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薬草園は荒れ放題

 今回は新たな職場となるアカデミーの薬草園に恩師であるゼロス教授と向かいます。新たな職場はどんな場所なのでしょう。そしてこの場所でマルガレットにはどんな生活が待ち構えているのでしょうか。

 教頭先生の提案により、アカデミーの薬草園管理人兼非常勤講師の職を得た私は、管理小屋の鍵を受け取りにアカデミー中央棟にある事務室を訪れた。


 そこには、アカデミー在学中に何くれとなく面倒を見てくれた恩師の一人であるゼロス教授が待ってくれていた。

 お金儲けのために在学中から何度も無茶をしたが、ゼロス教授はそんな私を適度に放し飼いにし、うまく手綱を握ってくれた恩師である。言葉ではとても言い表せないほどたくさん面倒を見てくれた先生なのだ。


 「待ってたよ、マリーちゃん。卒業おめでとう」


 にこやかな笑顔を浮かべ、ゼロス教授が手を振る。その手には虹色に輝く不思議な鍵の束が揺れている。


 「さあ、君の新しい職場へレッツゴーだ」


 そう言うと、ゼロス教官は私の背中をやさしく押し、事務室の扉を開けた。


 「いやー、マリーちゃんもついに卒業かぁ。君はとても活動的で面白かったから見ていて飽きなかったよ。残念だなぁ。アカデミーに残ってくれたらよかったのに」


 並んで歩きながら、ゼロス教授は心底残念そうにそう言ってくれた。

 そんなゼロス教授に私は本音をぶつけてみる。


 「私だって残りたかったですよ。居心地最高でしたし……学長にはどこに出しても恥ずかしくないなんて言われましたけど、私、錬金術に関しては一切成果を出せていませんし。無から黄金を作り出すのはもちろん、他の金属から黄金に変質させる術も会得していません。これってどこに出しても恥ずかしいんじゃないですかね。……私、体よく追い出されたんでしょうか」

 「いやいや、そんなわけないじゃないか。君ほど優秀な生徒はここ数十年いないくらいだよ。どこに出しても恥ずかしくないっていう学長の言葉は我々教授連の総意だよ。君は在学中、突然あの素材が欲しい、この素材が欲しいと言い出す教授たちの無理難題にほぼ必ず答えて希少な素材を調達してきたし、街の商人たちや、学友のみんなの困りごとにも手を貸していたし、それだけじゃなく、この町を守る騎士団の連中にも非常に重宝されていたじゃない。一体騎士団の連中と何をしていたんだい?まさか危ないことをさせられていないだろうね?もはや私には君がわがアカデミーの学生なのか、街の治安を守る冒険者なのかよくわからなくなったくらいだよ」


 尊敬する恩師に、私のお金儲けのための奇行がここまでいい解釈で受け止められていたことに安どのため息を漏らす。

 正直、授業をまじめに受けている優等生とは、地の果てほどにかけ離れていた自覚はある。だって貧乏なんだから、お金を稼がなきゃ満足に研究もできないのだ。

 捉えようによってはアカデミーの大問題児たり得た私を、そんなふうに好意的に見てくれていたなんて、やっぱりゼロス教授は素敵な恩師である。

 ……でも騎士団では結構危ないことをしていましたごめんなさい。だって危険な任務ほどお金になるんだもん。


 こんな私をいつでも肯定してくれる恩師は、卒業のはなむけにこんな言葉をくれたのだった。


 「君なら、広い世界に打って出て、好きなようにお金を稼いで、好きなことを好きなだけできるよ。若者の未来に幸あれ!」


 ……やめて。泣いちゃう。


 そしてにこりと笑ったゼロス教授は少し声を潜めて私の耳にささやいた。


 「それにね……僕は錬金術なんてものは眉唾物だと思っている。無から黄金なんて作り出せないさ。世界中の誰も、有史以来成し遂げた者はいない」

 「ふふっ。アカデミーの教授がそんなこと言っちゃっていいんですか」

 「もちろん、こんなことを言えるのは、錬金術に疑問を持ちだした君みたいな一部の優秀な生徒にだけさ。長年研究をしてきて私がたどり着いた一つの結論だ。万物はね、まったく違うものをある特定の物質に変化させることはできないんだよ。ミカンからリンゴが作り出せないのと同じさ。物質を混ぜ合わせても他の何か新しいものができるだけだ。例えばミカンの匂いのするリンゴとかね。黄金が何かと何かを混ぜ合わせてできたものだとしたら、その何かと何かが解明できれば黄金を量産することができる。ただ、鉄を黄金に変えることはできないと思うね」


 尊敬する恩師の口から衝撃の言葉が出るのを、私は驚きで目を丸くしながら聞いていた。

 私が大きく驚いたのには理由がある。私もアカデミーに在籍して自分なりに研究を続けた結果、気づいたことがある。

 それは、物質そのものを、望んだ別のものに変化させることは不可能ではないかということ。

 鉄と何かを掛け合わせたとしても、それは黄金にはならない。別の何かにしかならないのではないかと。


 そう思ってからの私は、実は黄金を作り出す研究はすっぱりと諦め、お金になるあらゆることに手を出すようになった。

 高値で取引される貴重な作物を効率的に栽培する方法。

 国家が惜しみなくその国庫から予算をつぎ込む、国防の要である騎士団。その騎士団が求める数々の物資の調達、または任務の手助け。

 街の人々の日々の生活に役立つ便利品の開発。

 などなど。ここ2~3年は錬金術の研究そっちのけでお金になる、売れるものの製造方法や栽培方法に関する学問ばかり研究してきた。


 1年の半分はお金儲けのためにアカデミーの外で活動していたし、アカデミーにいても錬金術の研究なんか一切してなかったのだから、正直アカデミーの生徒として在籍している意味はあまりない気もする。


 卒業はできたので、落ち着いたら街や騎士団で今後もお仕事を貰えるように挨拶回りには行っておいた方がいいかななどと、今後の生活のことを考えながら恩師と共に街に出る。


 「着いたよー、マリーちゃん。ここが我がアカデミーの第6号薬草園だよ」


 師に連れられやってきたのは、街のはずれもはずれ、アカデミーのある街の中心街からはかなりはずれた場所にあった。いや、中心街どころか、王都全体から見ても一番外側だ。王都を囲む壁の中で一番外側の、壁というより柵になっている部分に、辛うじて管理小屋だけは収まっている。管理小屋だけは。

 肝心の薬草園はというと、柵の外側だ。


 私が住んでいるわが王国の王都ランカークスの北西には、というよりわが王国がある大陸の北部全体には、広大な大森林が国境を跨いで存在する。

 この大森林は豊かな森の恵みを大陸に住む人々にもたらしてくれるが、北に、つまり奥に行くほど誰も到達したことがない人類未踏の大樹海なのである。


 そしてこの森林のさらに北に北嶺山脈という天にも届くような高い山脈が連なってる。この山脈の頂上は常に雲に覆われていて、その全容を見たという者はいない。


 大陸北部にあるこの広大な森林が王都の西のはずれに隣接している。そして管理小屋の外、つまり薬草園は半ばこの森林に埋もれて同化してしまっていた。


 「ゼロス教授……これが薬草園ですか」


 首をぎぎぎっと回し教授を振り返って問うと、にこやかな笑顔のまま答えが返ってくる。


 「そうだよ。どうだい、管理のし甲斐があるだろう?」

 「いやいや、もうほぼ森じゃないですかこれ!」

 「いやー、先代の管理人が定年退職してから何年も管理人がいなくてね。マリーちゃんが管理人になってくれてよかったよ。アカデミーとして育ててほしい薬草リストを今度持ってくるから、育てておいてね。それ以外のスペースは、マリーちゃんの好きに使っていいよ。森とつながっているから拡げ放題だよ。やったね。」

 「やったね。ではなく……私、これでも一応か弱い女の子なんですけど!一人で森林開拓をしろっていうんですか」

 「マリーちゃんは爆薬使えるでしょ。ドカーンとやれば一発だよ。マリーちゃんなら騎士団とも仲良しだから取り締まられないし、なんせこんな外れだから少々大きな音と振動がしても誰も気にしないよ。夜中とかにやらなければね」


 いや気にすると思うし、注意点が夜中はダメって……そこですか?

 相変わらずおおらか?な恩師に呆れつつ、爆薬を使えるならなんとかなるかなと思った。後で騎士団に爆薬の使用許可をもらいに行こう。


 「今は荒れ放題だけど、ここの薬草園で育てた薬草はかなり品質が高いんだよね。個人的に育ててほしいものがあるからまた依頼しに来るね。高く買い取らせてもらうよ。じゃあ、これ鍵ね。がんばってねマリーちゃん」


 にっこりといい笑顔のまま、器用に片眼をつむってウインクをよこしたわが恩師は、手を振りながら去っていった。

 なんか虹色に輝いている不思議な金属でできた鍵を受け取り、私は管理小屋の状態を確認するために扉を開けたのだった。

 ゼロス教官とともに向かった薬草園は、とんでもない状態でした。薬草園ではなく薬草森……さっさと爆破して地ならしをしようと思ったマルガレット。次回は街に繰り出して生活必需品を揃えます。……生活必需品?

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