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傲慢貴族はあまのじゃく。隣のあの娘を守るために、嫌われ役を演じます。  作者: 古晴


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第七話 メリッサの復帰

 メリッサが退院して、一ヶ月ぶりに特進クラスに戻ってきた。


 ずっとメリッサのことを馬鹿にしていた奴らが、手のひらを返すように、メリッサに近寄ってくる。


「よう、体は大丈夫か?」

「みんな心配していたんだよ」

「いや〜、あの戦いは見応えがあった」


メリッサが二位のままなら、こんな風に安っぽい同情などしないだろう。 


「よう、体は大丈夫なのか?」


シリウスは、勇気を出して声をかけた。内心、緊張しすぎて、指先が冷たくなっている。


「良かったわね。あなたの隣が私じゃなくて」


(そんなことない……)


「ずっと隣にいたかったのか?」


 メリッサは、シリウスの言葉に黙って耐えている。


「お前が、素直に「降参」していれば、こんな大怪我を負うこともなく、俺の隣にいることができたのに。こんな最下位の席に座るなんて、大馬鹿だな」


「大馬鹿って……。あんたの魔力暴走のせいでこんな目に遭ったんでしょ?」


メリッサの声が震えている。


(俺はどうせ嫌われ役だ。思いっきり嫌われて、メリッサは冷たくされてた分、最後ぐらい皆から優しくされたらいい)


 シリウスは、もっと嫌われてやれと、末席を指で叩きながら語気を強めた。

「俺をそこまで追い詰めたのはお前の責任だ。原因を作ったのは、お前自身。そしてその結果がこの席だ」


 メリッサは、ふと、『二位の席』を見た。


「しかし、負けは負けだ。学園で最後のテストだったのに。俺の宣言通り、四年間で一度も一位を取れなくて残念だったな」


 何も言えず(うつむ)く彼女。シリウスは、これでいいのだと自分に言い聞かせる。



 長い沈黙の後、ゼフィロスが声をかけてきた。


「……さすがに、今のはひどくないか?」


 それを機にクラスメイトがざわつき始めたのだ。


「退院してきたばかりなのに、あんなこと言うなんて!!」

「彼女が死んだら、今頃、大問題になってたぞ」

「自分はメリッサの植物で助かったくせにな!!」

「何だか、メリッサが気の毒だな…」

「……それはさすがに言い過ぎでは?」

「さすが氷の貴公子。心も冷たいのだな」


 わざと聞こえるように、コソコソとシリウスへの批判が相次いだのだ。


 皆一斉に反発したので、一瞬たじろいだが、また平静を装った。ロイドの顔を見ると、目を逸らしている。


「チッ……」

シリウスは一位席へと戻っていった。


❇❇❇❇


 卒業までの二ヶ月でシリウスの評判はガタ落ちだった。四年前、メリッサにちょっかいを出してきた地方令嬢達からも、陰口を言われる始末。


 生徒会会長の仕事にも支障が出た。


 シリウスとは仕事をしたくないと言わんばかりに、生徒会執行部はシリウスを部屋から追い出した。卒業式の祝辞は代理の者がするという。


 何もできない名ばかりの生徒会長。元々やる気がなかった分、未練はなかった。


お昼時間、シリウスは食堂のエッグサンドを買う。一人、東屋でパンをかじった。


「はじめはメリッサも心細かっただろうな……」


ふと、そんなことを思い返す。

「ここにいらしてたんですね。探しましたよ」


 クリスティーナ令嬢がニコリと笑って隣に座った。


「お前、婚約者ほったらかしてこんな所へ来てもいいのか?」

「……シリウス様が心配でしたからね。ちゃんとアルベルト様には事情を話してありますの」

「……一緒にいるととばっちりを食らうぞ?」

「卒業式まで、後わずかですもの」


 二人の間に重い空気が流れる。


「私がシリウス親衛隊を作ったばっかりに、シリウス様が苦しんでいたのは知っていました」


いつものクリスティーナ嬢ではない。


「シリウス様は、メリッサが好きなのでしょ?」

「……そうだとしても、どうしようもないだろ」


「シリウス親衛隊の令嬢たちがメリッサに嫉妬の目を向けないように、わざとメリッサに対してきつく当たっていたのは知っていました。シリウス様は、陰ながらメリッサを守っていらっしゃったのですよね?」


「……だからなんだ」


「先程、教室でメリッサに厳しい態度を取ったのも、メリッサへ同情を集めるため」


「あはははっ、クリスティーナ嬢には敵わないな」


「陰では、シリウス様が庶子だった噂が出回っています。カルタルス辺境大公が、侍女に手を付けてできたのが、シリウス様だとか、平民になった侍女は、娼婦になってシリウス様を育てたとか、根も葉もないことを言っております」


「ああ、言わせておけ。娼婦は嘘だが、その他は大正解だ」


「あぁ、シリウス様。そんなことで、投げやりになってはいけません!!社交界は怖いところです。この噂が広まったら、婚約者様との縁談も無くなるでしょう。それどころか、王宮魔法師の内定まで取り消されてしまいますよ!!」


「あはははっ!!いいね。ドンドン広まればいいさ。願ったり叶ったりだ。そもそも婚約したくなくて、王都のこの学園に来たのだからな!それにもう王宮での仕事はとっくに諦めてるよ」


クリスティーナ嬢は、眉間にシワを寄せてため息をついた。


「……そしたら、メリッサに贈る卒業パーティーのドレスは注文なさいましたの?」


「……実は、ずっと前に注文したんだ。アイツの体のサイズが分からないから見た目で選んだが……」


「どうかしました?」


「意地悪な奴から贈られたドレスなんて……メリッサは気持ち悪くて、着るわけないか……」


「そんなこと―――」


「メリッサは、ずっと俺を疎ましく思っているだろうな……俺はもう、諦めたほうがいいのかもな」


「……シリウス様、泣いてらっしゃるのですか?」


「えっ!?」


シリウスの目からポタポタと大粒の涙が零れ落ちた。


「あははっ!!おかしいな。俺、涙なんて母親が死んだときにも流さなかったのに!!どうして……どうして、今なんだ?」


「それは、シリウス様がメリッサのことを愛しているからですわ」


「愛している……そうだ、俺はメリッサを愛している。だから俺は、苦しいんだ」


 シリウスは、両手で顔を隠し、みっともないぐらいにたくさん泣いた。


 それを見たクリスティーナ嬢も、シリウスをそっと抱きしめて、もらい泣きをした。


 二人で涙が枯れるまで散々泣き続けて、午後の授業は、初めて二人でずる休みをした。目が腫れたまま、教室へ戻ることができないから……。


 クリスティーナ令嬢は、シリウスを励まそうと、学園で一番高い時計台へ案内した。そこから見渡す景色は、絶景で、美しい街並みが一望できる場所だった。


 「クリスティーナ嬢、俺をここに連れてきてくれて、ありがとうな」


「ふふっ、これがわたくしとシリウス様の最初で最後のデートでございますわ!」


「そんなこと言ったら、アルベルト卿が嫉妬に狂うぞ?」


「そんなことないわ。あの方は、寛大な方でらっしゃいますの」


「いいや。男は皆、嫉妬深い生き物なんだ。お前も、ちゃんとアルベルト卿と向き合わないとな」


「もう!わたくしがシリウス様を励まそうとしているのに、逆に心配されましたわ!」


 屈託のない笑顔のクリスティーナ嬢に、心が少し軽くなった。



❇❇❇❇


―――卒業式当日。


 会場で校長先生の長い祝辞を聞きながら、シリウスはぼんやりとメリッサの後ろ姿を眺めていた。


 いろんなことがありすぎた四年間だった。


 毎日、隣で一生懸命に羽ペンを走らせていたメリッサが忘れられない。ずっとあのまま、凛とした横顔を眺めていたかった。


 シリウスの代わりに、別の奴が生徒代表で祝辞を述べる。それに気づいたのか、メリッサが自分を探している気がした。ちらりとこちらに気づくと、目を見張り、また前を向いた。


(俺を気にかけてくれたのか)


 ほんの少しだけ、気持ちが和らいだ。


 卒業式が終わり、先生方に別れの挨拶をする。


「おい、シリウス!!」


 特進クラスの担任がシリウスを呼び止めた。


「……俺はお前に済まないことをしたと思っている。あれは、俺たちの監督不行き届きだ。俺たちはお前の力を見誤ったから、あんな事故が起きたんだ。お前、あの後からひどい目に遭っただろう?」


「あぁ、あの噂のことですか?」

「あの噂のせいで内定が取り消しになったじゃないか」

「良いですよ。別に俺が庶子であることには変わりはないから」


 先生は、シリウスの肩を叩いた。


「自暴自棄になるなよ。悪いことの後には良いことがあるって相場で決まっているんだ。希望を捨てるな」


「希望を捨てるなかぁ……」


(俺のほんのわずかな希望……。それは、メリッサが俺の贈ったドレスを着てくれることだけ)



読んでくださいまして、有難うございます!

明日の21時に、第八話と第九話を投稿します!


最終話は明後日です。最後まで読んでくれたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
シリウスは嫌われるだけに留まらず、内定まで取り消されちゃったのか……。 半ばヤケクソになっているのも悲しいですね。 (´;ω;`) しかし、クリスティーナはめちゃいい女ですね。 情けない男の涙を受け…
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