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からくり紅万華鏡ー餌として売られた先で溺愛された結果、幽世の神様になりましたー  作者: 霞花怜(Ray)
第五章 災厄の神

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第156話 緑風と明灯

 後ろから突然、腕が伸びてきて、蒼愛を抱きしめた。


「蒼愛ー! お疲れぇ! 大変だったなぁ。お前はいつも大変な目にばっか遭ってんな。生きて帰ってきて、偉いぞぉ」

「うわぁ!」


 思わず大きな声を上げて振り返る。

 誰かと思ったら、霧疾だった。お酒の匂いがする。


「霧疾さん、お酒飲んでるの?」

「飲んでるよぉ。みんな、飲んでるよぉ。神様はお酒、好きだからねぇ」


 見渡すと、淤加美を始め、神々は酒を飲んでいる様子だ。

 しかし、あまり普段と変わらない。

 一緒に飲んでいる側仕の方が、酔っているように見える。


「霧疾、妙な絡み方をするな。無礼だぞ」


 霧疾を諫めたのは、ピピを連れてきてくれた緑風だった。

 抱き付く霧疾を退けて、緑風が蒼愛の前に座り、頭を下げた。


「お初にお目にかかります、蒼愛様。私は宝石の緑玉、霧疾の番の緑風にございます。ご挨拶が遅れまして、申し訳ござりませぬ」


 緑風が紅優に向き直って、同じように礼をした。


「紅優様におかれましては、瑞穂ノ神という最高位の神にお立ちになられましたこと、宝石として見出していただいた身としましても、誇り高い心持でございます」


 何とも硬い挨拶だ。

 きっと真面目な人なんだろうと思った。


「霧疾さんに聞いてました。お会いしたいって思っていたので、会えて嬉しいです」


 蒼愛が差し出した手を、戸惑いながらも緑風が握った。


(握手とか、あんまりしない方が良かったかな。無理やりさせちゃったかな)


 蒼愛の表情を見て取って、緑風が苦笑した。


「お恥ずかしいですが、手を握るという風習に、未だ慣れませぬ。もう二百年以上、瑞穂国で生きているというのに、幼少の(みぎり)に身に付けた習慣は抜けぬものですな」

「二百年⁉」


 驚き過ぎて背筋が伸びた。


「緑風は、江戸時代中期くらいの人でね。把握している中では、瑞穂国に一番長く住んでいる人間なんだ」


 紅優の説明にも、只々感心するばかりだ。


「紅優は酒、飲まねぇの? 神様なのに?」


 紅優の前に置かれているコップを手繰り寄せる。

 小さめのコップを二つ、満たして、霧疾が蒼愛にも勧めた。


「蒼愛も飲め飲め。神様なんだから」


 コップを手渡されて、戸惑った。


「僕、未成年だけど、お酒飲んでいいの?」


 瑞穂国のルールがよくわからなくて、紅優に問う。

 現世では成人するまでアルコールと煙草はダメ、という決まりがあった気がする。

 理研の中でも、細胞にダメージを与えるという理由で厳しく取り締まられていた。


「特に制限ないかな。蒼愛はもう人間の体じゃないから、同じに考えなくていいと思うけど」

「今の世では制限がありましょうが、私が現世で生きていた時分などは、元服すれば酒は常套でございましたから。蒼愛様のご年齢なら、皆飲んでおりました」


 紅優と緑風がそう言ってくれるならと、蒼愛はコップの中の液体の匂いを嗅いだ。


(甘い香りがする。美味しそう)


 そのまま一口、口を付ける。

 ジュースのような口当たりの後に、強いアルコールが薫ったが、嫌いな感じではない。


「美味しい。これなら、飲めそう」


 くぴくぴと飲み始めた蒼愛を霧疾が得意げな顔で眺めた。


「だろぉ。甘いモンが好きな蒼愛のために、果実酒持ってきたからな。慣れたら御神酒も飲めよ」 

「御神酒?」

「神様のためのお酒だよ。神力を維持して増やしてくれる、特別なお酒でね。神力を消耗した後なんかには、よく飲むんだ」


 紅優の説明を感心して聞きながら酒を飲んでいるうちに、あっという間に飲み干してしまった。


「なんだ、蒼愛。飲めんじゃん。沢山飲んで、大きくなれよ」

「お酒飲んだら、背が伸びる?」


 思わず前のめりになって霧疾に聞いてしまった。

 その姿を眺めていた緑風が吹き出したのを隠していた。


「普通の酒じゃ、わからねぇけど。御神酒なら伸びるかもしれねぇよ」


 霧疾が蒼愛の頭をポンポンと撫でた。


「飲みます。御神酒、いっぱい飲みます」


 コップの中の酒を飲みほして、もう一杯催促する。

 霧疾が楽しそうに蒼愛のコップに酒を注いでいた。


「霧疾さん、適当な話をしないでください。蒼愛が信じちゃうでしょ」

「伸びるかもしれねぇじゃん。蒼愛はもう神様なんだからさ。御神酒で変化があるかもよ」


 クックと嬉しそうに、霧疾も自分の酒を飲んだ。

 神様、という言葉を受けて、緑風が蒼愛に居直った。


「結彩ノ神となられました蒼愛様には、明灯殿と共に改めてご挨拶に伺いたいと存じます。我等宝石の人間を統べる神であらせられる蒼愛様と話し合えるお時間を頂戴したく存じます」


 緑風が小さく頭を下げた。


「緑風や明灯にも、啓示があった?」


 紅優の問いかけに、緑風が頷いた。


「我等宝石の人間は結彩ノ神蒼愛様を支え、守り、お助けするために存在する。新しき宝石の人間を探すのも、我等の役目。蒼愛様の采配は絶対の命、何なりと御下命くだされ」


 緑風に平伏されて、蒼愛は慌てた。


「あ、頭を、あげてください。僕はそんな……、そんな風には、考えていなくて」


 慌てる蒼愛に明灯が歩み寄り、腰を下ろした。


「狡いですよ、緑風さん。私はまだ、名乗ってしかいないのに。お話しするなら誘ってください」


 爽やかな笑顔を向ける明灯に、緑風が済まなそうな顔をした。


「これは、気が回らなんだ。忙しそうにしておった故、声を掛けそびれたな」


 明灯はさっきまで神々や側仕の面々にケーキを切り分けたり、菓子の説明をしたりして回っていた。

 周囲を見回すと、菓子は生き届いたようだし、他のスタッフが立ち回ってくれているようだ。


「冗談ですよ。手が空いたので蒼愛様にお声を掛けたくて、来たのです。私も抜け駆けするつもりでしたから、気にしないでください」


 ニコリと笑んだ明灯は、ちょっと悪戯な表情だ。

 可愛い人だし、気が回る人だと思った。


「私にも緑風さんと同じ啓示がありました。結彩ノ神蒼愛様を支える一助となれましたら幸いに存じます。ですからもっと、蒼愛様の御人柄を知りたい。お話する機会を頂戴できれば、より嬉しく思います」


 明灯の言葉に、蒼愛は飛びついた。


「僕も! 僕も、御二人をもっと知りたいです。色々な話をしたいです。それで、一緒にこの国を良い国にしていけたらいいって、妖怪も神様も人間も、仲良くできる国に出来たらいいって、思うんです。僕より瑞穂国が長いお二人に、色々教えてもらえたら嬉しいです」


 一気に話した蒼愛を、緑風が呆然と眺めた。

 明灯がクスリと笑んだ。


「蒼愛様は噂通りのお方だ。真っ直ぐで素直で、可愛らしい。紅優様が選ばれた番に間違いはありませんね」


 明灯の視線に、紅優がちょっとだけ照れた顔をしている。


「二人より若いけど、蒼愛はきっと二人にとって良い神様であるはずだよ。瑞穂ノ宮に遊びにおいで。いつでも歓迎するよ」


 紅優の視線が緑風に向く。

 緑風が小さく息を吐いて笑んだ。


「私ももっと、蒼愛様を知りたくなり申した。蒼愛様の掲げる理想を、御享受くだされ」


 緑風と明灯が揃って頭を下げた。


「あの、あの……、今はまだ、難しかもしれないけど。もっとお話をして、お互いを知れたら、僕と仲良くしてください。友達みたいになれたらいいって、思っています」


 顔を上げた緑風が思い悩むような顔をしている。

 明灯がニコリとして、蒼愛の頬をするりと撫でると、手を取り口付けた。


「明灯殿! 主に対して失礼だぞ」


 苦言を呈する緑風に、明灯が笑って見せた。


「仲良くなる一歩として、ですよ。蒼愛様、お酒はゆっくり飲んでください。でないと、折角のスイーツの味がわからなくなってしまいますから」


 明灯に指摘されて、蒼愛は口を押えた。

 酒のせいで頬が熱いし、ちょっとぼんやりする。


「気を付けます。明灯さんのケーキ、僕ももっと食べたい」


 明灯が嬉しそうに笑んだ。


「よぉし、緑風。あっちで飲むぞ。久々の天上だろ。ハメ外して飲もうぜ」

「またそのような。志那津様に失礼があってはならぬぞ」


 霧疾が緑風を掴んで連れて行った。

 緑風が申し訳なさそうに紅優と蒼愛に頭を下げて戻っていった。


「緑風さんは江戸時代に、大きな藩に仕官していた御侍様です。ちょっと考え方が硬いし、今の世には理解し難い価値観を持っていますが、慣れれば可愛くて良い方です。きっと、蒼愛様も好きなってくださると思います」


 明灯の言葉に、蒼愛は頷いた。

 緑風の性格を知っている明灯と霧疾は、気を利かせて側にいてくれたのかもしれない。


(瑞穂国が長くて大人な緑風さんからしたら、僕なんか何も知らない子供だ。だけど、馬鹿にしないで話を聞いてくれた。神様として受け入れてくれた)


 それだけで充分、懐が深い人だと思う。

 そんな緑風を大事にしている明灯もまた、良い人なんだろうと思った。


「色々な御気遣い、ありがとうございます、明灯さん。瑞穂ノ宮に二人で、遊びに来てくださいね」


 明灯が笑顔で頷いてくれた。


「勿論です。私も蒼愛様をもっと知りたい。今日お会いして、とても興味が湧きました」


 明灯の指が蒼愛の頬を滑る。

 その仕草はあくまで爽やかで、下心や卑猥さがない。


「一先ず今日は、NYANCHOCOTTのスイーツをご堪能くださいね」


 言い添えて、明灯がその場を去って行った。

 赤玉の明灯と緑玉の緑風、二人とも癖は強いが仲良くなれそうな気がして、蒼愛の胸が弾んだ。

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