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からくり紅万華鏡ー餌として売られた先で溺愛された結果、幽世の神様になりましたー  作者: 霞花怜(Ray)
第三章 瑞穂国の神々

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41.御披露目前の控室

 淤加美の授業から二日の後、御披露目の日がやってきた。

 日付の段取りや通達は総て淤加美が取り計らってくれたのだが、寄合の日と合わせたらしい。

 水ノ宮に留まっている蒼愛と紅優は、淤加美の巫女たちに身支度から準備されていた。


「なかなか似合っているよ、二人とも。やはり蒼玉の蒼愛には藍の着物が良く似合う」


 整えた髪をなぞって、耳を撫でられた。

 今日は蒼愛も紅優も藍色を主にした着物に藤色の羽織を着ていた。

 足元にかけて藍から藤へのグラデーションが施された着物と藤の羽織の調和が美しい。

 落ち着いた色味ながら流水の地紋が入っていて、御披露目には向いた着物なのだそうだ。


「紅優も、思ったより私好みの着物が似合うね。いっそ紅優にも水の加護を与えようか?」

「流石にそれは、火産霊(ほむすび)様に申し訳が立ちませんので」


 困った顔をする紅優に、淤加美が愉快そうに笑った。


「冗談だよ。着物くらいじゃ火産霊は怒ったりしないだろうけど、加護を与えたりしたら怒り狂いそうだからね」

「このように立派な着物を誂えていただきまして、ありがとうございます」


 頭を下げようとする紅優の顔を、淤加美が両手で包み込んだ。


「この際だから、はっきり言っておくけれどね。私は以前からお前を気に入っているんだよ。今は蒼愛の次だけれどね。蒼玉の番になったのだから、紅優も私のモノだ。忘れないようにね」

「……え?」


 紅優が本気で驚いている。疑いを隠しようもない声だ。

 蒼愛としては、あまり意外でもなかった。

 淤加美の加護を何度も受けている蒼愛は、その気持ちも感じ取っていたから。


「紅優を手に入れる良い口実ができたよ。ねぇ、蒼愛」


 同意を求められて、蒼愛は苦笑いするしかなかった。


「有難いお言葉とは思いますが、このタイミングで念を押しますか」


 何とも言えない顔をして、紅優が零した。


「このタイミングだからだよ。いつでも私に頼りなさい、という話だ」


 淤加美の笑みが色を変えた。

 紅優の顔が引き締まる。


「それじゃぁ、行こうか。私の可愛い蒼玉と番の御披露目だ」


 淤加美に先導されて、蒼愛と紅優は水ノ宮の奥、移動の間に入った。

 この場所から御披露目を行う瑞穂ノ宮に移動できるらしい。

 普段の寄合も瑞穂ノ宮で行っているそうだ。


 神々が集う瑞穂ノ宮は、国の中央部分の天空にある。

 国の周囲をぐるりと囲むように並ぶ神々の宮の中心だ。

 地図上だと、ちょうど臍の社の真上辺りだ。

 最近、教えてもらったのだが、臍の社は『瑞穂ノ社』と呼ばれているらしい。

 この国に住む妖怪たちにも信仰が厚い社なのだそうだ。


 部屋の床に描かれた円の中央に淤加美が立った。


「二人とも、おいで」


 伸ばされた手を握って、蒼愛も円に入る。紅優が蒼愛に続いた。

 淡い水色の光が立ち上って、三人を包む。


「さぁて、今日はどんな楽しい話ができるかな」


 淤加美の声がワクワクしていて、不安しかない。

 蒼愛は淤加美と紅優の手を握ったまま、淡い光に目を閉じた。


 目を開いた瞬間には、別の場所に立っていた。

 歩き出した淤加美と紅優に続いて、蒼愛も部屋を出た。

 日本神話に出てきそうな木造りの神殿の廊下を歩く。

 大きなの扉の前で、黒曜が待っていた。


「黒曜様! お久しぶりです」


 知った顔に安堵して、蒼愛は小走りに黒曜に近付いた。


「よぉ、蒼愛。随分とめかし込んでいるなぁ。見違えたぞ。顔も少し大人っぽくなったか?」

「本当ですか? 嬉しいです。淤加美様の加護のお陰かな」

「良い顔になったぞ。可愛いのは、変わんねぇけどな」


 蒼愛の顔を両手で包んで黒曜が笑う。

 久しぶりと言っても、それほど日を空けていないのに、懐かしく感じる。

 黒曜に会えたのが嬉しかった。


「黒曜も蒼愛を気に入っているのかい? 困ったね。私の蒼愛は人気者のようだ。御披露目したら、また蒼愛の人気が上がってしまうかな。心配だね」


 淤加美が眉を下げて、本当に困った顔をしている。


「いや、親友の番ですから、それはまぁ、可愛いですよ」


 黒曜が淤加美の言葉と顔に、かなり困惑していた。


「蒼玉だから予想はしてたが、随分と気に入られたなぁ」


 黒曜が小さな声で紅優に呟いた。

 紅優が苦い顔で、無言で頷いていた。


「御披露目の前に、淤加美様方には、こちらに」


 表情を改めた黒曜が、後ろの控えの間の扉を開いた。

 促されるまま、淤加美と紅優に続いて蒼愛も部屋に入った。


「やぁ、早かったね。良かったよ」


 案の定、月詠見と日美子が待ち構えていた。

 月詠見に会う時は、こういうパターンなんだなと、蒼愛は理解した。


「御披露目の前に打ち合わせをしようと提案したのは、月詠見だろう。他の神々は、まだ来ていないかな」


 どうやら月詠見と淤加美の間では、決まっていた打ち合わせらしい。

 淤加美に問い掛けられた黒曜が、気まずい顔をした。


「土ノ神、須勢理(すぜり)様は既にお見えですぜ。御披露目の前に庭園の花の鑑賞と手入れがしたいとかで、お庭にいらっしゃいますよ」


 黒曜が淤加美に向かい頭を下げる。


「熱心だよねぇ。よっぽど《《花》》が気になるみたいだよ。黒曜が、かなり質問攻めにされたんだよね」


 月詠見の目が、ちらりと黒曜に向いた。


「蒼愛の蒼玉について、色彩の宝石ではないかと疑っているようでしたね。直接的な質問はされませんでしたが、あの様子だと、どこからか情報を得ているんじゃぁねぇかと」


 心臓が、ざわりと鳴った。

 隣に立つ紅優が手を握ってくれた。


「やはり、蛇々でしょうか」


 紅優の短い問いに、淤加美が考える様子で黙った。


「他に洩れる可能性がねぇよなぁ。それに、須勢理様だけじゃねぇんですよ。昨日、お会いした火産霊様からも似たような質問をされましてね。須勢理様ほどしつこくはありませんでしたが、もしかすると一部には噂が広まっているのやもしれませんぜ」


 黒曜の話に、怖さを感じた。

 蛇々が紅優の屋敷を襲撃してきたのは、約一月前だ。

 あの襲撃で、蒼愛は初めて霊能を使った。あの時、蒼玉の質を見抜かれていた可能性はある。 

 だが、あの時点では紅優と番になっていないから、色彩の宝石の質は出ていなかったはずだ。


「紅優の屋敷の結界は並の妖怪では破れないだろ。それでも蛇々は入り込めるんだね」

「探りを入れられてた可能性はある、か」


 日美子と月詠見の言葉に、背筋が寒くなった。

 番になった後の、黒曜との会話などを聞かれていたら、バレていても不思議ではない。


「やはり二人は、しばらくの間、水ノ宮に居た方がよさそうだね」

「申し訳ありません。よろしくお願いいたします」


 淤加美に念を押されて、紅優が素直に頭を下げた。

 

「紅優が悪いわけじゃないさ。お前の結界術はかなりの高位術だ。それさえ破る力を悪用する輩が存在する事実がマズいのさ」


 月詠見の言葉は尤もだが、どこか含みを感じた。


「ならば猶更、今日の御披露目で蒼愛を紹介するのは、正解だね。この場所で正式発表してしまえば、国中が知るところとなる。中途半端に隠すなら、いっそ公表してしまった方が安全だ」


 蒼愛の胸に、じんわりと不安が広がった。

 色彩の宝石という存在は、蒼愛が思っているよりずっと重要で、危険な立場なのかもしれない。


「蒼愛を守るための準備は十全に整えてある。心配ないよ。蒼愛は紅優を守ってあげなさい」


 淤加美が屈んで、蒼愛に視線を合わせた。


「紅優を? 僕が?」

「そうだよ。紅優は蒼愛の番だ。番が番を守るのは当然だ。紅優が蒼愛を守る分、蒼愛は紅優を守るんだ。いいね」

「わかりました」


 淤加美が今になって何故、こんな話をしたのかが気になった。

 だがきっと、必要な覚悟なのだろうと思った。


(淤加美様は無駄な話をするお方じゃない。僕しか紅優を守れない瞬間があるかもしれないんだ)


 蒼愛は力強く頷いた。


「御披露目の席では、私が話の流れを作るが、横やりや妨害があったら、よろしく頼むね、月詠見」

「出来る範囲で、できるようにやるよ」


 淤加美と月詠見のやり取りは、とてもシンプルだ。

 改めて、仲が良いのだなと思った。


(この国の始まりから一緒の三人は、きっと仲が良いんだろうな。他の神様は、どうなんだろう)


 これから会う神様の中に、色彩の宝石を盗み、今でも狙う犯人がいる。

 蒼愛は気を引き締めた。

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