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【11000PV超!!ありがとうございます!】破滅の夜に溺れた悪役令嬢は、母になっても溺愛されます!  作者: 愛龍


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6

5年目………ランティスは地方視察という名目で、小さな街に足を踏み入れていた。


夕暮れの石畳。

橙の光が街角を染め、パン屋の甘い香りと笑い声が漂う。

どこにでもある平和な光景―だが、

その中に「懐かしい気配」を感じて、

彼の足がふと止まった。


……風の鈴亭。


古びた木の看板の宿。

軒先からは食堂の明かりが漏れ、

その光の中に―彼女がいた。


銀の髪がランプの灯りを受けて柔らかく輝く。

忙しそうに皿を運びながら、

客たちに笑顔を向けている。


――アイリス。


胸の奥から、

張りつめていた何かが一気に崩れ落ちた。

呼吸が乱れ、

喉の奥が熱くなる。


(……変わらない。)


姿も、声も、あの優しい微笑みも。

夢に何度も見た“彼女”が、

今、目の前にいる。


やっと会えた。


どれだけの夜、

この瞬間を願ってきただろう。

「元気だったか」

「なぜ、いなくなった」

「どれほど探したと思っている」

そう言いたいのに、

喉が詰まって声が出ない。


ただ、ただ、

彼女の姿を目で追うしかできなかった。


その時――


「かぁ様! お仕事、終わる?」


小さな声が食堂の隅から響いた。

振り向くと、

四歳ほどの少年が彼女の足元に抱きついていた。


黒い髪、白い肌、

無垢な瞳が母親を見上げる。


アイリスは微笑んで、

しゃがみこんでその頭を撫でた。


「もうすぐよ。待っててね、セレス。」


……セレス?


胸の奥が、きしむ音を立てた。


―結婚したのか?

―他の男と?

―その子は……その男との……?


問いが次々に浮かび、

息が苦しくなる。

心臓が、痛いほどに早く打つ。


彼の知らない世界で、

彼女は別の誰かと生きてきた……


そう思った瞬間、

視界が滲んだ。


だが、少年が顔を上げたとき。


ランティスの呼吸が止まった。


その瞳の色。

その幼い顔立ち。


まるで、昔の自分をそのまま写したようだった。


(……まさか。)


時間が止まる。

心臓が音を忘れる。


(……俺の……子……?)


喉の奥から、

言葉にならない息が漏れた。


掴みきれない現実に、

ただ立ち尽くすことしかできなかった。


その時、

アイリスがふとこちらを見た。

目が合う。


グラスを持つ手が震え、

その紫の瞳が驚きに見開かれる。


「……ラン……ティス様……?」


彼の名前を呼ぶ声が、

揺れる灯りの中で確かに届いた。


五年分の時が一瞬で溶けていく。


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