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傲慢貴族はあまのじゃく。隣のあの娘を守るために、嫌われ役を演じます。  作者: 古晴


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第一話 運命の出会い

――コン、コン

「入れ」

ドアが開くと、付き人である侍女のマリアナが入ってきた。

「シリウス坊ちゃま。封書が届いております」


 白銀の髪を持つ少年は、ティーカップをそっとテーブルに置いた。


 彼は侍女に近寄り、その封書を受け取ると、急いで中身を確認した。その中身とは、王都にあるサージス魔法学園の合格通知だった。


「よし!入学試験は学年一位だ。これであの約束もチャラだ」


 彼はこの封書を見てニヤリと笑った。彼の名はシリウス・フォンド・パリストン。今年で14歳になる。


「シリウス坊ちゃんが本当にこの屋敷から出てしまうなんて……坊ちゃんが子供の頃からお世話をしてきたのに寂しいですわ」


 侍女のマリアナは肩を落とし寂しそうな様子を見せる。


 この屋敷で唯一、心を許せる相手。それがマリアナである。5歳年上で、昔からお世話になっている侍女だ。


「俺はこの屋敷を継ぎたくはない。継ぐのは腹違いの弟、マルクスが無難だろう。あいつは人たらしで社交的だから丁度いい。それに俺は、あの親父が大っ嫌いなんだ。ずっとこんな辺境の領地には居たくない。だけど親父は、なぜか“庶子の俺”を跡取りとしてここに縛り付け、挙句の果てに、あの香水臭くて気の強い令嬢と無理やり婚約させようとするんだ。お継母様からしたら、俺は目の上の瘤だというのに」


「シリウス坊ちゃま……お静かに。誰に聞かれているか、分かりませんわ」


「ふん、聞かれてもいいさ。俺はな、あの親父から必死で逃れるすべを考えたんだ。それが、このサージス魔法学園さ。国内で実力主義で厳しいと言われる、あのサージス魔法学園の入学試験で一位を取れたら、婚約話は、なしにすると確約を取り付けたんだ。ははっ、これで四年間の自由は勝ち取ったぞ!」


「シリウス坊ちゃま。合格通知は、いつご主人様にお見せするのですか?」


「そうだな。今夜の夕食にでも報告をしようかな」


――しかし、その考えは見抜かれていたのか、親父も次の手を打ってきた。


 その日の夕食。今日のメインディッシュは鴨肉のステーキとブラックオークの姿焼きだ。


 シリウスと次男のマルクスは隣同士の席。継母のエリザベスと幼い三男のマッシュは、向かいに座っている。


 シリウスは、斜め向かいに座っている親父の様子を伺いながら、ホワイトマッシュルームのリゾットを口にしていた。


「時に、シリウスよ。お前、サージス魔法学園の合格通知が届いたってな」


「はい、お父上。学年一位で合格いたしました」


「フン。魔術師なんか目指しやがって……国境を守るには剣術に長けていなければならないのに。俺が子供の頃は――」


「お言葉ですが、お父上が国一番のソードマスターだということは、僕も重々承知しております。ですが、僕は剣術よりも、魔術師が向いております。六歳の魔力検査では、お父上よりも倍の魔力量があったではありませんか」


「フン。それは、俺のお母上の遺伝だ。母上は“氷の女王”と言われるぐらいの氷魔法に長けたお人だったからな」


「それでは僕は、ご祖母様に習って魔術の道を歩みます。それと約束の婚約の件はなしということでよろしいですね?」


 すると、カンタルス辺境大公は、にやりと白ひげを触った。


「勘違いするなよ。それはお前が四年間で一位を維持したらの話だ。もし、二位へ転落した場合、この地へ戻り、ジョセフィーヌ令嬢と婚約するんだ」


 その言葉に血の気が引いた。サージス魔法学園は優秀な生徒しか集まらないと聞く。そんな競争率の高い学園で一位を維持することは至難の業だ。


(このくそ親父め!!やり方が汚い)


「それからな、お前に護衛役をつけようと思ってな、ロイドも入学試験を受けさせた。あやつは頭が弱いからな。相当大変だったようだが、何とか合格したそうだ」


「なぜですか!僕は一人で十分なのに!!」


「ははははっ!!お前に変な虫でもついたらたまらんからな。虫よけだと思え」


「お父上は、なにがなんでもジョセフィーヌ令嬢と婚約させたいのですね」


「そうだ。ここの領地の西隣にあるサルモンド半島はこの国一番の貿易領さ。そのうえ商売上手ときたもんだ。そのサルモンド伯爵と友好関係を築き、互いに地盤を固めたいというのは至極当然のことだろう」


「残念ですが、ジョセフィーヌ令嬢との婚約は、次男のマルクスがお似合いでしょう。なぜなら、僕はサージス魔法学園で四年間一位を維持できるからです」


 ダイニングに不穏な空気が流れた。


「ほほう。できるものなら、やって見せろよ」

「ええ、やってみせますとも」



――こうして、シリウスはロイドと共に、カンタルス領から遠く離れた王都へやってきたのだった。



   ****



 入学式も終わり、シリウスとロイドは特進クラスへと向かった。


「ここは、席順が入学試験の成績順になっているそうです」

「そうか」


 シリウスは一番前の窓際の席へ座った。


「シリウス様。この二位の席はなんと平民の女子だそうですよ」

「ふ~ん、そうか」

「俺が一発かましてやりましょうか?俺は親方様に虫よけを命ぜられましたので」


そういうときのロイドはニヤニヤしていて気持ちが悪い。


(俺よりも剣術が上手いからって、親父に媚びを売りやがって。どうせお前は監視役なんだろうが。この親父のくそ犬め!!)


 すると、珍しい若草色の髪を肩までなびかせた女の子が近づいてきた。


 その子は目が子猫みたいにクリっとしていて、蜂蜜色の瞳に光が灯っていた。頬はふっくらしていて、小さな唇は赤い実のように可愛らしい。肩まで伸びた爽やかな若草色の髪はまるで、森の妖精のようだ。


 その清々しくも可憐な雰囲気に胸がキュンとした。


「私の席はここね」


(甘すぎず、凛とした声……)


 すると、ロイドの奴が無言で女の子に向かって突き飛ばした。


(馬鹿!!アイツ、あの子に向かって何してんだ!?)


「痛っ、なにするのよ!!」

「おい、そこの平民。誰がその席に座れと言った!!」


(ロイドめ!!これでは、権力を振りかざす馬鹿貴族と同じじゃないか。みっともない)


「お前だな? 平民のくせに学年二位を取った女というのは」

「あなた達は?」

「こちらにいらっしゃるのは、カンタルス辺境大公のご長男シリウス卿だ。代々北カンタルス山脈を領土としているので、その名をカンタルス辺境大公と呼ばれている」


(不味い、ニヤついた顔を隠さなければ!!)

 シリウスは、出来るだけすました顔をした。


「そしてこの俺が、カンタルス大公の盾であるフロスト騎士団長の長男、ロイドだ」

 

(うわぁ、露骨に嫌がってんじゃないか)


「私は、メリッサ。スコティッシア州のカロテナ町からきた平民です。このサージス魔法学園は実力主義を方針とした学園です。平民や貴族に関係なく、授業が受けられると聞きました。入学試験で私は、学年で二位になりました。この席順は成績順なのでしょう?だから、退けと言われる筋合いはありません。ロイド卿が次の試験で二位を取れば、この席に座れるのでは?」


(……この子、頭が良さそうだな。首位の座を奪われないか心配だ)

 

 シリウスは、親父の言った条件を思い出す。


 馬鹿にされたと思ったのか、ロイドがいきなり女の子の胸ぐらを引っ張ったのだ。


「なんだと!?生意気な平民だ!」

「ロイド卿。あなたの鍛えられた二頭筋は、弱い平民、しかも()()()を引っ張るためにあるの?少し、破廉恥すぎない?」


 蜂蜜色の瞳には自信が溢れ、誰にも負けない目をしていた。例え体格差があっても、毅然とするその態度が好ましい。


「なっ、なに!?この俺を破廉恥だと?」


(ははっ、いいぞ。どんどん言ってやれ!!)


「あなたみたいな脳筋貴族がいるから、平民のほとんどが貴族嫌いなのよ。第一、貴族と平民どちらの人口が多いと思っているの?圧倒的に平民が多いでしょ?平民が物流を回して、市場で商いをし、経済を回し、その血税で貴族が美味しいご飯を食べられているんでしょうが!!そもそも貴族だけで成り立っている国って聞いたことある?ないでしょ?平民という大衆に支えられて少数の貴族が成り立っているのよ。そんな常識も分からず、平民だからと見下して、歪んだ自尊心を満たすような脳筋貴族に、明るい未来はないわ」


 メリッサは勢いよく早口でまくし立て、筋肉馬鹿を黙らせた。


 (ん?これじゃ、俺まで馬鹿にされている気になる。すべての貴族がロイドみたいなやつじゃないことを知ってもらわなくては……)


「我々強者が()()を取りまとめて何が悪い。諸外国の侵略を国境で食い止め、防衛しているのは貴族の仕事だ。外交や貿易の関税を取り決めているのも貴族の仕事。そして、領地を守り、公共工事の開発と経済の発展のために、法案を取り決めているのも少数派の貴族の仕事だ。つまりは領主の方針次第で、()()の暮らしが変わる権力を持っているということを忘れるなよ」


(これなら威厳があるように見えるだろう)

 シリウスは背すじを伸ばし、毅然な態度を示した。


「その領主が汚職にまみれてる欲深い貴族か、品行方正で民を正しく導くことができる貴族かにもよるでしょ?あなた達はどちら側の貴族でしょうね?」


 メリッサの言葉にシリウスの胸がチクンと痛んだ。そして、ムッときた。

(……なんだ、この女。暗に俺たちが欲深い貴族だと言っているのか?可愛いと思っていたのに!)


「何だと!?偉そうなヤツめ!!」

 いかにも殴りかかりそうなロイドをシリウスが止める。

「やめろ、ロイド。こんなおしゃべり()()()にかまう暇などない」


『雑草女』という言葉に対して彼女の顔がみるみるうちに怒りの表情へと変化していった。


「おしゃべり雑草女!?」


「お前の、その変な若葉色の髪はどう見ても、雑草にしか見えない。ロイドの剣で刈ってやろうか?」


(少し煽りすぎたか?いや、こいつは賢い。ここで舐められたら、理論整然と論破されて終わりだ。ここで圧をかけて黙らせなければ……)


 ロイドをみると、こっちを見て満足そうに微笑んだ。(余計な真似をしやがって、このゴマすり犬野郎)


「おい、おしゃべり雑草女。随分偉そうだが、平民のお前が永久に一位を獲ることはない」


(まぁ、それは現実でなくては困る。否が応でも一位をキープしなくてはならないからな。領地へ帰りたくないし、婚約もしたくないし)


「顔は綺麗だけど、中身は違うようね。次の試験は必ず一位を獲って、傲慢貴族の鼻を必ず、へし折ってやる!!」


(俺のこと『顔が綺麗』だってさ。だが、中身が違うってどういう意味だ?また、遠回しに汚れてるとでも言いたいのだろうか)


 シリウスはだんだん腹が立ってきた。


(いいだろう、面白い。俺がお前より遥かに格上だと言うことを徹底的に、知らしめなければならないな)


 シリウスの微笑みは、傍から見れば酷く冷笑しているようにも見える。しかし、シリウスはそのことに気がついてはいない。


 メリッサは、シリウスを見て眉間にシワを寄せ、嫌悪感を露わにした。


――これが、“あまのじゃく”シリウスとメリッサの最初の出会いだった。



読んでいただき有難うございます!

第二話は、21時半に投稿いたします。

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― 新着の感想 ―
シリウスが主人公とは、なんだか もやもやしますね。 しかし、シリウスにも色々考えがあるのかもしれません。 そんな、意外な一面が……。 ちょっとは、ありましたが。 ( ・∇・)やっぱりシリウスだよー。 …
シリウスが主人公なんですね。 随分と傲慢な貴族然としたキャラですけど、今後にどのような成長をするのか楽しみです。 (*´ω`*)
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