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傲慢貴族はあまのじゃく。隣のあの娘を守るために、嫌われ役を演じます。  作者: 古晴


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第九話 メリッサへの謝罪

 シリウスは何とか窓からメリッサの部屋に入ることができた。


 メリッサは薄暗い中、白い箱を手渡した。


「お前の部屋、何もないな。ベッドと机しかない。あと小さなクローゼットだけか」

「部屋では勉強しかやることないもの。はい、これドレス。ちゃんと返したからね」


 メリッサは、シリウスにドレスを手渡した。


「……」

「なに、どうして帰らないの?」


「このドレス、俺が見つけたんだ。きっと似合うと思って」

「……ん?」


「ここで、着けてみてはくれないか?」

「うっ、なに言ってるの?ここで?」


 (これは、賭けだ。メリッサがこのドレスを着けてくれたら、望みがある)


「えっ!?気は確かなの?」

「ああ、気は確かだ。それに一度も袖を通さないなんて、もったいないだろ?」

「もったいないけどさぁ……。それ、やめない?」

「やめない。お前がドレスを着けるまで帰らない!」


 メリッサは、あきれたのか大きなため息をついた。


「はぁ、仕方ない。だったら、絶対に振り向かないでよ。後ろを向いていて!!」


 メリッサは魔石ランプをつけて、厚手のカーテンを閉じた。


(メリッサの生着替え……)


 壁を見つめながら、不埒な想像をしてしまう。


「無理だわ。背中に手が届かなくて脱げないの。ごめんね。だから今日は諦めて」

「だったら、俺が外すから」

「えっ!?」

「どれ、貸してみろ」


 シリウスはゼフィロスが贈ったドレスの紐に手をかけ、固く結んである紐を(ほど)いた。


(あんな奴のドレスなんか、さっさと脱いじまえばいいんだ!!)


「ちょっと待って、ついでにネックレスも外して。ピンクサファイアっていう高そうな宝石みたいだから、早く外したいの。壊さないようにね」


「よし、分かった」


 メリッサは、緩く編んだ長い三つ編みを前に持ってきて、うなじを差し出した。


メリッサの肌はとてもきめ細かく、滑らかで女の色香を漂わせていた。


「……なるべく早くしてね」

(あっ、首筋に小さなほくろ。なんて色っぽい……)

「……お前、首筋にほくろがあったんだな」

「うん……わかったから、お願い。早く、外して」


(やばい!!落ち着け、このシチュエーションはかなりやばい)


 緊張で手が震え、ネックレスのホックがなかなか外れにくい。


 (だが……このまま、メリッサの肌に触れていたい。しかも香水の香りが……匂いがたまらない)


「うっ!シリウス。その鼻息、どうにかして。鳥肌が……」

「あっ、本当だ。首すじに鳥肌が立ってる……スゲー」

「〜〜〜くすぐったいから!」

「うん……分かった」


 シリウスがやっとネックレスを外し、再びドレスの紐に手をかけた。スルスルと穴を通して、交互に紐を外していく。


(綺麗な首筋だ。下着から見える背骨が、すっと通っていて、華奢な肩甲骨が浮き出ている)


「あっ、まっ、待って!全部外したら、ドレスが脱げちゃう。後は自分でできるから!!」


 再びシリウスは壁に向かって立っていた。衣服が床に落ちる音だけが聞こえる。その音を聞くだけで、メリッサの姿を想像してしまう。


(背中のくるみボタン……どうしよう)


「シリウス、このドレス。背中が、くるみボタンなんだけど……」


 ビスチェタイプのドレスが落ちないよう、メリッサは強く胸を押さえつけている。メリッサが隠れ巨乳だと知り、鼻血が出そうになった。下着を着ていないメリッサは、かなりセクシーだった。あまりの女っぷりに身体中の血がそこに集まりそうになる。


(メリッサ!?さっき着ていた下着まで一緒に外したのか!!背中が丸見えじゃないか!!これは、天然なのか?それともドレスなんて着慣れないから、分からないだけか?)


「ドレスのサイズ小さかったか?」

「……少し胸周りは狭いかも」

「お前、意外とあるんだな」


「……恥ずかしいから、早くボタン閉めてよ」


 シリウスが無言で背中のくるみボタンを閉めていく。

(なんだか、夢を見ているみたいだ。俺が選んだドレスを着てくれるなんて)


「ネックレスもあるから、これも着けろ」


 シリウスは、サファイアのネックレスを豊かな胸元にかけた。胸の隙間に収まったそのサファイアは、乳白色の胸にひときわ映えて見える。


 試着し終わったメリッサは、くるりと一回りをした。サファイアが綺麗に映える、プリンセスラインの水色のドレス。白いレースに所々に銀糸で氷の結晶模様が施されている。とてもエレガントでメリッサによく似合っていた。


「どうかな?」


 シリウスが、たまらず手で口を押えた。

(可愛い、可愛い、可愛い……可愛すぎてどうにかなりそうだ。やばいぞ、たまらない!!)


「着替えたんだから、何とか言ったらどうよ」

「俺の見立てに間違いはなかったな。お前の白い肌と水色のドレスがピッタリだ!」

「ふふふっ。ありがとう!これを売れば高く買い取ってくれるでしょうね」


「はぁ!?」

 

 シリウスは信じられないと言った目でメリッサを睨んだ。


「他の人にあげるなら、売らなくてもいいけどね。サイズ直しが面倒だけど」

「それは、お前にやる」

「へぇ!?なんで?」

メリッサが目を丸くして驚いた。


(静かな部屋で二人きり。俺は絶対に後悔なんてしたくない。自分の本当の気持ちをここで打ち明けるんだ)


「どうした?」

「その前に。……聞きたいことがある」

「なによ?」

「お前、これからどうするんだ?」


「私?これから植物ハンターになるつもり。そして、いつか『植物大図鑑』を出版するのが私の夢なの」


 くるくると軽快に回って、メリッサはベッドに座った。


「……そうか、頑張れよ。あと、悪かった。ずっと雑草女ってバカにして」


 その言葉にメリッサは眉をひそめた。

「……どうしたの?やっぱりお腹でも壊した?」


「おい、俺をなんだと思ってるんだ?」

「傲慢貴族?」


(傲慢貴族って……出会ったときに言った言葉じゃないか!)

「なんだそれ。あははっ!」


「しっ!!大声を出さないで。男子がいるってバレたら大変なんだからね」

 

 メリッサは、小声で注意をする。


 メリッサとこんなに会話が続くなんて本当に初めてだ。これは神様がくれた奇跡としか言いようがない。


「あのさ、植物ハンターってのは、1人で森の中へ行くのか?」

「いいえ、たぶん冒険者ギルドで人を雇うと思うけど?」


 シリウスは意を決した面持ちで片膝をつき、メリッサに懇願をした。


「そのドレスくれてやるから、その代わり俺も植物ハンターの仲間に加えてはもらえないか?」


「はぃ!?」


「だっ、だから、一緒に仲間に加えてもらえないかって言ってるんだ」

「だって、あなたは宮廷魔法師になるんじゃないの?」


(それは、あの噂で取り消しになった。メリッサはあの噂を知らないのだろうか?)


「城の中で魔法使いとして働くより、お前と一緒に広い世界を冒険したい」


「はぁ!?あんた何言ってるの?カンタルス辺境大公の長男でしょ?跡取りでしょ?」


(嫌だ、あんなところ帰りたくもない。あいつのそばより、メリッサの隣にいたい)


「身分よりも大切なものがある!」


 メリッサは床に座り込み、シリウスに迫った。

「身分より大切なものってなによ!!そんなに冒険したかったら、ロイドを連れて勝手に二人で行きなさいよ。植物ハンターは私の夢よ。私の夢は私だけのもの。あんたの都合で私の夢を勝手に奪おうとしないで!!」


 シリウスはその言葉を否定したかった。


「俺は、別にお前の夢を奪おうなんて思ってはいない。ただ、俺も一緒に夢を追わせてほしい」


「だから、どうしてよ!!理由が知りたいわ!!」


 (今までメリッサにしてきたことを、全て謝るんだ。かっこ悪くてもいい。惨めでも構わない)


 シリウスは、メリッサに土下座をした。平民とか関係ない。ただ、彼女に謝りたいだけだ。


「俺は、お前がずっと隣にいてくれなきゃダメなんだ……頼む。俺を傍に置いてくれ」

 

 メリッサは怒ってシリウスの胸ぐらを掴み、激しく揺さぶった。そして涙を浮かべながら胸を叩いたのだ。今まで積もり積もった四年間の怒りが爆発したかのように見えた。


「……万年二位とか、雑草女とか言って、四年間も散々馬鹿にし続けたくせに!!」

「俺は――」

(お前を守りたかっただけだ)


「あんたのせいで貴族令嬢に因縁つけられて毎日迷惑だったんだから!!」

「お前の――特別に―――」

(お前の特別になりたかった)


「あんたが私に追跡魔法をかけていたこと知ってんのよ!!」

「だから、あのときは―――」

(あのときは、お前の全てを知りたかったから)


「私、あんたに殺されそうになったこと、忘れてないからね!!」


「うっ―――」


「私が、どれほどあんたの言葉で傷ついたのか、分かってないでしょ!!!」


 シリウスは反論も出来ずにうつむいたまま、何も言えなくなった。メリッサの涙は止まらない。


 

 しばらく二人は、床にしゃがみ込み、互いを掴み合っていた。



読んで頂き有難うございます!もしも面白かったら評価を貰えると嬉しいです!


明日はいよいよ最終話!22時に投稿しますので、最後まで読んでください!よろしくお願い致します。

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