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からくり紅万華鏡ー餌として売られた先で溺愛された結果、幽世の神様になりましたー  作者: 霞花怜(Ray)
第五章 災厄の神

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第148話 たすけて

 腹に刺さった剣ごと紅優を抱き上げると、蒼愛が飛び上がった。


「小碓様、神様を連れてきたよ。お話がしたいんだって。もう死んじゃいそうだから、死ぬ前に話してあげて」


 紅優に攻撃した場所から、小碓はかなり離れた場所に居たのだが。

 蒼愛は風を使い、一足飛びで小碓の元に戻った。


(ストッパーがないと、蒼愛はこんなに強いのか。あれだけ炎や水の矢を乱れ討ちしても、神力を消耗している気配がない。普段どれだけ傷付ける行為に怯えているか、よくわかるな)


 抱えていた紅優の体を小碓の前に降ろす。

 蒼愛が紅優に向かい、黒い神力を投げた。

 紅優の腕に、黒い神力が巻き付いた。腕が頭の上で拘束され、空中に縫い留められる。

 足にも黒い神力が巻き付いて、土に固定された。

 蒼愛は小碓と紅優の間に立った。紅優の腹に刺さったままの剣の束を握った。


「小碓様に何かしようとしたら、僕がこの剣を薙いで神様の体を真っ二つにして殺すから。安心して話していいよ」


 蒼愛が小碓に笑いかける。

 屈託のない笑顔は紅優が知っている蒼愛だ。

 物騒な言葉以外は、いつもなら紅優に向けられている蒼愛の表情と声が、今は小碓に向いている。


(今は耐えろ。予想の範疇だ。蒼愛に想像以上に井光さんと真白を攻撃させちゃったのは、失敗だったな)


 種を浄化した後で自分がした攻撃を知ったら、蒼愛はきっと後悔して自分を責める。

 本当なら攻撃の合間に浄化するつもりだった。しかし、蒼愛に隙がなくてできなかった。

 せめて浄化した後、種に操られていた間の記憶が消えていればいいと願う。


(問題はその浄化だ。やっと結界の中に入って小碓に近付けたけど。蒼愛と小碓、同時に浄化するしかないか)


 小碓は羽々や蒼愛を使って攻撃してくるばかりで、自分は蒼愛が張った強靭な結界の中で高みの見物を決め込んでいた。


(怨霊らしく臆病な質だ。だからこそ策を弄して他者を利用する。とはいえ、近付きさえすれば、どうとでもなるんだけど。種を取り出すにも、蒼愛が邪魔だな)


 小碓を命懸けで守る蒼愛が、万能すぎる。何より傷付けたくない。

 蒼愛は小碓に頬を撫でられて、気持ち良さそうにその顔を見上げている。蒼愛の顔がいつもの通り可愛くて、吐き気がするほど小碓に殺意が湧いた。


「瀕死にして連れてきたか。本当に私に紅優を差し出したな。蒼愛は使い勝手が良い。あと二人は、どうした?」

「虎さんはまだ生きてた。白い狼さんは死んじゃったかな。二人とも黒い神力の籠った水の矢を射ったから、放っておけば死ぬと思うよ」


 小碓に頭を撫でられて、蒼愛が嬉しそうに笑んだ。

 小碓の目が紅優に向いた。


「愛する番に殺される気分はどうだった? 楽しめたか?」


 紅優の口元から流れる血を指で拭い取ると、小碓が舐め上げた。


「最悪の気分だ。しっかりお返しさせてもら……ぅっ! ぐふ、げほっ」


 蒼愛が持っている剣の束を、小碓がぐりぐりと押した。

 痛みが脳にまで響いて、咳が止まらない。また血が流れて、地面に落ちた。

 紅優の吐いた血が真下にいる蒼愛に降りかかる。蒼愛の表情は変わらない。


「悪くない余興だった。お前の大事な蒼愛は、今や私を愛する従順な駒だ。最期に口付けくらい、させてやろうか」


 蒼愛の顎に手を当てて、顔を上向かせる。 

 無表情な蒼愛が紅優を眺めた。


(この顔を知ってる。出会ったばかりの頃の、からくり人形の蒼愛だ。本当の蒼愛は、そうじゃない。自分で考えて感じて、笑って泣ける子だ。もうこんな顔、する子じゃない)


「蒼愛に何もするな。蒼愛に触れるな。これ以上、蒼愛の望まない蒼愛にするな」


 荒い息で応える。

 小碓が紅優の顔を掴み上げた。


「虚勢はそれだけか? もっと悔しがれ。私に怯えろ。勝てないと心の底から諦めて、跪いて核と体を差し出せ」


 愉悦が溢れる瞳に、紅優の中に疑念が湧いた。

 眉間に皺が寄っているのが、自分でもわかる。


「お前は俺を恨んでいるのか? 俺に勝てたら、嬉しいのか?」


 小碓にも闇人名無にも恨まれる覚えはない。

 小碓が顎を上げて笑った。


「この国の最高峰、瑞穂ノ神で在るお前が恨めしい。王族である俺が平定の旅の途中で死んだのに、好いた女も抱けずに死んだのに。妖狐のお前が何故、神だ? 番を好きに抱いて、皆に崇められる? その場所は、私がいるべき場所だ」


 少しだけ、納得できた。

 小碓命が怨霊となり闇人に堕ちた理由は、一つの何かではない。自分の生い立ち総てなのだろうと思った。


(だから小碓は、神を奪って王になりたいと願うのか)


 神は国を守る存在だ。王ではない。

 瑞穂国に王はない。だから神の中心である瑞穂ノ神を狙うのだろう。


(曖昧で強烈な自我。生者への異常な劣等感と執着。願望は幼稚な渇望、行動原理は単純。その割に執念深くて、中途半端に狡猾。総てが如何にも怨霊らしく浅はかで、何とも、度し難い)


 思わず、薄らと笑みが零れた。

 紅優の顔を、小碓が色のない顔で眺めた。


「自分の立場が理解できていないようだ。わからせてやろう」


 小碓の手が蒼愛に伸びた。

 股間を弄られて、蒼愛がビクリと体を震わした。


「ぁっ……、きもちぃっ。小碓様、もっと僕を、犯して……」


 紅潮し上気した蒼愛の目が艶に染まる。

 その顔が紅優を見上げている。

 どうしようもない怒りが込み上げた。


「そうだ、そういう顔をしろ。お前がどんなに否定しようと、今の蒼愛は私の手と愛撫に身を震わせ悦ぶ。手塩にかけて育てた番が、こうもあっさり他の男の手に堕ちるのは、悔しいだろう。どれだけ悔しがろうが、お前は蒼愛を取り戻せない」


 紅優の腹に刺さった剣から手を放して、蒼愛が小碓に縋り付いた。

 上向いた蒼愛の唇に小碓が噛みつくようなキスをする。

 怒りで紅優の体が震える。


(これ以上、蒼愛を汚されてたまるか。これだけ近ければ、奴の種ごと神々の核を無傷で回収できる)


 紅優は縛り上げられた手の中に神力を展開した。

 蒼愛の手から水の矢が飛び、紅優の頬を掠めた。


「動かないで。小碓様に何かしたら、僕がお前を殺すから」


 殺意を吐いた唇が、自分から小碓を求めて吸い付く。

 小碓が得意げに笑った。


「もっと紅優が喜ぶ趣向がある。蒼愛、これを使え」


 小碓が首輪を蒼愛に手渡した。

 受け取った首輪を蒼愛が自分の首に嵌める。蒼愛の首から血が流れた。


「蒼愛……! 蒼愛に、何をした!」


 首輪が徐々に食い込んで、更に血が流れる。


「小碓様が僕にくれた最初の宝物。うふふ、嬉しいな」


 蒼愛は痛がるどころか、むしろ嬉しそうに首輪に触れていた。

 その表情が、万華鏡を喜んていた蒼愛と重なって、胸が締まる。怒りと殺意が膨れ上がる。


「紅優が私を攻撃すれば、首輪が締まる。内側に黒い神力の刃が仕込んであるから、首が落ちるだろうなぁ。死んでも問題ない。体を治して、新しい自我を移植してやる」


 挑戦的な目を向ける小碓に、紅優は殺気の籠った目を返した。

 小碓の目が如何にも嬉しそうに歪に笑んだ。


「死んでも小碓様の側で、役に立てるんだね。じゃぁ、僕が死んじゃっても、大丈夫だね」


 自分から小碓に口付けて、蒼愛が嬉しそうに笑む。

 抱き付いてきた蒼愛を、小碓が引き寄せた。


「大丈夫だ。首が胴と離れても、私が治して使ってやる。今はただ、私の愛撫で気持ち悦くなっていればいい」


 小碓がまた、蒼愛の男根を扱き始めた。


「ぁ……、はぁ……、いい、もっとぉ……」


 蒼愛の体を紅優に向けて、勃起した男根を紅優に見せ付ける。

 小碓の愛撫で蒼愛の顔に悦が昇る。

 抑え込もうとする怒りが膨らんで、じわじわと紅優の脳を支配する。


「良い顔だ、紅優。次は絶望した顔をして見せろ」


 小碓の手が蒼愛の男根を激しく扱く。

 蒼愛の体がビクビクと震える。


「んっ、んぁ、でちゃう、でちゃぅぅ」

「出してやれ、蒼愛。私の手で絶頂した精液を紅優にくれてやれ。蒼愛はもう、私でしか絶頂できないと教えてやれ」

 

 小碓のもう片方の手が蒼愛の着物の袷に入り込む。

 胸をしきりにいじられて、蒼愛が体を揺らして喜んだ。


「ぁん! ぁぁっ! 乳首、きもちぃ。小碓様の手、好きいぃ! もっと、悦くしてぇ」


 小碓が蒼愛の尻に自分の男根を押し当てた。

 蒼愛が応えるように押し返している。

 小碓が蒼愛の耳に口を寄せた。


「蒼愛は誰が好きだ。はっきりと、教えてやれ」


 小碓の目が紅優に向く。

 挑発だとわかっていても殺意が増した。


「小碓様が好き、大好き。僕は、小碓様の駒。僕の命は、小碓様の道具」

「紅優はもう要らないな。名前も存在も、忘れろ。私だけを覚えていろ」

「要ら、な……」


 言いかけた蒼愛の目から涙が溢れた。


「要らな……、ヤダ、要らなくない。でも、要らない。僕は、小碓様が好き、違う、紅優……じゃ、なきゃ、嫌だ。僕は、ぼく、は……、忘れたく、なんか……」


 蒼愛の眼球が不自然に揺れている。

 紅優の背筋に冷たいものが流れた。


「蒼愛……、抗っちゃダメだ。必ず助けるから、無理に意識を戻そうとしないで!」


 強い呪詛に無理に抗えば、精神が壊れかねない。壊れてしまったら、どんな神力でも治せない。神力で祓える呪詛の方がまだマシだ。

 腕を拘束する黒い神力を浄化しようと神力を籠める。

 蒼愛の首輪が締まって、また血が流れた。紅優は反射的に神力を止めた。


「神力を使えば、私への攻撃とみなし、首輪が締まる。愛する番を首だけで愛でたいなら、神力を使え。顔さえあれば口淫には使えるぞ」


 小碓がさも楽しそうに笑う。

 静かな殺意が紅優から表情を奪った。


「もっと呪詛を強めるか。蒼愛には今の倍以上、呪詛を使っても良さそうだ」


 小碓が蒼愛の背に手を当てて、黒い神力を流す。


「やめろ……、これ以上、蒼愛を傷付けるな」


 呟くような紅優の言葉に、小碓がニタリと笑んだ。


「傷付いてなどいない。愛する私に犯されて、快楽に溺れているだけだ」

 

 あてている手から蒼愛の背中に黒い神力を、さっきより大量に流し込んだ。

 蒼愛の体が大きく跳ねて、顔にまた悦楽が戻った。


「あぁ! 好き……、好きぃ……、あは、きもちぃ……」


 なのに、その目からは涙が溢れる。

 蒼愛が大粒の涙を流しながら小碓の愛撫に善がっている。

 紅優の後悔が膨れ上がった。


(壊さないために抗うなと伝えたのに。無意識でも、蒼愛はこんなに抗って、俺を忘れないために、無理をして)


 怒りと後悔と、蒼愛への想いが溢れて止まらなかった。


「見た目によらず、諦めが悪いな。腹の中に闇の呪詛をぶちまけて、わからせてやる。蒼愛の持ち主は、この私だ。私だけを意識に残せ。他は何も必要ない。誰が主か、体で覚えろ」


 小碓の手が蒼愛の着物を捲って、腰を持ち上げた。

 両手足に力が入って、紅優の体が前のめりになる。

 神力を使ってしまいそうになる自分を、必死に耐える。

 食い縛った口から血が流れた。


「それ以上、触れるな!」


 怒鳴る紅優を小碓が愉快そうに眺めた。


「いいなぁ。その顔は、いい。今日一番の顔だ。この穴に突っ込んだ瞬間のお前の顔を想像しただけで、イキそうだ」


 小碓が蒼愛の尻を撫でながら、後ろの穴に触れた。

 蒼愛の体が大きく震えた。

 

「ぁ、ぁ……。きもちぃ……。……ヤダ、嫌だよ……、こうゆぅ……、たすけ、て……」


 泣きながら、善がりながら、蒼愛の口から声が零れた。

 紅優の我慢の糸が、プツンと切れた。

 

「今、助けるよ。全部、終わらせよう」


 紅優の呟きに、小碓が顔を上げた。

 次の瞬間、平原は真っ白な光に包まれていた。

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