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マルガレット、黒い噂の商団員を尋問する(前編)

「ところで、商団の黒い噂ってどんなのがあるの?」


 他所の大陸から来たというおかしな集団の息がかかっているらしい帝都の商団。


 その商団所属の悪人面の男がイリス山登山道で大怪我をして収容されたという街の医院に、私たちは向かっている。


 黒い噂が絶えないというが、どの程度のものなのか気になった私は、歩きながらフェリスに聞いてみた。


「ああ。それはね、奴らが帝都で急成長したのはバーラートからの貿易品を一手に扱って市場を席巻したからなんだけど。たくさんいるはずの競合する商人たちがね、謎の体調不良になったり仕入れたものが全部不良品で大損したりして次々とバーラートの輸出品の取り扱いをやめていくんだよね。扱えば儲かること間違いなしの商品なんだが、今や例の商団以外帝都の主だった商店はどこも扱っていないのさ」


 ……怖い。証拠はないけど絶対クロってやつじゃん。


「やつら、活動もその狙いも謎だったから騎士団に極秘調査を頼んだのだが……君たちのおかげで断片的な情報が線で繋がってきたよ。泳がせていた甲斐もあって、おおよその悪巧(わるだく)みの予想がついた。奴らの狙いは陛下と第一王子だろう」


 フェリスには、ともに行動することになった日にトルガーロウの語った話を私とカリンから話してある。


「てことは皇帝陛下を狙って恐ろしい食虫植物を献上したのもその商団ってこと?」


 アルメニアン皇帝を狙っているとなると真っ先に思い浮かぶのがトルガーロウから聞いた衝撃の話である。

 フェリスの持つ情報が、食虫植物を持ち込んだ犯人が例の商団であると判断できるものなのか聞いてみたが予想に反してフェリスは眉を下げて首を横に振った。


「そうだったら話が早い。第一王子に報告の上、さっさとバルメロス将軍に指示して奴らを全員捕縛するんだけどね。あの商団、基本的に代表も従業員もアルメニアン人なんだよね」

「じゃあなんで他所の国のおかしな連中の傘下だってわかるの?」

「それは今はまだ秘密だ。君たちにさらなる協力を頼むことになったら教えてあげるね」


 フェリスがウインクをしつつ言った途端、カリンがフェリスに嚙みついた。


「フェリス! これ以上マリーさんと私を面倒ごとに巻き込まないでちょうだい! この国の皇室のピンチには手を貸すけどバーラートのごたごたに巻き込まれるのはごめんよ!」


 しかしフェリスは気にしたふうでもなく、胡散臭いほどのキラキラ笑顔で言うのだった。


「そんなこと言ってもねえ。放っておくと大陸全体の平和に関わってくるよ。そのうち嫌でも巻き込まれるなら僕と協力した方がよくない? 味方は多い方がいいでしょ?」

「マリーさんを巻き込むのは断じて容認できません!」


 目を吊り上げてフェリスを威嚇するカリンをまあまあと宥め、私は自分の考えを述べる。


「困っている人たちの助けになるならできることはするつもりだけど……フェリス、私は一応アカデミー職員なの。お隣に位置するアルメニアン帝国ならともかく、バーラートはちょっと遠いのよね。あの国に居座っていろいろするのは難しいと思う。まあ、仕事内容と報酬次第で応相談かな」


 私の言葉を聞いたフェリスのキラキラが倍増する。


「ほほう。内容と報酬によっては受けてくれるんだね」

「フェーリースー!!」


 カリンの手が腰の剣に伸びる。それを見たフェリスは慌てて前言を撤回した。


「おっと、カリンに斬殺されそうだから今日のところは引き下がろう」

「永遠に引き下がってなさい!」


 やっぱり仲いいよねこの二人。国境を越えた幼馴染かぁ……カリンちゃんが怒るから言わないがなんだかんだこの二人、いいコンビである。


 などと緊張感のないやり取りをしながら歩いているうちに目的の医院が見えてきた。


「バルメロス将軍によると、例の商団の怪我人はここへ運ばれたはずだ。さあ、僕の巡検使の仕事ぶりを君たちに見せてあげよう」


 自信たっぷりに言い放つフェリスに私は疑問に思っていたことを聞いてみる。


「さっきからうっすら疑問だったんだけど、たぶん怪我したやつ下っ端よ? そんな奴尋問してどうするの?」

「いや。暗殺に使うトリカブトを採集に行った人員だ。秘密が露見しては大変だからネビル男爵とともに山に入ったのは全員幹部連中のはずだ。『トルガーロウを山で殺害したことはすでに調べがついている』とか脅して色々聞こうと思っているんだが、僕が尋問すると帝室側に情報が漏れていると警戒されてせっかく泳がせているのに計画を見直されるかもしれない。というわけで君たちにお願いがあるんだが……」


 うーん、なるほど。絵に描いたような悪人面たちだったので下っ端の奴らかと思っていたがあの面で幹部なのか……

 などと考えながら聞いていると、フェリスがイイ笑顔で私たちを見た。

 嫌な予感に私とカリンは眉を(ひそ)める。


「僕は外で待っているから尋問は君たちにお願いするよ」


 果たしてフェリスは、私たちに面倒事を押し付けてきたのであった。

 ……なにが『僕の巡検使としての仕事ぶりを君たちに見せてあげよう』だっ! 仕事するの私たちじゃん!!


 不満だが確かにフェリスが尋問に乗り出すとまずい気がする。下っ端じゃなくて幹部だと言うなら尚のことだ。

 めんどくさいから断りたいけど断れない仕事を押し付けられ、不機嫌な顔で睨む私たちに、フェリスは全く動じていないキラキラ笑顔でありがたい助言をペラペラと喋り出す。


「山中で偶然悪事を見かけた賞金稼ぎとか冒険者の設定で行こうか。『帝室が呼んだ客人たる、世界的に有名なトルガーロウ博士を暗殺したことを他国や帝室にタレこまれたくなくばこちらの質問に答えろ』とか言ってどうやってトリカブトの毒を仕込む気なのか聞き出して欲しいんだけど」


 ……私はため息を吐きつつフェリスにツッコミを入れる。


「普通そこは『タレこまれたくなくば金を寄越せ』になる流れよね? 通りすがりの冒険者だか賞金稼ぎだかが、なんで皇帝や第一王子の暗殺の仕方なんて聞きたがるのよ。不自然にも程があるわよ」


 私の隣で不満顔のままカリンが激しく頷いている。でもフェリスは動じない。


「そこは君たちに任せるから。うまく聞き出してきておくれ。くれぐれも政府の人間であることを匂わせて脅すのはダメだからね。僕はそこの喫茶店で吉報を待っているよ。じゃ、がんばって!」

「あっ! ちょっとフェリス!」


 無責任にも『有能な』アルメニアン帝国巡検使フェリスは、役に立たないアドバイス一つで私たちに厄介事を押し付けてさっさと通りの向かいにある喫茶店へと入って行ってしまった。

 私とカリンは顔を見合わせて憤慨する。


「ちょっとなにあれ! カリンちゃんの幼馴染ひどくない? あいつほんとに有能なの!? めちゃくちゃ雑に仕事押し付けてきたんだけど!!!」

「あんなやつ幼馴染じゃありません! あいつ昔からああなんですよ!! 面倒になるとああやって全部他人に丸投げしてくるんです!!!」

「それにしても設定が雑すぎて何の参考にもならないんだけど!」

「ホントですよね! あの設定でどう聞き出せっていうんですかね! ていうかそもそも私たちどうやってあの悪人面に面会しろっていうのよあのバカ!!」


 ……一通り不満を吐き出したところで、こうしていても何も解決しないことに気づき、私たちは道端にしゃがんで作戦会議をする。道行く人がビクッとして目を逸らしていくが気にしてはいけない。


「それで、どうします? 面会は奴の仲間の商会の者だといえば許可が出そうですが……肝心の尋問はどうしましょう? 私が刀で脅しましょうか」

「うーん……でも幹部なんでしょ? 帝室の人間を暗殺しようなんて連中が刃物で脅したくらいでペラペラ喋るかしら?」

「……マリーさん、飲ませると聞いたことをベラベラ喋る薬とか持ってないですか?」

「あのねえカリンちゃん、私のことをなんだと思って……あ、そうだ!」


 私はあることを閃き、カリンに耳打ちをする。

 カリンは大きく目を見開き、そしてニヤリと笑った。


「いいですね。さすがマリーさん。悪知恵を働かせたら右に出る者がいませんね……それで行きましょう」

「どういう意味よっ! ……じゃあこれで行きましょう。役どころは前と一緒でいいよね? 尋問はカリンちゃんに任せるわ」

「任せてください」



 こうして作戦を決めた私たちは、医院に入る前に道端で細部を詰め、作戦決行に必要な物資を調達するため街の商店街へ向かったのだった。

イリス山の神様が下した天罰により入院を余儀なくされた悪人面の男。

その男を尋問するためにフェリスに連れられ医院まで来たマルガレットたちは、医院に着いたところで男への尋問をフェリスに丸投げされてしまいました。

憤慨しつつも何か思いついたマルガレット。

次回はカリンとともに男への尋問を行います。果たして男は情報をくれるでしょうか?

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