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婚約破棄された伯爵令嬢が、王女の侍女になって王宮の食事改革を始めました  作者: 絵宮 芳緒
第九章 王家の判断

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第七話 変わった距離

王宮の回廊。


静かな光の中、リディアは歩いていた。


先ほどの話が、まだ胸の奥に残っている。


(……決まった)


その事実は、重く――


そして、どこか温かかった。


足音がやけに響く。


一歩進むたびに、意識してしまう。


カイルのことを。


(……どうして)


こんなにも、落ち着かないのだろう。


その時だった。


「リディア嬢」


聞き慣れた声。


心臓が、大きく跳ねる。


振り向くと――


そこに立っていたのは、カイルだった。


「カイル様……」


声が、わずかに揺れる。


カイルは一瞬だけリディアを見つめ、


ゆっくりと歩み寄る。


その距離は、以前よりも近い。


だが――


今は、逃げようとは思わなかった。


カイルは足を止める。


ほんの一歩分の距離。


静寂が落ちる。


「……聞きました」


低く、静かな声。


リディアは小さく頷いた。


「……はい」


それだけで通じる。


何の話か――すべて。


カイルの瞳が、わずかに細められる。


「では」


一拍。


そのまま、まっすぐに告げた。


「改めて申し上げます」


リディアの呼吸が止まる。


カイルは迷わない。


「私のもとへ来ていただきます」


以前と同じ言葉。


だが――


今は違う。


それは決意ではなく、


確定としての言葉だった。


リディアの胸が、強く鳴る。


逃げ場はない。


けれど――


もう、逃げるつもりもない。


「……はい」


静かに答える。


その声は、はっきりとしていた。


カイルの瞳が、わずかに和らぐ。


ほんの一瞬だけ。


だが確かに。


その時――


自然に、距離がさらに近づく。


意識したわけではない。


ただ、そうなるのが当然のように。


リディアの手が、わずかに触れる。


カイルの手に。


一瞬。


だが――


どちらも離さなかった。


むしろ。


そのまま、静かに重なる。


言葉はない。


だが、それで十分だった。


温もりが伝わる。


拒絶はない。


違和感もない。


まるで最初から、そうであったかのように。


リディアの頬が、ほんのりと赤くなる。


それでも、手は離さない。


カイルも同じだった。


そのまま、静かに言う。


「迎えに行きます」


低く、確かな声。


リディアは小さく微笑んだ。


「……お待ちしております」


その言葉は、


ただの返答ではない。


約束でも、義務でもない。


――選んだ意思。


カイルは、その意味を理解する。


ほんの一瞬、瞳が揺れ――


すぐに、静かな確信へと変わる。


「……ええ」


短く応じる。


それだけで十分だった。


やがて、カイルはゆっくりと手を離す。


だが――


その距離は、もう以前とは違う。


「では、また」


静かな声。


リディアは頷いた。


「はい」


短い言葉。


だが、その中にはすべてが込められていた。


カイルは一礼し、その場を後にする。


遠ざかる足音。


だが――


リディアは、もう不安にはならなかった。


(……大丈夫)


そっと、自分の手を見る。


先ほどまで触れていた場所。


そこに残る温もりは、


まだ消えていない。


小さく息を吐き、


ほんのわずかに、微笑む。


その表情は――


以前よりも、柔らかく。


そして確かなものへと変わっていた。

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