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【11000PV超!!ありがとうございます!】破滅の夜に溺れた悪役令嬢は、母になっても溺愛されます!  作者: 愛龍


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3

あの夜から五年――。


アストゥリア王国の南端、風と森に包まれた小さな街。


穏やかな空の下で、アイリス・ウィンディアは息子と暮らしていた。


朝の陽光がカーテンの隙間から差し込み、柔らかな光が木の床を照らす。

「かぁ様、起きて!」

小さな声に目を覚ますと、ベッドの上には金色の陽を背にした少年が笑っていた。


「……セレスティ、もう朝なの?」

「うん!もうお日さま登ってるよ!」

笑顔で布団を引っ張る息子に、アイリスは小さく笑う。


その仕草も、声の響きも、どこか―幼いあの日の彼に似ていた。


胸の奥が少し痛む。

けれど、悲しみではない。

息子が自分の手で幸せに育っていること、それが彼女の誇りだった。


テーブルの上には、昨夜のパンと野菜のスープ。

質素でも、そこには幸福があった。


外では、鳥が鳴き、街の人々が店を開く声が聞こえる。

ここでの暮らしは穏やかで、何より“普通”だった。

侯爵家の娘としてではなく、ただの母として生きる日々。


洗濯と掃除を終わらせのんびりとした昼下がり、扉を叩く音がした。


ドアを開けると、

「やあ、元気にしていたか?」


そこに立っていたのは、兄――アレックス・ウィンディアだった。

変わらず落ち着いた優しい笑みを浮かべる。


「兄様……!」

思わず声が弾んだ。

アレックスは微笑み、アイリスの頭に手を置く。

「少しは顔色が良くなったな。風邪大丈夫か……セレスティも、久しぶり。」


「おじさま!」

セレスティが駆け寄り、アレックスの脚に抱きついた。

「はは、力が強くなったな。さすが男の子だ。」


三人で囲む小さな食卓。

アレックスは静かに紅茶を口にしながら、窓の外の風景を見つめた。

「……平和だな。」

その一言に、アイリスは微笑む。

「ええ。ここにいると、時間がゆっくり流れているようです。」


湯気の立つ紅茶の香りが、静かな部屋に広がっていた。


アレックスはカップを置き、ゆっくりと妹を見た。

「……父上も母上も、理由は知ってはいるけど……」

一拍おいて、穏やかに続ける。

「戻ってくるつもりはないのか?」


その問いに、アイリスは少しだけ笑みを浮かべた。

「いいの。仕事もあるし、今の生活……楽しいから。」


アレックスは目を細め、妹の顔を見つめる。

彼女の瞳の奥に、確かに幸福が宿っている。

けれど同時に、そこにはどこか“触れたら壊れてしまいそうな静けさ”も見えた。


「……そうか。」

彼は短く答え、視線をカップに落とす。

その仕草が、少し寂しげに見えた。


セレスティが無邪気に笑いながら、外で小さな木の剣を振り回している。

「見ておじさま! ぼく強くなったでしょ!」

「おお、立派だな。母上を守れるようになれよ。」

その声に、アイリスは笑みをこぼす。


「……あの子がいるだけで、十分なんです。」

小さく呟いたその言葉に、アレックスの胸が締めつけられる。

彼女がどれほど強がっていても、夜の静けさの中で泣いているのを知っている。


それでも、アイリスの笑顔があまりにも穏やかだったから、何も言えなかった。


「……父上も母上も、ずっと心配している。

でも―その笑顔を見ると、何も言えなくなるな。」


アイリスは静かに頷いた。

「ありがとう、兄様。」


断罪のない世界で普通に生きていく………それがアイリスの幸せだった。





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