エピローグ
夕陽が沈み、王都の外れを抜ける馬車の中は、橙から薄紫へと移り変わる柔らかな光に包まれていた。
道の起伏に合わせて、車輪が静かに揺れる。
ランティスは膝の上で眠る小さな息子―セリスの頭を、優しく撫でていた。
寝息は穏やかで、その胸の中で小さな世界が静かに呼吸しているようだった。
「……よく頑張ったな。」
囁くように言い、ランティスは指先でセリスの髪を整える。
少年はわずかに身を動かし父の膝に頭を寄せた。
窓の外には、修復を終えた神殿の塔が遠くに見える。その姿はもう、闇ではなく“祈り”の光を宿していた。
隣に座るアイリスが静かに微笑む。
ランティスは彼女の指先を取り、言葉を紡ぐ。
「アイリス……」
ゆっくりと彼女の名を呼び、深い青の瞳が細められる。
「……愛してる。」
その声は、低く、温かく優しかった。
アイリスの頬が淡く染まり、視線が絡む。
そして、ランティスはそっと彼女の唇に触れた。
短い、けれど確かな口づけ。
それは“今、生きている”という確信。
唇を離すと、彼は微笑みを浮かべた。
「ずっと……君と物語を紡ぎたい。」
馬車の外では花が夜風に揺れ、遠くで虫の音が響く。
その音に包まれながら、アイリスは静かに目を閉じた。
「……私もです、ランティス様。」
貴方となら永遠さえ信じられる。
こうして、二人の作られた“断罪の物語”は終わる。
この先紡がれるのは自ら作り出す愛の物語……
断罪令嬢の逆転ラブストーリー完結です。ご愛読ありがとう御座いました。




