお前がそんなこと——」


「いや、分かるだろ普通に。お前、白石の姿見るたび目で追ってたし。白石は白石で、藤原の話になると頬染めてたし」


「染めてない!」


「染めてたって。な?」


「……俺に振るな」


凛花が真っ赤になっている。

提灯も祭り囃子もないのに。


「まあいいや。お前ら楽しめよ。俺は向こうで見張ってっから」


柴田が去っていく。


「……あいつ、相変わらずだな」


「うん……」


二人とも、妙に気まずい。


「と、とりあえず花火しよっか」


「ああ……」


凛花が手持ち花火に火をつける。

小さな光が、二人の間を照らした。


「ねえ、健吾の言ってたこと……」


「忘れろ」


「でも——」


「いいから」


俺も花火に火をつけた。


パチパチと音を立てて、光が散っていく。


「きれい……」


波の音と、花火の音。

星空の下、二人きり。


「高校の時、こうしたかったな」


凛花がぽつりと言った。


「でも私、勇気なくて」


「……俺も」


正直に言えた。


「話しかけたかったけど、無理だった」


「そうだったんだ……」


「白石は、その——人気者だったし」


「人気者なんかじゃないよ」


「いや、どう見ても——」


「私、友達少なかったよ。本ばっかり読んでたし」


「……マジで?」


「マジで。藤原くんと話してる時間が、一番楽しかった」


花火の光が、凛花の顔を照らす。


「だから——」


「だから?」


「……なんでもない」


凛花が目を逸らした。


聞きたかった。

その先を。


でも、聞けなかった。


花火が燃え尽きて、闇が戻ってくる。


「次、線香花火しよっか」


「……ああ」


二人で火をつけて、並んで座った。


小さな光が、儚く揺れている。


「私のやつ、もうすぐ落ちそう」


「粘れ」


「無理、もう——あっ」


火の玉が、砂に落ちた。


「負けた……」


「俺のも、そろそろ——」


ぽとり。


二人の線香花火が、ほぼ同時に消えた。


「引き分けだね」


「……だな」


暗闇の中、波の音だけが聞こえる。


「藤原くん」


「……なに」


「この夏、楽しいね」


「——ああ、楽しい」


本心だった。


就活のことも、将来のことも、忘れられる。

こいつといると。


「終わんないといいのにね」


凛花の声が、少し寂しそうに響いた。


——終わる。

この夏は、いつか終わる。


分かっているのに、俺は何も言えなかった。




【第八章 二人だけの読書会】


リストの四つ目。

二人だけの読書会。


「じゃあ、今日はこれね」


凛花が取り出したのは、見覚えのある一冊。


『夜明けの向こう側』。


「……またこれか」


「だって、私たちの始まりの本でしょ?」


始まり、という言葉にドキッとする。


「今日は、お互いの好きなシーンを語り合うの」


「語り合うって……」


「感想戦だよ。読書会の醍醐味」


凛花が楽しそうに言う。


俺たちは図書館の奥、誰も来ない一角に陣取った。


「じゃあ私から。二百三十二ページの——」


「主人公が、ヒロインの本当の気持ちに気づくとこか」


「え、分かるの?」


「お前が好きそうだと思った」


凛花が目を丸くする。


「……なんで?」


「なんとなく。お前、こういうすれ違いからの気づきみたいなの、好きだろ」


「すごい……ちゃんと見ててくれたんだ」


見てた。

ずっと見てた。


「藤原くんは、どこが好き?」


「俺は——」


ページをめくる。


「ここ」


「どこどこ?」


凛花が覗き込んでくる。

近い。髪がいい匂いする。


「『大切なのは、過去に戻ることじゃない。今、ここから始めることだ』……ってとこ」


凛花が息を呑んだのが分かった。


「……蒼太」


「は?」


「今、蒼太って言った?」


「言ってない」


「聞こえた」


「空耳だ」


「絶対言った」


凛花がニヤニヤしている。


「ふーん、練習したんだ」


「してねえよ!」


「嘘。耳赤いよ」


「お前の方が赤い」


「……っ」


凛花が慌てて耳を押さえる。


「ずるい、藤原くん」


「蒼太でいいって、言っただろ」


自分でも信じられない言葉が出た。


凛花が、目を見開く。


「……本当に?」


「ああ」


「じゃあ——蒼太」


名前を呼ばれる。

心臓が跳ねる。


「私のことも、凛花って呼んで」


「……凛花」


言えた。

五年越しに。


「うん」


凛花が、泣きそうな顔で笑った。


「やっと、呼んでくれた」




【第九章 廃校の屋上】


「やり残したことリスト」の三つ目。

廃校になった母校への侵入。


「これ、完全に不法侵入だからな」


「だから内緒だって」


錆びた裏門をくぐり、校舎の中に入る。


埃っぽい廊下。

誰もいない教室。

止まったままの時計。


「懐かしい……」


凛花が窓の外を見つめる。


「あそこ、蒼太の教室だったよね」


「よく覚えてんな」


「そりゃあ覚えてるよ。毎日通ってたんだから」


——毎日?


「私の教室、向かいだったでしょ。休み時間、いつも蒼太のこと見てた」


「……嘘だろ」


「嘘じゃないよ」


凛花が少し拗ねたように言う。


「気づいてなかったの?」


「気づくわけないだろ」


俺は凛花のことばかり見てたんだから。


「ねえ、屋上行こう」


「屋上?」


「タイムカプセル、埋めたでしょ? 卒業の時」


「ああ——」


思い出した。

クラスごとに、将来の自分への手紙を埋めたんだ。


「掘り起こそうよ」


「見つかるかな」


「大丈夫、場所覚えてる」


屋上への階段を上る。


錆びついた扉を開けると、夕焼けの空が広がっていた。


「こっち」


凛花がフェンス際の隅を指さす。


「ここに埋めたはず」


持ってきたスコップで、土を掘り始める。


「あった!」


出てきたのは、古びた缶の箱。


「開けるよ?」


「……ああ」


蓋を開けると、中には色あせた紙が何枚も入っていた。


「これ、蒼太のでしょ」


凛花が一枚を取り出す。


俺の字だ。

五年前の、下手くそな字。


「読むよ?」


「待て——」


もう遅い。


「『将来の夢、特になし。とりあえず——』」


凛花の声が止まった。


「……蒼太」


彼女がこちらを見る。

目が、潤んでいる。


「『とりあえず、卒業式に白石さんに告白する』……?」


終わった。

人生が終わった。


「これ、本当?」


「いや、それは、その——」


「本当なの?」


凛花の目が、真っ直ぐ俺を見つめる。


「……本当、だよ」


認めた。

五年越しの秘密を。


「でも卒業式の日、凛花いなかったから——」


「知ってる」


凛花の声が震えている。


「私、その日の朝に引っ越したの。お父さんの転勤で」


「ああ……」


「卒業式、出たかった。蒼太と、最後に話したかった。でも——」


凛花が、自分のポケットから紙を取り出した。


色あせた、古い紙。


「私のも、読んで」


震える手で、受け取る。


目を通して——息が止まった。


『藤原くんと両思いになる』


「…………」


「私、ずっと好きだった」


凛花の声が、夕焼けの中に溶けていく。


「卒業式に告白しようと思ってた。でもできなくて。五年も——」


「待て、ちょっと待て」


頭が追いつかない。


両片思い?

俺たち、お互いに?


「あの時、私たち、すれ違ってたんだね」


凛花が泣きそうな顔で笑う。


「五年も、無駄にした」


「無駄じゃ、ない」


気づいたら、俺は言葉を発していた。


「今、会えてるんだから」


「……蒼太」


「だから——」


その先が、言えない。


告白できなかったあの日から、何も変わってない。

臆病なままだ。


「続きは、また今度ね」


凛花が涙を拭いて、笑った。


「この夏、まだ終わってないから」


夕焼けが、二人を照らしている。


あの日言えなかった言葉を、まだ胸の中で温めたまま。




【第十章 おばあちゃんの爆弾】


凛花の家に招待された。


祖母の白石ハツさんに、挨拶するためだ。


「緊張してる?」


「してない」


「顔に書いてあるよ」


凛花がくすくす笑う。


古い日本家屋の玄関をくぐると、穏やかな声が聞こえた。


「あら、いらっしゃい」


車椅子に座った老婦人が、にこやかに迎えてくれる。


「藤原蒼太です。お邪魔します」


「まあまあ、蒼太くん。凛花からよく聞いてるわよ」


「おばあちゃん!」


凛花が慌てる。


「あら、だって本当のことでしょう?」


ハツさんがいたずらっぽく笑う。


「この子ね、東京にいる時もずっとスマホ見てたの。『また更新されてる』って嬉しそうにね」


「お、おばあちゃん!」


凛花が真っ赤になっている。


「更新って——」


俺の言葉に、ハツさんが首を傾げた。


「あら、知らないの? あなたの小説のこと」


「……は?」


「凛花ったら、五年間ずっとあなたのアカウントフォローしてたのよ」


時間が止まった。


凛花が俺のSNSを?

五年間?


「嘘、だろ……」


「本当よ。『蒼太くんの文章、やっぱりすごい』って、毎晩のように——」


「おばあちゃんストップ!!」


凛花が顔を両手で覆う。


「……見てた、のか?」


「……」


返事がない。

でも、首だけが小さく縦に動いた。


「五年間、ずっと」


「……ずっと」


蚊の鳴くような声。


「なんで」


「だって——」


凛花が手の隙間からこちらを見る。


「蒼太の書く話、好きだから」


心臓が、どくんと跳ねた。


「五年間、ずっと見てた。新しい話が投稿されるの、楽しみにしてた」


「……俺、才能なんかないぞ」


「ある」


即答だった。


「蒼太は自分のこと分かってないだけ」


「でも——」


「私は知ってるの。蒼太の文章が、どれだけ人の心を動かすか」


凛花の目が、真っ直ぐ俺を見ている。


「だから——」


ハツさんが、ころころと笑った。


「五年も待たせるなんて、焦らし上手ねえ」


「おばあちゃんっ!」


「あらあら、お茶入れてくるわね。ゆっくり話しなさい」


車椅子の音が遠ざかっていく。


二人きりになった。


「……ごめん」


凛花が呟く。


「勝手に見てて。気持ち悪いとか——」


「思わねえよ」


「でも——」


「嬉しい」


正直に言った。


「誰かが読んでくれてるなんて、思ってなかったから」


「読んでたよ。ずっと」


凛花の声が、震えている。


「私だけじゃない。ファンいっぱいいるよ、蒼太」


「……そうなのか?」


「そうだよ。もっと自信持って」


凛花が、少し怒ったように言う。


「蒼太は、すごいんだから」


その言葉が、胸の奥に染み込んでいった。




【第十一章 東京からの便り】


夏が終わりに近づいていた。


「凛花、東京に戻るって」


陽菜が夕食の席で爆弾を落とした。


「は?」


「おばあさんの容態、安定したんだって。だから——」


「いつ」


「来週」


箸を落としそうになった。


来週?


また、あの時と同じだ。

何も言えないまま、いなくなる。


「兄ちゃん」


「……なに」


「また、このまま終わりにするの?」


陽菜の目が、真剣だった。


「五年前と同じこと、繰り返すの?」


「……」


「行きなよ、今すぐ」


「行ってどうすんだよ」


「分かんないの? 告白だよ、告白!」


「でも俺——」


「就活失敗とか関係ないから!」


陽菜が立ち上がる。


「白石先輩は兄ちゃんのこと好きなの! 見てたら分かるでしょ!」


「……」


「ぐずぐずしてると私が代わりに告っちゃうよ?」


「お前が告ってどうすんだよ」


「知らない! とにかく行って!」


背中を押されて、家を飛び出した。


凛花の家に向かう途中——


スマホが鳴った。


知らない番号。

東京の市外局番。


「……もしもし」


『藤原蒼太さんですか? ○○出版編集部の田村と申します』


出版社?


『このたび、編集アシスタントの件でご連絡いたしました。選考の結果、ぜひ蒼太さんにお越しいただきたく——』


内定?


俺が?


出版社に?


「あ、あの、俺、御社に応募した覚えが——」


『推薦状をいただいておりますので。白石凛花さんから』


息が止まった。


「白石、が?」


『はい。元弊社の編集者で……蒼太さんの文章を高く評価されていました。「必ず業界で必要とされる才能です」と』


電話を切った後も、しばらく動けなかった。


凛花が、俺のために。


推薦状を?


「——っ」


走り出した。


凛花の家まで、全速力で。




【第十二章 日記】


凛花の家の前に着いた時、異変に気づいた。


玄関が、半開きになっている。


「凛花?」


返事がない。


中に入ると、廊下に本が散らばっていた。


引っ越しの準備か?


「凛花——」


足元に、古びたノートが落ちていた。


表紙に『日記』と書いてある。


見てはいけない。

分かっている。


でも、開いてしまった。


『4月15日

今日、藤原くんと目が合った。

心臓止まるかと思った』


『5月3日

藤原くんに本を薦めた。

喜んでくれた。嬉しい』


『6月22日

藤原くんが私の話を覚えてくれてた。

好き。大好き』


『7月18日

夏休み、藤原くんに会えない。

寂しい。会いたい』


ページをめくる手が震える。


『3月1日

明日、引っ越し。

告白できなかった。

藤原くん、ごめんね。

好きだった。ずっと好きだった。

もう会えないかもしれないけど、

この気持ちだけは、本当だから』


文字が、滲んでいた。

涙の跡だ。


「何、見てるの」


振り返ると、凛花が立っていた。


目が、赤い。


「ごめん、勝手に——」


「……見ちゃったんだ」


凛花が、力なく笑う。


「バレちゃったね。私の、片思い」


「片思いじゃない」


「え——」


俺は日記を閉じて、凛花の前に立った。


「両思いだ。五年前から」


「蒼太……」


「俺もずっと好きだった。告白できなかっただけで」


凛花の目から、涙がこぼれた。


「じゃあ、なんで——」


「臆病だったから」


「私も」


「五年、無駄にした」


「うん」


「でも——」


俺は凛花の肩を掴んだ。


「今からでも、遅くないだろ」


「——っ」


凛花が、泣きながら笑った。


「遅いよ、五年も」


「じゃあ取り戻す」


「どうやって」


「これから、ずっと一緒にいる」


凛花の目が、大きく見開かれた。


「推薦状、ありがとう」


「……知ってたの」


「さっき電話があった。内定だって」


「本当?」


「ああ。俺、東京行くよ」


凛花の顔が、みるみる明るくなる。


「じゃあ——」


「一緒に帰ろう。東京」


「……うん」


凛花が、俺の胸に顔を埋めた。


「ずっと、待ってた」


「ごめんな、遅くなって」


「いいよ、もう。これからは一緒だから」


その言葉に、胸が熱くなった。




【第十三章 五年遅れの告白】


凛花が東京に帰る前夜。


俺は、あの場所に彼女を呼び出した。


高校時代、告白しようとした海岸。


「懐かしいね、ここ」


凛花が波打ち際に立つ。


月明かりが、彼女の横顔を照らしている。


「卒業式の日、ここで待ってたんだ」


「……え?」


「凛花が来るの、待ってた。告白するつもりで」


凛花が息を呑む。


「でも来なかった。当たり前だよな、もう引っ越した後だったんだから」


「蒼太……」


「五年間、ずっと後悔してた」


あの日言えなかった言葉が、今なら言える。


「凛花」


波の音が、静かに響く。


「五年遅れたけど——」


彼女の目を、真っ直ぐ見つめる。


「ずっと好きだった」


凛花の目から、涙がこぼれた。


「これからも、好きでいていい?」


「……っ」


凛花が、首を縦に振る。


何度も、何度も。


「私も、好き。ずっと好きだった」


「知ってる」


「知ってるって——」


「タイムカプセル、読んだだろ」


「あ——」


凛花が恥ずかしそうに俯く。


「ずるいよ、蒼太」


「ずるくていいよ。お前のこと、誰にも渡したくないから」


凛花の耳が、赤くなる。


「……蒼太」


「ん」


「蒼太」


「だから、くんいらないって——」


「蒼太」


その名前が、彼女の声で何度も呼ばれる。


これ以上の幸せがあるだろうか。


「東京、一緒に行こう」


「うん」


「これからは、隣にいる」


「うん」


「もう離さない」


「——うん」


俺は凛花の手を取った。


五年前と同じ海岸で。


今度は、ちゃんと繋いだまま。


波の音が、二人を包み込む。


月明かりが、繋いだ手を照らしていた。




【第十四章 因果応報】


東京に戻る数日前、SNSに通知があった。


高梨からのメッセージ。


『お前、○○出版に内定したってマジ? コネでも使ったの?笑』


相変わらずだ、こいつは。


返信しようとした時、後ろから声がかかった。


「何見てるの?」


凛花だ。


「……なんでもない」


「見せて」


強引にスマホを覗き込まれた。


「この人、誰?」


「大学の……知り合い」


「友達?」


「いや——」


説明しようとした時、凛花の表情が変わった。


「ねえ、これ」


凛花が画面をスクロールする。

高梨の過去の投稿が表示された。


『就活全滅したやついてワロタ』

『向いてないことは早めに諦めた方がいいよね〜』


「……蒼太のこと?」


「多分」


凛花の目が、冷たくなった。


「貸して」


「え——」


凛花が俺のスマホを取り上げた。


そして、高梨に返信を始めた。


『初めまして。藤原蒼太の恋人の白石凛花と申します』


「ちょっ——」


『コネではありません。彼の才能を正当に評価した結果です。元編集者として、彼の文章力は業界でも通用するレベルだと確信しています。失礼ながら、あなたには分からないかもしれませんが』


送信。


「凛花!」


「何?」


「いや、恋人って——」


「違うの?」


「違わないけど!」


凛花がふふっと笑う。


「蒼太の才能を馬鹿にする人、許せないの」


「でも——」


「私が一番のファンなんだから」


その言葉に、何も言えなくなった。


数分後、高梨から返信があった。


『……すみませんでした』


凛花が満足そうに頷いた。


「よし」


「お前、怖いな……」


「蒼太を守るためなら、何でもするよ」


真顔で言われて、背筋が震えた。


嬉しいような、怖いような。


後日聞いた話では、高梨は大手に入社したものの、激務でメンタルを病んで休職したらしい。


因果応報、というやつだろうか。


「ざまあ、とか思っちゃダメ?」


陽菜が電話越しに笑った。


「……思わないよ」


「嘘だー」


「うるさい」


少しだけ、思った。


人間だから、仕方ない。




【第十五章 新しい夏の始まり】


夏の終わり。


東京行きの電車に乗った。


隣の席には——


「やっと隣に座れたね」


凛花がいた。


「ああ」


「五年かかった」


「長かったな」


「でも、無駄じゃなかったよね」


凛花が窓の外を見つめる。


夏の田園風景が、流れていく。


「東京着いたら、何食べたい?」


「……なんでもいい」


「じゃあ私が決めるね」


「おう」


「住む場所も、近い方がいいよね」


「……そうだな」


「一緒に住む?」


「は?」


「冗談。……半分くらい」


凛花が頬を染めて笑う。


こいつ、こんなキャラだったか?


「蒼太」


「ん」


「幸せだね」


「……ああ」


繋いだ手に、力を込めた。


窓に映る二人の顔。


俺も凛花も、笑っている。


「来年の夏も、帰ろうね」


「ああ」


「再来年も」


「分かってる」


「おじいちゃんとおばあちゃんになっても」


「……気が早い」


「でも、そうなりたいでしょ?」


返事の代わりに、手を握り返した。


凛花が嬉しそうに笑う。


戻れない夏休みは、二人だけの特別な記念日になった。


そしてこれは——


俺たちの、新しい物語の始まり。




【エピローグ 一年後の夏】


一年後の夏。


俺たちは、故郷に帰ってきた。


「懐かしいね」


凛花が、古びた図書館の前で立ち止まる。


「一年前、ここで再会したんだよね」


「ああ」


「あの時、心臓飛び出るかと思った」


「俺も」


二人で笑った。


中に入ると、あの窓際の席が空いていた。


「座ろうか」


「うん」


並んで座る。


一年前と同じ場所で。


でも、関係は全然違う。


「蒼太、最近の連載、すごい人気だね」


「凛花の編集のおかげだろ」


「私は意見言ってるだけだよ。書いてるのは蒼太」


「……ありがとな、いつも」


「どういたしまして」


凛花が俺の肩にもたれかかる。


東京に戻ってから、俺は出版社で働きながら創作を続けている。

凛花も編集者として復帰し、俺の担当についてくれた。


公私混同だと言われるかもしれない。

でも、俺たちにはこれが一番合っている。


「来年も、再来年も、この夏を一緒に過ごそうね」


「ああ」


「約束だよ」


「分かってる」


窓から差し込む西日が、二人を照らす。


一年前と同じ光。


でも今は、隣に彼女がいる。


「蒼太」


「ん」


「好きだよ」


「——俺も」


照れくさくて、目を逸らした。


凛花がくすくす笑う。


「まだ照れるの?」


「うるさい」


「可愛い」


「男に可愛いって言うな」


「可愛いものは可愛いの」


どうやら、この先もずっとこんな調子らしい。


悪くない。


全然、悪くない。


「帰ったら、『夏』にエサあげないとね」


「ああ、あいつ元気にしてるかな」


「健吾が世話してくれてるから大丈夫でしょ」


去年の夏祭りですくった金魚は、まだ元気に泳いでいる。


俺たちの夏の、小さな証人だ。


「ねえ、蒼太」


「なに」


「幸せだね」


「……ああ、幸せだ」


今度は、ちゃんと言えた。


五年越しの恋は、ようやく実を結んだ。


これからも、この夏を——


二人で、重ねていく。




本棚から、あの一冊を取り出す。


『夜明けの向こう側』。


色あせた表紙を、凛花が指でなぞった。


「この本がなかったら、私たち、話すきっかけもなかったかもね」


「そうだな」


「蒼太に薦めて、本当によかった」


「俺も——お前に出会えて、よかった」


凛花が、幸せそうに笑う。


西日が、窓から差し込んでくる。


五年前と同じ光。

一年前と同じ場所。


でも、隣にいるのは——


俺の、大切な人。


「蒼太」


「ん」


「ありがとう」


「何が」


「五年、待っててくれて」


「……俺の方こそ」


言葉が詰まる。


「お前が、俺を信じてくれたから」


凛花の目が、潤んでいる。


「これからも、信じてるよ」


「ああ」


「ずっと、一緒にいてね」


「——当たり前だろ」


手を繋いで、窓の外を見る。


夕焼けが、町を染めていく。


蝉の声が、少しずつ遠ざかっていく。


夏が、終わろうとしている。


でも——


「また来年も、ここに来ようね」


「ああ」


「再来年も」


「しつこいな」


「だって、約束だから」


凛花が、指切りを差し出す。


「指切りげんまん、嘘ついたら——」


「針千本じゃなくていい」


「じゃあ何?」


「キス百回」


「……っ」


凛花の顔が、一気に赤くなる。


「ず、ずるい! そういうの先に言うの、ずるい!」


「お前に似合いそうだと思って」


「似合ってない!」


「そうか?」


「そうだよ! もう、蒼太のバカ!」


怒ったふりをしながら、凛花は俺の腕にしがみついてくる。


「……でも、嫌じゃない」


「知ってる」


「知ってるって言うな!」


「お前の考えてること、大体分かるようになった」


「うそ」


「本当」


凛花が、上目遣いで俺を見る。


「じゃあ今、私が何考えてるか分かる?」


「……キスしてほしい、だろ」


「——っ!」


図星だったらしい。


耳まで真っ赤になった凛花が、俺の胸をポカポカ叩く。


「エスパーか! 心読むなバカ!」


「お前が分かりやすいだけだ」


「分かりやすくない!」


「分かりやすい」


「うー……」


凛花が唇を尖らせる。


この顔も、好きだ。


「……で、どうすんの」


「何が」


「キス」


「こ、ここ図書館だよ!?」


「誰もいないだろ」


「いないけど! でも!」


「じゃあ帰ってから」


「……うん」


小さく頷く凛花。


耳はまだ赤いままだ。


「帰ろうか」


「……うん」


手を繋いで、図書館を出る。


夕焼けの道を、二人で歩く。


影が、長く伸びている。


「蒼太」


「ん」


「大好き」


「……俺も」


まだ照れくさいけど、言えるようになった。


五年かかった。

でも、やっとここまで来た。


これからも、ゆっくりでいい。

二人で、歩いていけばいい。


夏は終わっても、俺たちの物語は続いていく。


——戻れない夏休みは、

二人だけの、特別な記念日になった。




【完】

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