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からくり紅万華鏡ー餌として売られた先で溺愛された結果、幽世の神様になりましたー  作者: 霞花怜(Ray)
第四章 幽世からの試練

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98. 帰還の報告

 風ノ宮の広間に入って、一番最初に蒼愛と紅優を見付けてくれたのは、やっぱり日美子だった。

 声を上げる暇もなく、日美子が蒼愛に抱き付いた。


「……心配ばっかりかけて、悪い子だよ」


 絞り出した声が泣きそうで、申し訳なさでいっぱいになる。

 隣に立った月詠見が蒼愛の頭を撫でてくれた。


「無事に帰ってきて良かった。本当に良かったよ」


 いつもよりずっとずっと優しい眼差しに、目が潤んだ。


「心配かけて、ごめんなさい、お母さん……」


 呟いて、思わず顔を上げた。

 驚いた顔の日美子と目が合った。


「ちがっ、違うんです。その、僕、初めて会った時から日美子様みたいな人がお母さんだったらいいなって思ってて、それで、あの、無意識に出ちゃって、……ごめんなさい」


 顔が熱くて、俯く。

 目だけを上げると、日美子が可笑しそうに笑った。


「いいよ。私らは紅優の親代わりなんだから、私は蒼愛の母親さ。そんな風に思ってくれて、嬉しいよ」


 日美子が蒼愛の目をなぞった。


「記憶も、戻ったんだね。初めて会った時もちゃんと、覚えてるんだろ」


 蒼愛は何度も頷いた。


「最初に食べさせてもらったのが煉切で、日美子様にあーんしてもらったことも、水ノ宮で月詠見様にチョコをあーんしてもらったり、淤加美様にマシュマロをあーんしてもらったり、ケーキを食べたのも、全部覚えてます!」

「お菓子ばっかりだね」


 月詠見に指摘されて、しまったと思った。


「お菓子以外のことも、ちゃんと覚えてます! キツネの着ぐるみも、本もパズルも嬉しかったから!」


 必死に伝えていたら、前のめりになった。

 そんな蒼愛の頭を月詠見が優しく撫でる。


「よしよし。じゃぁ、また美味しいお菓子とプレゼントを、お父さんとお母さんが用意してあげようね」


 蒼愛の前髪を上げて、額にキスをする。

 月詠見にこんな風にされたのは初めてで、ドキッとした。


「蒼愛! 兄貴にも、ちゃんとタダイマってしろ! ほら!」


 火産霊が蒼愛に向かって腕を伸ばす。

 蒼愛は立ち上がって火産霊に向かってジャンプした。

 蒼愛の体を火産霊が受け止めた。


「ただいま、火産霊様。じゃなくて、お兄さん」

「おう、おかえり」


 言いながら、火産霊が蒼愛に頬擦りした。


「心配したんだぜ。紅優も大変だったが、蒼愛も大変だったな」


 蒼愛は、空の散歩の時を思い出していた。

 大蛇の領土を焦土にしようとした紅優を必死に止めてくれたのは、火産霊だ。


「あの時、紅優を止めてくれて、ありがとう。火産霊様じゃなきゃ、きっと紅優は止まれなかった」


 遠巻きに蒼愛を眺めていた紅優に視線を向ける。

 紅優が小さく笑んで俯いた。


「そうだね。火産霊がいなかったら、俺は今ここに居なかったかもしれないね」


 紅優自身もあの行動が間違いだったと気が付いているんだろう。

 それだけでも良かったと思った。


「俺は紅優と蒼愛の兄貴だ。弟を助けるのは当然だろ。また火ノ宮に遊びに来いよ」

「必ず行く。佐久夜様の花畑を観に行くって、紅優と約束したんだ」


 火産霊の視線が紅優に向く。

 紅優が静かに頷いた。


「そうか。二人で来てくれんのか。そん時は俺も一緒に、佐久夜の花畑を眺めるとするか」

「うん! 井光さんと紅優と火産霊様と、皆で観よう」


 紅優の隣で、やはり遠巻きに蒼愛を眺めていた井光が意外な顔をした。


「私もですか?」

「井光さんは、紅優と佐久夜様をよく知っていると思うから、きっと一緒が良いと思うんです。紅優も、その方がいいでしょ?」


 紅優が、はにかんだ。


「そうだね。もう一度、井光さんや火産霊と一緒に、佐久夜の思い出を探したいな」


 紅優が井光を振り返る。

 優しい虎の目が笑んだ。


「主様のご要望に応えるのも側仕の仕事です。連れて行ってくださいませ」


 井光が小さく頭を下げた。


「その後はまた炎の術の練習でもするか?」


 火産霊が蒼愛の体を高く上げる。

 あまりにも高くてクラクラするが、今日は楽しい。


「うん、する! 火産霊兄さんの術、沢山教えて!」


 火産霊に抱きあげられる蒼愛を眺めていた淤加美が、ぽつりと零した。


「みんな、兄とか父とか、いいなぁ。私も蒼愛にそんな風に呼ばれたい」


 火産霊の腕から下りて、蒼愛は淤加美に駆け寄った。


「ご報告、遅くなってごめんなさい。ちゃんと帰って来れました。心配かけて、ごめんなさい」


 淤加美が蒼愛の額に口付けた。


「おかえり、蒼愛。心配はしたけれどね。信じていたよ。幽世にまで好かれてしまうなんて、困った子だね」


 蒼愛の体を抱き寄せて、包み込む。


「あの、淤加美様は僕の神様です。それだけじゃ、ダメですか?」


 ちらりと淤加美を見上げる。

 淤加美が首を傾げている。納得いかない様子だ。


「今となっては紅優や蒼愛の方がよっぽど高位の神様だからね。私の永遠の祝福が無意味になってしまったよ」


 そういえば、蒼愛と紅優が淤加美の与えた試練を頑張っていたのは、永遠の祝福のためだった。


「確かになぁ。俺でも与えられるけど、自分より高位の神に与えるもんじゃねぇよな」


 火産霊がカラカラと笑った。

 蒼愛が水の属性で、紅優が火の属性だから、淤加美と火産霊なら永遠の祝福は与えられるが。

 蒼愛はまた紅優に目を向けた。


「そうだね。俺たちは貰うより、与える側になっちゃったね」


 紅優が眉を下げて笑った。

 ついさっき、幽世の御墨付を貰ったばかりだ。これ以上の祝福はない。

 そういう意味でも永遠の祝福は必要ない。


「むしろ私の方が、蒼愛に父や兄のような称号を貰いたいな」


 淤加美が期待に満ちた目で蒼愛に迫った。

 父や兄は称号ではないと思うが。月詠見や日美子や火産霊が、余程に羨ましかったらしい。

 蒼愛は、淤加美の肩書を、じっと考えた。


「僕の淤加美様のイメージは、お父さんとお兄さんの間……って感じです」


 淤加美に対する蒼愛の感覚は、そんな感じだ。


「父と兄の間ねぇ。おじさん、じゃないかい?」

「従兄弟とかかなぁ」


 日美子と月詠見の言葉に、淤加美が普通にショックな顔をした。


「ちょっと遠いね。もっと感覚的に近い方が嬉しいのだけれど」

「俺と同じで兄貴でいいんじゃねぇか。淤加美は兄貴って感じでもねぇけど」

「火産霊と同じか……」


 淤加美が納得いかない顔をしている。


「ちなみに志那津は、何なんだい?」

「友達です。自分からお友達になってってお願いした、初めての友達です。あとね、スゼリとも友達になったんですよ。月詠見様と日美子様がくれたパズル、三人で完成させるんです!」


 嬉しそうに語る蒼愛を淤加美が撫でてくれた。


「友達か。蒼愛は志那津とも仲良くなってくれたんだね。嬉しいよ。スゼリとも仲良くなれたんだね。流石、蒼愛だ。三人は、きっと良い友達になれるね」


 淤加美が褒めてくれたのも嬉しかったが、安心した顔をしてくれたのが、もっと嬉しかった。


「なるほど、蒼愛様の神誑し振りが、よくわかりますね。記憶を失くしていた時とは別人のようです」


 井光がぽつりと何かを呟いていた。


「わかりますか、井光さん。俺の心労をわかっていただけますか。可愛く育ってくれて嬉しい反面、誰にでも好かれてしまうんですよ。魅了も使っていないのに」


 紅優が顔をしかめてやはり何か言っている。

 

「スゼリ、こっちにおいで。アンタも蒼愛におかえりって言ってやんな」

「いいんですか?」

「いいに決まっているだろ、ホラ」


 日美子がスゼリを連れてきた。


「蒼愛、おかえり。心配、した」

「ごめんね。ちゃんと帰ってきたよ。パズルの続き、一緒にやろうね」

「うん……」


 頷いたスゼリの顔が歪んで、ポロポロと涙が流れた。


「また、居なくなっちゃうって……。僕が大切だと思う相手は、皆、僕の前から消えちゃうって……。帰って来なかったら、僕のせいだって、僕が蒼愛と仲良くなったから、だから……」


 蒼愛はスゼリの腕を掴んだ。


「違うよ。僕がいなくなっても、スゼリのせいじゃないよ。心配かけて、ごめん。もう二度と、そんな風に思わせないから。僕はもう、どこにも行かないから。ずっとスゼリの友達として、側にいるよ」


 蒼愛はスゼリの頬に口付けた。

 スゼリが驚いた顔で蒼愛を眺めた。


「あのね、これね、スキンシップなんだって。霧疾さんが教えてくれたんだよ。僕はスゼリともっと仲良くなりたいって、思うよ」


 笑いかけたら、スゼリの頬が赤く染まった。


「僕も、蒼愛ともっと仲良くなりたい。また一緒にお風呂、入りたいよ」

「うん! 一緒にお風呂入ろう」


 後ろからちょんちょんと突かれて、蒼愛は振り返った。


「蒼愛、私にもスキンシップ、してくれるかい?」


 淤加美が満面の笑みで自分の頬を指さしている。


「良いですよ。淤加美様とも、もっと仲良くなれるように、チュッてします」


 指さされた頬に口付ける。

 淤加美が満足そうに笑んだ。


「いけません! 蒼愛! そのスキンシップはもう誰にもしちゃいけません!」


 蒼愛を止めようと前に出た紅優より早く、井光が動いた。


「蒼愛様には、ある程度の教養と教育が必要なようですね。悪気がない分、知識のなさが仇になっているようです。改善してまいりましょう」


 いつの間にか井光に抱き上げられていた。

 早すぎて、全然わからなかった。


「えー? そのアンバランスさが良いのになぁ。改善しちゃったら詰まらないよ」


 月詠見が半笑いで井光を見上げる。


「蒼愛は馬鹿じゃねぇぞ。地頭は良いし、理解も早い。器用だからすぐに覚えるしな」


 火産霊がフォローしてくれた。


「それは結構です。教育し甲斐があります」

「井光さんが勉強を教えてくれるんですか?」


 蒼愛の問いに井光がこくりと頷いた。


「瑞穂国で生きるために必要な知識を現世の分も含めて、私とお勉強してまいりましょう」


 蒼愛の中にワクワクが膨らんだ。


「僕、勉強できるの、楽しみです! よろしくお願いします。漢字を覚えて本を読めるようになりたいんです!」


 期待の眼差しを井光に向ける。

 井光の表情が一瞬固まった。が、すぐに笑いを零した。


「神々が贔屓にする気持ちがわかりますね。これは確かに、可愛らしい」


 蒼愛は井光の頬にも口付けた。


「井光さんは紅優の味方をしてくれる優しい虎さんなので、僕も、もっと仲良くなりたいです」


 ニコリと笑んだ井光の頬がちょっとだけ赤い。


「嬉しいですが、このスキンシップは今後禁止です。後ろで紅優様が泣いていらっしゃいます」

 

 言われて後ろに目を向ける。


「蒼愛のキスが安売りされていく。俺にしかしなかったのに」


 紅優が項垂れて泣いてた。

 蒼愛は蒼くなった。


「もうしません。紅優を悲しませるようなスキンシップはしません」

「理解が早くて、結構です」


 井光の笑顔が怖いな、と思いつつ、やっぱり井光は紅優の味方なんだと思った。

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