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【11000PV超!!ありがとうございます!】破滅の夜に溺れた悪役令嬢は、母になっても溺愛されます!  作者: 愛龍


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18

ランティスは鎧を纏、神殿へ向かう支度を終えると、広間の扉を静かに開いた。

そこには父と母。そしてセリスを抱きしめるアイリスの姿があった。


「……ランティス様……」

 彼は答えず、そっと彼女を抱き寄せた。

 その胸に、戦場の冷たい気配が滲んでいる。


「すぐに終わらせる。」

 低く、確かな声。

「セリスを……頼む。」


 アイリスの喉が詰まる。

 けれど、逃げられない現実を悟り、静かに頷いた。

「……わかりました。」


 その言葉を背に、ランティスが立ち上がろうとしたとき―


「…………とうさま。」


セリスが黒髪を揺らして顔を上げる。

幼い瞳の奥に、奇妙な光が宿っていた。


「僕を……連れて行って。」


 「セリス……!」

 アイリスが制止するより早く、少年は言葉を続けた。


「僕が……あれを閉じられるから。」


 その瞬間、ランティスの胸に冷たい衝撃が走る。

 まるで“運命”が、子へと受け継がれているかのように。

 

「わかった。けどけして父から離れるな。」


 セリスは唇を噛み、俯いた。

 ランティスはその小さな頭に手を置き、微かに笑う。


――その頃、神殿。


 黒い霧が渦巻き、聖堂の天蓋を覆っていた。

 神殿は崩壊し、地面の亀裂から“それ”が這い出してくる。

 獣とも竜ともつかぬ形の魔獣たち。

 赤い瞳が夜気を裂く。


「陣形を整えろ!」

 騎士団長エルヴィンの号令が響き、鋼の音が連なった。


 光の弓矢が放たれ、眩い矢光が魔獣の胸を貫く。


「マリア様、後方へ――!」

「いいえ!」

 マリアは声を張り上げ、再び矢を番える。

 金の髪が光に散り、神聖な炎のように揺れた。

「聖女がいないなら、私が守る!」


 その隣で、リュオネスト皇太子が風の紋章を展開する。

 「――風よ、盾となれ!」

 旋風が巻き起こり、吹き荒れる砂塵の壁が魔獣を押し戻す。


 騎士たちが一斉に剣を掲げ、魔力を宿した刃で黒い躯を切り裂く。

 火花と血と祈りが入り混じる中――

 天から一筋の光が差した。


 そこに、漆黒の鎧のランティスが降り立つ。

 月を背にした“青の公爵”と――


「遅くなったな。」

 彼の剣が抜かれる音が、すべての混乱を鎮める。

戦場の空を裂くように、ひときわ強い光が走った。


 黒い風が神殿の外壁をえぐり、魔獣たちの咆哮が響き渡る中――

 その中心に、ランティスの背に隠れるようにして、小さな少年が立っていた。


「……セリス、頼むぞ」

 剣を構えたまま、ランティスが振り返る。

 

 少年の瞳は揺らがない。


 その瞳は、母譲りの紫の光を湛えていた。


「とうさま

 この“扉”、光で閉じることができる。」


 その声が響いた瞬間、神殿の空気が変わった。

 まるで時間が一瞬止まったかのように――風も、炎も、騎士たちの息づかいも。


 セリスの小さな足元から、金色の光が広がる。

 眩い粒子が宙に舞い上がり、それはやがて形を取った。


 ――白と金の毛並みを持つ、巨大な狼。

 その瞳は穏やかに輝き、少年の前で静かに頭を垂れる。


「光の……聖獣……!」

 マリアが息を呑んだ。

 本来なら、聖女リンカが従えるはずの神獣。

 しかし今、その加護は幼い少年に宿っている。


 セリスは震える手を伸ばし、狼の額に触れた。

 「お願い。あれを……閉めて。」


 扉の奥から吹き出す黒い瘴気が、悲鳴のように唸る。

 狼が咆哮を上げた。


 金色の閃光が奔り、雷鳴が神殿を貫く。

 大地が裂け、天が鳴き、そして――

 光が、闇を押し返す。


 扉に刻まれた魔界の紋章が、一つ、また一つと崩れ落ちていく。


 黒い光が引き裂かれ、金の鎖がそれを縫い止めた。


 「……セリス!」

 ランティスが叫ぶ。

 その声に応えるように、少年は力を振り絞り、指先を扉に向けた。


 ――雷撃のような光柱が落ちる。

 神殿が白く染まり、闇の扉は轟音と共に閉ざされた。


 金と白の狼が咆哮を止め、静寂が戻る。

 セリスは力尽き、父の腕の中に崩れ落ちた。


 「よくやった……。セリス。」

 ランティスの声は震えていた。

 その胸に抱かれた少年の小さな手は、まだ微かに温かい。


 マリアは震える指先で光の残滓を見つめる。

 「……やっぱりこの世界はゲームじゃないのよ」


 そう呟いた彼女の瞳に映るのは、聖女リンカではなく―

 運命を切り開いた“母の子”の絆の新たな光の継承者だった。


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