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からくり紅万華鏡ー餌として売られた先で溺愛された結果、幽世の神様になりましたー  作者: 霞花怜(Ray)
第三章 瑞穂国の神々

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64.浄化術と結界術

 志那津を見送った後、蒼愛たちは早速中庭に出て訓練を始めた。

 

「蒼愛、どう?」


 紅優が短い言葉で確認する。

 蒼愛は紅優を見上げて頷いた。


「うん、多分、できると思う」

「へぇ。やっぱり、色彩の宝石の力以外は、ちゃんと把握できているんだね。じゃぁさ、まずは結界術、やってみてよ」


 利荔が感心しながら蒼愛を促した。


「やってみます」


 二人から離れて立ち、両手を自分の前に翳す。

 日と暗の神力を感じながら、体の中で混ぜ合わせた。

 目の前に転がる小石を見詰めて、閉じ込めるイメージをしながら霊力を放出した。

 小石が一瞬、宙に浮いて蒼愛が作った透明な結界に閉じ込められた。


「うん、いいね。強度も充分だ」


 結界を叩いて触れながら、紅優が満足そうな顔をした。

 利荔がそれを覗き込んで、また感嘆の声を上げた。


「充分ていうか、かなり強い結界術だよね。下手したら神様だって出るのに苦労するよ。どれくらい大きいのまで、作れそう?」


 利荔の問いに、蒼愛は考え込んだ。


「えっと、多分、この風ノ宮くらいだったら今すぐできそうです」


 蒼愛の返事に利荔が呆気に取られている。


「水の壁で作った結界は自分を守る防御壁的な意味合いが強いけど、日暗の結界術は閉じ込める意味合いが強いんだ。イメージとしては封印が近いかな。覚えておくといいと思うよ」

「うん、わかった」


 紅優の説明に、素直に頷く。


「もしかして、他の力もこんな感じで紅優が教えてたの?」


 二人のやり取りを眺めて、利荔が問う。


「そうですね。蒼愛は自分の中にちゃんと術のイメージがあるから、ちょっとアドバイスするとすぐに出来るようになって、教えるって感じでもないんですけどね」


 そう語る紅優は物足りなそうにも誇らしげにも見える。

 言葉を失くした利荔が気を取り直して蒼愛に向き直った。


「じゃぁ、浄化術も確認しとく? もう教えるって感じじゃないから、確認で良いね」


 頷いて、蒼愛は両手を上に向けた。


(前に日美子様に教えてもらった、球を作る感じ。大きさは……今ならきっと結界術と同じで風ノ宮くらいの大きさは造れる)


 とりあえず、自分の顔がすっぽりと入るくらいの大きさの球を作って、浮かせた。

 宮の屋根くらいまで飛ばす。そこで、念じた。


(弾けろ)


 球がパァンと弾けて、中から金色の光が溢れた。

 浄化の雨が中庭に降り注ぐ。


「前よりずっと強い霊力が籠ってる。これなら、大気津様の瘴気にも負けないね」


 紅優が満足そうに金色の雨を眺めていた。

 呆れたような顔で、利荔がその光景を眺めていた。


「あ! 利荔さんは妖怪だから、浄化術は危険ですよね」


 駆け寄って、利荔に降り注ぐ金色の雨を払う。

 志那津より更に背が高い利荔の頭には、どんなに飛び上がっても蒼愛では届かない。


「いや、俺も志那津様の神力を貰っているから、心配ないよ。それにしても蒼愛は凄いなぁ。想像以上だ」


 利荔が蒼愛を抱き上げた。

 高く掲げられて、目が回る。紅優より大きな妖怪に抱きあげられたのは初めてだった。


「やっぱり君たちは瑞穂ノ神と色彩の宝石なんだねぇ。明日の祭祀が楽しみだよ」


 心底ワクワクしているのが伝わってくる笑顔だ。


「あの……、利荔さんは志那津様の番なんですか?」


 素朴な疑問を投げてみた。

 利荔が蒼愛を地面に降ろす。

 高さが違い過ぎて、クラクラした。


「番ではないけどね。俺は志那津様の一ノ側仕だから、志那津様のお腹が空けば妖力も分けるし、寂しそうなら一緒に寝てあげるし、関係性は番とあんまり変わらないかなぁ。一ノ側仕は神様から漢字を貰って二文字の名前だしね」


 蒼愛は首を傾げた。

 神様もお腹が空くんだなと思った。


「利荔さんと志那津様の関係は特殊ですよ。一ノ側仕だからって、普通そこまではしないでしょ」


 縁側に腰掛けると、紅優が茶を淹れ始めた。

 訓練はもういいのかなと思いつつ、蒼愛も縁側に腰掛けた。


「そうかもねぇ。そこまでするなら、番になっちゃう場合が多いかもね。でもねぇ、神様は滅多に番を作らないから。時々、体を繋げて食事程度は、どこの側仕もしてるんじゃないの?」


 茶を出す紅優の手がぎこちなく動いた。


「しないでしょ、普通は」

「紅優が潔癖なだけだと思うなぁ」


 即座に否定されて、紅優が解せない顔をしている。


「どうして、神様は番を作らないんですか?」


 蒼愛の問いかけに、利荔が考える顔をした。


「理由は色々、というか、神様によって違うだろうけど。まぁ一番は、神様だからだよね」


 蒼愛は首を傾げた。


「神様って強い力や権限を持っているから、迂闊に番を作らないんだ。日美子様や月詠見様のように神様同士で番うのが一番いいけど、なかなかそうもいかないしね。日と暗みたいにセットの神様って他にいないから」


 紅優が説明しながら蒼愛に茶を手渡した。


「だから、一ノ側仕が変わりっぽいコトを色々するわけ。何をどこまでするかは、神様との関係性とか性格によるのかな。紅優の言う通り、ウチは仲が良い方だと思うよ」


 仲が良いというか、もう番ってしまえばいいのにと思う。

 志那津と利荔の関係は、蒼愛から見ても円満だ。長年連れ添った夫婦のような信頼関係に感じる。


(実際、長年連れ添っているんだろうけど。利荔さんも長生きな妖怪なんだろうし)


 紅優が敬語で話しているくらいだから、きっと千年以上生きている風貍なのだろう。


「利荔さんは、志那津様が瑞穂国に来た時から一緒なんですか?」

「ん、その前、現世に居た頃からだよ。もう二千年くらい、一緒なんじゃないかなぁ」

「二千年⁉」


 時間の単位が壮大すぎて全くイメージが湧かない。

 口を開けて愕然とする蒼愛の頬を突きながら、紅優が笑った。


「神様の側仕って、滅多に変わらないから、それくらいは普通だよ」

「普通なんだ……」


 本当にもう番になってしまえばいいのになと思った。


「一ノ側仕は、どの神様もそれくらい長いんじゃない? 淤加美様のとこの(みつち)とか、月詠見様の八咫烏とか日美子様の鳳凰とか。火産霊様の側仕だけが、ちょっと新しいのかな。今は紅優と同じ妖狐だよね?」


 利荔の視線に紅優が頷いた。


「一緒に幽世に来た九尾の同族ですよ。一ノ側仕だった俺が佐久夜の番になった後を引き継いで、佐久夜から火産霊まで仕えた大先輩は引退してますから。今は吟呼(ぎんこ)が火産霊の一ノ側仕です」


 紅優が微笑んで話をしている。

 表情が柔らかくて、安堵した。


(良かった。紅優、自分から佐久夜様の話ができている。辛くもなさそう)


 そう感じつつ、ふと思った。


(そういえば、紅優は火ノ神の側仕としてこの国に来たんだ。もし最初から火産霊様が幽世の火ノ神になっていたら、紅優は今でも火産霊様の一ノ側仕だったんだ)


 それはそれできっと仲良くやっていたのだろうなと思うが、蒼愛としては複雑だ。


(佐久夜様の番になったから、僕は紅優と出会えたんだ。やっぱりちゃんと佐久夜様に感謝しなきゃ。落ち着いたら、紅優に佐久夜様のお話をたくさん聴かせてもらおう)


 紅優がしていたように御霊を優しく弔う方法を知りたい。

 佐久夜を大事に出来なかったと嘆く紅優の後悔を少しでも和らげてあげたい。

 それができるのは、今の番の自分だと思った。


「須勢理様にもいるんですか? 一ノ側仕」


 何気なく聞いた問いかけに、紅優と利荔が振り返った。


「いるねぇ、面倒なのが」


 利荔が苦い顔をしている。

 してはいけない質問をしてしまったのかと思い、ドキドキする。


「実はそれが、蛇々なんだよ」


 紅優の発言に、驚き過ぎて声が出なかった。


「え? え? じゃぁ……、え?」


 混乱して言葉が出てこない。


「あくまで形式的というかね。大蛇の一族は現世じゃ神格化した蛇だったから、神様の地位を狙って須勢理様の命を狙っているのも本当でね。だから利荔さんのように宮には詰めていないし、信頼関係もないに等しいよ」


 紅優の説明は理解できるが、わからなかった。

 一体、何のために側仕にしたのか、全く理解できない。

 そんな蒼愛の表情を感じ取ったのか、利荔が説明してくれた。

 

「大蛇の長の八俣(やまた)は、自分が土ノ神になるつもりでこの幽世に来たのさ。実際、大気津様を今の状態に追いやるのに須勢理様と協力してたみたいでね。けど結局、須勢理様が土ノ神になっちゃったから、殺したいほど憎んでるわけ」


 あっけらかんと利荔が語る。

 そういえば、大蛇については創世記にも書いてあると火産霊が話していたし、利荔にも説明してもらった。


(この国を自分のモノにしたい大蛇の長、八俣。自分のモノにして、どうしたいんだろう)


 国を手に入れた後に八俣が何をしたいのか、蒼愛はそれが気になった。

 

(誰かを殺してまで欲しいものって、何かな)


 最近まで欲しいものすら満足に言葉に出来なかった蒼愛には、想像もつかなかった。


「側仕になんか、しておかなきゃいいのに」


 思わず本音が零れた。

 一番近くにいる側仕に常に命を狙われるのは、怖くないんだろうか。


「まぁ、利害の一致で協力はしてるみたいだし、持ちつ持たれつなんじゃないかねぇ。須勢理様が言うほど、一方的に大蛇が悪いワケではないと思うし、大蛇が言うほど須勢理様が悪いんでもないんだと思うよ」


 利荔の言葉には含みを感じた。

 説明の意味は理解できるが、蒼愛には理解できない複雑な関係があるらしい。

 蒼愛の眉間に寄った皺を、紅優が指でぐりぐりと押した。


「明日の祭祀には須勢理様の側仕は来ないはずだから、大丈夫だよ。たとえ来たとしても、他の神々の側仕が抑えてくれる」

「それに、蒼愛自身でもなんとかできちゃうよ、きっと。今の蒼愛は充分、強いよ」


 利荔に頭を撫でられて、安心しつつも、やっぱり不安な気持ちになった。

 

「そういえば、風の使い方も指南しろって志那津様に言われたけど。蒼愛はもう使えるんじゃない?」


 利荔に問われて、自分の手を見詰めた。


「風で物を切ったり、空を飛んだりは、できそうです。他の使い方を知りたいです」

「なるほどねぇ。俺が教えちゃってもいいんだけど……」


 利荔が少し考えて、ニタリとした。


「そろそろ志那津様も戻ってくるだろうし、待ってみる? きっと志那津様なら、俺には思いつかないような面白い使い方を色々教えてくれるよ」

「本当ですか? じゃぁ、待ちます」


 面白い使い方と言われて、ワクワクしながら茶を啜る。


「蒼愛と遊ぶ機会を奪っちゃうのは、可哀想だからね」


 呟いて茶を啜る利荔を、紅優がじっとりを眺めた。


「俺としては利荔さんにお願いしたいですけどね」

「んー? まぁま、ちょっとくらい絡ませてあげてよ。蒼愛がこんなに長く風ノ宮に滞在してくれる機会なんて、今後もあるか、わからないんだからさ」


 隣でワクワクした顔をしている蒼愛を眺めて、紅優が息を吐いた。


「ちゃんと見張りますからね」


 諦めた顔をして紅優も茶を啜った。

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