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からくり紅万華鏡ー餌として売られた先で溺愛された結果、幽世の神様になりましたー  作者: 霞花怜(Ray)
第五章 災厄の神

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第120話 燕と大蛇の番の人間

 木の根が絡まった足が土の中に引っ張られる。

 土と根が蒼愛と真白の体を地下へと潜り込ませていく。

 

(土がいっぱい被さってくる。も、だめ、苦しい……)


 力が抜けそうな蒼愛を懸命に引き寄せて、真白が腕に抱いた。

 強く絡まった木の根が、二人の体を土の中から放り出した。

 飛び出した場所は、木々が生い茂る森のはるか上空だった。


「え? えぇ⁉ 落ちちゃぅ」

「蒼愛様、体丸めて、俺に掴まれ」


 土塗れの蒼愛の頭を真白が庇って胸に抱いた。

 体を捻って、木に自分の背中を向ける。クッションになりそうな枝の上に落ちた。

 いくつかの枝をへし折って、真白の体が地面に落ちる。

 落ちた瞬間、ふわりと慣れた毛並みが蒼愛を包んだ。

 白狼姿になった真白が、蒼愛を受け止めていた。


「大丈夫か? 蒼愛様」


 真白が狼の姿のまま、蒼愛にかかった土を顔で払ってくれている。


「真白こそ、大丈夫? 僕まで受け止めて重かったでしょ? 怪我してない?」


 蒼愛は真白の体を見回した。

 土は被っているが、怪我はなさそうだ。


「俺は大丈夫だ。蒼愛様こそ、怪我してないか? 土塗れだな」

「僕も、痛い所はないよ。真白が庇ってくれたから、平気。ありがとう」


 互いに土を落とし合う。

 視界の先に、何かが落ちているのが見えた。

 近付いて、覗き込む。土塗れの塊に見えた。


「何だろ、これ……」


 拾い上げて、土を払い落とす。

 徐々に姿が見えてきて、温かさを感じた。


「生き物……、鳥だ。小さな鳥さんだ」


 蒼愛は急いで土を払い落とした。

 黒い鳥は首の辺りから腹が白い。見たことがある鳥だ。


「燕だな。妖怪みてぇだから、ただの燕じゃなさそうだけど」


 真白がクンクンと匂いを嗅ぐ。

 蒼愛の手の中の鳥は土を払い落としても目を覚まさず、ぐったりしている。


「どこか怪我してるのかな? 治療してみるね」


 蒼愛は癒しの水を展開して、燕を包み込んだ。

 燕が何度か嗚咽を繰り返す。口の中から大きな実が飛び出した。


「けほ、けほ……、何事だよ、一体……」


 燕が顔を上げる。蒼愛と目が合った。

 蒼愛の後ろから覗き込む狼の真白を見詰めて、くりくりの目がもっとまん丸になった。


「ひぃぃぃっ。食べないで、食べないでぇ」


 蒼愛の手の中で、燕が小さくなっている。


「食べないよ。真白は鳥は食べないから……。あれ? そうでもない?」


 真白は蒼愛が食事をする時、同じように食事をする。

 チキンソテーや唐揚げも食べるから、鶏肉も食べないわけではない。


「鶏肉は喰うけどな。こんなに小せぇ鳥は喰わねぇよ」


 蒼愛の思考を察したのか、真白が呆れた顔で補足した。

 手の中で涙目になる燕に蒼愛は笑いかけた。


「食べないって。だから、大丈夫だよ」


 燕が震えながら蒼愛と真白を見詰めた。


「僕らは地上から穴にハマって落ちてきたんだけど、燕さんはどうして、こんなところで土塗れになってたの?」


 蒼愛の言葉に、燕がビクリと全身を揺らした。


「お前……、お前らのせいか! 俺が食事してる時に急に土が動いて巻き込まれたんだ。大蛇だったらもっと巧く穴にハマって静かに降りてくから、おかしいと思ったんだ。危うく死ぬところだったんだぞ、馬鹿ぁ!」


 羽を大きく広げてぴっぴと鳴きながら抗議している。

 どうやら、怪我などはなさそうだ。

 

「そっか、僕らに巻き込まれて一緒に落ちてきちゃったんだ。食事中だったから、木の実を喉に詰まらせちゃったんだね。ごめんね」


 燕がぶんぶんと首を振った。


「俺は木の実なんて可愛いもの、喰わないよ。虫を喰うの。妖怪だから人も喰うんだぞ!」


 大きく羽を広げて、目を見開く。

 威嚇しているのかもしれないが、可愛くしか見えない。


「でも、喉に詰まってたの、木の実だったよ。間違って食べちゃったの?」

「それは、あれだろ。お前らに巻き込まれた時に、たまたま摘まんだだけっていうか。虫とか人が取れないときは、時々、仕方なく喰う時もあるけど……。本当に時々だからな!」


 燕が必死に弁明している。

 どうやら木の実を食べると思われたくないらしい。


「そうなんだね。人を喰う妖怪だから、燕さんはここに住んでいるんだね」


 自力で狩りが出来ない妖怪が共に暮らしていると、呵々が教えてくれた。

 この燕が人を喰うのだとしたら、確かに自力で人を狩るのは難しそうだ。


「俺は燕見(えんみ)って妖怪だ。飛ぶのが早いから飛燕(ひえん)って呼ばれてる。すごい燕見なんだぞ」


 えっへん、と聞こえてきそうな勢いで、燕が胸を張った。


「早く飛べるって、凄いね。名前は、なんていうの?」


 蒼愛の問いかけに、燕がビクリと体を揺らした。


「名前は、ねぇよ。付けてくれる奴なんかいねぇし」


 さっきまでの勢いが何処に行ってしまったのかと思うほど、小さい声だ。

 

(燕って、親がいて兄弟がいっぱいいるイメージだけど、違うのかな)


 理研の窓から見えた燕の巣には、番の親が子のために餌を運んでいた。

 子は五、六羽くらいはいたから、あれが家族なんだと思っていた。


「燕って、妖怪になると一人で生きるのか?」


 聞きづらい質問を真白がしてくれた。


「妖怪になる燕は少ねぇんだ。親兄弟は現世で普通に死んでる。俺らは群れる習性もねぇ。だから一人だよ」

「群れないのに人を喰うって、効率が悪い気がするね」


 燕からしたら、自分より大きな相手を喰う訳だから、狩りは出来なそうに思う。


(燕見って、妖怪図鑑にも載ってなかった。そもそも数が少ないのかもしれない)


「俺が喰うのは脳とか肉とか魂の一部だけだ。時々、喰えれば命は繋げる。だからここで、大蛇に分けてもらってんだよ。普段は妖怪になる前と同じように虫とか喰えれば生きられるからな!」


 蒼愛は燕を見詰めた。

 きっと大蛇の領土には、この燕のような妖怪がたくさん住んでいるのだろうと思った。


「じゃぁさ、巻き込んじゃったお詫びに、僕が名前を付けてあげるよ。そうだな……」

「名前? お前が? ていうかお前、人間なの? 何者なの?」


 燕が蒼愛の手にスリスリしたりゴロゴロしたりしている。

 何かを確かめている様子だ。

 その様を真白が、じっと見詰めていた。


「ピピって、どう? 可愛くない?」


 満面の笑みの蒼愛とは裏腹に、燕がとても嫌そうな顔をした。

 鳥の顔でも、嫌さが伝わってくる表情だ。


「どうせ付けるなら、もっと格好良い名前にしてくれよ! 俺、雄なんだぞ!」


 やはり、ぴっぴと鳴きながら抗議している。

 その姿がもう可愛いので、似合っていると思うのだが。


「あ、でもカタカナの名前は人間の奴隷に多いんだっけ。燕さんは妖怪だから、漢字の名前の方がいいよね」


 スゼリが名前を変えた時に、そんな話を聞いた。

 この燕はプライドが高そうだし、嫌がりそうだ。


「カタカナでも、いいよ。俺の友達も、名前、カタカナだし。でも、もっと格好良いのがいい!」

「そうなの? 燕さんの友達って、何て名前……」

「君たち、ここで何をしているの?」


 突然、声を掛けられて、真白が蒼愛の前に出た。


「白狼と……、君は人じゃないね。もしかして、色彩の宝石の、蒼愛様?」


 声を掛けてきたのは、人間の男性だ。正確には元人間だろう。半妖の匂いがした。


(妖怪の番になって半妖になった人かな。けど、今の瑞穂国に宝石以外で番なんて、聞いたことない。僕が知らないだけで、いるのかな)


 二十歳前後くらいに見える男性は細身の優男といった風貌だ。

 心配そうに蒼愛を眺めていた。


「この近くは大蛇が人間を管理している場所だから、あまり近付かない方がいいよ。それとも視察で回ってきた? 紅優様とは、逸れちゃったの?」


 何と返事するべきか、迷ってしまった。

 妖怪の番とはいえ、蒼愛たちの事情を把握しすぎている。


「アンタは何者だ? 半妖みてぇだけど、元人間だろ。何で大蛇の領土に居る? 何で今日が瑞穂ノ神の視察だって知ってんだ?」


 真白に問われて、青年が納得の顔をした。


「あぁ、そうだよね。不思議に思って当然だね。俺は大蛇の番なんだ。だから、色々聞いて、知っているんだよ」


 思わず真白と顔を見合わせてしまった。

 大蛇が人間と番になっているのが不思議だった。


「俺の番が人間の管理をしててね。会いに来たんだけど、途中で君たちを見付けたから声を掛けたんだ。普通の人間が入り込んでいたら、危険な場所だからね」


 青年の目が蒼愛に向いた。


「けど、色彩の宝石なら、心配ないね。側仕の白狼も一緒だし、安全だ」


 微笑み掛けてくれた青年は優しい顔をしていた。


芽衣(めい)! 何しているんだ」


 また違う声が聞こえて、蒼愛は顔を向けた。

 慌てた様子で駆けてくる姿には、見覚えがあった。


「野々さん……」


 蒼愛に気が付いた野々が、安堵の表情をした。


「ごめんよ、野々。森で人らしい生き物を見付けたから、保護しようと思って声を掛けたんだ」

「それは構わない。いや、あまり無関係な人間に関わってほしくもないんだが。蒼愛様を見付けてくれたのは、助かった」


 青年が、にこやかに野々に声を掛ける。

 野々が心配しきりな表情を、芽衣と呼んだ青年に向けた。


「もしかして、お兄さんの番の大蛇って、野々さん、なの?」


 野々が蒼愛に向かって頷いた。


「芽衣は俺の番だ。餌として運ばれてきた中から、俺が選んだ。大蛇の中には、人間を番にしている者が多い」


 初めて聞く話に、蒼愛は息を飲んだ。


「そういう説明は、紅優様と合流してからさせてもらう。とにかく、見つかって良かった」


 野々が本気で安堵しているように見える。

 芽衣が蒼愛に向かって手を伸ばした。


「野々の番の、芽衣だよ。野々と一緒に地下で人間の管理をしてる。今日は野々と一緒に案内をするよ、よろしくね」


 蒼愛は芽衣の手を握り、立ち上がった。


「芽衣さんも一緒に管理しているの? 辛く、ないの?」


 蒼愛の不安げな問い掛けに、芽衣がニコリと笑んだ。


「だから来なくていいと言ったんだ。食料になる人間の管理を人間がするなど、蒼愛様には受け入れられまい」


 野々が吐き捨てた。


「まぁまぁ、そういわずにさ。俺も会ってみたかったんだよ。色彩の宝石がどんな人間か、知りたかったの。いいでしょ?」


 芽衣が甘えるように野々の背中に抱き付く。

 野々が苦々しい顔をしながらも、芽衣の手を握り返している。

 その姿は睦まじい番に見えた。


「この場所を見て、蒼愛様がどう感じたか。見終わった後に、俺にも教えてね」


 蒼愛に微笑み掛ける芽衣の笑顔は変わらず柔らかくて、優しい。

 なのに、とても逞しく感じた。




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