表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/40

フェリス、居酒屋にて隣国の危ない話をする

「フェリス、今のつぶやきはどういうこと?」


 驚愕の表情でカリンがフェリスを問い詰める。


「ああ。最近バーラート王国がごたごたしていると前に話しただろう? どうもあそこの国、他所の大陸から来たおかしな集団に政治面でも経済面でもかなり食い込まれてるっぽいんだよね。最近バーラートの貿易方針が変わって、貴重なあの国にしかない特産品が安価で大量に流れて来だしたのも、考えてみるとあの国の中枢に、そのおかしな集団が関わりだしてからなんだよね」


 前に話した? 私は聞いていないのでカリンちゃんとフェリスがうちの国の王都でこそこそ密談していた時のことかな。私もかの国がごたごたしていると聞いたことがあるが、それは食堂『お嬢様こちらですわ』の店主からだったはずだ。


「それは前に聞いたけど。そのごたごたしているバーラートがこの国にちょっかい……もしかして黒い噂があるというこの帝都の商団って……」

「そう。他所の大陸から来たおかしな集団の傘下っぽいんだ」


 カリンのもしかしてをフェリスが肯定する。


「フェリス。具体的にはその他所の大陸がどこかわかってるの? そしてその連中が入り込んでるというバーラート王国はなにかよくない影響が出ているの?」


 私は疑問に思ったことをフェリスに質問してみる。すると、フェリスは腕を組んで少し考えたのち、口を開く。


「他所の大陸っていうのはね、海の彼方に東から行っても西から行っても到達する不思議な大陸があるんだよね。マリーは知ってる? おそらくそこの大陸の連中ではないかと思われる」


 でた! 例の恐ろしい生物がたくさん生息している大陸ね。私はフェリスに頷いて見せる。


「そして何か影響がと言われると、悪影響が出ているわけじゃない。むしろ貿易が好調で好景気に沸いていると言えるな。それと、農業改革で農産物の収穫量が劇的に増えたことで農村地帯でも人々の暮らしに余裕ができて、地方経済も好調になったという報告が届いているね」

「それって、フェリスが言っているそのおかしな集団がバーラートの内政を劇的に改革して経済状態を改善したという見方もできない?」

「まあ確かにね。そういう見方をすれば、おかしな集団ではなく他所の大陸から来た有能なブレーンを王家が召し抱えたと言えるね。ただ、どうもその連中、王家に召し抱えられているというよりは、王家に食い込んで乗っ取ろうとしているような気がしてね」


 なんと。優秀な在野の人材を登用したら、実は乗っ取りが目的でしたなんて王家からしたらたまったもんじゃないではないか。

 国家運営って難しいのね……


「乗っ取ろうとしている気がするというその根拠は?」


 カリンが深刻な顔で質問する。フェリスはあくまで僕の勘だけどと前置きをしてカリンの問いに答えた。


「あそこの国王はかなり慎重派だったはずだ。自国にしかない特産品の価値が下がらないように、輸出については厳格に管理していた。政務を補佐する王弟が特産品の他国への輸出推進派だったが、国王が強権を発動してそうした意見を押さえつけていたんだ。それが今はこの通り。しかもある時を境に一気に変わったんだよね」

「もしかして南部の港町の阿片騒動の時から?」

「そうだ。あのタイミングからバーラートの貿易方針が一変した」


 阿片騒動とは。

 一年ほど前にバーラートの南の港町で起きた住民の阿片中毒事件のことである。


 外国との交易を行っているバーラート南部の港町の一つが、ある交易商が持ち込んだ『我が国特産の新種煙草』に冒され、街として機能不全になるほどに蔓延した事件である。

 持ち込まれた『新種煙草』というのが、ある花の実から作る阿片という薬物だったのである。

 この薬物は、吸引することにより一時的な多幸感や陶酔の効果がある。

 その快感が日々の生活の悩み苦しみから一時的に逃れることができると評判になり、その港町で大流行した。

 だが、この薬物には強い副作用があった。それが強い依存性である。一度手を出してしまうと体がその薬物を求め、接種できないと様々な禁断症状が起こる。


 アカデミーの書物で読んだ話だと、最初のうちは接種した際の心地よさを求め使用を繰り返すようになる。効果が切れると体と心が薬物を求め、やがて常用するようになっていく。

 そうして使用を繰り返すうちに禁断症状は激しくなり、関節の強烈な痛みを引き起こしたり、全身の倦怠感や激しい嘔吐など身体に影響を及ぼす。最終的には心身をすり減らし、衰弱して最悪死に至るのだそうだ。


 街全体に阿片がいきわたった頃、その交易商は販売価格の値上げをし始めた。最初は誰でも買い求めることのできる非常に安価な価格でばらまき、依存からくる禁断症状が出る頃を見計らい、徐々に値段を釣り上げていったのである。

 街の住人たちは誰もが阿片を求めてその交易商のところへ群がり、値段が吊り上がるにつれて購入ができなくなった貧しい者たちは、ついに武器を手にして裕福な者を襲い、奪うようになった。裕福な者は自衛のために護衛を雇い、襲ってくる貧しい者たちを返り討ちにする。

 最終的には街中で殺し合いが起こり、活気のある港町の様相は一変した。

 騒ぎに気付いたバーラート王家が騎士団を派遣して鎮圧したのだが、時すでに遅く、街は再建不能なまでに荒廃してしまった。


 それ以後、バーラート王国主導で医療用に栽培されていたものも含めたすべての阿片の栽培、製造、持ち込みを禁止する法がかの国で施行されたことは私も知っている。


「あの国は医術について大陸随一の技術がある。国王は医術研究に熱心で、副作用の危険性から忌避されがちだった阿片の医術利用にも乗り気でね。研究を推進していただけにあの事件にはかなり心を痛めたようだね。それ以後、出される政策について王弟の名前で発令されるものが増えたんだ」

「つまり、王が国政から距離を取り、代わりに王弟が政務を執り行い始めたと?」

「僕はそう見ている。そして、王弟がそのしばらく前から重用し始めたのがおかしな集団の人間たちなのさ」


 フェリスがカリンと私を見て、一呼吸おいて続きを話す。


「ここからが僕の勘の部分だが、王は王弟を操っているおかしな連中に嵌められたんじゃないかなと思っている。阿片の原料になるケシという花だが、原産は例の大陸なのさ」


 ……そうして政治の主導権を握った王弟は、おかしな連中の助言のままに一気に特産品を安価で輸出し始め、多大な利益を得た。そして、国に利益をもたらしたおかしな連中は、王弟により次々と国の要職に就き、従来の王国の重臣たちは左遷され、国の要職を追われているそうだ。


 フェリスが語った話はそんな内容だった。


 フェリスの話が終わると、しばらく黙っていたのでその存在を忘れかけていたバルメロス将軍が口を開いた。


「その稼いだ貿易黒字で、どうもバーラートは各国に工作員を送り込んでいるようですな。騎士団の調査報告書を読みましたが、例の商団、半年ほど前から帝都で活動を始め、かなり潤沢な活動資金を持っています。その資金で我が帝都の商いを管理しているネビル男爵に取り入り、バーラートからの輸入品を一手に取り扱って急成長しています」


 なるほど。最近帝都に入ってきて急成長した商団なのね。


「そして引退したドメル元侯爵の屋敷にも出入りしているようですな。さらに帝室にキヴァンツの後任としてドメル元侯爵が推挙したデルロイ医師ですが……度々商団の店に顔を出しているそうです。さらなる内偵が必要ですが、キヴァンツはもしやすると嵌められたのかもしれませんぞ」

「な、なんだと!?」


 フェリスの表情が大きく変わり、驚愕の声が漏れる。


 私には聞き慣れない人物の名前が出ていたが、キヴァンツとデルロイという名は聞いたことがある。確かトルガーロウが皇帝の侍医の名前として、マルコ老と話していたはずだ。

 キヴァンツという医師が侍医だったはずだが、トルガーロウが帝室に呼ばれた時、デルロイという医師に変わっていたという話で、どういった経緯でそうなったかわからないという話だったが……バルメロス将軍の話は、その経緯について言及しているように思われ、その背景に例の商団が絡んでいるかもしれないという調査結果を聞いてフェリスが驚愕したということだろうが……


 私はバルメロス将軍の話を聞くため将軍に向けていた視線をフェリスに向ける。カリンも正面のバルメロス将軍に向けていた視線を横のフェリスに移していた。

 フェリスは私たちの視線を受け、言う。


「その話は後で説明する。それよりも例の商団だ。バルメロス将軍、商団の所属員で怪我をしたという者はどこへ?」

「その者は平民ゆえ、街の医院へ運ばれたはずです」

「そうか。将軍、いろいろ助かった。引き続き騎士団の指揮を執り調査を進めてくれ」

「はっ!」

「よし、君たち。次は街の医院へ行くよ」



 そうしてフェリスに促された私たちは、バルメロス将軍に挨拶をし居酒屋を出た。向かうは街の中心部にある医院である。

居酒屋にてバルメロス将軍に会ったフェリスとマルガレットたち。

次は医院に運び込まれたという悪人面の商団所属員に会いに街の中心部へ向かいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ