37.閨の睦言
【R18】部分割愛。
アルファポリス、fujossy、エブリスタに掲載しています。
気が付いたら、紅優の腕の中で寝ていた。
着物を着ていなくて、体中が愛された後の充足感で満たされていた。
(僕、紅優に抱いてもらったんだ。良かった)
どうして良かったのか、よく思い出せない。
確か、淤加美に加護を付与してもらって、その後の記憶が曖昧だ。
曖昧ながら、感覚は覚えていた。
(神力がいっぱい流れてきて、霊元からいつもより沢山霊力が溢れて、全身が甘く薫っているのが、自分でもわかるくらいだった)
淤加美の様子も、いつもと違った。
まるで蒼愛の霊力に酔っているかのように、蒼愛を求めていたと思う。
(あれはきっと、色彩の宝石の力だ。神様や妖怪を甘く薫る美味しそうな霊力で惑わすんだ。そんな力、何の役に立つんだろう)
霊元が開いてからの蒼愛には、自分の能力を感覚で感じ取る力があった。
自分の中に四つの属性があることも、それぞれの力をどう使えるのかも、蒼愛には感覚で何となくわかった。
だから、感じる。
霊力で相手を惑わすこの力は、きっと使わない方がいい。
良い結果を生まない。
これは、蒼愛の直感だった。
(でも、どうしてそうなっちゃうのか、わからない。自分でどうしようもないし、自分も飲まれちゃうのかもしれない)
覚えていないというのは、きっとそういう事なんだろう。
(もしかしたら僕は、無意識で紅優を悲しませるような行為をしちゃうのかもしれない)
そう思ったら涙が出てきた。
「……蒼愛、目が覚めたの? 泣いてる? もしかして、痛かった?」
紅優が蒼愛の涙を拭った。
「違う、違うんだ、紅優、僕、僕……」
言葉が上手く出てこない。
さっきの淤加美とのやり取りを話したら、紅優は悲しむかもしれない。
そう思うと、余計にどう話せばいいか、わからなくなった。
紅優が蒼愛を胸に引き寄せた。
「落ち着いて、話したいコトだけ、ゆっくり話してごらん。話したくないコトは、話さなくていいから」
蒼愛は首を振った。
「紅優に話したくないコトなんかない。全部、ちゃんと聞いてほしい。でも、話を聞いても、僕を嫌いにならないで……」
あまりに自分に都合が良い言い分で、語尾が弱くなった。
涙で潤んだ蒼愛の目を、紅優が指で拭った。
「嫌いになんか、ならないよ。大丈夫だから、蒼愛の辛さを俺に分けて。一緒に悩もう」
優しい眼差しが蒼愛を見詰める。
紅優はいつも、蒼愛の心に触れる努力をしてくれる。
それが、たまらなく嬉しい。
「うん、うん……。一緒に、考えて」
蒼愛はさっきの淤加美との出来事と、感じ取った自分の霊力について、紅優に話した。
初め、険しい顔をしていた紅優だったが、徐々に心配するような表情に変わっていった。
一通り話し終えた時の紅優は、やっぱり心配顔をしていたが、少しだけ安堵しているようにも見えた。
「蒼愛のその解釈は、きっと正しい。恐らく、それは魅了という力だよ。まさか神様まで魅了してしまうだなんて、驚きだけどね」
紅優が困った息を吐いている。
「魅了? 淫魔とかが使う妖術?」
理研に置いてあった妖怪の本の、西洋の妖怪の欄に、インキュバスとかサキュバスの項目があった。そこに書いてあった気がする。
「そうだね。性を糧にして生きる妖怪や人を喰う妖怪が良く使う術だよ。俺が、買った子たちに使っていたのも、魅了の妖術。相手が無条件に俺を好きになって、俺の言葉を疑わないように術をかけるの」
ニコや芯の様子が思い浮かんだ。
紅優が言う通り、相手を大好きで疑わない、そんな自分に疑問も持たない。そういう妖術だった。
「蒼愛の場合は、色彩の宝石の質の一部だと思うんだ。自分の意志とは関係なく、神様や妖怪を惹き付けてしまうんだよ。より多くの加護や力を得るためにね」
蒼愛は絶句した。
「じゃぁ僕は、色んな相手を誘っちゃうの? そんなの嫌だ。僕が欲しいのは紅優だけなのに」
紅優に、ぴたりとくっ付く。
「うん、知ってる。さっきも、淤加美様に誘われた蒼愛が呼んだ名前は俺だけだったって、言われたよ」
「本当……?」
見上げると、紅優が微笑んで頷いてくれた。
「嬉しかった。淤加美様に無駄に口付けられたのは、嫌だったけど。それでも蒼愛が求めてくれたのが俺で、嬉しかったよ」
紅優が蒼愛の髪に口付けてくれる。
胸が甘く締まって、嬉しい。
「なるべく一人にならないで、一緒にいよう。何をきっかけに蒼愛の魅了が出てしまうのか、まずは探そう。何があっても俺は蒼愛の気持ちを知ってる。変わらずに愛しているから、心配しなくていいよ」
蒼愛は紅優を見上げた。
紅優はいつだって、蒼愛の気持ちを読んで蒼愛が欲しい言葉をくれる。
「僕も、紅優と同じくらいの愛を紅優にあげたい。紅優がしてくれるみたいに紅優を愛したい。紅優、大好きだよ」
紅優が嬉しそうに笑んだ。
「知ってる。蒼愛は正直だから、全部ちゃんと伝わってる。心を伝えるのは言葉だけじゃないよ。蒼愛の全身から、ちゃんと愛を感じてるし、大好きをたくさんもらってるよ」
まだ紅優と番になる前に、好きをたくさん集めようと約束した。
もっともっと、紅優への好きを集めたい。大好きを増やしたい。そう思った。




