第六話 シリウスの葛藤と後悔
『魔法勝ち抜き戦 準決勝』
シリウスはCブロック代表。Dブロックの代表を倒し、決勝へと駒を進めた。最終的にメリッサと決勝で対決をすることに。
「お前たち、どちらかが参ったと言えば、攻撃を中止しろよ?分かったな?これは試合で、殺し合いではないんだからな!!一応、医務室の先生が待機してるからな」
担任と副担任の先生方は私たちに忠告をした。
こうしてメリッサとシリウス、氷VS植物の魔法の戦いが始まった。
―――メリッサをケガさせないように、なんとか降参させなければ……。
「凍てつく氷の矢。フローズン・スピア」
シリウスの周りにいくつかの魔法円陣が浮かび上がり、氷の槍が宙に浮く。
「バンブー・スピア召喚!!」
メリッサは無数の竹を召喚し、魔力コントロールで「竹の槍」に変形させる。
「「行け!!」」
《ドガガガガガガガガ、バキィィィン!!!》
魔力が練られた無数の竹の槍と氷の槍が高速でぶつかり合う。耳をつんざくようなすざましい破裂音で、氷と竹の破片が四方八方へ激しく飛び散り、氷の盾で破片を防いだ。
「食らいつけ、氷の白狼。フローズンウルフ」
「グリーンブライアー召喚!!捕獲せよ!!」
シリウスの両手から白い魔力が渦巻くと、そこから白い狼が姿を現した。これは氷の魔力を狼に具現化させたもの。ギリギリの合計十三頭を出してみる。
《ワオォォォーーーン!!!》
白狼の群れが一斉に遠吠えをしたあと、白狼たちはメリッサを囲い込む。『グルルル〜〜』と唸りながら、一頭の白狼がゆっくりと間合いを詰めていた。
(白狼たちで、一斉にメリッサを動けなくさせればいい。傷つけないように、うまく立ち回るんだ)
一頭の白狼が間合いを見極め、先制攻撃を仕掛けた。しかし勘の良いメリッサは、回避しながら、グリーンブライアーを抜群の魔力コントロールで素早く動かし、白狼をあっさりと捕らえてしまったのだ。
(まさか、ただの草なんかに捕まるなんて!!)
白狼の群れは怯むことなく、次々とメリッサに襲いかかる。しかし、メリッサは俊敏な動きで狼の動線を読み切り、グリーンブライアーを動かすたびに、一頭、また一頭、白狼は確実に潰されていった。
(メリッサ!俺の白狼を全滅させやがった。さすが優勝候補だ)
シリウスはメリッサを傷つけたくないと思いつつも、心の何処かで闘争心が芽生えていた。
メリッサには特殊なギフトがあるのは知っていた。植物を無限に召喚させ、自由自在に操る能力。あの能力は魔力コントロールが緻密でなければ上手く動かないはずだ。だから厄介。本気を出さないとメリッサには勝てない。
だが、本気をだせば、メリッサがゼフィロスのように傷ついてしまう。
「早々に降参と言え。そうすれば、痛い目には遭わせない」
「絶対に言わない!あんたを私が降参させる!」
「くっ、頑固者め!!」
シリウスは、地面に両手をつけた。
「囲い込め!!フローズン・ゲージ」
彼女の周りの空気が一気に冷たくなると、地面から氷が急速にせり上がり、あっという間にメリッサは氷の檻に閉じ込められた。
「これで降参しろ!!」
(お願いだ。降参と言ってくれ)
「しない。絶対に一位を取るの!!」
シリウスの願いを知らないメリッサは次なる攻撃を仕掛ける。
メリッサは檻の中で叫んだ。
「シラクチカズラ召喚!!編み出せ、ギガントハンズ!!」
無数の蔓が召喚され、縦横無尽に宙を舞う。糸を撚る様にぐるぐると忙しく動き回り、三分もしないうちに「巨人の両手」が出来上がった。手のひらの幅は、およそニメートル以上ある。
その大きさに驚いたのか、クラスメイトがガヤガヤうるさく騒ぎ始めた。
「ギガントハンズ、シリウスを捕らえて!!」
巨人の両手は、まるで人の手のように器用に動いた。シリウスは捕まらないように必死に避け続ける。少しでも動きを止めようと、氷の魔力をぶつけて見たり、蔓を断ち切ろうと氷の剣で挑んでみたが、全く歯が立たない。
(メリッサの奴、すごい植物を召喚したものだな)
「悪魔の実、召喚!!爆発せよ!!」
行く手を阻むように、目の前で赤い実が爆ぜた。
「ゴホン……ゲホッ……ゲホッ……ゲホッ……目が!!」
(まともに呼吸ができない。香辛料か。目が痛くて、開かない!!)
涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになり、苦しくて、苦しくてたまらない。足が止まったシリウスは、ギガントハンズに捕まってしまった。
(しまった!!本当に不味い)
「シリウス、早く降参すると言え!!」
「ゲフン、ゴホッ、お前、バカか。このぐらいで降参するわけないだろ!!――氷の剣山で押し潰せ ニードルトラップ!!」
メリッサが入っている氷の檻の天井から氷柱が幾つも現れた。しかもどんどん下へ降りてくる。
(これで、なんとか大人しく降参と言ってくれ。頼むから!!)
しかし、メリッサは真の負けず嫌いだった。こんな事でへこたれる彼女ではない。
「ガジュマルの木、召喚!!氷の檻を打ち壊せ!!」
檻の中でガジュマルの木が召喚されると、異常な速さで急成長を始めた。恐らく、強靭な生命力を誇るガジュマルが、氷に含まれる魔力と水分を吸い取っているのだろう。みるみるうちに檻の氷が溶け出し、膨張した枝と深緑の葉が、氷の壁をぶち破ろうと暴れていた。
(想像の斜め上を行きやがって!!)
「もう少しよ!頑張って」
メリッサが召喚したガジュマルの木が豪快にバキバキっと氷の檻を打ち壊した。キラキラと勢いよく飛び散った氷の破片は衝撃的すぎて、言葉にならなかった。彼女は強い!!
メリッサは俊敏に幹に登り、枝を蹴るように外へ飛び出した。
(メリッサは憎らしくもあり、愛らしくもある。だが、お前が一位を取れば、俺はここにいられなくなり、好きでもない奴と婚約をしなくてはならない。人生の選択が無くなってしまう。檻に入れられてしまうのは俺の方だ!!)
シリウスは初めて、平民で自由なメリッサを恨めしく思った。
「お前のその膨大な魔力と、馬鹿みたいな魔力コントロールが癪に触るんだ!!!」
シリウスがどうにもならない思いの丈をぶつける。
「早く、負けを認めて降参しなさい!!」
「ゴホッ、ゴホッ、するわけないだろ、馬鹿にするな!!俺は何が何でも1位をキープしなければならないんだ!!俺の底力はまだまだこんなもんじゃない……、こんなものじゃない!!!」
(俺の人生、あの親父に搾取されてたまるか!!俺は何が何でも一位を守る)
ギガントハンズに捕まったシリウスは、片手を天に掲げ、魔力の渦を作りはじめた。これは自分を拘束している頑丈な手を凍らせ、破壊するために、始めたことだった。
渦の回転が加速度的に速くなり、それに比例して氷の魔力がどんどん凝縮されていく。自身のやるせない感情が臨界を超え、心拍が上がり、マグマのように血が暴れると、熱を帯びた危険な体は、理性のたがが壊れ始める。
シリウスは、もはや正常ではない。
手のひらに圧縮し続けた魔力が限界を迎えると、大爆発を起こしたような強烈な閃光に、辺りは全く見えなくなった。
(――俺は負けない。俺は諦めない。俺は負けない。俺は人生を諦めない!!俺は、絶対に負けない。諦めない。お前が目の前にいる限り!!)
「気をつけろ!!シリウスの魔力暴走だ。クソッ、魔力収束結界!!」
眩い光の中で、担任の先生がシリウスの魔力を拘束しようとした。
(どんな拘束をされたって、俺はいつか楔を切り落とし、自由を手に入れる。俺の邪魔をする者は木っ端みじんだ)
《パリィィーーン!!!》
拘束しようとしていたものを力づくで跳ね除けた。枠に嵌めようとする奴らから解放されたのだ。
「無理だ!!メリッサ、離れろぉぉーーー!!!」
先生は悲鳴を上げるように叫んだ!!
(メリッサは、俺のライバルであり、俺の初恋だ。誰にも、邪魔はさせない)
シリウスが作り出した結晶は、とても美しく、神々しかった。その結晶が青白い光を纏ってゆっくり地面に降りていく。その先端が土に触れたその瞬間、地面に白い靄が四方へ一気に広がり、メリッサもその靄に飲み込まれた。
―――メリッサ!?
シリウスは目の前の光景に凍りついた。メリッサがガジュマルの傍で倒れている。ガジュマルの木は、魔力をたっぷり吸って、天にまで届きそうなほど巨大化していた。
「メリッサ!! メリッサ、メリッサ、起きろ。動いてくれ。頼む!!!」
シリウスは這いずるように、ギガントハンズの手から出ようとした。しかし、体が全くいうことを聞かない。丸まった手の中で、まるで何かに守られているようだった。
(くそっ、体が重い。思うように動かない。魔力切れか?)
今日はゼフィロスとの対戦で氷の冷気がいつもより過敏に出ていた。そのせいだろうか。魔力暴走だなんて。あり得ない。
早くメリッサの元へ駆けつけたかった。しかし、先に駆け寄ったのは、ゼフィロスの方だった。胸に突き刺すほどの鋭い眼光でこちらを睨みつける。
シリウスは奥歯をギリギリと噛み締めながら、運び出される様子を見守るしかなかった。
****
シリウスは、軽いけがで済んだ。しかし、メリッサは、すぐさま病院へ搬送された。全身が凍傷のような状態になっているので、一刻の猶予がないと医務室の先生が話しているのを聞いた。幸い、ガジュマルの木の近くにメリッサがいたので、即死は免れたという。
医務室のベッドで一人、深い闇に落とされた。
「あぁ、……メリッサ。俺の……俺のせいで!!」
(俺が一位にこだわったせいで、メリッサを傷つけてしまった……。俺はメリッサを傷つけてばかりだ)
❇❇❇❇
シリウスは1週間の出席停止を命じられた。
その間に担任の先生が来てくれて、メリッサの意識が回復したことを教えてくれた。担任の先生は、お前は悪くないと慰めてくれたが、その言葉は心の奥まで響かなかった。
何もすることがないシリウスは、病院の前までお見舞いに品を持っていっては、看護婦さんに返された。
「あなたのお見舞いは受け取れないそうよ」
でも、シリウスは何度も通った。そのたびにごめんねと言われ、帰された。虚しさで死んでしまいそうになる。
しばらくすると、寮に父上から手紙が届いた。
『卒業したら、戻ってこい。自分の力をコントロールできない奴は、家の中で大人しくするがいい。あと、婚約の話もこちらで進めておく。お前は、確かに一位の座に居続けたが、学園に迷惑をかけた。こちらから、あの娘の入院費を払わせてもらった。だから約束は無効だ。いいな。戻ってこい』
「……結局、頑張っても頑張らなくても同じ目に遭うのか」
悔しさのあまり、激しく壁を叩きつける。壁は一瞬で凍りつき、氷壁になった。
❇❇❇❇
一週間後、シリウスは学園に戻った。
あの魔法対決から一変。シリウスへの視線が冷たくなっていた。
いつも金魚のフンみたいにすり寄る貴族令嬢たちも、遠くからこちらを見ている。
「シリウス君は面の皮が厚いのかな?よくこのクラスへ戻れたね」
そう挑発してきたのは、ゼフィロスだった。
「……うるせぇな。俺は魔法対決で勝ったんだ。何か、文句あるか?」
「はっ、これではメリッサが可哀想だな」
「お前の口を氷で塞いでやろうか?」
このやり取りを見ていたクラスの誰かが言葉を発した。
「さすが氷結貴公子だね。心まで凍りついているんだぁ〜」
「ああ、凍りついてるさ。それがどうしたんだ?」
「何だよあれ!!開き直ってるぜ。人殺しのくせにさ」
「馬鹿かお前は。メリッサは生きている。だから人殺しではないだろう」
「ぐっ!!」
人殺しという言葉に息が詰まりそうになった。こんなにもクラスメイトの態度が変わるとは。手のひら返しとはこのことか。
「これを聞いてる『シリウス親衛隊』はどう思っているのかね?」
またゼフィロスが話しかけてきた。
「知るか!!そもそも、俺が作ったグループではない。勝手に奴らが結成したんだ」
「だそうですよ?クリスティーナ・ギルバルト公爵令嬢」
シリウス親衛隊のリーダー。クリスティーナ令嬢が今にも泣きそうな目をしていた。
「お前には悪いが、『シリウス親衛隊』は、解散したほうがいいかもな。君たちは、世間体をとても気にする人種だからな。シリウス親衛隊だったことがバレたら、今後に響くだろう」
「そんな、シリウス様!!」
「クリスティーナ令嬢。お前は婚約者がいるだろう。その人のためにも、こんなことをもう辞めるんだな」
授業の鐘が鳴ると、シリウスは一位の席へと戻った。
❇❇❇❇
その日を境に、シリウスは初めて嫌がらせというものを受けた。いつの間にか教科書が破られていたり、カバンがゴミ箱に捨てられたり、翌日になると、一位席が外へと無残に投げ捨てられていた。
「……あいつも最初はこんな気分だったのだろうか」
シリウスは、机を担いで教室まで運ぶことにした。まるで罪を背負った囚人になった気分だ。
机を運ぶ様子を見た担任が、慌てて一緒に机を運ぶのを手伝ってくれた。
これには担任の先生も怒り爆発で、クラス全員を叱りつけた。
「いいか、あの試合は事故なんだ。シリウスを憎むなんてお門違いにもほどがあるぞ!!」
「……誰かさんが一位にこだわったのがそもそもの原因じゃないですか?」
ゼフィロスのひと言に、担任は何も言い返せなかった。なぜならその通りだから。
「だったら、もっと勉強して、お前が一位を奪えば良かっただろうが!!それができない甘ったれの坊っちゃんに、文句を言われる筋合いはない!!」
シリウスは、隠していた殺意をむき出しにした。すると、あの試合を思い出したのか、ゼフィロスが蛇に睨まれた蛙のように固まった。青白い顔をして、ガタガタと足が震えている。
「また、あの対決をしてやってもいいんだぜ?」
特進クラスにシリウスの冷気が充満した。クラス全員がシリウスの狂気の恐ろしさに静まり返る。
シリウスはますます孤立して、『特進クラスの厄介者』に落ちていくのだった。
長文、読んで下さり有難うございます!
第7話は21時30分に投稿します。




