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第十五章 欠けていたピース

強い人が、いつも強いとは限らない。

支える側も、いつも強いわけじゃない。


お久しぶりです。もくそんです。

今回の章は、逃げた二人がもう一度向き合う話です。

綺麗な言葉じゃなく、少し痛い本音がぶつかります。


最後まで読んでいただけたら嬉しいです。



「嘘じゃない。鈴野さんは、君のことを必要としてる」


 放課後の廊下で、武田くんはそう言った。


 それだけだった。


 それ以上、何も言わなかった。


 その“何も言わなさ”が、逆に重かった。


 ――必要としてる。


 本当に?


 あの病室で、「帰って」って言ったなぎさが?


 あの目は、拒絶じゃなかった?


 帰り道も、夜も、次の日も、その言葉が頭から離れなかった。


 練習中、笛の音が遠い。


 ボールが飛んでくる。


 体は動くのに、心がついてこない。


 “必要としてる”


 もしそれが本当なら。


 私は、あのとき何をした?


 逃げた。


 目を逸らした。


 強いなぎさしか知らなかった。


 強いなぎさしか見ようとしなかった。


 弱いなぎさを前にして、私は固まった。


 どう支えればいいのか分からなかった。


 壊れそうなものに触れるのが怖かった。


 だから、離れた。


 三日目の帰り道、足が止まった。


 このまま逃げ続けたら、きっと一生後悔する。


 拒絶だったのか、悲鳴だったのか。


 ちゃんと、ぶつからないと分からない。


 怖い。


 でも行く。


 決めた。



 放課後。


「武田くん」


 声をかける。


「……行こうと思う」


 目を逸らさず言う。


「でも、一人じゃ心細い」


 正直に。


「一緒に来てくれる?」


 武田くんはうなずいた。


「うん」


 それだけ。


 何も言わない。


 それが、ありがたかった。



 病室の前。


 心臓がうるさい。


 逃げたい。


 でも逃げない。


 コン、コン。


「入るよ」


 扉が開く。


「武田くん」


 なぎさが顔を上げる。


 そして、私を見る。


 目が揺れる。


「……さち?」


 その声が、もう弱い。


 私は息を吸う。


 でも、その前に。


「ごめん」


 なぎさが先に言った。


 強がろうとして、崩れた声。


「この前……あんな言い方して」


 視線が落ちる。


「余裕、なかった」


 唇を噛む。


「強くいなきゃって思ってた」


「さちに、あんな自分見られたくなかった」


 涙が落ちる。


「みっともないし、悔しいし、情けないし」


 声が震える。


「立てない自分を、認めたくなかった」


 胸が締めつけられる。


「だから……あんな言い方しかできなかった」


 私は、やっと理解する。


 あれは拒絶じゃない。


 あれは、崩れないための最後の壁。


 でも。


 それでも。


「……傷ついたよ」


 自分でも驚くくらい、まっすぐ出た。


 なぎさが顔を上げる。


「傷ついた」


 涙がこぼれる。


「分かってた。なぎさが本気で言ってないことくらい」


「でも、あの瞬間、私いらないって言われた気がして」


 声が震える。


「私、怖くなった」


 なぎさの目が大きく揺れる。


「どう支えればいいか分からなくて」


「強いなぎさしか知らなかったから」


「弱ってるなぎさの隣に立つ勇気がなかった」


 涙が止まらない。


「私、逃げた」


 息が荒くなる。


「なぎさが一番苦しいときに、逃げた」


 なぎさが首を振る。


「違う」


 涙を流しながら。


「違わない」


 私は首を振る。


「私、怖かった」


「壊れそうななぎさを見て、何もできない自分が嫌だった」


「だから距離取った」


 言ってはいけない本音まで出る。


「正直、重いって思った」


 空気が止まる。


 なぎさの表情が凍る。


 でも、逃げない。


「でもそれ、なぎさが重いんじゃない」


「私が弱いだけ」


 声が崩れる。


「覚悟がなかっただけ」


 なぎさの涙が止まらない。


「……いてほしかった」


 震える声。


「でも、さちに嫌われるのが怖くて」


「離れられるのが怖くて」


「先に突き放した」


 胸が潰れそうになる。


「さちがいなくなったら、私、本当に一人になる」


 その言葉が刺さる。


 私は一歩近づく。


「一人にしない」


 はっきり言う。


「逃げたけど、戻ってきた」


 涙が落ちる。


「なぎさが強くなくてもいい」


「泣いてもいい」


「立てなくてもいい」


「情けなくてもいい」


 声が震える。


「それでも、私はなぎさの隣にいたい」


 なぎさが崩れる。


「……私、必要?」


 消えそうな声。


「必要だよ」


 迷いなく。


「なぎさがいないと、私は無理」


「部活とか関係ない」


「強い弱いも関係ない」


「なぎさじゃないと嫌」


 次の瞬間、なぎさが抱きついてくる。


 強く。


 必死みたいに。


「さちがいないと、私も無理」


「いなくならないで」


 嗚咽が混じる。


「もう強くなんていられない」


「強くなくていい」


 私は抱きしめ返す。


「一緒に弱くなろ」


 涙が止まらない。


 ぶつかって、えぐれて、でも離れない。


 それが本物だと、やっと分かった。


 少し離れたところで、武田くんが小さく息を吐く。


「……よかった」


 三人とも、泣きながら笑う。


 完璧じゃない。


 傷は消えない。


 でも。


 壊れてなかった。


 欠けていたピースは、ちゃんとここにあった。

十五章は、なぎさとさちが“親友”という言葉を飾りではなく、自分で選び直す章でした。


本音は綺麗じゃない。

重いし、怖いし、逃げたくもなる。


でも、それでも戻ってきた。


二人の関係はここからやっと、本当の意味で始まります。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


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