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からくり紅万華鏡ー餌として売られた先で溺愛された結果、幽世の神様になりましたー  作者: 霞花怜(Ray)
第三章 瑞穂国の神々

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34.水ノ神 淤加美

 日ノ宮で月詠見たちと悪巧みのような取引のような話合いをした後。

 次の日には月詠見より報せがあり、その次の日には水ノ宮に行く流れになった。

 月詠見の根回しの速さは圧巻だ。さすが神様だと思った。


(月詠見様は、こうなるって、わかっていたのかな)


 紅優が黒曜に、日ノ神と暗ノ神に繋ぎを作ってくれと話してからの流れも速かった。

 もしかしたら紅優の思考を読んで待ち構えていたのかもしれないと思った。


(月詠見様って、紅優のお父さんみたいだった)


 緩くてニコニコしていながら本心がわからない感じの、かなり癖が強い神様ではあったが。

 父親というものがいたら、あんな感じなのかもしれないと思った。

 内容がどうでも常に軽い話口調も、普段の紅優と似ていると思った。


(日美子様は、物語とかに良く出てくるお母さんぽかったもんな)


 そんなことを考えながら、紅優が待つ居間へ向かう。


「蒼愛、今日の着物は大人っぽいね。落ち着いた色味も似合うよ」


 紅優が頬を撫でてキスしてくれる。

 今日は水ノ神様に会いに行くということで、青と白を基調にした着物を着ていた。

 柄や色味を合わせたので、紅優とお揃いのように見える。

 嬉しくて、照れ臭い。


「紅優も、似合ってる。お揃いみたいで、嬉しい」


 相変わらず俯いてしまう顔で、目だけを上げる。

 紅優が蒼愛の額に口付けた。


「髪も綺麗に整えたのに、頭を撫でたら崩れてしまうからね。今日は額に、あとは、こっち」


 唇が重なって、妖力が流れ込む。

 代わりに霊力を吸い上げられて、気持ち良くてうっとりした。


「水ノ宮は、街を通り越した大きな湖の上にあるんだ。ちょっと遠いから、最初から空を走ろう」


 玄関を出ると、紅優が早速、妖狐の姿になった。

 背中に乗ると、空へと駆け上がる。

 あっという間に屋敷が豆粒のように小さくなった。


「うわぁ! 紅優、速いね! すごいね!」

「ふふ、蒼愛はこの姿を怖がらずに喜んでくれるから、嬉しいよ」

「怖い? どうして? サラサラでフワフワで気持ちいいし格好良いよ!」


 話しながらも妖狐の紅優が雲の隙間を駆けていく。


「早く人型になって蒼愛にキスしたい」

「うん、僕も!」


 風のせいで声が大きくなってしまった。

 恥ずかしくて、蒼愛はフワフワの紅優の毛並みに顔を埋めた。


 辿り着いた水ノ宮は、日ノ宮のように雲の上にあった。

 広々とした場所に大きな湖があり、その傍らに社があった。

 

 人型になった紅優が蒼愛に口付ける。

 蒼愛も唇を返して、手を繋いだ。


「行こう。何があっても離さないよ」

「うん、僕も。紅優を離さない」


 握った手を確かめるように握り返して、二人は水ノ宮に向かった。

 給仕なのか巫女なのか、女性に案内されて社の中に入る。

 外廊下を少し歩くと、小さな滝と池があった。

 すぐ隣に広い露台(バルコニー)があり、木造りのテーブルと椅子が置かれていた。


「やぁ、遅かったね~」


 椅子に掛けて待っていたのは月詠見と日美子だった。

 例の軽い調子で、こちらに手を振っている。

 紅優が、がっくりと肩を落とした。


「来るなら来ると事前に報せてくれたら良かったのに」

「だって、急に決まったからさぁ」


 食って掛かる紅優を月詠見が押し返す。

 何となく、微笑ましく見えた。


「遅くなって、すまない。おや、揃っているね」


 家屋の中から、男性が歩いてきた。

 後ろで綺麗にまとめた長い髪は、蒼愛と同じ青色だ。

 切れ長で薄く開いた瞳もまた、青い。

 近くに寄ると、身長が高くて、見上げる形になった。


淤加美(おがみ)様、本日はお時間を頂戴いたしまして、ありがとうございます」


 紅優が丁寧に頭を下げる。

 それに倣って、蒼愛も礼をした。


「ご挨拶が遅くなり、申し訳ございません。この度、番を得まして、名を紅優と改めました」

「こ、紅優の番になりました、蒼愛、です。よろ、よろしくお願いしま、す」


 緊張しすぎたせいで動きも言葉もカクカクして、声が裏返ってしまった。

 遠くで月詠見が笑いを堪えているのがわかる。隣で月詠見を突く日美子がハラハラして蒼愛を見守っているのがわかる。

 恥ずかしくて顔どころか耳まで熱くなった。


「くっ、ふふ」


 頭の上で、笑いをこらえる声がした。

 ちらりと目を上げると、淤加美と目が合った。


「いや、すまない。紅優が番を得るとは、一体どんな相手だろうと思っていたから。まさか、こんなに可愛らしい人間とは思わなくてね」


 淤加美の手が蒼愛の頭に伸びた。


「私は水ノ神・淤加美。蒼玉である蒼愛に加護を与える神だ。私とも仲良くしてくれたら、嬉しいよ」

「はい……」


 屈んで目線を合わせて微笑んでくれるその顔は、とても悪い神様には見えなくて、蒼愛は素直に返事をしていた。


「早速だけど、加護を与えても構わないだろうか。是非とも蒼愛の霊力に触れてみたい」

「お願い、致します……」


 無表情と言えばそうなのだろうが、紅優の顔はちょっとだけ険しく見えた。

 淤加美が眉を下げて困ったように笑った。


「蒼愛は、いいかな?」

「お願い、します」


 頷くと、淤加美の両手が蒼愛の顔を包み込んだ。

 唇が重なる。濃い神力が流れ込んで、視界が一瞬、ダブって見えた。


(流し込まれているだけなのに。霊元に沁み込んでくのが、わかる。体が、熱い)


 浮いた手が淤加美の着物を掴む。

 くちゅりと音を立てて唇が離れると、体が前に倒れた。

 蒼愛の体を淤加美が受け止めた。


「おっと、大丈夫かい?」


 すぐには返事ができなくて、小さく頷いた。


「蒼愛!」


 駆け寄った紅優が蒼愛の背中を摩る。

 いつもの温もりに安堵して、彷徨う手が紅優に伸びた。


「からだ、あつい。紅優……」


 蒼愛の呟きを聞いた淤加美が蒼愛の体を抱えて、紅優に手渡した。


「私の神力を強く感じとったんだろう。同じ属性だと反応しやすいけど、蒼愛は感受性の強い子のようだね。何回かに分けて与えてやった方がよさそうだ」

「何回か……」


 呟いた紅優の眉間の皺を眺めて、淤加美が面白そうに笑った。


「ふふ、すまない。あからさまに嫌な顔をするなと思ってね。そういう顔の紅優は初めて見たよ」


 指摘されて、紅優が表情を改めた。


「立ち話も何だし、蒼愛を座らせてあげたいから、中に行こうか。椅子よりは座敷が楽だろう」


 淤加美に促されて、蒼愛たちは家屋の中に移動した。


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