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戦いが終わって

 今回は、ちょっと閑話休題です。戦い終わって、のんびりと過ごすマルガレットとカリンのお話です。

 「ノビている狼どもは捕獲しよう。おい、誰か司令部へ行って拘束用の鎖と檻を持ってこい」

 「はっ!」


 騎士が一人駆け出していく。


 「ほかの奴は、狼が動き出さないように警戒だ……この有様じゃ、動き出す心配はなさそうだがな。狼たちに同情するぜ」


 狼たちはぴくぴくと痙攣しながら完全に白目を剥いている。


 ランスロットは私たちの方に向き直り、ふっと表情を崩す。


 「お前たち、遅くまでご苦労だったな。騎士団の作戦行動への助力を感謝する。あとは俺たちの仕事だ。お前たちは帰って疲れを癒せ」


 私はカリンを振り返った。


 「カリンちゃん、そのままじゃ気持ち悪いでしょ。うちでお風呂に入っていく?」

 「いいんですか?助かります」

 「じゃあ、さっそく沸かしてくるね」


 小屋に向かおうとする私たちの背中に、ランスロットがぽつりと言う。


 「今日は助かったぜ。ゆっくり休んでくれよ」

 「はあい。団長さんたちもお疲れ様」


 私は団長を振り返り、返事をする。

 そしてカリンのための湯を沸かしに裏手の井戸に回った。


 この管理小屋にお風呂なんかあったっけ、と言うなかれ。これは、私が森からダッシュで逃げ帰ってきた日……ポストに管理人としての給料明細と育ててほしい薬草リストが投函されていた日だと思う。

 投函された書類を確認して、あとで裏手に回ってみたら、いつのまにか大きな鍋というか壷のような形をした金属製の釜が竈とともに設置されていたのだ。


 その鍋というか釜には木製の蓋がしてあり、その蓋に手紙が貼ってあった。


 『・この釜に水をなみなみと注ぎ、一束の薪で炊くこと。水の位置は釜の内側に刻んだ線まで。

  ・湯が沸いたら木の蓋を釜に沈め、足場とすること。

  ・熱くなくなるまで井戸の水を足し、浸かること。


 マリーちゃん、卒業おめでとう。お祝いに遠く東の果ての国で親しまれる『五右衛門風呂』を贈る。

                                   ゼロス他教授一同より』


 なんと、一人用の風呂ではないですか! ゼロス教授、先生方、ありがとうございます!


 ……と言ったいきさつで、先日から我が家には風呂があるのだ。竈や薪も運び込まれていて、至れり尽くせりである。今度、アカデミーにお礼に行かなければ。

 そして、爆薬のギミックなどを作るついでに、風呂として使えるように衝立というか板塀の囲いも作成し、設置してあったりする。

 ……木材だけには困らないからね。



 すぐ隣にある井戸から水を汲み、釜に満たす。

 薪に火をつけ、竈を熾す。


 釜に満たした水から気泡が上がり、湯気が立って来たころ。

 蓋を釜底に沈めつつ、カリンちゃんを呼ぶ。


 「お風呂沸いたわよ~」


 桶に井戸で汲んだ水を満たし、返り血で汚れた服を漬けてもらい、カリンちゃんを湯船に促す。


 竈に据えられ、湯気を立てる釜を見て目を見張ったカリンが、恐る恐る釜の風呂に入る。


 「……あぁ~気持ちいいぃ」


 おっかなびっくりだったカリンだが、湯船につかってしまうと、みるみるうちにその表情が崩れていく。

 気に入ってもらえて何よりである。


 「……マリーさん。私、鍋で茹でられているみたいですね。この後マリーさんに美味しく頂かれちゃうのかな」


 釜の縁に腕をかけて、その上に頭をちょこんと乗せ小首をかしげるカリン。

 ……い、色っぺぇ。いかん、鼻血がでる……


 「そ、そうしたいところだけど、も、もうすぐ明け方よ。お腹もすいたし、ご飯を食べに行かなきゃ! カリンちゃんも一緒にどう?」


 際どい発言をするカリンに引きつった笑顔を向けつつ、食堂へお誘いをしておいた。

 カリンちゃんは超絶美人なんだからそういう発言を軽々しくしてはいけないと思う……さすがの私も一瞬クラっときたじゃないの。


 釜に薪をくべて、お風呂の世話をしつつ返り血で汚れたカリンのマントと服をきれいに洗い、裏庭に干す。

 部屋の中にお茶を用意して、カリンに中で寛いでもらい、私もお風呂でさっぱりした。


 「カリンちゃん、お待たせ。街に朝ごはん食べに行こう」


 その頃には、騎士団から檻が到着しており、ノビている狼を回収していた。騎士団だけではなく、王宮の役人やアカデミーの教授もいる。

 ……なんか大ごとになってますけど。


 その中にいまだうちに帰れず仕事中のランスロットを見つけ、私は声をかける。


 「団長さん! お湯、まだ温かいですから、よかったらお風呂はいって行ってくださーい」


 私の声に、右手をかるく上げ、返事をするランスロット……どうやらかなりお疲れのようである。


 大勢の人が詰めかけ、かなり騒がしい我が裏庭を横目で見つつ、私たちは連れ立って朝の平民街へ繰り出した。



 「マリーさん、朝食ってまさか、またあの変な名前の店ですか?」

 「そうよ。私は貧乏だからそう毎日いいお店で食べられないもの。あそこは安くて美味しいから気に入っているの」

 「味はわかるんですが、店名がアレなので恥ずかしくて入りにくいです。『あらまあ奥様』でしたっけ?」

 「カリンちゃん、『お嬢様こちらですわ』よ」


 カリンちゃんの顔が酸っぱいものでも食べたような顔になる。まあ確かに、変な名前よね。


 他愛ない話をしながら平民街を歩く私たち。昨夜の死闘のような危ない任務の後は、こうしてのんびりと街を歩ける日常が実はとても貴重なものなんだなって実感したりする。



 そして、お店の前についた私たち。


 「やっぱり入るのやめませんか?」


 顔を真っ赤にしてカリンが言った。


 「そんなに嫌?」


 吹き出しそうになる私。カリンちゃんがかわいい。


 「だって恥ずかしいじゃないですか。こんな名前の店によく入る気になりましたよね初めての時」

 「うっ、て思ったけど、店内からとてもいい匂いがしたのよね」

 「マリーさんって、物事に動じないですよね」


 それはカリンちゃんもだと思うぞ。


 入り口で押し問答? をしていたら、店主が暖簾をかけにひょいっと顔を出した。


 「おっ、マリーちゃん! ……と、たまに来てくれる超美人の姉ちゃんじゃないか。今開店するとこだ。さ、入って入って」


 「カリンちゃん、開店だって。いいタイミングだったね」


 なおも赤い顔で辺りに人気がないか見回しているかわいい生き物の袖を引き、店内へ。

 カウンターの席に座ると、さすがに徹夜で働いたからか、二人とも同じタイミングでお腹が鳴った。

 お互いふふっと笑い合って店主のおじさんに注文をする。


 「朝定食を二人分お願いします」

 「あいよぉ! 今日の定食は豚丼だよぉ」

 「えっ! やったぁ! カリンちゃん、今日は大ラッキーよ」


 私のテンションに目を丸くするカリンちゃん。

 テンションの上がる私を笑顔で見ていた店主が、カリンにわかるように補足する。


 「超美人の姉ちゃん。これが出せる日はね、ライスがあって、豚肉のいい部位が仕入れられて、かつ東国の調味料、醤油が入った時という、なかなかレアな日なんだよ」

 「ショウユ?へえ。ソースじゃ作れないんですね」

 「カリンちゃん、ソースで作るとソースカツ丼っていう別の食べ物になっちゃうのよ」

 「へえ~」


 この店、店名だけは超絶変なのだが、出す料理の味はもちろん、そのバリエーションの多さ、店主の飽くなきチャレンジ精神と、食堂としてとても素晴らしいのだ。


 メニューを絞り、食材の仕入れをもっと単純化した方が儲かるはずなのだが、ここの店主はそんなことを考えていない。定期的に新作が出るし、若いころ世界を旅したとか言っていて、各地で食べた料理を再現したいそうだ。

 醤油も、その若いころ、東国で得た人脈をもとに仕入れているらしい。確かに、醤油を使った料理など、この店以外で見たことがない。

 店名のぶっ飛び具合がまず目を惹くのだが、この一見ごく普通のおじさんである店主自身がかなりぶっ飛んでいるのだ。

 そして、このぶっ飛んだ店主は、王都の下町では一、二を争うレベルで私の常連顧客である。

 つまり、遠方への食材、調味料の仕入れの依頼を頻繁にくれるのが、ここ『お嬢様こちらですわ』の店主なのである。


 店主がフライパンに豚肉を入れ、焼き始める。香ばしい匂いが店内に立ち込めると、私たちのお腹がさらに鳴る。そして醤油がフライパンに投入されると、その独特の香ばしい匂いが、空腹の人間にとっては凶悪なレベルで鼻腔をくすぐる。


 「マリーさん、ショウユ、やばいですね」


 カリンが涎を垂らさんばかりのうっとりと崩れた笑顔でこちらを向いた。


 「でしょう? めっちゃ美味しいから覚悟しててね」


 私たちはカウンターに並んで足をぶらぶらさせ、フォークとナイフを両手に握りしめて『飯まだ?』の体制で待つ。


 苦笑いの店主が私たちの前に、ホッカホカの湯気を立てる香ばしい丼を二つ置いてくれた。


 「はいよ、おまちどぉ! 二人ともこんな朝早くから腹ペコってこたぁ遠征帰りかね。喉に詰まらせないようゆっくり食べるんだよ」

 「いただきまーす」

 「お、おいしそう」


 私たちは、『待て』とお預けをされていた犬が、目の前にご飯の皿を置いてもらった時のように一気に丼をかき込んだ。


 「おいしーい!!!」

 「なんですか? なんですかこれ?? おいしすぎます!!!」


 そして仲良くのどに詰まらせ胸をたたく私たち……


 「……だから言ったろう」


 苦笑いのおじさんが、サービスのお茶を私たちの前においてくれた。




 「それでマリーちゃん、近々王都の外に出る予定はないかい?」


 豚丼を食べ終わり、恍惚とした表情で並んでお茶を啜っていると、店主が聞いてきた。


 「畑の整備をしなきゃいけないんですが、資金不足なので依頼を受けてちょっと出かけるかもしれません」


 魔女に頼まれたトリカブトも採取に行かないといけない。誰にも言えないが。


 「じゃあちょうどよかった。西の方に行ってちょっと胡椒を買い付けてきてくれないかな」

 「胡椒? 貿易で入ってこないんですか? バーラート王国の主要交易品ですよね」

 「それが、ここ数か月、バーラートから輸出される量が目に見えて減ってきているんだよ。あそこの国もなんだか国内がごたごたしているようなんだ。品薄になると仕入れ価格も跳ね上がるからね。うちの収入じゃ手が出せなくなってきていてさ」


 ふむ。バーラート王国か。あそこに行けば例のあれが食べられる。よし、決定!


 「畑を何とかしてからになりますが、急ぎですか?」

 「いや、どうしてもないと困るものじゃないから、急がないよ」

 「じゃあ落ち着いたら仕入れに行ってきますね」

 「助かるよ! マリーちゃん。よろしく頼むよ」




 こうして、私たちは美味しい朝ごはんでお腹いっぱいになり、満足の上『お嬢様こちらですわ』を退店したのだった。

 仕事の依頼も受けたし、早急に畑をなんとかしないとね。

 今回はのんびりしたマリー。さて、遠征依頼が二つたまったので、早急に畑を何とかしたいところ。

 次回は資金繰りに頭を悩ませるマリーのもとに……

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