第ニ話 冷えた手
アリアナ王女が席を立ったあと、食卓にはまだ多くの料理が残っていた。
湯気の立つスープ。
香ばしい焼き立てのパン。
濃厚なソースのかかった肉料理。
どれも見事な出来栄えだった。
王宮料理長の腕は確かだ。
それはリディアにも分かる。
(料理が悪いわけではない)
リディアは静かに皿を見つめる。
(むしろ、とても贅沢な料理)
それでも――
王女は食べられない。
その理由を考えながら、リディアは先ほどの王女の様子を思い出す。
申し訳なさそうな微笑み。
そして、あの白く細い指先。
(……冷たかった)
リディアは小さく息を吐いた。
(殿下は、冷えやすい体質なのかもしれない)
視線を落とす。
王女の食卓に並んでいたのは、バターをたっぷり使った肉料理や濃厚なソースの料理が多かった。
甘い菓子もある。
(胃に重い料理が多い)
(これでは、食が細い方にはつらいはず)
リディアはしばらく料理を見つめていた。
体質。
食事。
体調。
(体を温める料理なら――)
その時だった。
ふと、食卓のスープから立ちのぼる香りが鼻をくすぐる。
リディアは思わず手を伸ばした。
(……?)
一瞬だけ、不思議な感覚が走る。
香草の香り。
その奥にある、かすかな温もり。
(この香草……)
(体を温める作用がある)
リディアは目を瞬かせた。
それは、幼い頃から時折感じていた不思議な感覚だった。
食材に触れたとき。
香りを感じたとき。
その力や性質が、ふと分かることがある。
(……食材の力)
リディアは静かに顔を上げた。
(食事を少し変えれば)
(殿下はきっと――)
(もっと食べられる)
その瞬間だった。
リディアの胸の中に、ひとつの決意が生まれる。
(私に、出来ることがある)




