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真の悪魔

 黒く、ただ黒く、その中に一点の赤い目。

 三メートルほどの姿は、それだけならば『飛翔』とさして変わりはない。


 だが、俺たちは知っている。

 そいつこそが、人類の生み出した真の悪魔であるということを。


 蜘蛛を思わせるその動きは生物然としたものでありながら、だが、動作自体は機械チックでもあり。

 樹脂を思わせるマットな表面は、それ単体で生きた金属生命体となっており、創造主である俺たちを見つめ続けているのであった。


『音声入力モード。命令ヲ入力シテ下サイ』

「ふっ、かつてのあれほど恐れたコイツに指示が出せるとはな。――モードスタディ。後方の生命体をアルファ標的と呼称。アルファの無力化を実施」

『命令受諾。スタディ開始』


 途端に、ソイツの姿が消えた。

 ベリアルの死角方向に現れたと思ったら、非武装であった機体にはガトリング砲が備わっており、斉射が始まる。

 だが、結果は俺がやったときと同じ。

 火砲はベリアルの認識に通用しない。


「なーんだ、さっきと同じじゃん」

「俺も最初はそう思ったぜ。ベリアル、気を付けな」


『対象ノ認識ヲ空間位相変換ト断定。位相周波ヲ同調』


 また姿が消えたと思ったら、今度は体中から無数の機関銃が生えている。

 それを四方八方にばら撒きながら、ベリアルにも弾を撃ち込んでいた。


 同じことを、っとベリアルは思ったのであろう。

 だが、次の瞬間にはその顔が、何かあり得ないものでも見ているかのように歪んでいた。


 咄嗟に機関銃を大鎌でガードしていく。

 ベリアルは初めて避けるのではなくガードに回った。


「何が起きてるか、アサヒはわかってる」

「当たり前だろ。アイツが言ってたじゃん。空間位相変換って。ベリアルの生物離れした回避能力やスピードはそもそも生物の動体視力じゃあり得ない。やつは――」


 今になってようやく、ベリアルは焦りにまみれた表情を浮かべる。


「――空間魔法の使い手だ」


 悪魔のみが扱えるその魔法は、認識外からの攻撃を避けたり、自身を転移させたりすることができる。

 悪魔が圧倒的武力足り得る理由だ。


 でも――、と思う。



 俺らの世界の悪魔には絶対に敵わない。



「くそっ! なんだこいつはっ!? なんで飛んだ先を全部攻撃してるんだ!?」

「言ってただろう。お前の認識を断定したって。そうなったらもうソイツからは逃げられないよ」

「そんなはず、あるわけないだろ!!」

「あるよ。人類は時空の読み解きをとっくの昔に終えている。お前が使っている魔法とか言う、理論もよくわからん『玩具』じゃ勝てないよ」

「玩具……だとっ……!?」

「かつてアインシュタインが特殊相対性理論により時空と光と重力と物質の関係性を読み解き、そこから二百年間、数学者と物理学者と天文学者はずっと時空と向き合ってきたんだ。世界が何次元でできているのか、宇宙はどのようにして成り立っているのか、物質とはなんなのか。全部時空の話だ」

「意味わかんないこと言うな! そんなの読み解けるはずがないだろ!」

「解けるんだよ。人類にはな」

「チィッ!」


 断続的にやって来る砲弾を今度は肉体能力で避けていく。

 だが、ヤツのAIがそれを逃すはずもない。


「なら先に叩き斬るっ!!」


 ベリアルがヤツへと突貫し、大鎌を振り下ろす。

 しかし、それがヤツに届くことはなかった。

 まるで行く手を阻む見えない壁でもあるかの如く、ベリアルのカマはヤツの一歩手前のところから進んでいかない。


「っ! なんなんだ! なんで効かないんだ!?」

「ソイツは空間シールドを張っている。あらゆる物理攻撃が遮断される。だって空間が繋がってないんだもん。時空制御はお前なんかじゃ勝負にならないぜ?」

「時空……制御……っ?」


 訳の分からない単語を聞いたからか、あるいは目の前の悪魔に初めて恐怖を感じたからか、ベリアルの表情は歪んでいた。


『対象ノ武装強度ヲ、チタン鋼相当ト断定。有効武装、収束電磁砲ヲ使用』


 またアイツの姿が消え、ベリアルの後方から認識不能の速度でそれが放たれる。

 ベリアルは大鎌を掲げることこそできたが、その武器は散り散りに消えてしまうのであった。


「嘘だ……。そんな……、馬鹿な……」

「お気の毒に。ソイツのAIは凶悪だぜ。見ただけで相手の技術を判別するAIなんて、反則だよ」


 技術はすなわち武力だ。

 それを読み解く技術は俺たちヒューマノイドにとっても脅威であった。


 ベリアルが未だ勝負の炎を瞳に宿す。


「僕は負けない! こんな玩具には絶対に負けない! 【ブラックホール】!!」


 時空魔法最上位の攻撃魔法を展開。

 小さな黒球が出現し、あらゆる物質がそこへと飲み込まれていく。

 空気をも飲み込んでいくため、暴風が吹き荒れ、近くにあった物は次々に吸い込まれていく中で、ベリアルは勝ち誇った笑みを浮かべていた。


「これで死ね! あらゆる物質を飲み込んで破壊する。防ぐ手立てはない!」

「それじゃ勝てないよ」

「そんなわけないだろ! あらゆる物質はこれの前で等しく死ぬ!」

「時空の制御ができるって言ったじゃん。コイツがどうやってそれを制御しているのかって思考に、なんで至らないかな。エリナなら真っ先に気付くよ」

「なにを分けのわからな――」


 その瞬間、耳をつんざく破裂音が鳴り響いた。

 と思ったら、暴風はいつの間にか止んでおり、ベリアルが出現させたブラックホールを消え去っているのであった。


『局所的超重力現象ヲ確認。事象地平面ノ反転ノ実施ニヨリ、コレヲ解除』

「クソっ! クソっ! クソっ! なんなんだこいつ!」


 流石に分が悪いと判断したのであろう、その場を飛び退って逃げようとする。


『アルファ対象ノ逃走意志ヲ確認。荷電粒子砲ヲ使用』


 光が走った。

 飛び退るベリアルは撃墜されてしまい、瓦礫の山に墜落してくる。


「く、くそっ、なんで僕――がぁっ!!!」


 次の瞬間にはベリアルがソイツのアームに捕まれ身動きの取れない状態になっていた。


「放せ! こんのっ!」

『アルファ対象ノ捕縛ニ成功』


 ベリアルはアームから何とか逃れようともがいているが、こうなってしまってはもはやなす術がない。


『アルファ対象ヲ半有機生命体ト断定。溶融過熱ニヨル滅却ヲ――』

「待った!」


 とどめが刺されそうになったため、俺は止めに入る。


「ベリアル、もうわかっただろ。やめろ」

「はんっ! ここに来て情けをかけるのか!? 僕は絶対にやめない! 悪魔たちのためにもっ!」

「ベリアル、お前もシステムによって歪められてしまっただけなんだ。もう、やめてくれ。一緒に生きよう」

「辞めてなるものか! 天使を滅ぼして、僕たちが生きていける世界を創るんだ! 悪魔はみな天使に排除される! この地に降り立ったというだけで殺されるんだぞ! 例え誰も殺していなくともだっ!」


 その瞳には、凄惨な同胞たちの姿が映っているのであろう。

 強い意志がそこに込められている。


「そんなこと、僕が絶対に認めない!!」


「ならわたくしが天使たちを説得してみせます!」


 彼の背後から、サラの声が響いた。


「サラ……っ!」

「ベリアル、殺し合わずに済む方法を一緒に探しましょう。わたくしたちは、お互いきっと分かり合えるはずです」


 他ならないサラからの言葉にベリアルは動揺してしまう。

 まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのであろう。


「一体、どれだけ殺し合いをしてきたと思ってる」

「それでも、きっと現状を変えられるはずです! 他ならない同胞を重んじるあなたであればっ!」


 そう問いかけるも、ベリアル口を閉じたまま。


「ベリアル!」

「……天使の言葉なんて、信用できない」

「わたくしたちが高潔さを最も重んじていることはあなたもご存知でしょう。約束は必ず守ります。そして、あなた方悪魔たちもまた、一度結んだ約束は決してたがえない。違いますか?」

「だがっ! それでも、僕は……。悪魔たちは……」


 そこからベリアルは黙ってしまって、何も喋らなくなってしまった。

 力なく俯いてしまい、敵意が見る見る消えていく。


「拘束を解け。モードフォロウ。アルファの監視」


 ベリアルの監視だけを言い渡して、一旦は様子を見ることにする。


「ベリアル!」


 未だ問いかけ続けるサラの肩を持つ。


「サラ、少し考える時間をやれ。ベリアル、もし気が変わったら声をかけてくれ。お前が来たいのであれば、エミリュラはお前たちを歓迎する」


 力なくへたり込んでしまう彼を横目に、それ以上は声をかけないことにするのだった。


 こちらへと向かって来るミリーたちに視線を移していく。


「終わったのね」

「ああ。……いろいろと、すまなかった」

「さっきも言ったでしょう。謝らないでって」

「そうだったな……。さあ、帰るか、俺たちの街に」

「ええっ!」


 皆が俺に抱き着いてくるのだった。

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