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からくり紅万華鏡ー餌として売られた先で溺愛された結果、幽世の神様になりましたー  作者: 霞花怜(Ray)
第四章 幽世からの試練

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76. 風が届けた声

 蒼愛はパズルに集中していた。

 そのため、周囲の声が耳に入っていなかった。

 だから、途中から紅優が抜けていたことも、紅優が利荔と談笑しながら休憩している間にスゼリと日美子が来ていたことも、紅優がスゼリとパズルを再開したことも、全く気が付かなかった。


「意外と早いな。得意なのか?」

「パズルは知ってたけど、初めてやったよ。興味なかったから」

「じゃぁ、何で来たんだよ」

「蒼愛様が誘ってくれたからだけど。友達だから会いに来たんだよ」

「来いと言ったのは、俺だ」

「パズルやろうって僕を誘ったのは、蒼愛様だよ」


 志那津とスゼリの会話が聞こえてきて、蒼愛は顔を上げた。


「あれ? スゼリだ。いつの間に来てたの?」


 蒼愛に声を掛けられて、スゼリが照れたような顔をした。


「結構前に来てたけど、集中してるみたいだったから、声は掛けなかったよ」

「え? そうなの? ごめんね。でも志那津と話してたんだね。友達になれたみたいで良かった」


 蒼愛が志那津を振り返る。


「別に友達ではないからな」

「僕の友達は蒼愛様だから」


 二人が、ぷいと顔を逸らす。

 息がぴったりだなぁと思った。


「随分進んだねぇ。形になってきたじゃないか」


 パズルを覗き込んで、日美子が感心した声を上げた。


「日美子様、こんにちは。いつの間にか、こんなに出来てた」


 日美子に挨拶しつつ、全体を眺める。

 もう三分の一程は完成しただろうか。


「やっぱり、最初と絵柄が違うね。また地図みたいな絵になった」


 今日、パズルを始めた時は、写真のような絵だと思った。

 作っている途中から絵柄が変わって、初日に見た地図のようになった。


「だが、初日の地図とも違うな。地色が灰色だ。初日は生成だった」


 志那津の指摘に蒼愛は頷いた。


「絵柄が変わっても、作るのには問題ないね。合うピースを探す作業は同じだし」

「そうだな。全体図がわからないのが、かえって良かった。惑わされない」


 志那津も同じ感覚で作業しているらしい。


「このピース、木でできているから触れて木目の感じを合わせたり、木の霊気を感じ取れば簡単にできるよ」

「え! そんな方法もあるんだ。凄いね、スゼリ」


 なんというか、神様ならではのパズルの遊び方だと思った。


「それはパズルの遊び方として正しいのか? 出来る奴も限られる」


 志那津の指摘に蒼愛は目から鱗だった。

 やっぱりちゃんと合うピースを探して組んでいくのが正しい遊び方なのだろうか。


「でも志那津様と蒼愛様はできるでしょ。土と風の属性なら、木の霊気を感じやすいよ」

「そうなの? じゃぁ、三人ともできるね」


 蒼愛が志那津とスゼリを眺めてニコニコする。

 二人が照れたような顔をした。


「ずっと、やりっぱなしなんだろ? そろそろ休憩しないかい? 甘味を持ってきたからさ」

「わぁい、やったぁ! 志那津、休憩しよ。スゼリも一緒にオヤツ食べよ」


 二人の手を取って縁側に向かう。

 既に茶と団子が用意されていた。

 蒼愛を真ん中にして、三人並んで茶を啜る。

 ずっと集中していたので、水分が体に沁みた。


「蒼愛は餡子が好きなのか?」

「うん、餡子系のお菓子は何でも好きだよ。餡子じゃなくても甘いお菓子は好き。お菓子じゃなくても食べるのが好き……、あれ? 何でも好き?」


 志那津の問いかけに答えながら、自分の言葉に頭を捻る。


「蒼愛は好き嫌いはないけど、餡子系の甘味がとりわけ好きだよね」

「うん、そう!」


 紅優のフォローに蒼愛は頷いた。


(やっぱり紅優は僕より僕を知ってくれてる。覚えてくれてる)


 それがとても嬉しくて、思わず笑顔で団子にパクついた。


「志那津とスゼリは、好きなお菓子とかある?」


 蒼愛の問いに、二人が同時に返事した。


「「チョコレート……」」


 ばっちり声が重なって、二人が同時に言葉を止めた。


「二人とも同じお菓子が好きなんだ! 息ピッタリだったね!」


 興奮する蒼愛に、志那津が鼻息を荒くした。


「違う、俺はチョコそのものが好きというより、本を読んだり作業に集中している時に甘いものが欲しくなって、手軽に食べられるから好きなのであって、味とかそういうのは別に」


 言い訳する志那津を、利荔が可笑しそうに眺めた。


「箱に入ってる一口サイズのチョコが好きだよね。放っておくと、大きい箱でも一人で食べちゃうから、取り上げる時、あるよ」

「そんなに食べてない! たまたまだ!」


 利荔の暴露に志那津が顔を赤くして怒っている。


「スゼリは? どんなチョコが好き?」

「……僕も、箱に入ってるのが好き。可愛いし、綺麗だから。食べるのも好きだけど、見てる方が好きだよ」


 蒼愛の問いに、スゼリがおずおずと答えた。


「スゼリは綺麗で可愛いものが好きだもんね。チョコも綺麗で可愛いから好きなの?」


 スゼリが頷く。


「食べるのも、好きだよ。日の街に、猫又がやってるチョコの店があって、そこのチョコレートが美味しいんだ」

「ああ、その店、|NYANCHOCOTTニャンチョコットだよね? 志那津様も好きな店だよ。気が合うね」


 利荔が、またも笑いながら暴露した。


「街にチョコレートのお店があるの? ちょっと意外かも」


 和風の家屋や着物が通常モードの幽世に洋風のモノがあるのが意外だった。


「そういえば、蒼愛は街に行ったことがなかったね。連れて行ってあげたいけど、もう少し先かなぁ」


 紅優が思い出したように話す。

 人生初の外出が天上の神様の宮だったので、この国の妖怪たちの一般的な生活が、蒼愛にはよくわからない。


「大人しくしているとはいえ、大蛇の奴らがどう動くか、わからないからねぇ。今、地上に降りるのは危険だろうね」


 日美子にも念を押されて、蒼愛はしゅんと肩を落とした。


「ところでさ、紅優と蒼愛は側仕を作る気はないのかい?」


 日美子に問われて、蒼愛は紅優を見上げた。

 

「あまり考えていませんね。最近まで自分が側仕のような立場でしたし、誰かに仕えられるのは、想像がつきません」


 紅優が、やんわりと否定した。


「でもさ、瑞穂ノ神って立場上、一人はいないと色々と困るんじゃないの? 形式上でも作っとくべきなんじゃない?」


 利荔の提言に、紅優が苦笑する。

 

「そうかもしれませんけど。まぁ、ゆっくり考えますよ」


 はぐらかすように紅優が言葉を締めた。


(紅優は側仕、欲しくないのかな。同じ宮に住むようになるのとか、嫌なのかな)


 もしかしたら紅優は、蒼愛と二人で暮らしたいと考えているのかもしれない。


(でも、ずっとこのままでいいって訳じゃないだろうし、いつかは側仕を作らないといけないんだ)


 二人きりの生活は、いつか終わってしまうのかと思うと、悲しく思う。


「淤加美に頼めば、紹介してくれるだろうし、紅優なら同族の妖狐もいるからね。焦る必要はないだろうけどさ。二人を守ってくれる存在は必要だよ。瑞穂ノ神なら、二人くらい側仕を置いてもおかしくはないからね」


 日美子の言葉に、紅優が困った顔で笑んでいた。

 スゼリの腕の中に居た野椎が跳ねて、蒼愛の頭に乗った。


「野椎は蒼愛が好きだけど、側仕にするわけにはいかないからねぇ」

 

 日美子が蒼愛の姿を眺めて笑う。


(野椎は伽耶乃様だから、元に戻ったら土ノ神様になるんだし、側仕ではないよね)


 スゼリが土ノ神を降りた現時点でその席が空いているのは、適任がいないだけではない。

 淤加美は、野椎を伽耶乃の姿に戻して土ノ神に迎えたいと考えているのだろう。

 蒼愛と紅優に届いた幽世の声も伽耶乃を土ノ神に欲しがった。

 空席の状態を作っても、伽耶乃以外を土ノ神に迎える気がないのだろうと思った。


(伽耶乃様が元に戻って土ノ神になったら、スゼリも少しは安心できるのかな。今よりもっと、落ち着けるかな)


 今までスゼリがしてきた悪行を考えれば、今でも充分すぎるほど優遇された処置だろうとは思う。

 日美子の宮は他の神の宮に比べたら居心地も良いはずだ。

 だが、所在なさげにしているスゼリを見ていると心配になる。


(それでも御披露目の時よりずっと気持ちが楽そうだから、良かったのかな)


 御披露目の時の、懸命に虚勢を張っている須勢理は辛そうだった。

 あの頃に比べたら、隣で団子を食んでいるスゼリの方が、蒼愛としては安心して見える。


 頭の上に乗っていた野椎が蒼愛の腕の中に降りてきた。

 体をしきりにくっつけて、頭らしき場所を蒼愛の顔にグリグリする。


「ん? どうしたの? 体、痒いの?」


 背中を摩ってやる。

 ぴたりとくっ付いた野椎の腹が、熱く感じた。


(何だろう、この熱さ。前にも感じた。……そうだ、祭祀の時、僕の目の奥の痛みを取ってくれた力だ)


 野椎の中の色彩の宝石が熱を発しているように感じた。

 耳の奥に風が渦巻いた気がした。


『……けて、助けて、くれ。苦しい……、痛い……、誰か……』


 かすかに声が聞こえて、蒼愛は立ち上がった。


「蒼愛? どうしたの?」


 紅優の声を片耳に聞きながら、さっき聞こえた声に耳を澄ます。


(知らない声だった。だけど、助けを求める声だ。酷く焦ってる。怪我を、している?)


 浅くて荒い息を繰り返している。

 蛇々に襲われて腹に木片を刺された時の芯と同じだと思った。

 蒼愛の気が尖る。


「声が聞こえる。誰かが、苦しいって、助けてって、呼んでる」


 蒼愛は声の方に走り出した。


「待て、蒼愛。声なんか聞こえないぞ! その声は、どこから……」


 叫びながら追いかけて来る志那津を振り返った。


「風が届けてくれた! 助けなきゃ! 急がないと、死んじゃう!」


 風が呼ぶ方へ、声が聞こえる方へ、蒼愛は走った。

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