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からくり紅万華鏡ー餌として売られた先で溺愛された結果、幽世の神様になりましたー  作者: 霞花怜(Ray)
第三章 瑞穂国の神々

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47.本当の気持ち

 夕餉を終え、風呂でさっぱりして、蒼愛は紅優と床に就いた。

 ずっと耳が寝っぱなしの紅優を胸に抱いて眠った。

 いつもは蒼愛が紅優に抱いてもらって眠るのに。大きな紅優を包み込んでいるような気持になれて嬉しかった。


(紅優にとってはとても大事な話で、打ち明けるのにも勇気がいる過去だったんだ)


 黙っておくことも出来なくて、話さなくても話しても辛くて。

 そんな気持ちだったんだろう。

 

(どうしたら、紅優の気持ちが楽になるかな。忘れられなくても、せめて辛くないように、僕に出来ること、何かないかな)


 紅優に喰われずに、共に生き続けること。

 それがきっと一番だ。

 しかし、すぐには証明できない。


(僕が紅優をいっぱい愛していて、溶けないくらい力もあるよって、わかってもらえればいいのかな。ちょっと違う気がする)


 蒼愛の気持ちも霊力も、紅優はきっと蒼愛よりよく知っている。


(後悔してるのかな。佐久夜様と番になったこと。好きじゃ、なかったのかな)


 そういえば、紅優の答えを聞いていない。

 蒼愛は腕の中の紅優を眺めた。蒼愛の胸に顔を寄せる紅優は、穏やかに寝息を立てている。


(僕より先に眠っちゃうなんて、珍しい。御披露目、紅優も疲れたのかな)


 紅優の白い耳をそろりとなぞる。

 狐の耳は柔らかくて、触れていると気持ちいい。


「どんな気持ちだったか、前より知りたくなったよ、紅優」


 話を聞くまでは、ただの過去だと思っていた。

 けど今は、佐久夜がどんな神様だったのか、気になった。


「ん……」


 小さく声を漏らして、紅優が蒼愛にぴたりと抱き付いた。


「ぁ、ごめん。起こしちゃった……」

「好きだったよ」


 紅優が寝言のように呟いて、蒼愛は言葉を止めた。


「あの時は、好きだって思ってた。けど、全然足りなかったんだ。好きって気持ちも、神様の番になる覚悟も、あの時の俺には足りてなかったんだよ」


 蒼愛の胸に顔を埋めたまま、紅優が話し始めた。


「神様の番になる、覚悟?」

「永遠にこの国で、二人で生き続ける覚悟」


 それは紅優が番になる前、蒼愛に問いただした覚悟だ。


「佐久夜を喰ってから、俺は怖くなって現世に戻った。現世では随分と時が流れていて、妖怪が人を喰いづらい世になってた。だから瑞穂国に戻ったんだ。俺がいない間に色彩の宝石は盗まれていて、幽世の事情も変わっててね。均衡を守る役割についてからは、ずっとこの国で人を喰って生きてきた」


 蒼愛は紅優の顔を抱きしめた。


「佐久夜様の愛は、重かったの?」


 紅優が蒼愛の胸に顔をすりすりと擦り付けた。


「佐久夜が好きだった俺は、俺が嫌いな俺だった。炎を操り妖怪や人間を屈する強い妖狐。佐久夜が愛した紅蓮は、そういう妖怪。常に強くて弱音も吐かない。佐久夜が不安にならないように、弱い部分は絶対に見せなかった」


 紅優が目を上げた。


「俺はね、人を愛してるのに喰わなきゃならないってグズグズ悩んだり、可愛い子たちを俺が喰っていなくなっちゃって寂しがってる時に、手を握ってくれるような愛し方をしてくれる番が良かった」


 紅優の顔が上がって、蒼愛に口付けた。


「ちゃんと話せば、佐久夜はわかってくれたのかもしれない。けど、あの頃の俺は話せなかったし、話す前に佐久夜を喰っちゃったからね」


 紅優の耳がまたしゅんと寝てしまった。


「番のバランスは、力だけじゃ、ないよね?」

「……うん」


 紅優が蒼愛の胸に顔を埋めたまま頷く。


「気持ちのバランスも、あるんだよね? だから、紅優は番になる前、僕に何度も気持ちを確認したんだよね?」

「うん……」


 紅優のしょんぼりした耳を撫でる。


「佐久夜様と番になったこと、後悔してるの?」

「してない。けど、喰っちゃったのは、後悔してる。そうなる前に、どうにかしたかったって」


 自分の素直な気持ちを話して、分かり合えていたら、愛する番を喰うような事態にはならなかったかもしれない。そう考えているのだろう。

 だからこそ、紅優は蒼愛に対して慎重に事を運びたがるのだろうと思った。


「そっか。じゃぁ僕は紅優と、紅優の中の佐久夜様も愛するよ」


 紅優が顔を上げた。

 その額にキスをする。


「だから、佐久夜様の話、いっぱい聞かせて。もっともっと佐久夜様を知りたい。これからは僕と紅優の二人で佐久夜様を愛してあげようよ」


 半開きだった口が閉じて、紅優の目が潤んだ。


「紅優が、佐久夜様と番になったこと、後悔してなくて良かった。佐久夜様と番になったから、紅優は僕と出会ってくれた。次に僕を選んでくれた。僕は今の紅優が好きだよ。強い紅優も弱い紅優も、どっちも大好き」


 紅優の顔を抱きしめる。

 気持ちが溢れて紅優が愛おしくてたまらなかった。


「蒼愛が、俺の目の前に現れてくれて、俺を好きになってくれて、良かった。佐久夜が出会わせてくれたのかもしれないね。初めて、そんな風に思えたよ」


 互いに顔を寄せ合って、唇を重ねる。

 妖力と霊力を交換し合う口付けは、熱くて気持ちが良くて、いつも以上に酔いそうだった。


「愛してる、蒼愛。ずっと俺だけの蒼愛でいて」

「僕はずっと、紅優だけの蒼愛だよ。佐久夜様を二人で愛するのも、きっと二人で見付ける幸せの一つだよ」


 紅優の唇が降りてくる。

 さっきより性急な口付けが、口内の舌を吸い上げた。


「蒼愛、蒼愛……」


 紅優が何度も名を呼ぶ。

 愛していると言われ続けているようで、胸が甘く締まる。


「紅優、好き、もっと……」


 紅優の全部が欲しくて、腕を伸ばす。

 知らなかった『好き』を当然のように言える今が、嬉しくて甘酸っぱい。

 紅優の手が寝間着の中の蒼愛の肌を愛でる。

 口付けが深まって、触れる指が股間に伸びるのを、蒼愛の体が期待する。


(こんな風に自然とエッチするようになったのって、いつからだろう)


 最初は緊張して、その度に紅優が心も体も優しくほぐしてくれていた。

 今は自然と紅優の愛撫を受け入れられる。

 人間のように繁殖のための性交ではなく食事ではあるけれど、愛を確かめ合う行為には違いない。


(愛してるから、怖くない。紅優に何をされても。これから何があっても、紅優と二人なら、きっと大丈夫)


 愛撫が重なり深まるほどに、紅優への愛を再確認する。

 蒼愛は快楽の波と共に、紅優の愛に堕ちていった。

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