表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり紅万華鏡ー餌として売られた先で溺愛された結果、幽世の神様になりましたー  作者: 霞花怜(Ray)
第五章 災厄の神

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/166

第107話 エナ

 人間が粗方、倒れて邪魅がほとんど消えた足下を安堵して眺める。

 その中に違和感があった。

 倒れた人間たちの中で、一人だけ立っている者がいる。


(あれは、なんだろう。邪魅も付いていない。人ではなさそうだけど、妖怪っぽくない。まさかあれが、怨霊?)


 浄化を始める前までは、あんなモノはいなかった。

 怨霊らしき何かが、空を見上げた。

 はるか上空の蒼愛と目が合った。


「え……?」


 怨霊のような何かが、蒼愛に向かって飛んできた。


「蒼愛様、屈んで!」


 陽菜が叫んで、低く旋回する。

 屈もうとするより早く、蒼愛の目の前に怨霊のような何かが、既にいた。


(誰……? 知らないのに、なんでか、懐かしい)


 怨霊らしきモノは少年の顔をしている。その顔を蒼愛は知らない。けれど、感じる気がやけに自分に近くて、他人とは思えない。

 得も言われぬ親近感が、蒼愛の行動を鈍らせた。

 怨霊が蒼愛に向かって手を伸ばした。


『やっと会えた、私の魂の欠片』


 伸びた手が蒼愛の胸に触れそうになった。


「魂の、欠片……?」


 突然、目の前に結界の壁が現れた。

 紅優の結界だとわかった。


「陽菜さん、怨霊から離れて、高く飛んで!」


 紅優の命令通り、陽菜が蒼愛を乗せて天上に向かって飛んだ。

 その後ろを真白が追いかけて来る。


 怨霊の前を蛟姿の縷々に乗った夜刀が塞いだ。


「蒼愛様に手出し、させない」


 夜刀が振るった短剣を避けて、怨霊が姿を消した。

 次の瞬間、怨霊は蒼愛の目の前にいた。

 紅優の結界をすり抜けて、怨霊は蒼愛に手を伸ばすと、胸に触れた。


 ドクン、と心臓が大きく震える。

 体が否応なしに反応する。


(魂が、僕の魂の一部が、混ざりたがってる。この子の魂に、戻りたがってる)


 陽菜の上に膝を付いて、蒼愛は少年を呆然と眺めた。


「ごめんね、エナ。早く返すから。僕の中の、エナの魂の一部を、返すから」


 いつの間にか、知らない名前と知らない事実を口走っていた。

 エナが首を何度も横に振った。


『私は、私の魂の欠片が戻るのを望まない。蒼愛が今の蒼愛のままでいるのを望む』


 エナの手が蒼愛の頬を包む。

 唇が重なって、エナの力が流れ込んできた。


(これは、……神力? そうか、エナは、神様だ。この国の神々が誰も見付けられなかった、災厄の神)


 怨霊ではない。けれど邪魅に塗れた汚れた神力だ。

 綺麗な魂を誰かが、わざと汚したのだ。

 蒼愛の中にじんわりと怒りが湧いた。


『今の私の魂は穢れている。だから、私の神力を覚えて、私の所まで来て。私の魂の欠片を持つ蒼愛でなければ、私を殺せない』


 蒼愛を見詰めるエナの顔は、泣きそうに歪んでいる。


「エナに会いに行ったら、エナを救える? この国を壊したり、しない?」


 エナが何度も頷いた。


『私はこの国が壊れるのを、望まない。だが、望む神がいる。だから、蒼愛。早く私を殺しに来て』


 エナの顔があまりに逼迫していて、すぐに返事が出来なかった。


『私が死ねば、この国は壊れない。ヒルが諦めれば、総てが終わる。だから、私を殺して。約束だよ』


 エナがもう一度蒼愛に口付けて、神力を流し込んだ。

 蒼愛はエナの手を握った。


「死なせない、殺さない。僕はエナとヒルを助けに行く。約束するよ、エナ」


 自分からエナに口付けると、神力を流し込んだ。

 エナの目から涙が一筋、流れた。


『なんて美しくて優しい神力だろう。懐かしい魂の匂いだ。待っているよ、蒼愛。真実を捻じ曲げる者たちの言葉に、騙されないで。蒼愛は蒼愛のままで、自分を信じて』


 エナの姿が消えていく。

 蒼愛の神力に浄化されたように、濁った神力が溶けて消えた。


「蒼愛!」


 エナが消えた瞬間、紅優の声が聞こえた。

 体が落ちる感覚がして、足下に目を向ける。陽菜が気を失っているようだった。


「陽菜さん!」


 落下しながら陽菜の体を抱きしめた。

 真白が空を駆け降りて蒼愛を追いかけ、紅優がその体を掴まえた。


「蒼愛、今のは……」


 紅優が言葉を止めて目の前に手を翳す。

 炎の玉を飛ばすと、空間に黒い姿が浮かび上がった。


「お前は、八俣……?」


 目の前にいる男は、蒼愛と紅優が時の回廊で出会った男だ。 

 しかし、大蛇の妖気を感じない。代わりに濃い死の瘴気と強い闇を感じた。


『待っているよ、蒼愛。お前が欲しい。お前に愛されたい。美しい魂を、私におくれ』


 ニタリと笑むと、男の姿が空気に溶けた。

 返事を待たずに、姿を消した。


 何もなくなった空を、蒼愛と紅優と真白は、只々呆然と見詰めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ