第一話 変わりゆく視線
王宮の大広間は、華やかな光に包まれていた。
夜会。
貴族たちの笑い声と、音楽が重なり合う。
その中心から、少し離れた場所。
リディアは静かに立っていた。
深い青のドレス。
落ち着いた色合い。
だが、その仕立ては明らかに違っていた。
洗練された線。
無駄のない美しさ。
そして何より――
その姿には、迷いがなかった。
周囲の視線が集まる。
「……あれが」
「例の」
「王宮料理顧問」
「ヴァルディーク公爵家の――」
囁きは、もう隠されていない。
リディアはそれを、気にする様子もなく受け流す。
その時。
「お待たせしました」
低い声。
カイルが現れる。
黒の正装。
隙のない立ち姿。
自然に、隣へと立つ。
距離は近い。
誰の目にも、はっきりと分かる位置。
周囲の空気が、わずかに変わる。
リディアは小さく微笑んだ。
「お忙しかったのでは」
カイルは首を振る。
「問題ありません」
短く答える。
そのまま、視線を外さない。
リディアを見ている。
「……似合っています」
静かに言う。
リディアの頬が、わずかに染まる。
「ありがとうございます」
そのやり取りは、あまりにも自然だった。
まるで――
すでに決まっているかのように。
周囲が、それを理解する。
「……あれでは」
「もう、決まったようなものだな」
小さな声が漏れる。
その時だった。
「相変わらずだな」
低い声が、割り込む。
王弟アルベルトだった。
ゆっくりと歩み寄る。
その視線は、リディアへ。
「……少し見ない間に」
わずかに目を細める。
「随分と落ち着いた」
その言葉に、リディアは静かに答える。
「おかげさまで」
穏やかな声音。
だが、距離は崩さない。
カイルの隣から動かない。
アルベルトは、それを見て――
ほんのわずかに、笑った。
(なるほどな)
声には出さない。
だが、理解していた。
もう――
入り込む余地はないと。
カイルは一歩だけ前に出る。
さりげなく。
だが確実に、間に入る形で。
「殿下」
静かに一礼する。
そのまま視線を上げる。
「本日は、失礼のないよう努めます」
言葉は丁寧。
だが、その奥にある意思は明確だった。
――譲らない。
アルベルトは、それを受けて小さく息を吐く。
「そうか」
短く言う。
それ以上は、何も言わない。
ただ、楽しむように目を細めた。
その夜。
誰の目にも明らかだった。
リディアの立場が。
そして――
その隣に立つ者が。




