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薄く差し込む朝の光が、
レースのカーテンを透かして柔らかく部屋を満たしていた。
夜明けの静けさの中………鳥の声が遠くで響く。
婚礼の夜を終えた公爵の寝室は、
温もりと安らぎに包まれていた。
ベッドの上では、
アイリスが穏やかな寝息を立てている。
その頬には昨夜の涙の跡がうっすらと残り、
けれど表情はどこまでも安らかだった。
ランティスはその寝顔を見つめ、
静かに微笑んでいた。
(……愛してる。アイリス)
彼の胸には、ようやく掴んだ“家族”という確かな温もりがあった。
そんなとき――
「とーさま、かあさま、朝ごはん呼びに来たよー!」
軽いノックの音と共に、
幼い声が扉の向こうから響いた。
ランティスは目を細める。
「……セリスか。」
勢いよく扉が開く。
黒髪の小さな少年が、笑顔で部屋に駆け込んでくる。
「おはよう!」
セリスはベッドの端に飛びつこうとした―
その瞬間、後ろから慌てた声が響く。
「お坊ちゃまっ! お待ちくださいませ!」
侍女のナディアとアーニャが血相を変えて追いかけてきた。
だがランティスは手を上げ、静かに制した。
「構わない。」
そう言って、セリスをひょいと抱き上げる。
「わっ!」
驚くセリスを腕に乗せ、
その小さな頭を軽く撫でた。
ランティスは微笑み、
人差し指を唇に当てて“しーっ”と静かに合図した。
「母様は疲れているから、
今日は少し寝かせてあげよう。」
「うん?」
「父様と一緒にご飯を食べような。」
「はーい。」
セリスは嬉しそうに頷き、
ランティスの首に小さな腕を回した。
その光景に、
ナディアは思わず口元を手で押さえた。
(……あの無表情だった公爵様が……)
目を細める優しい笑み。
まるで長い冬を越えた陽だまりのようだった。
ランティスは寝台を一度振り返る。
アイリスはまだ眠ったまま。
その頬には光が差し、白い花のように静かに揺れている。
(……君がいて、セリスがいる。それだけでいい。)
ランティスは静かに立ち上がり、
息子を抱いたままドアへ向かった。
扉が閉まる直前、
朝の光が二人の背に差し込む。
小さな笑い声が廊下に響き、
それが、公爵家の新しい朝の始まりを告げていた。




