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プロローグ

ついに始めました。読んでくださるとうれしいです。

 「マルガレットよ。其方はこの学び舎にてよく学び、すべての学問を修めた。もはや其方に教えることは何もない」


 いやあああああああああ!


 卒業シーズンの春、学長室に呼び出された私は、目の前で執務机に座る学長とその後ろに立つ教頭に引きつった笑顔を向けつつ、心の中で絶叫を放った。


 困る。今、このアカデミーから卒業して社会に放り出されるのは非常に困るのだ。


 私は筋金入りの貧乏で、孤児である。なので、卒業しても帰る家がない。

 孤児だった私は子供の時分、ここ王都ランカークスから徒歩で数日は離れた田舎町の教会に付属している小さな孤児院で育てられた。


 いろいろな幸運が重なり、私は孤児院を出て王都にある我が国最高峰の学び舎、王立アカデミーに入学することができた。全寮制で、成績優秀なら学費なし。朝と夜の二食付き。貧乏元手なしの私には夢のような場所である。


 というわけで、行くあてのない私はまだまだアカデミーの世話になる気満々だった。なんだったら一生ここにいたいくらいだ。


 そもそもこのアカデミーに入ったのは、孤児で貧乏な私が貧乏スパイラルから抜け出すために、自分で黄金を作れるようになろう!と思ったからなのだ。

 私はこのアカデミーで、何としても黄金の作り方をマスターし、お金持ちになって、孤児だった私を拾って育ててくれた田舎の教会の孤児院に恩返しをする。そして田舎町に小さな店を構え、町の人の役に立つ薬でも作って売りながらのんびり暮らす。という人生設計を立てていた。


 しかしながら、未だ黄金の作成方法の確立ができていない今日、なぜか私は「学び舎にてよく学び」、「教えることは何もない」ほどになったので卒業だという。正直、まさか今年、学士号を拝し、この私が卒業生になるとは思わなかった。

 私のささやかな将来の展望は、目の前にどっしり座している学長によって粉々に打ち砕かれてしまったのだ。


 絶望に打ちひしがれ、顔面蒼白になった私に全く気付かない学長は言葉を続ける。


 「多くの科目で優秀な成績を収めた其方ならどこへ出しても恥ずかしくない。アカデミーのような狭い世界で『井の中の蛙』になるを良しとせず、広く大海原に漕ぎ出し世の中のために其方の力を存分に発揮してくれ」

 「……はい」


 こうして、衣食住のお世話があり(衣は制服が支給されるのでオシャレしなければタダ)黄金作成の研究だけしていればよかった夢のようなアカデミー生活は終わりを告げた。


 「……あー、それでだな、マルガレット君」


 がっくりと肩を落とし学長室を辞去しかけた私に、遠慮がちに声をかけてきたのは、学長の後ろに直立不動で控えていた教頭先生だった。


 「なんでしょう?」

 「アカデミーを卒業した後、どのように生活するかすでに決めているかね?」


 一応、卒業生発表の時期が近づいた冬の終わり頃に進路希望みたいなものは幾人かの教授に聞かれた。

 その際私は『引き続きアカデミーにとどまり、錬金術の研究を続けたいです』と答えた。私の答えを聞いた教授たちは『マリーちゃんが引き続き残ってくれるなら研究の助手を雇わなくて済むわ~』とか『困ったらうちの研究室においで。甘い言葉に騙されて騎士団とか王宮とかに就職したら駄目よ』とか嬉しいことを言ってくれていたので、今年の卒業はないだろうと予想し、完全に油断していたのだ。もちろん卒業後の進路なんて全く決めていない。


 「いいえ、まったく決めていません」


 私の答えを聞いて危機感のなさに呆れるかと思ったが、教頭先生は私の予想に反し、ホッとしたように息を一つ吐いた。


 「おお!それならば我々から一つ提案がある。街のはずれに、わがアカデミーが管理している薬草園がある。そこの管理人が定年退職で辞めてから管理者がいなくてな。薬草園の管理をしつつ、たまにアカデミーで学生に講義をしてやってくれぬか?」


 ……なんと!衣と食は仕方ないが、なんとか住は確保できそうだ。


 「はい。ぜひお願いいたします」


 学長の死の宣告(?)に失意のどん底に陥り、がっくり落ちた肩は、教頭先生の素晴らしい提案により見事V字回復を果たし、満面の笑みで学長室を後にした。



 こうして私、マルガレットは、王都郊外のアカデミーの薬草園管理人兼非常勤講師の職を得、六年間通ったアカデミーを卒業したのだった。

いきなり卒業シーンからです。突然卒業を告げられたマルガレット。次回は薬草園の管理小屋の整理とお仕事確保のため、街へ繰り出します。

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