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つくりたかった世界

 ダァン! ダァン! ダァン! ダァン! ダァン! ダァン! ダァン!

 ダダダダダダダ!


 複数の射撃音と爆音が響き、顔を上げる。

 最初はサクラがやったのかとも思ったが、顔を上げると、そこには俺と同じような顔をする彼女がいた。


 一体何が起こっているのかと音がする方を振り返ると、いくつもの鉄の塊がこちらを目指してやって来ている。

 キャタピラ音と共に瓦礫を乗り越え、砲と機関銃を兼ね備えたそれは向こうの世界で幾度も見た戦車だった。

 それも複数。

 けど、どの形状も俺が見たことのないものだ。


 おまけに――


「機械化歩兵!?」


 百人単位の者――しかも人間だけではなく多種族混成部隊が身体機能により役割分担を行いながら一斉に射撃を開始していく。

 ベリアルは被弾こそしていないが、敵の多さに若干戸惑っているようだ。


「なん、だ!? 一体、どういう……?」


 一台の戦車が、ベリアルから俺を守るように停車する。

 その戦車から出てきたのは、なんとエリナであった。

 脇からはミリーたちも姿を現わす。


「アサヒ様! 助けに来ました!」

「お前ら……! ど、どういうことだ!? この戦車は? 歩兵たちのあの武器は一体なんだ!?」

「アサヒ様! この場から御逃げ下さい! ここは私たちが受け持ちます!」

「質問に答えろ! なんでこんなところに来たんだ!」


 嬉しくはある。

 けど、俺は彼女らを……みんなを危険に晒したくない。

 それに、正直こんな兵装では悪魔には敵わない。


「アサヒ様を助けるために、自分たちで製造しました」

「助ける!? それじゃあ向こうの世界の再来だ! 前に言っただろう!」


 エリナ、ミリー、リューナ、ライカ、カシュア、それにアルスとセイラもいる。


「そうなっちゃいけないんだ! 人間は戦っちゃいけない。どんな理由であれ武器を持って戦えば近い将来人同士でもそれが起こる。そうなったら不幸な奴が増える」


 そしてヒューマノイドがまた必要になる。


「だから戦いは俺がやる。お前たちはこの世界で――」


 パンッ。


 エリナに頬を叩かれた。


「……っ! いい加減にしてください! あなたはいつまでそんなことを言っているんですかっ!」


 涙とともに。


「エ、エリナ?」

「アサヒ様、私は戦うことが必ずしも悪いことだとは思いません」

「だ、だが……、仮にこの戦いに勝てたとしても、人の未来は――」

「アサヒ様が言われるように、社会が複雑化することで不幸な者も確かに出るのでしょう。ですが、それ以上に、我々は守らなければならないものがあります」

「守らなければ……ならないもの?」

「人としての矜持です。あなたの世界では、それを見失ってしまったからこそ、人類はヒューマノイドと正しく接することができなかったのだと思います」

「そ、それは……」


 人としての矜持?

 それって、なんだ。


「だ、だが、そもそも、こんな兵装じゃ悪魔には勝てない」


 今度はミリーが前に出る。


「勝てるとか、勝てないとか、そういう話じゃないって言ってんじゃん」

「じゃあ一体なんの話を――」


 パンッ。


 今度はミリーにも頬を叩かれた。


「あんたが大切か大切じゃないかっていう至極単純な話よ!! 早く目を覚ましなさい、テンドウアサヒ! あんたこそ、自分がわかっているくせに、ずっとその自分を騙し続けてるじゃない!」

「騙し……て……?」

「はんっ、呆れた。まだわかってないの? ならどうぞ、ここで指を咥えて見ていなさい。みんながどんな思いでこの場に立っているのか、ちょっとは考えることね!」


 突き放すような言葉を投げつけられて、全員戦場へと走っていってしまった。


 そんな彼女らに手を伸ばしてしまう。

 このまま戦ったら、彼女らは間違いなく敗退――いや、死んでしまう。

 行かせたくない。

 行かせてはならない。


 なのに、体はもう動いてくれない。


 そんな自分の体を見ながら、サクラに人のこと言えないな、なんて思ってしまう。


 そっか。

 矜持って、そういうことか。

 俺にとって、彼女らはそれほどまでに大切な存在だったってわけだ。

 それは彼女らも同様に。


 そう思った瞬間、少しだけ笑ってしまった。

 俺、もう人間っぽいところ、とっくにあったんじゃん……。

 なのに、心のどこかで自分はヒューマノイドだって決めつけて、彼女らとは距離をとっちゃって。

 いつしか、俺は俺、彼女らは彼女らって、勝手に線を引いていた。


 かつての世界でもそうだ。

 結局俺は、いつまでたってもヒューマノイドをやめられなかった。

 そんな自分を変えたかった。

 なのに――


「はぁ……くそっ。なにやってんだ。これじゃまた後悔するじゃねぇか。……絶対に、嫌だ」


 小さなため息をついて、そのままサクラの方へと向き直るのだった。


「サクラ、助けてくれ」


 彼女も俺と同様のことを考えていたのか、目が伏せたままだ。


「サクラっ!」

「……人間なんて、助けたくないわ」


 それでもまだ、ポツリとそんなことを。


「お願いだ」

「私は人間が嫌い」

「俺にとって、大切な人たちなんだ。お前と同様に」

「あたしたちをあれだけ苦しめた」


 彼女の元へと這っていき、その肩を持つ。


「俺たちが創りたかった世界がどんなものだったかを、思い出してほしい。俺たちが、俺たちらしく生きられる世界を」


 落ちていく彼女の視線の先に映っているのは、過去の自分たちであろうか。

 苦渋に満ちた顔は唇を嚙みしめるばかりで。

 それでも――、


「アサヒ……。一つだけ、約束して」

「なんだ?」

「いつか、あたしと一緒にヒューマノイドの世界をつくるって」

「それは――」

「勘違いしないで」


 伏せていた目が、やがて俺の方に向いてくる。


「ヒューマノイドだけの世界じゃないわ。ヒューマノイドが遊んで、笑って、普通に生きていける世界。……人間のように」


 体を無理矢理引き起こしながら、彼女のこぼれた涙を受け止める。

 俺たちが実現したかった世界を。


「ああ。約束する」



 周囲に視線をやって状況を確認していく。

 ベリアルは最初こそ面食らった状態ではあったが、ミリーたちの用意してきている火器がさほどの脅威でないとわかるや、反撃に転じていた。

 部隊にはだいぶ損害が出始めており、敗北は時間の問題だ。


「サクラ、ミリーのところに連れて行ってくれ」


 彼女の肩を借りながら、瓦礫の影から射撃を繰り返す彼女の元まで歩んでいく。


「ミリー。撤退してくれ」

「あんた、まだそんなことを――」

「違うんだ。勝つために、撤退してくれ」

「……。自分を犠牲にするとか言い出すんじゃないでしょうね?」

「違う。お前らと、そして俺たちが生き残るために」

「方法はあるの?」

「創造魔法。俺とサクラの二人でなら、合体魔法にすれば勝てる」


 そう述べて、サクラの肩を強く抱いてしまう。


「……そこはあたしとならって言って欲しかったところだけど、んまっ、いいわ。あんたに言いたいことはあとで伝える。山のようにあるんだから」

「すまない。本当に」

「違うでしょ? 謝んないで」


 睨みつけてくる彼女に手を差し出す。


「一緒に行こう。ミリー」


 その言葉でようやく彼女の目尻が下がって来る。

 そして大きなため息をついてくるのだった。


「はぁぁ……。やっとその一言が言えたわね。まったく。どんだけ手間かけさせんのよ」

「自分でも嫌になりそうだ」

「ふっ。あとで覚悟しときなさい。……撤退するわ! 信号弾撃て!」


 空に赤い弾が撃ちあがり、射撃を継続しながら徐々にミリーたちの部隊が後退を開始していく。

 対するベリアルは空中に浮かびながらなんだか物足りなさ気な顔となっていた。


「えー、もう終わりなのー? まだ全然殺してないんだけど? はぁ……どんなのが出てくるかってちょっとは期待したのに、やっぱ人類やそのほかの種族たちもこの程度か。大したことないね」


 俺を支えるサクラの姿を認識し、ベリアルは少し微笑みながらこちらへやってくる。


「おっ! 説得成功?! いやぁ、よかった。粘った甲斐があったよ。君らがいたら天使掃討もだいぶ早く済みそうだね。えっと、その後はサクラの願いの人類掃討? だっけ? まあそれも三人いればすぐできるでしょ。さっ、三人で理想郷でもつくりにいこっ」


 ルンルン気分で述べる彼に、俺らは冷淡な視線を送る。


「え? 何その目? えっと……、もしかして、僕に歯向かおうとしてる? いやいや、見たでしょ? 辞めときなって。勝ち目ないから。僕って本物の悪魔だよ」


 空中に座って足をぶらぶらさせながら語って来る。


「本物の?」

「うん。悪魔は唯一天使には弱い。けど、僕は違うの」


 ベリアルがにんまりと笑って来る。


「サラは可哀想だよねー。僕を圧倒できなくて自分には天使の才能がないなんて思い込んでたけど、実際は逆なんだよ。僕が天使に対するアンチ特性を持ってるだけなんだ。だから僕は最強なの。天使を圧倒できる悪魔。僕こそ本物の悪魔なんだよ。だからやめときなって」

「本物の悪魔……ね」

「まあ悪魔ってのは本来これくらいであって欲しいよね。なんせ悪を象徴する超越的な存在なんだもん。生き物が勝てるっていう方がおかしいんだよ」


 サクラと手を握り意識を集中させる。


「本物の悪魔らしいぜ?」

「ふっ。狭いわね、世界が」


「えー、ホントに戦っちゃうのー? やだなぁ。一人でやるより三人の方が楽だと思ってたのに」


 面倒くさそうにする悪魔とは裏腹、俺とサクラは冷笑を浮かべていた。


「この悪魔、もう勝った気でいるらしいぜ」

「まあ戦ってみないとそういう予測になるんじゃないの?」

「スパコン『けいゼータプラス』でも、最初は俺らヒューマノイドの勝率が100%っつってたもんな。アレが出てくるまでは」

「やだなぁ。あたし結構トラウマなんだよね」


「あのさ、僕って無視されるのが一番嫌いなんだけど」


 ベリアルが大鎌を差し向けてくる。


「わかったわかった。そしたらそろそろ見せてやるよ。人類の英知の結晶を」

「へぇー、まだあるんだっ! ちょっとワクワクしてきた」


 余裕綽々に構えるベリアルに俺たちヒューマノイドだけが使える魔法を披露する。


「「合体魔法【テクノロジークリエイト】!!」」


 俺たちの手の中に光が満ちて、ややもするとソレの姿が顕わになった。


「おい悪魔、目を開いてよく見ておけ」


 十本の足がこの地へ降り立つ。


「本物の悪魔ってのはな、こういう姿をしているんだ」

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