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からくり紅万華鏡ー餌として売られた先で溺愛された結果、幽世の神様になりましたー  作者: 霞花怜(Ray)
第三章 瑞穂国の神々

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38.魅了の使い道

 閨を出て広間に戻ると、淤加美が月詠見と日美子と話をしていた。


「落ち着いたのかい? 良かったね」


 紅優と蒼愛の姿を見付けた日美子が安堵した顔をした。

 蒼愛は皆の前で、ぺこりと頭を下げた。


「僕のせいでご迷惑をおかけして、すみません」

「蒼愛には魅了の質があるようで、いつもなら自分の術は把握できているのですが、魅了に限っては本人も発動のきっかけがわからないようなんです。制御も難しいようで、魅了中の記憶も曖昧なようです」


 蒼愛に並んだ紅優が説明をしてくれた。


「何となくは覚えているんですけど、よく、わからなくなっちゃって」


 淤加美が蒼愛の前に屈んだ。


「私こそ、すまなかったね。抗えず、酷い真似をしてしまった。紅優も、すまなかった」

「いえ……、あくまで術のせいですから」


 淤加美に謝られて、紅優が首を振った。


「仕方がないよ、紅優。あれは俺でも抗えない。あの場に居たら、きっと淤加美と同じ真似をした。けど、淤加美はちゃんと殴っておいたから安心していいよ」


 べっと舌を出して、月詠見が笑った。


「うん、殴られた。お陰で我に返ったよ」


 淤加美が申し訳なさそうに眉を下げた。

 紅優が信じられないモノを見る目で月詠見を凝視していた。


「もう蒼愛を傷付けないよう十全に注意するよ。だから、また私と仲良くしてくれるかな」

「淤加美様に大変な失礼をしたのは、僕の方です。また仲良くしてもらえたら、僕も嬉しいです」


 蒼愛は俯きながら答えた。


「僕の方が、淤加美様に酷いこと、してなければいいんですけど。ちゃんと覚えてなくて、ごめんなさい」

「されていないよ。ずっと紅優の名前を呼んでいただけだよ。それは流石に、ちょっとショックだったかな」


 顔に火が付いたように熱くなった。

 紅優も、いつになく赤くなっている。


「魅了の術に蒼愛自身も飲まれているように見えたけど、蒼愛は紅優しか呼んでなかったね」


 日美子が、クスクス笑っている。

 紅優の顔が、どんどん真っ赤になる。


「誰がきっかけで魅了の状態になろうと、蒼愛は紅優に抱かれたいとしか言わないんだねぇ」


 月詠見が、わざとらしく淤加美と日美子の言葉に被せた。

 三柱の神様が同じ言葉を繰り返すので、流石にじわじわと恥ずかしさが込み上げた。


「あの、僕……、そんなに紅優を呼んだんですか?」

「それはもう何度も呼んでたよ。紅優に抱かれたい、キスしたい、助けて、ってね」


 月詠見が蒼愛と紅優を眺めた。

 心臓が大きく飛び跳ねて、バクバクが止まらない。

 隣りに立つ紅優が俯いて、真っ赤な顔を手で覆っていた。


「……もう、勘弁してください。嬉しいけど恥ずかしくて、どうしたらいいか、わからない」


 蒼愛は紅優を眺めて呆けた。

 こんな顔の紅優は初めて見たと思った。


「紅優を虐めるのは、これくらいにするとして。魅了のきっかけは、蒼愛の霊力を喰ったからじゃないかって話していたんだよ」


 月詠見の言葉に、紅優が思いっきり顔を上げた。


「加護を与えながら、ちょっとずつ喰ってたんだ。ごめんね」


 淤加美が、やけに可愛い仕草で首を傾げた。


「喰ってないって言ってたじゃないですか。やっぱり喰ってたんですね」


 紅優が怒りを噛み殺している。


「でもさ、前に私らが加護を与えた時も、月詠見は蒼愛の霊力を喰ったけど、魅了にはならなかったろ。だからさ、違いは何かって話してたんだよ」


 日美子の言葉に、淤加美が続けた。


「私が強い神力を与えたからだろうと思うんだよ。最初に加護を与えた時、蒼愛は過剰に反応していた。あの時すでに目覚めていたのかもしれない。そこに神力を流したために、刺激になったのではないかと思うんだ」

「全部、淤加美様のせいですか……」


 紅優が小さな声で呟いた。

 やっぱり、ちょっと怒っている感じだ。


「まぁまぁ、そのお陰で紅優は嬉しい想いと美味しい食事ができたワケだから。蒼愛が紅優だけをめちゃくちゃ愛してるって再確認もできただろうし。蒼愛の霊力は今までで一番くらい、美味しかっただろ?」


 月詠見が二人を眺める。

 紅優と顔を合わせて、蒼愛も顔が熱くなった。


「けど、他の神様や妖怪にも魅了を使うのは。蒼愛の身が心配です」


 蒼愛がどれだけ紅優だけを求めようと、魅了に掛かった相手が蒼愛を手籠めにしてしまえば意味がない。

 淤加美に口付けられた時も、体に力が入らなくて抗えなかった。


「嫌われるよりは、良いけどね。確かに危険ではあるわね」


 日美子が悩んだ顔をする。


「僕はこの力を必要ないって思うんですが、なくすことはできないんでしょうか?」


 蒼愛の言葉に、皆が意外な顔をした。


「蒼愛は、嫌われるのは怖くないのかな? 魅了が上手く使えれば、誰にでも好かれるんだよ。皆が蒼愛を好きになってくれたら、蒼愛にとって生き易いんじゃないのかな」


 淤加美の言葉はきっと、正しいのだろうと思う。

 理研で散々無価値な扱いを受けてきた蒼愛にとって、ぞんざいに扱われる辛さや、無関心に放置される辛さは良く知っている。


(嫌いなんて強い感情は、あんまり知らないかもしれない)


『好き』や『愛』は、紅優が沢山くれた。

『嫌い』はそれとは真逆の感情なんだろうか。うまくイメージできない。


「僕は、現世ではガラクタって呼ばれて、どうでもいいモノ扱いで、人間としてすら扱われていなくて。無関心にゴミ扱いされる辛さなら、知っています。嫌いなんて強い感情を向けられた経験はないから、よくわからないけど。魅了で作られた『好き』と『嫌い』は、あんまり変わらない気がします」


 何故か皆が黙り込んでしまって、蒼愛は慌てた。


「ごめんなさい、嫌われるほど他人と接してこなかったから、よくわからなくて。ただその、魅了で好きになって貰っても、あまり意味がない気がするし。術が解けて、そんな術を使ったんだって知られたら、嫌われたりするのかなと思って」


 淤加美が、蒼愛をふわりと抱き寄せた。


「嫌な過去を思い出させてしまったね。現世は蒼愛が生きるべき場所ではなかったんだ。蒼愛は私の可愛い蒼玉、色彩の宝石、この国の宝だよ。瑞穂国の、紅優の隣こそが、蒼愛が生きるべき場所だ」


 頭を撫でてくれる冷たい手は、とても優しい。

 どうしてか、胸の奥に熱いものが込み上げた。


「魅了など使わずとも、蒼愛は充分に可愛らしい。魅了の術にかかる前から、私は蒼愛を気に入っていたからね」


 額に口付けると、淤加美が蒼愛を紅優に引き渡した。

 淤加美の行動を、紅優は咎めなかった。


「蒼愛に備わっている術は、蒼愛に必要だからある。魅了もきっと、その一つだ。蒼愛が納得できる使い方を、紅優と一緒に考えてみるといい」


 淤加美の言葉に、蒼愛は素直に頷いた。


「霊力を喰われなければ魅了は発動しなそうだし、紅優がしっかり守ってやればいいさ」


 頷く紅優の隣で、蒼愛は首を傾げた。


「つまりね、相手が蒼愛の霊力を喰って魅了の状態になる。喰われた蒼愛は欲情して紅優と性交したくなる。って状態だろうと思うのさ。だから喰われなければ、術は発動しないんだろうさ」


 日美子がはっきりと説明してくれたお掛けで理解できた。 

 その分、顔は熱くなった。  

 さっきからずっと恥ずかしいから、きっと顔は真っ赤なままだろうと思った。

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