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想いをかたちに

 悪魔事件からだいぶ時間が経ったとある日、俺は用があるとミリーとエリナに呼び出された。


 彼女らは新しい物を次々に創り出しており、最近はとくにスムージーにハマっているらしい。

 機械イジリばかりしているのかと思ったら、こういった食や生活科学にも興味を持ち始めているから、彼女らは本当に幅が広い。

 幾度も俺にそれを飲ませて来ては感想を聞いてきたのだが、正直あまり美味しくはなかった。

 たぶん、今日もその新作の試飲会であろう。


「今日はミリーの部屋なんだ……。実験室じゃないの?」

「う、うん。もううまくいってそうだから、最終確認をしたくて」


 なぜだかミリーとエリナは顔を赤らめて緊張している様子だ。

 それほどすごい物ができたのだろうか。


「アサヒ様、ちょっと一枚写真撮って良いでしょうか?」

「ん? ああ。まあ別にいいけど、写真なんて関係あるの?」

「立って下さい」


 なぜに立ち姿の写真?

 別に座っててもいいじゃないか、と思ってしまうが、付き合ってやることにする。


「撮れた?」

「はい、ちゃんと体に定着しているようです。あとは機能検証ですね。そっちはまず間違いなく大丈夫だと思いますが」


 ……ん? 定着?


「何の話?」

「アサヒ、ちょっとこっち来て」

「一体何なのか、全貌をまず説明して欲しいんだが……」


 言われるがままにベッドにまで行くと、二人が両脇から俺の腕にしがみついてくる。


「……あの、この状況っていったい何なの?」

「アサヒ、あたしのこと、好き?」

「……。ああ、好きだよ」

「私のことはいかがでしょうか?」

「エリナも同じだって。好きだよ」


 結局あれから、俺は彼女らと男女の付き合いをするようになった。

 けど、結局俺らの関係は好き止まりとなっている。


 俺の心持はだいぶヒューマノイドを辞められている一方、肉体の方には限度がある。

 彼女らと愛を確かめるために体を重ねたってよいが、そこには何も生まれない。

 その虚しさだけはどうしても捨てることができなくて、俺は彼女らのことを愛していながら、未だにそういった行為をしていないのであった。


「えっと、そしたら、機能確認しよっか」

「はい。そうですね」


 なんていいながら、二人急に服を脱ぎ始める。


「え? いや。え? 何やってんのお前ら」

「だから機能確認よ。あたしたちだってもう年頃だし、そろそろ欲しいと思ってたし」

「い、いちおう私はアサヒ様の妻という立ち位置ですし、跡取りを残すためにも、これは必要なことなんです」

「いやだから、前にも言っただろ。俺にはそういう機能が――」



「アサヒ、もう赤ちゃん産めるよ?」



 真っ赤になりながら、ミリーがそんなことを。


「い、いや、だからそればっかりは気持ちの問題じゃないしさ」

「うん。だからあんたにずっと飲ませてたじゃん」

「飲ませてたって、スムージーのこと?」

「違うよ。あれは遺伝機能付与材。ずっと生化学勉強してきたんだから」

「……ぇ?」


 遺伝機能……付与……?


 予想だにしていなかったその言葉に頭が真っ白になってしまう。

 そんな中で、彼女らは服を脱ぎ終わってしまった。


「写真、いっぱい撮ってたでしょ? ずっとあんたのデータを取ってたの」


 たしかに写真はことあるごとにとっていた。

 けど……、あれが、データ……?


「ただの写真じゃなくて、計測だったってこと……?」


 二人が小さく頷く。


「アサヒ様は私たちができないことを、これまでいっぱいできるようにしてくれました。今度は私たちの番です。アサヒ様ができないことを――子を成せないのなら、それを私たちができるようにしてみせます。あなたが何も創れないとおっしゃるのなら、創れるようにしてみせます。必ず、お約束します」


 子どもが……創れる……?


 それは何度も夢に描いた。

 自分の体は人間と同じような形をしているのに、まるで欠陥品であるかのように機能してくれない。

 それを幾度も呪った。


 それが、変わる……!?


「サクラにも協力してもらったの。ヒューマノイドの身体がどうなっているかを調べさせてもらって。サクラももう、そういう体になってるんだ。これはその、ドッキリっていうか、プレゼントっていうか……」

「じゃ、じゃあ、俺はもう……!?」

「うん。さっき最後のデータを取って、問題なさそうだって確認した。あとは実際の機能確認だけだから……」


 あまりの実感のなさに思考が止まってしまうも、二人は無視して俺のことを押し倒してくる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。いや、だって、そんなのおかしい。それは――」

「ヒューマノイドもいろいろ試してできなかったんでしょう? サクラから聞いたわ。でも、あたしたちは人類よ。舐めないでよね」

「そんな。そんなことって……」


 徐々に実感がわいてきて、心臓があるわけでもないのに鼓動の高鳴りを感じてしまう。

 俺にだって三大欲求は備わっている。

 でも、それ以上に虚しさが勝ってしまうがゆえに、今まではその気になれなかった。


 じゃあ……その虚しさがなくなったら……?


 背中に汗が浮かんでいく中で、目の前には愛する二人。

 どちらも男性であれば思わず振り返ってしまうほどの容姿を兼ね備えた彼女らは、一糸まとわぬ魅力的な姿で俺に迫っている。

 それだけで、俺は強く反応してしまった。


「ま、待ってくれ、その、気持ちの、準備が……」

「ダメ。もう待てない」

「アサヒ様、私たちの未来を一緒につくりましょう?」


 彼女らの手が伸びてきて、俺に優しく触れる。

 それがどうしようもなく愛おしいものに思えて、我慢できなくなってしまった。


 もうなるようになれ、なんて思っていたところで、廊下の方からドタドタと大きな足音が鳴った。

 そして、扉が開いたと思ったら、リューナとライカが飛び出して来たのである。

 その後ろにはカシュアとサラ、セイラ、サクラが続いている。


「やはり抜け駆けしおったな! この女狐どもめ!」

「アサヒ殿とは全員でと申していたではないか!」

「あー……バレちゃったか。エリナだけは出し抜けないと思って協力したけど、やっぱダメだったか」

「仕方ないですね。元々は皆と共にという話でしたし」


「お、おい、何の話だ」


 リューナとライカが出てくる。


「わらわにも子種を恵んでくれるという約束だったはずじゃ!」


 いや、そんな約束はした覚えがないが……。


「アサヒ殿、私ともちゃんと婚姻の契約は結んでいるはずだ! ちゃんとその責務を果たしてくれっ!」


 二人もミリーたちと同様に迫って来る。

 ついでに他のメンバーも。


「はぁ……。お前らな……」


 ため息をついてしまうも、胸のあたりが暖かい。

 彼女らはそこまで俺のことを。


「みんなで創ったのよ。大変だったわ。あんたの言う通り、生化学は奥が深かったわね」

「むしろ今の技術レベルでできている方が俺は驚きだよ。でも――」


 みんなで、か……。

 改まって、俺はみんなに頭を下げる。


「ありがとう、みんな」


 そんな風にしんみりとなってしまったが、彼女らはしんみりとはしていられなかったようだ。

 いそいそと傍に寄って来て、早くしろと言わん態度でこちらを見つめてくる。


「さっ! そしたらみんなでアサヒの取り合いね。ふふっ、負けないわよ」

「ミリーさん、アサヒ様だけは絶対に譲りませんからね」

「戦うのであればわらわは負けんぞえ」

「何言ってんの! アサヒが優劣をつけるんだからアサヒ好みの勝負に決まってるじゃない!」

「あ、そしたらアサヒの好きな武装言い当てっことかどう? それならヒューマノイドのあたしは負けなしだし」

「そんなのサクラさんが断然有利じゃないですか! ダメです!」


 そんな風に言い合いをしながら笑い合う彼女らを見て、ああ、ここへきて、本当に良かったなと思う。


 俺たちは幸せになれただろうか。

 答えは今、目の前に。



 技術は人を幸せにするために存在する。

 決して、不幸な人をつくるためのものなんかじゃない。



 <完>



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 後書き


 皆さん、ここまで私の作品をお読みいただきありがとうございます。

 本作品はこれにて完結となります。

 いたらぬところも多々あったかと思いますが、今後ともより面白い作品が創れるよう精進してまいります。


 次回作は本日より投稿。

 タイトル:追放された私はどうやら魔王だったらしいのだが、せっかくなので前々からなりたかった勇者を目指すことにしました


 こちらとなります↓

 https://ncode.syosetu.com/n0335iw/


 今後とも、私の作品をよろしくお願いいたします。

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