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フェンリル捜索の論功行賞とお気に入りレストラン

 フェンリルの巣穴探索への同行、そして巣穴発見の功を認められた私は、騎士団長ランスロットより直々に夕食にご招待された。ちなみにお手当も少し貰いました。やったね。


 そして王都民憧れの店、王都平民区画部門人気NO.1レストランである『満月の黒猫亭』へと、うっきうきでやってきたのである。


 ……ところが。

 レストランの扉をくぐると、店内は揉め事の真っ最中だった。


 がしゃん!ばりん!

 ものを投げつけたり、床に叩きつける大きな音とともに騒ぎを起こしている男性が叫ぶ。


 「どぉおして僕の『いつものやつ』が用意できないんだぁ!!僕が誰だか分かっているのかぁぁ!」


 暴れているのは、誰が見ても貴族だとわかるきらびやかな衣装をまとった10代後半くらいの男性だ。あまり運動をしていないのか、結構な大きさのお腹である。シャツの下の方は、ボタンが今にもはちきれそうだ。高そうな服がかわいそうである。

 しかし、力だけは有り余っているようで、彼の周りの机や食器類は、彼がやったのかほぼ破損している。


 「先ほどからご説明差し上げている通り、最近王都産の高級牛の肉が入手困難になっておりまして。そのためお客様が毎度御所望されますランカークス牛子牛肉のフリカッセはご提供ができないのです。申し訳ありませんが、今日のところはメニュー表から違うものをお選びください」

 「僕はこの店ではランカークス牛子牛肉のフリカッセと決めているんだ。わざわざ足を運んでやっているのに用意できないだとぉ!本当はあるんだろう」

 「そのようなことはございません。本当にご用意できないのです」

 「ふざけるなぁぁ!僕はナッサウ伯爵家次男、ヴィトゲンシュテインなるぞぉ」


 ……なんだあのボンボン。店員さんも慣れたもので言葉遣いだけは丁寧さを維持しているものの、このガキャと、その目が如実に語っていたりする。

 そして大興奮の貴族ボンボンは気づいていないようだが、厨房から顔を出しているシェフたちは、手に手に包丁やナイフ、フォークを携え、ボンボンが次に暴れだした途端、なだれ込んでやろうという血走った眼をして待機している。


 そして私の隣で静かに状況を見守っているランスロットが、スッと剣の柄に手をかけた。


 まさにそのタイミングで、ボンボンが叫びながら机の上の燭台を握りしめる。


 「僕に逆らうお前は、こうしてやるぅぅぅ!!」


 わずか数歩の踏み込みでボンボンの近くに移動したランスロットが剣を鞘走らせると、ボンボンが振り上げた燭台を根元から切り落とした。


 突然のことに絶句しながらランスロットを凝視する、ヴィトゲンなんとかいうボンボン。


 剣を鞘に収め、冷たい眼差しで見下ろしたランスロットは、ボンボンに冬の朝のような冷ややかさで言い放った。


 「王都産の家畜が品薄になっているのは事実です。大森林由来の獣害によって、家畜に被害が多発しています。現在騎士団が調査、近日中に対応しますので、今日のところはお引き取りを。いくら平民街とはいえ、王都内にてこのような騒ぎを起こされては、騎士団としてはお父上に報告せざるを得なくなりますぞ」

 「ラ、ランスロット。そなたも夕食に参ったのか。わ、わかった。そなたの顔に免じ、ここは収めてやろう」


 ランスロットの冷ややかな目に怖気づいたのか、あっさりと引き下がるヴィトなんとか。

 彼は、慌てて席を立つと、お付きの者を従えてそそくさと退店していった。


 鮮やかにトラブルを収めたランスロットに、店内の客や従業員たちから喝采が湧き起こる。

 声援に軽く手を挙げて応えるランスロットに、私は感心して賛辞を贈った。


 「さすが街の治安を担う騎士団長ですね。お見事でした」

 「……お前が短剣の柄に手をかけたからだ。いくら相手に非があろうとも、平民のお前が貴族の子弟に手を出すのはまずいからな。それにあいつは癇癪持ちなうえに根に持つとしつこい。相手が権力を振りかざすのなら、俺も持っている権力を振りかざしたまでさ。さ、飯にするぞ」


 私の動きをさりげなく見ていたようだ。私の一番のお気に入りのレストランで暴れるという傍若無人の振る舞いをする貴族のボンボンにシェフたちが一泡吹かせようしていたので、私も加勢しようかと思っていたら無意識に剣の柄に手がかかっていたようだ。


 「……よく見ていますね。私のこと好きなんですか?」


 にこりと笑って軽口をたたいた私の頭を、ランスロットは軽く叩いたのだった。



 「騎士団長様、先ほどは助かりました。今日はマルガレット様もご一緒ですね。ご注文はいかがいたしますか」


 なんと、私の顔を覚えていてくれたなんて。それどころか名前まで……たまにしか来ないのに。

 私がますます『満月の黒猫亭』のファンになっていると、ランスロットが私の分も注文をしてくれた。


 「赤毛牛のフィレステーキを二人分だ」


 思わずランスロットを見上げてしまう。


 「えっ、それってこのレストランで一番高い……」

 「お前に決めさせるとまた遠慮してハンバーグとか言うだろう」


 …別に一切遠慮してないのだが。


 「赤毛牛なら在庫があるだろう?……今日は俺の奢りだから気にするな」


 ウエイターさんをちらりと見て確認したランスロットは男らしく私に告げたのだった。



 ランスロットの男気が発動した結果、私の『ここへ来たらなぜかいつもハンバーグ定食を頼んでしまう病』は発動せず、何度目かにして初の『それ以外のメニュー』を堪能する日がやってきた。

 しかも一番高いメニューである。


 机の上に並べられた赤毛牛のフィレステーキは、野生種であるがため、しっかりとウェルダンに焼き上げられている。

 騎士団長もウエイターさんもひとかどの紳士であるため、この席では私が下っ端なのに私の方に先に給仕をしてくれる。


 ランスロットの机にも料理が並ぶのを待って、私は赤毛牛のステーキにナイフを入れる。


 「団長、ありがとうございます。一度食べてみたかったんですよね」


 しっかり焼き上げられているために中まで茶色いその肉は、しかし一切の硬さを感じることなくスッとナイフが入る。

 フォークにさして一切れを口に入れると、適度な噛み応えとともに、芳醇な野趣あふれる肉の旨みが口いっぱいに広がるではないか。

 感嘆のため息を漏らしつつ、自分の顔がうっとりと笑み崩れていくのを感じていると、対面に座るランスロットの視線を感じた。

 視線を合わせて首を傾げると、ランスロットは嬉しそうな笑顔で言ったのだった。


 「お前、本当においしそうに食べるよな。こっちも御馳走した甲斐があるってもんだ。今日いちばんのいいものが見れたぜ」

 「……味がわからなくなるからそんなに見ないでください」


 照れた私は視線を外し、ランスロットが再び肉に視線を移すのを確認してから食事に戻った。


 こうして、私の一日は幸せいっぱいで締めくくられたのだった。



 開けて翌日、管理小屋のドアをノックする者がいる。

 私がドアを開けて玄関に立つと、そこには顔なじみの騎士が立っていた。


 「相変わらずすげー臭いだな。これいつまで臭いを放つんだ?……じゃなくて、団長から呼び出しだ。騎士団へ同行を頼む」


 やっぱり騎士団からの呼び出しが来た。ということは、やっぱり私もフェンリル討伐のお手伝いするのか……

 まあ、儲かりそうだからいいんだけどね。


 私は、迎えに来てくれた騎士と共に騎士団司令部へと向かった。



 騎士団司令部に到着すると、すぐに団長室に通される。

 今日もまた出迎えるのは執務机に座るランスロットと背後に立つテオブランドのセットかなと思い扉をノックする。

 しかし、今日は執務机に地図を広げ、それをランスロットとテオブランドが難しい顔をして覗き込んでいるといういつもとは違う情景だった。


 「おはようございます、団長、副団長。団長、昨日はごちそうさまでした。とてもおいしかったです」

 「おう、来たか。昨日のは報酬の一環だから気にするな。さっそくだがこっちへ来てこの地図を見てくれ」

 「何の地図ですか?」


 覗き込んでみたら、それは王都周辺の地図だった。東の牧草地帯のあたりには赤いペンでいくつかの×印がつけられている。

 おそらくフェンリルたちに襲撃された農場だろう。

 そして、王都の西側、広大な大森林のある一点に黒色の〇印がつけられている。そこから北西方面に黒の×印。

 これは例の岩山とフェンリルの巣穴だろう。


 なるほど、地図を見るとわかりやすいが、例の岩山はかなり森の奥にあったのね。一人でふらふらと分け入っていた自分の行動にちょっと鳥肌が立った。


 「この地図にある通り、ここが、昨日探索した結果発見した岩山、そしてここが巣穴だ」


 私は頷きつつ、視線をランスロットに向け、先を促す。


 「そしてこっちの赤い×印が被害に遭った牧場だ」


 私の予想は正しかったようである。×印の多さにため息が出る。


 「×印を見ればわかると思うが、奴らが襲う農場は北の方に集中している。獲物が少なくなってきて少しずつ南の方へシフトしてきているがな」


 ランスロットの言葉を受けてテオブランドが口を開く。


 「この傾向から狼の侵入経路を推測するに、大森林の中を通り王都の北側を回って牧草地帯に侵入していると思われます」

 「そうだ。南側は街道もあり、人の行き来が多い。東部の牧場の獣害については王都でも知るものが少ない……ということは、奴らは人目につかない北側を通って牧草地帯に到達しているはずだ。案外、お前の家の真横を通っていたりしてな」

 「えっ怖い……」


 そこまで説明してから、ランスロットとテオブランドは揃って私に向き直る。


 「そこでマリーさんにお願いなのですが、畑の整備のために用意した爆薬を私たちに買い取らせてほしいのです。具体的には、私が予想を立てた狼たちの通り道に爆薬をしかけて、奴らが通ったら爆破して戦力を削ぎたいと考えています」


 テオブランドがとんでもないことを言い出した。数日前に呆れながら私を脳筋扱いした人とは思えない発言である。


 「畑の整備が遅れることになるかもしれないが、王都の主要産物のピンチなんだ。昨日の騒ぎを見たろう。贅沢をしたがる貴族たちの間でそろそろ騒ぎになってきている。それにだ、このままいくと他国との貿易にも影響が出てくる。ズルズルと長期戦にするわけにはいかねえ。マリーよ、協力してくれねえか」


 もちろん私としては構わないのだが、せっかく巣穴を見つけたのだからそこを急襲して一網打尽にするのだと思っていた。

 しかし、どうやら参謀テオブランドの考えは違うようだ。私は素直に疑問をぶつけてみる。


 「巣穴を直接叩いて殲滅するのかと思っていました。王都の方まで引っ張るんですか?」


 私の問いにランスロットがにやりと笑う。


 「もちろんその案も考えた。ただ、あそこは王都から遠いし、足場がよくねえ。それにあいつらの機動力についていくには馬が必須だ。だから餌を求めてのこのこ出てきたところを王都近郊の平地で叩く」

 「そして、平地でうまく奴らを叩けたら、巣穴に逃げ帰ったところを急襲して殲滅しやすくなりますな。というわけでマリーさんの力が必要なんです」


 なるほど。さすが戦いのプロである。よく考えた作戦のようだ。

 私は身を乗り出してランスロットたちに問う。


 「その作戦、もっと詳しくお願いします」



 にやりと笑った騎士団のトップと参謀は、私を手招きして机上の地図をもとに、作戦の説明を始めたのだった。

 

 狼との戦闘までたどり着きませんでした。

 というわけで次回、王都を悩ませた狼との決着です。

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