第69話 時間、作れるんですね
ミリアと翌日の約束をして王宮に戻ってきたアルフォンスは、本日の成果に満足していた。
最初ミリアの態度はぎこちなかったが、中盤以降は普段通りに戻っていた。仕事の手も早く、かなり片づいて助かってもいた。
アルフォンスの存在に驚きすぎて椅子ごと倒れていったときは肝が冷えた。大事に至らなくてよかった。つかんだ手をまたもすぐに引き抜かれたことには傷ついたが、嫌なものは嫌なのだろう。触れなければいいのだから何ということはない。
途中、ミリアがカリアード家に派遣されている従業員の様子を聞いてきた。幼いながら彼らは本当によくやってくれている。
父親は礼儀の身についていない平民の子供を家に入れることにいい顔をしなかったが、文句は言わなかった。アルフォンスの裁量に任せるということなのだと解釈した。
ミリアは書類仕事中、手を止めず顔も上げずに話しかけてくることがある。そんなときはアルフォンスも同様に返していた。礼儀に反するが、効率はいい。
アルフォンスが手を止めればミリアも止めるので、他の所でやる事もないだろう。アルフォンスの前だけであれば大目に見てもいいと思った。自身の変化に驚きはあるが、ミリアとの間に流れる空気は悪くない。
将来の予定は聞けなかった。いきなり聞くのも不自然だ。明日の約束もしたことだし、おいおい探るとしよう。
その後の晩餐会は、ミリアの話でもちきりだった。図書館に行く前の茶会もそうだったが、ジョセフが皇子に質問を浴びせかけているのだ。
クリスがミリアの幼い頃の話を披露するたびに、ジョセフは打ちのめされたような顔をする。ならば聞かなければいいのに、ミリアのことが知りたくて仕方がないようだった。
アルフォンスも自然とミリアに詳しくなってしまった。木登りが誰よりも速かった、ということなど、ミリアらしいと言わざるを得ない。
ジョセフとは裏腹に、エドワードはむすっとした顔でずっと黙っていた。機嫌の悪さを取り繕うともしない。クリスもそれをわかっていて煽っている節があった。
勘弁してほしい。エドワードに暴走されると困るのだ。昨日ミリアが来たときに、クリスがミリアにべったりだったのが気にくわなかったのだろう。ミリアとの接触を伴う思い出話には、眉をぴくぴくとさせていた。
そろそろどこかでミリアと会わせ、ガス抜きをさせやらねばならないかもしれない。
ジョセフの方も二人で会わせておきたい。つい先日二人きりの時間を過ごしていたが、泣いているときではなく、楽しい記憶も作った方がいいだろう。懐かしさに負けて帝国に連れて行かれる訳にはいかない。
ギルバートは今日も来ていなかった。体調不良ならば致し方ないが、第一王子が皇子と長く顔を会わせないというのは、心象的によくない。クリスも会いたがっている。
不調が心労から来ているのであれば、アルフォンスの働きにかかっていた。
嫌がらせを受けたミリアの精神的フォロー、首謀者の調査、そしてジョセフとの仲の取り持ち。
全てを同時にこなすのは骨が折れるが、やるしかない。
ジョセフと会わせれば、ミリアのフォローにもなるだろう。まずはジョセフの時間を作り出さなくては。
「ジェフ」
晩餐会の後、アルフォンスはジョセフを呼び止めた。
「なんだ?」
「二日後、皇子との約束があることにして、時間を作ります。ミリア嬢と茶会でもどうですか?」
「何だって?」
「ですから、二日後、時間を――」
「聞こえた聞こえた」
ならばなぜ聞き返すのか。
「ミリアと茶会? 何でまた」
「会いたくないんですか?」
「会いたいけど、時間がとれない」
「だから、私が時間を作ります」
「それはありがたいんだが……どうしたんだ、急に?」
急にとはなんだ。皇子とミリアが幼なじみと知って焦りはないのか。ジョセフは本当にミリアと結婚する気があるのだろうか。
「皇子に取られてもいいんですか?」
「いいわけないだろう!?」
「ならミリア嬢との仲を深めておくんですね」
「アル……!」
感激したジョセフが両腕を広げてきたので、アルフォンスはさっと逃げた。
「ミリア嬢の予定はこれから聞きますが、準備は抜かりなく」
「アルも来るんだよな?」
この男、寝ぼけているのだろうか。
「……行くわけないでしょう。お二人でどうぞ」
「そうか」
ジョセフは、よしっ、とガッツポーズをしていた。まだミリアが受諾するとは限らないのだが。




