雁擬き
この物語はフィクションです。
完全なオリジナルとして考えました。
また、後書きにネタバレがありますのでご注意下さい。
(人は何故──)
(周りの目を誤魔化してまで、取り繕おうとするのでしょうか)
私の住む家は、三人家族で、母と父。そして、私です。
家庭はとても静かで、母と父はあまり話す所を見たことがありません。
母は、専業主婦でいつも家にいます。父は、毎日母の為に、遅くまで働いています。
◇ ◇ ◇
私は、小学校に行かなければならないので、平日の日中は学校で勉強を学んでいます。
大抵のことなら分かりますが。私にも、分からない事はありました。
「ねぇねぇ。歌恋ちゃん宿題みせてー!」
「昨日忘れちゃってさ〜!ね?お願い〜!」
「ちょっと、ゆずちゃん……。ダメだよ」
「え〜?別にいいじゃん〜!歌恋ちゃんはいつも満点なんだからさ〜!」
「──ねっ?」
「でも……」
「──?」
「私はいいですよ」
「本当にー!ほらゆったじゃん〜!」
「ありがと〜!終わったら返すね!」
「はい」
宿題は、毎日家に帰ってからやります。
母がそうしなさいと言うので、必ずやるようにしているんです。
夕飯時になると、たまに私の名前を呼ぶような声が聞こえて来ます。
私は隣の部屋にいるので、ハッキリとは聞こえませんが。父が母を怒鳴っている様子が分かりました。
「──だから、何度も言ってるだろッ!!」
「歌恋は──」
「……うぅ。…うぅ……。」
その度に、母は泣いてました。
私は、その小さな声を聞きながら、ゆっくりと眠りについたのです。
父は、毎晩の様に母を怒鳴りました。
しかし、私が父の顔を見た時。その顔には、疲労の表情が見えていました。
私が心配をしても。父は「オマエは気にしなくていい」と言うので、私には父の気持ちが分かりませんでした。
◇ ◇ ◇
そんなある日。
私が通う学校で、参観日がありました。
その日の帰り道。母は私を連れ、家に帰る途中でした。
「見て……佐々木さんの奥さん。また──」
「仕方ないでしょう。そうでもしなきゃ……きっと。」
「でも……このままだと。子供達にも──」
「それに、歌恋ちゃんやお父さんが……」
三人の母親達が、私達のことを見ながら、私達に聞こえない様に会話をしていたのです。
私の手を強く握る母の顔を見上げると、母は真っ直ぐに。ただ一点を見つめながら歩いていました。
「お腹空いたでしょう……?」
「歌恋。何食べたい?」
「なんでもかまいません」
「そう。分かったわ」
「なら、あなたが好きな"がんもどき"にしましょう」
そうしてまた。夕飯時になると、父は母を責め。
私は眠りにつきました。
(人は何故──)
(周りの目を誤魔化してまで、取り繕おうとするのでしょうか)
(私には分かりません。それが本当に──)
(幸せなのでしょうか?)
◇ ◇ ◇
次に私が目を覚ました時。
父はもう、仕事に行っていました。母は私の部屋に居ましたが、私はそのまま学校に行く準備をしていました。
「行って来ます」
毎日。当たり前のように日々を過ごし、何一つ変わらない光景を記憶する。
私には理解できませんでした。
ですが、私にはどうすることもできないのです。
何故なら──
私は──
◇ ◇ ◇
「佐々木さん」
「あれから、奥さんの様子はいかがですか?」
「ええ。まぁ……、前よりは笑うことも増えた気がします」
「でも、充電中はひどく…。精神が乱れますね……」
「そうですか……」
「他にも、料理を三人分用意するんです……」
「それも……娘が好きだった料理を」
「それは……困りましたね。どうにかして境を認識してもらわないと」
「じゃないと、これから先も。同じ様な状態が続くでしょうし」
「学校の方は、どの様な対応をしてもらってるんですか?」
「学校の方は、事情を説明して。一応……通わさせてもらってはいます。しかし……」
「他の保護者の方からの苦情が来ている。と……この前報告を受けまして」
「それから毎晩。説得は試みてはいるんですけど、なんとも……」
「そうでしたか……。時間はかかると思いますが、諦めてはダメです。一緒に頑張りましょう」
「先生。ありがとうございます」
「いえ。工房さんを紹介した私にも、責任はありますからね。」
「引き続きお薬の方は出しておきます。」
「ありがとうございます」
──完──。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
意味がよく分からなかった方に向けて、後書きに記しておきますね。
その上でもう一度読んでみると、改めて違和感に気付けるのかな?と思います。
[解説]
主人公の『私』はアンドロイドです。
そして、本当の『歌恋』は、すでに死んでいます。
娘である歌恋の母親は、悲しみからうつ病になっており。その現状を打開すべく、父親は医者に相談します。
※世界観的に、アンドロイドがある世界観と置いてるので、この物語の世界の人物達は、違和感なく話が進みます。
その上で、医者はアンドロイドを作成している工房の話を父親に提案し。
その案を受け入れた先の話が、この物語となります。
なので、主人公は人の心が分からず。
口調もどこかおかしいのです。
そして、夕飯時になると眠ってしまうのは、父親がアンドロイドの『私』を充電していたからです。
[小ネタ]
がんもどき
雁擬きのタイトルは、偽物を例えた食べ物を検索したら出て来たので採用しました。
小学生の娘の好物ががんもどきって、渋いなぁ。
ゆずちゃんの由来
「気を遣わない」と「果物」をかけて調べた時に、気を遣わないで育てられる果物の一覧に載っていた中で、名前にも採用されやすい名前として。「柚子」がありました。
なので、アンドロイドだとしても、家庭の事情を気にしないで話しかける子役。として採用しました。




