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傲慢貴族はあまのじゃく。隣のあの娘を守るために、嫌われ役を演じます。  作者: 古晴


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第八章 希望を捨てるな


 よく晴れた夕暮れ時、会場で卒業パーティーが始まった。大勢の生徒達がドレスアップをして、パートナーと会場へと向かっていく。


 シリウスは、カルタルス家の家紋がついたマントと黒の正装を身につけ、メリッサのいる女子寮へと向かった。


 ロイドがシリウスの後から付いてきた。アイツは騎士団長の息子なので、身につけているのは軍服だ。少しは様になっている。ちゃっかりパートナーを見つけたらしく、あいつも女子寮前で待ち合わせているという。


 シリウスとロイドは女子寮前まで来ると、人だかりが出来ているのに気がついた。


 よく見ると、身に覚えのない美男子が女子に囲まれていた。「これは、一体どういうことだ!!なぜ、部外者がこの学園にいるんだ?」


 ロイドが声を上げる。


「やぁ、シリウス卿に、ロイド卿。君もずいぶんだね。クラスメイトの顔も忘れたのか?」

「はっ、こんなやつ、うちのクラスにはいなかったはずさ。この不審者め」


 ロイドは、喧嘩腰に腰につけた剣を取り出した。


「やめてよ!この人は――」


 メリッサが目の前に現れた。ピンク色のマーメイドドレスを身に着けた彼女はとても美しかったが、俺の贈ったドレスを身に着けていないことに、ショックを受けた。シリウスの僅かな希望は崩れ落ち、絶望へと変化する。


「……お前、俺が送ったドレスはどうした?」

「あぁ、あの水色のドレスは綺麗に箱に入ったままだけど。高そうだから後で送り返すね」


 彼女の言葉の軽さに自分は範疇にないと言われている気がした。泣きそうになるのをシリウスは堪える。


「お前はもしかして、その男が送ったドレスを着けているのか?」

「ええ、このドレスはゼフィロスがくれたの。だからシリウスの同情は無用だったってわけ」


「同情……」


 その言葉でシリウスは唖然とした。

(同情ではない。一縷の望みをかけたドレスだ)


 周りのクラスの子たちが、ゼフィロスを見て驚きの声を上げた。


「あれが、ダサかったゼフィロス?」

「でも、髪の色が違うわ」

「なんで、今まで顔を隠してたのかしら。イケメンなのにもったいない」

「ああん、悔しい〜〜!!なんで早く、気が付かなかったのかしら」


 女子生徒がざわついているなか、シリウスから声をかけた。


「お前、本当に……あのゼフィロスなのか?」

「ああ、入学するときに校長にかけあって、容姿を隠したまま過ごすことを許可してもらったんだ」


(お前……!!)


 「しかし、何故そんなことを……」

「ふふっ、この美貌のせいだからかな?人だかりができて困るでしょ?」


《ガラーーン、ガラーーン、ガラーーン》


 ちょうど良いタイミングで、校舎の鐘が鳴り響いた。卒業パーティーの開宴時間だ。


「時間だ。行こうか、メリッサ」

「あっ、そうだ。シリウスも早くパートナーをエスコートしたほうがいいわよ。きっと待ってるはずだしね」


 ゼフィロスが私に手を差し出すと、その手を取って腕を組んだ。彼女の嬉しそうな表情なんて見たくない。


「もう、終わった……」


 会場へと向かっていくメリッサとゼフィロスをじっと見つめるしかできなかった。


  ❇❇❇❇


 物悲しい春の夕暮れ、遠くの空にはオレンジ色の雲が薄っすらと、たなびいている。青紫の空に押し潰されて、冷たい風が夜を運んでくるようだ。


 会場からは遠くで拍手の音が聞こえる。誰かが祝辞を述べているのだろう。


(パーティー会場へ行く気はしないな)


 寒空の下、シリウスは噴水広場で座り、この四年間を振り返っていた。メリッサへの想いを思い出に閉じ込めるように……。


 はじめて出会った彼女に正直、ときめいた。ロイドを言葉で打ち負かし、論破してくる生意気さと芯の強さが心を揺さぶった。


 学力テストや、野外活動、社交ダンスに、学園祭。アイツは隣にいて、自分に対していつも怒った顔をしていたが、それさえも愛おしかった。もっと見つめてほしかった。


 でも……。それさえも、もう終わる。もう繋ぐものはない。


 シリウスは、寮へ戻ろうと重い腰を上げた。


 これからどうしようか。


 諦めて、カルタルス領へと戻るか……。いや、たぶん戻ったとしても、例の噂で伯爵令嬢との婚約はないだろう。なら、戻ったとしても追い出されるだけだな。


 メリッサは、今頃楽しそうに奴と踊っているだろうか……。柔らかな手を取り、腰に手を当て、近い距離で彼女を見つめながら……。


「チッ!!もう、終わったことだ」


『まだ諦めない、絶対に負けない』


 メリッサが、過去に言った言葉が次々と脳裏に浮かぶ。


(メリッサ。俺はお前に負けたんだ……完膚なきまでにな)


『悪あがきしても、絶対に諦めないからね』


(悪あがきしたところで、現実がひっくり返るわけではない)


『次は負けない!』


(もう、次はないんだ……)


『分からないじゃない!奇跡が起こるかもしれないでしょ?』


(あぁ、そうやってお前は、いつも諦めずに勉強に打ち込んだんだ。きっと一位が取れると信じて……)


 男子寮の前まで歩いてきた。


『希望を捨てるな』


 担任の先生が言った言葉と、クリスティーナ令嬢が言った言葉が今更のように重なる。


「……戻ってみようか」


 シリウスは、噴水広場まで戻り、噴水の縁に腰をかけた。



  ****



 満天の星空と上弦の月の下、遠くから流れるワルツが聞こえる。それと共に、ヒールを鳴らす足音が聞こえた。ふと右の方を見てみると、メリッサがそこにいた。


「おい」

「……」

「おい、雑草女。無視するな」


「チッ、気づかないでよ。ご卒業おめでとうございます。では、さようなら」


(待て!行くな!!)


 慌てたシリウスは、半ば強引にメリッサの華奢な腕を掴み、無理やり噴水の縁に座らせた。


(……希望を捨てるな)


「一体、なによ!!」

 メリッサはシリウスを睨んでいる。


「なんで、ゼフィロスと一緒じゃないんだ?」

「……さっきまで、一緒だったよ。それで?」

「お前、あいつに求婚でもされたか?」

「されたよ、求婚」


「……へぇ~、よかったじゃないか。で、なんで一人でいるんだ?」

「……断ったの。求婚。だから、今から寮へ帰るの」


 神はシリウスを見捨てなかった。


「お前、本当に馬鹿じゃないのか?お前みたいなドブスに言い寄る美男子なんて滅多にいないぞ」


(しまった!つい、いつものクセで……)


「ドブスは余計でしょ?っていうか、傷心の私に対して失礼よ!フンッ!!」


 メリッサは、立ち上がって、帰ろうとした。しかし、つかさずシリウスがメリッサの腕を掴んで強く引っ張った。


「きゃっ!!」


 メリッサが慣れないハイヒールでよろけてしまい、シリウスの胸板へ倒れ込む。ほのかな香水の香り、膨らみのある胸。柔らかな体。メリッサは、すっかり大人の女性だということを意識してしまった。


 イラッとしたメリッサは、両手で突っぱねる。


「ねぇ、さっきから、何なのよ?気持ち悪いわ!!」

「なぁ、なんで求婚を断ったんだ?」

「それは、シリウスには関係ない話でしょ!!」

「ある!大いにある。俺はお前にドレスを贈ったからな」


「あっ、シリウス。今、時間があるんだったら私の寮まで来てよ。箱に入ったドレスをすぐに返すから」


 (えっ……)


「とにかく、断った理由を歩きながら話すから、一緒に女子寮まで来てよね」



  ****



――春の夜はまだ寒く、街路樹の枝はまだたくさんの葉をつけてない。暗い外灯の下をメリッサとシリウスは並んで歩く。


 今日のメリッサは、いつもよりもおしゃべりだった。


「ゼフィロスは、会場でダンスを踊っている時に、私に求婚をしてきたのよ。まだ恋人同士でもないのに、いきなりの求婚に戸惑ったわ」


「お前、ゼフィロスのドレスを着たくせに、なに言ってるんだ?いいか、男が女にドレスを贈るというのは、俺の所有物になってくれという意味があるんだぞ。あっ、平民には分からないか」


 カチンときたメリッサは、シリウスを睨みつけた。


(しまった!!またやってしまった……)


「だって、知らないわよ。誰も教えてはくれなかったもの。手紙すら入ってなかったし」


「誰も教えないさ。貴族社会の常識だからな」


「私、どんなドレスを着ても、誰の所有物でもない。私は私だもの」


 その言葉にシリウスは、希望を感じた。


(そうか、俺だってカルタルス領家の家紋のついた正装を着ているが、誰の所有物ではない。俺は、俺なんだ……)


 その一言でつきものが取れた気がした。


「あははっ。お前らしいな」


――メリッサは、さっそくパーティー会場での出来事を話し始めた。


「あのね、精霊国王が来賓として来てたのよ。その祝辞で精霊王が『我・が・倅・のゼフィロス王子が……』だって。そこで知ったのよ?初耳だよ?信じられる?ゼフィロスが自分で身分を教えてくれなかったのは、きっと私が口の軽い女だと信用してなかったからなのよ。はじめから信頼関係なんてなかったの」


(そうか……。奴が正体を隠していたのはそう言うことだったのか。王子という立場なら諜報部員も側にいるだろう。だから情報収集に長けていたのか!!)


「ゼフィロスも、ギリギリまで何も言わないって、何なのよ!!しかも、『害虫被害による小麦の品種改良の考案』の論文も共同で研究したはずなのに、ちゃっかり、ゼフィロス一人の手柄になってるし。色々ありすぎて、何だか逆にこのまま流されて結婚してはいけないって、直感で思ったわ」


「お前、まさか、ずっとゼフィロスの研究を手伝わされていたのか?」


「私は最初から『秘密の部員』にされていたの。だから、登録されていないんだって。いくら研究を頑張っても、『秘密の部員』には名誉は与えられないのよ」


 それを聞いて、シリウスも怒りを感じた。

「アイツから慰謝料を巻き上げたらどうだ?」


「まぁ、でも、三ヶ月分の授業料をゼフィロスが払ってくれたことで、そのことはチャラにしようかな」


(メリッサ……)


 メリッサは、ホワイトミンクのショールを巻き直して、夜空を見上げた。


「……正直に言うとね。ゼフィロスと過ごした『秘密の部活動』の四年間は本当に楽しかった。三ヶ月前、私が入院していたときに、ゼフィロスから異性として見ているって告白をされたのよ?もう、凄く恥ずかしかった。だけど、物凄く嬉しかった。それから私も意識して、ゼフィロスのことを異性として見るようになった。好きになろうとした」


 好きになろうとしたという言葉にシリウスが反応した。


「へぇ~、それで?」


「だけど、現実は、私から告白の返事もできなかった。普通、男の人から告白をしたら、女性の返事を待つものだと思っていた。けど、ゼフィロスは一方的に愛を告げて一人ですっきりした顔をしてる。デートらしいこともせず、何もアプローチもなく、私の気持ちが置き去りにされた気がしたんだ」


(まさか、アイツ。自分の美貌に高くくっていたんじゃないのか?絶対逃げないというクソみたいな自信があったんだ!!)


「でも、女子寮の前で見たお前は、ゼフィロスとよろしくやってたじゃないか!」


「言い方、どうにかしてよ。あの時は、まだ求婚を申し込まれる前!私が嬉しかったのは、ようやくゼフィロスへの告白の返事ができると思ったのよ。やっと恋人同士から始められると思ったのに、それをいきなり求婚だなんて……」


「お前、意外と順序を気にする女だったんだな」


「当たり前でしょ?大事なことよ」


「しかし、魚を釣ったことに満足をして、餌をやらなかったんだな。そして怒った魚は逃げ出した。全く馬鹿なやつだ」


「たぶん、ゼフィロスが惚れたのは、私じゃなくて、この若草色の髪。さっき知ったけど、精霊国の王族は髪の毛がほとんど若草色なんだって。……きっと私の髪を見て故郷を懐かしんでいただけ。それだけよ」


「だから、求婚を断ったのか」


「ゼフィロスが最初だったのよ。『雑草女』じゃなくて、メリッサって、ちゃんと名前で呼んでくれたのは。一人の人間として扱ってくれたことが嬉しくって。だから余計に信用しちゃった」


 シリウスは、何も言えなくなった。「雑草女」とは呼んでしまったが、ちゃんとメリッサのことは一人の人間として尊敬の念さえ覚えていた。メリッサは平民だが、優れた女性だ。


 話をしているうちに、女子寮の前までやってきた。一階は、ランプの明かりが灯っている。


「シリウス、ちょっと待っててね。すぐドレスを取りに行くから」


 女子寮へメリッサが入っていった。


(まずい、このままでは、ドレスを受け取れば、ここでメリッサとお別れになってしまう)


 シリウスは寮の近くにある楓の木に気がついた。


(あいつの部屋は確か二階の角部屋だったな)


 シリウスはクリスティーナ令嬢の情報でメリッサの部屋が何階の何処にあるかを知っていた。クリスティーナ令嬢なりの気遣いなんだろう。


 シリウスはとっさに近くの楓の木によじ登った。


――コン、コン、コン


 小さな小石を窓にぶつける。すると、窓からメリッサが覗き込んだ。シリウスは、必死に中に入れろと合図を送る。


 ダメだと首を振っているが、シリウスは粘り強くお願いをした。根負けしたメリッサは、シリウスを部屋に招いてくれた。



読んで頂き有難うございます。第九話は、21時半に投稿します。

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― 新着の感想 ―
今のところシリウスは何も挽回できていない(ゼフィロスが勝手に失脚しただけ)けど、これから関係性を修復していくのかな? (´・ω・`) 現状は、女子寮に入ろうとする変態にしか見えませんw (´ε`)
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