逃げる神と追う火の神
「「お帰りなさいませ、蒼島伮神様」」
そこらじゅうにありとあらゆる植物が芳しい匂いを振りまきその植物に囲まれるように建った星蘭神殿の前に多少の違いはあれど若草色の豪奢な服を揃いで着た美しいたち天使の娘達が蒼島伮が星蘭神殿の前に着いた途端に綺麗に整列をして体を深く曲げてお辞儀をした。
「あー…皆そんなに大きな声を出さないでもらえるかい?蘿劉達にココに居る事がバレてしまったら…」
蒼島伮がコソコソとまるで泥棒のように周りを気にして歩きながら言っていると
「あっ!蒼島伮テメェ其処にいたか!」
そう大きな声と共に星蘭神殿から出てきたのは銀髪の長い髪の毛を編み込みを入れたハーフアップにして更に其れを高い位置で結い上げたとんでもない美丈夫で、真っ赤な口紅を塗った口からヤンチャそうな八重歯が覗き、眼は他の部位と不釣り合いなほど碧く澄み渡っていた。眉からは彼の性格が分かるような程皺がより服は彼の司る火の模様が入り腰帯には彼の象徴とも言える火と太陽の紋章が刻まれた玉佩がぶら下がっていた。
蒼島伮は紅蘿劉の姿を見た途端先ほどとは反対方向に急いで逃げ出した。
「逃がすか!刻等、檎茶!捕まえろ!」
彼は蒼島伮が逃げ出したのを見た途端、後ろにいた茶髪の青年と黒髪の青年にそう命令した。
二人はそういわれるのを待ってましたと言わんばかりに命令を言われた瞬間走りだしあっと言う間に蒼島伮との距離を詰めた。
「蒼島伮様、申し訳ありませぬが我らの主からの命令ですので、大人しく捕まってください」
黒髪の刻等がそう言うと蒼島伮が逃げる暇もなく手元に銀色の刺繍が施された太陽を結いこんだかのような陽銀紐を取り出しその端を持つともう片方の端を檎茶に投げて檎茶が紐を持ったのを確認して二人で反対方向に蒼島伮の周りをまわって縛ろうとしだした。
蒼島伮は今まで陽銀紐に縛られた後、碌な目にあったことがないので急いで逃げ出そうとしたが既に足元は完全に縛られていたので無様にも顔面から地面に突っ込んでしまった。
「ふっふっふ、お前この紅蘿劉様の優秀な部下二人から逃げ切れると思ったか?」
紅蘿劉が腕を組み蒼島伮の目の前に仁王立ちして見下してきた。
「ちょっと紅蘿劉!!貴方いきなり私を拘束するなんて何が目的なんですか!この助平!」
蒼島伮が芋虫の様にもぞもぞと動き回っていると
「オマエなぁ!昨日お前が会議で仕事終わんないとかぬかすから時間開けて来てやったのに何時間待たされたと思ってやがる!」
蒼島伮は紅蘿劉のその言葉に眼をそらしたが向いた先には緑玉がアンタ人と約束しておきながら一人下界に降りてのんびりしてたのかと言わんばかりの顔で睨んできていたので反対の刻等と檎茶の方に紐を解けと念を送ろうと思ったが二人には目をそらされてしまった。
「おい!お前人の大事な部下にそんな風に圧掛けんな!可哀そうだろ!」
紅蘿劉がそう叫ぶとえっ!今紅蘿劉様が私の事大事って言ってくださった!と刻等と檎茶がキラキラとした目で紅蘿劉の事を見つめだした。
紅蘿劉は二人の視線で今自分が何て言ったか思い出し耳を真っ赤にして
「おいっ!お前らはサッサと帰れ!蒼島伮は今から俺と仕事片付けんぞ!」
と言いながら急いで星蘭神殿に入ってしまった。
刻等と檎茶は余韻を噛み締めるかのように二人して地べたに座り込み手をつないで頬を赤らめていた。
二人が手をつないだ時に陽銀紐は二人の手の下に落ちていたので緑玉に解いてもらうことにした。
「蒼島伮様、貴方紅蘿劉様に手伝ってもらう約束してたのに下界に行ってたんですねぇ」
ネチネチ言いつつもちゃんと紐を解いてくれる緑玉は優しい
実はずっとお辞儀したまま待機していた天使の娘たちはそろそろ限界と言わんばかりに肩を震わせていた。
蒼島伮はそれに気づくと
「皆すまなかったね…自分の持ち場に戻ってもいいよ」
その言葉が掛けられた瞬間娘たちはこれまでにないほど早く残像も残さぬほどの速さで自分たちの持ち場に戻って行った。
蒼島伮は暫くその様子に唖然としていたが神殿の中で待っている蘿劉の事を思い出して急いで神殿の中に入って行った。