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からくり紅万華鏡ー餌として売られた先で溺愛された結果、幽世の神様になりましたー  作者: 霞花怜(Ray)
第三章 瑞穂国の神々

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43.神々の祝福

 一先ず全員が席に戻った。

 紅優と蒼愛は淤加美の後ろに座っていた。

 蒼愛の手をそっと握って、紅優が囁いた。


「蒼愛、ありがとう」


 その声が悲し気で、心配になった。


「僕は何もしてないけど……。紅優は、大丈夫? 気にしてる?」


 紅優の手が蒼愛の手を強く握る。


「御披露目が終わったら、聞いてほしいんだ。前の番の話。蒼愛は、聞きたくない?」


 蒼愛は少しだけ考えた。


「紅優のことは、何でも知りたい。けど、紅優が話したくないことは無理に聞きたくない。紅優が話してくれるなら、全部聞く」


 変わらず憂いた表情のまま、紅優が小さく笑んだ。


「好きだよ、蒼愛」

「僕も、紅優が大好き」


 蒼愛の髪に頬ずりしてくれる紅優に、少しだけ安堵した。

 目の前にいる淤加美の背中が、小さく笑った気がした。


「さて、本題に入ろう。蒼愛が作った色彩の宝石に、六柱の神々の加護を与えて、臍に祀る。異論のある神はあるかな」


 淤加美が神々を眺める。


「俺は良いと思うぜ。砕けたって、蒼愛は何度でも作れんだろ。強度を試す意味でも、祀ってみたらいいんじゃねぇの?」


 火産霊は色彩の宝石にも協力的な発言をしてくれた。


「僕も賛成。折角、良い石があるんなら、使わない方が勿体ないよ」


 意外にも、須勢理がすぐに賛成してくれた。

 ちょっと不貞腐れた顔をしてはいるが、良かったと安堵した。


(怒らせちゃったかと思ったけど、でも。あの顔はもっと違う感情にみえた)


 何の感情も無いような表情だった。その顔の意味が解らなくて、気になった。


「俺も賛成です。最初に持っていた懸念は払拭されました。何より、蒼愛が何度も繰り返し宝石を作れる事実に価値がある。今後も繰り返し作らせて、より完成度を上げるべきです」


 志那津も賛成してくれた。

 心なしか、蒼愛に向ける視線が最初より柔らかくなった気がする。

 とはいえ、まだ睨まれているような気がするが。


「俺と日美子は最初から賛成だからね。加護を付与する方向で良いんじゃないの」


 月詠見の目は予定通りと語っていた。


「満場一致だね。では早速、加護を付与しよう。神々の祝福を、ここへ」


 車座になった神々の中央に、色彩の宝石が置かれる。

 淤加美が掌の上に神力を膨らませた。

 球状に膨らんだ青い神力が浮かび上がる。

 同じように、火産霊の手から赤い神力が、志那津から緑の神力が、須勢理から黄の神力が浮かび上がった。

 最後に日美子から白い神力と、月詠見から黒い神力が浮かび上がる。

 六つの神力の球体が、宝石に吸い込まれた。

 色彩の宝石が強い光を放つ。


 蒼愛は思わず目を瞑った。


 瞼の向こうの光が落ち着いたように感じて、目を開ける。

 七色の光がまるで生きた地脈のように石の中を蠢いている。

 生命が石に宿ったように感じた。


「すごい……」


 思わず呟いた蒼愛に、淤加美が宝石を持って振り返った。


「色彩の宝石はこれで完全な姿になった。臍を守りこの幽世を守る宝石だ。蒼愛が生み出した唯一無二の宝だよ」

「僕が、生み出した」


 とても実感がわかなかった。

 確かに色彩の宝石を霊現化したのは蒼愛だ。

 だが、目の前にある宝石が、自分が作ったモノとは思えなかった。


「色彩の宝石は、神様が命を吹き込んでくださるんですね。僕は入れ物を作っただけだって、本物を見て、思いました」


 淤加美が困ったように笑んだ。


「蒼愛は本当に欲がない。もっと自分の手柄だって主張してもいいんだよ」

「だって、この宝石を作れたのは僕だけじゃなくて紅優のお陰だし、命を吹き込んでくれたのは神様です。僕の手柄じゃないです」


 蒼愛は紅優と顔を見合わせて笑った。


「それでは後日、社に祀る祭祀を執り行う。日は追って報せを飛ばそう。それまで、色彩の宝石は私が水ノ宮で保管する。それでいいかな」


 淤加美の提案に異を唱える神はいなかった。


「続いて紅優に神力の加護を与えようか。色彩の宝石が生まれたとはいえ、すぐには変えられない。紅優の体が砕けては、困ってしまうからね」


 淤加美に促されて、紅優が神々の中央に腰を下ろした。

 先ほど、宝石に加護を付与したように、六柱の神々が、神力の球体を作る。

 六つの球体が紅優の頭上でくるくる回りながら、その身に吸い込まれた。


(紅優、綺麗だなぁ。紅優自身が宝石みたいだ)


 光に照らされ、光を吸い込む紅優の姿は神々しく、とても美しかった。


「ありがとうございます」

 

 丁寧に礼をする紅優に火産霊が笑いかけた。


「今回が紅優に付与する最後の神力になるといいな」


 爽やかに笑む火産霊に、紅優が笑みを返した。


(神様たちの前だと、紅優は余所行きの顔って感じだ。僕と二人でいる時とは、ちょっと違う)


 素の紅優を知っているのは自分だけのような気がして、嬉しくなった。


「それでね、蒼愛と紅優には、神々の宮にそれぞれ挨拶に回ってもらおうと思っているんだ。蒼愛は瑞穂国に慣れていないから、勉強も兼ねてね。どうだろうか?」


 淤加美の提案に、真っ先に飛びついたのは、やはり火産霊だった。


「俺の所に一番に来いよ。火の加護を受ける妖狐が俺んトコに来ねぇなんざ、有り得ねぇからな」


 念を押されて、紅優が眉を下げて笑んだ。


「勿論です。すぐにでも伺いますよ」

「僕の所もいつでも、どうそぉ。蒼愛ちゃんと、色んなことして遊んでみたくなったから、来てくれたら嬉しいなぁ」


 須勢理が最初と同じように笑んだ。

 勢いを取り戻したらしい。意味深な笑みを蒼愛に向けてきた。

 取り合えず、軽く頭を下げておいた。


「志那津も、歓迎してくれるかい?」


 淤加美に振られて、志那津があからさまに顔をしかめた。


「風ノ宮にくる意味がありますか? 二人とも属性も加護も関わりがないでしょう」


 どうにも志那津は蒼愛と関わりたくないらしい。


「蒼愛は四つの属性を操れる。志那津には是非、加護を授けてやってほしいんだ。風の使い方を知りたいらしいから、指南してもらえると、助かるんだけれどね」


 志那津が蒼愛を睨んだ。

 どうしていいかわからずに、蒼愛は固まった。


「この中では一番若いし、志那津なら蒼愛と話も合うと思うのだけれど。志那津と蒼愛が仲良くなってくれたら、私は嬉しいよ」


 淤加美に微笑まれて、志那津が息を飲んだ。


「淤加美様が望まれるのでしたら。仲良くなれるかは、わかりませんが、風ノ宮に挨拶くらいは、歓迎……、します」


 全く歓迎していない顔で、志那津が苦しそうに言葉を吐いた。


(そんなに無理しないと来ていいよって言えないくらい、嫌がられてるのかな)


 流石にちょっと落ち込むなと思った。

 だが蒼愛は、志那津と話がしてみたかった。


(見た目的に年が近そうだし。神様だからきっと僕より長生きだろうけど、一番、友達になれそうな気がする)


 思わず志那津を見詰めてしまった。

 蒼愛の視線に気が付いた志那津が、一睨みして顔を背けた。


「ウチもいいよぉ。俺と日美子は昼なら日ノ宮にいるから、いつでも遊びにおいで」


 月詠見が片目を瞑って紅優に合図した。

 合図を受け取って、紅優が頷いた。


「では、火産霊様の所に窺ったあとに、月詠見様と日美子様の所に……」


 紅優の言葉を遮って、須勢理が前のめりになった。


「えー。ウチに来てよぉ。蒼愛ちゃんには土の属性もあるんでしょ? 加護、あげるよ。力の使い方も教えてあげるよぉ」

「俺の所は最後でいいよ。来なくてもいいし」


 須勢理の言葉に隠れるように、志那津が小さく呟いた。


「順番はどこでもいいんだけれどね。志那津の所にも、ちゃんと行くからね」


 淤加美に念を押されて、志那津が顔をしかめていた。


(本当なら早い順番で月詠見様と日美子様の所に行かなきゃだけど)


 日の加護と暗の加護をまだもらっていないことになっているから、早い段階で日ノ宮を訪ねて加護を貰ったことにする予定だったのだが。


「ならば、火産霊の次は志那津、須勢理、最後が日美子と月詠見の宮で、どうだろうか」


 淤加美が神々を見渡しながら、月詠見に視線を向けた。

 意図を受け取って、月詠見が頷いた。


「淤加美が決めたのなら、それで良いよ」


 隣の日美子も、頷いて同意する。


「どうして風ノ宮が二番目なんですか」

「火産霊の次は僕のとこが良いなぁ」


 ほぼ同時に志那津と須勢理がぼやいた。


「志那津と須勢理が、そんな風に思っているだろうなと思ったからだよ。私は意地悪だからね」


 淤加美が悪戯に笑む。

 何か企んでいる時の笑みに思えた。

 不服そうな顔をしながら、志那津も須勢理も言葉を収めた。


「では皆、色彩の宝石の番を、よろしく頼むね」


 御披露目と寄合は、淤加美の一言をもって解散となった。




〇●〇●〇




 控えの間に戻った蒼愛は、畳の上にゴロリと横になった。

 御披露目前に淤加美と案内された控えの間とは別に、紅優と蒼愛だけの控えの間が準備されていた。

 他の神々には個人的に準備されているらしい。


「あー、緊張した」


 自分たちの紹介だけでも緊張するのに、途中から神様の喧嘩が始まってしまった。 

 神様でも人間みたいな喧嘩をするんだなと思った。

 蒼愛が一番、気になったのは須勢理だった。


(どうしてあんなに、紅優に対して怯えていたんだろう。紅優は何も話していないし、威嚇もしていないのに)


 威嚇していたのは須勢理の方に見えた。

 攻撃される前に攻撃しているような、そんな怯え方だ。


(理研の子供にもいたなって思ったけど、他に似てる人がいた気がする。誰だろ……。あ、そっか。千晴所長に、ちょっと似てるんだ)


 理化学研究所の所長である安倍千晴はヒステリックで、何か気に入らないとすぐに、bugの子供たちにあたり散らした。

 蒼愛も千晴には、よく殴られた。

 理研に居た頃は表情も変わらず話もしなかった蒼愛は、殴られても悲鳴の一つもあげないので、そのうちに殴られる回数が減った。

 怯えも恐怖もしない子供を殴っても、面白くなかったんだろう。


(相手の反応を観て楽しんだりストレス発散する千晴と感じが似てるんだ。須勢理様も性格、悪いのかな)


 話し方や話の内容から考えて、性格が良いとは言えないだろうが。

 

(何が、怖いのかな。どうして、怖いのかな)


 そういえば、志那津にも執拗に睨まれた。

 あれは間違いなく敵愾心を孕んだ目だ。


(あった瞬間に嫌われるようなこと、したのかな。全然わからないや)


 日美子や月詠見や淤加美が蒼愛に対してどれだけ優しいか、改めて再認識した。


(そういえば、火産霊様は、優しかったな)


 粗野な話し方とは裏腹に、全身から優しさが滲み出ている神様だった。

 須勢理に対して一番、怒ってくれたのも、火産霊だ。


(殺す、は穏やかじゃないけど。でもきっと、火産霊様は優しい神様だ。本当に殺したりしない)


 色んな事を思い出して考えているうちに、眠くなってきた。


(紅優、遅いな。火産霊様に挨拶に行ってくるって言ってたけど)


 一緒に行くのかと思いきや、蒼愛は先に戻っているようにと言われたので一人で控えの間に戻った。

 微睡が降りてきて、瞼が閉じる。

 目の裏に、紅優の背中が浮かんだ。


(須勢理様に前の番の話をされた時、紅優、寂しそうな顔、してた。早く手を握ってあげなきゃ。もう悲しい思いはさせないって、約束したから)


 紅優の温もりを想いながら、蒼愛の意識は夢の中に沈んでいった。

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