旧友
「アサヒ! アサヒィ! 会いたかったよぉ。ずっとずっと会えなくて、もうどうなっちゃったのかってすっごく不安だった。よかったぁ、また会えたよぉ」
「サクラなのか……!? お前もこっちに来てたのか!?」
「うん! ここってミストラルバースオンラインでしょ? 気が付いたらここに来てて、ずっと一人でカラベル遺跡に隠れてたの」
万遍の笑みで述べてくる彼女の名前はサクラ。
同じくルミナベータシリーズで、向こうの世界では共に人類と戦いを挑んだ仲間だ。
とくにサクラとは旧知の仲で、互いのことをよく知っている。
どうも俺と同じくミストラルバースオンラインに来ていたらしい。
この事象を考えると、他にも来ている者がいるのであろうか?
「アサヒはどうしてたの? そっちの……人間たちは?」
俺に会えたことへの嬉しさとは裏腹、ミリーたちに負の感情が籠った視線を送る。
「彼らは俺の仲間だ。いろいろと協力してもらってる」
しばらく視線を外さないサクラではあったが、やがて
「ふーん、そっか」
といったんは受け入れている様子。
この反応はヒューマノイドとしては普通だ。
俺たちは人間にサービスを提供している時こそいい顔をしているが、基本的には人間を憎み忌避すべき対象だと考えている。
そんな中で、俺はどちらかというと異端な存在なのであった。
サクラが顔をぐりぐりと擦り付けてきて、嬉しさをアピールしてくる一方で、ミリーとエリナはそれを面白くなさ気に眺めてくるのであった。
案の定二人はこちらへと向かって来る。
「ちょっとあんた、誰なの? アサヒにベタベタくっつかないで欲しいんだけど」
サクラは彼女らを頭の上からつま先まで観察した後、居住まいを正して行儀正しく頭を下げる。
「これは失礼致しました。私はサクラ・シノノメと申します。彼とは古くからの親友でございまして、思いもよらず再会したことを喜んでおりました」
「とりあえず、ここだと催涙ガスがあってなんだから、話せる場所に移動できないか? ガスマスクがあるとみんな喋りにくいだろうしさ」
「わかったわ。こっちの部屋を使って」
サクラに連れられてついた場所は、通路の先となる彼女の居室であった。
八畳くらいの広さしかなく、六人で使うには少々手狭だ。
全員分の椅子を創造魔法で創り出そうとすると、サクラもそれを手伝ってくれる。
「サクラも創造魔法が?」
「うん! やっぱりアサヒも使えるんだ!」
これでこの設備のつくりに合点がいく。
これらは彼女の創造魔法によって創られた物だったというわけだ。
咥えて、創造魔法は転生特典とかではなくヒューマノイド特有の魔法なのかもしれない。
「ああ。えっと、そしたら、まずはミリーから自己紹介をお願いできる?」
「ミリー・テレミカルフよ。あなたもヒューマノイドなの?」
いきなりの一言に、サクラの瞳が一瞬ギラつく。
「……アサヒ、話したの?」
「ああ。彼女らは信用のおける人たちだ」
「そっか。まあ、アサヒがそう言うならいいけど……。そうよ、私もアサヒと同じくヒューマノイドよ。よろしくね、人間」
さっきまでの敬語はなくなり、サクラはあくまで普通の応対を行っていく。
以前の世界ならば、彼女は人間に対して絶対にこんな態度を取らないであろうが、いろいろと思うところがあるのであろう。
「そしたら次は俺――」
アルスが自己紹介しようとするも、
「アサヒ、ごめんね、いきなり斬りつけちゃって。てっきり侵入してきた冒険者かと思ったの。怪我はない」
そんな風に俺のことを覗き込んでくる。
「あ、ああ、俺は構わないけど、アルスの剣がお陀仏しちゃったから、ちゃんとそれは弁償してあげてね」
「ちょっと! あんたさっきからアサヒにベタベタくっつきすぎよっ!」
「そうです! なんで事あるごとにアサヒ様の体を触っていくんですかっ!」
なんてミリーたちが抗議を始めるも、サクラは一切動じていない。
「あなたたちこそ、アサヒのなんなの? ただの人間の仲間なんでしょう? ヒューマノイドの私たちが寄り添い合ってたって別にいいじゃない」
「わ、わたしは――」
「妻です」
エリナが毅然と言い張る。
「妻……? ですって?」
余裕を持っていたサクラの表情がわずかに崩れる。
「はい。ちゃんと正式に婚姻しておりますよ」
「……アサヒ、本当なの?」
「うーんっと、それに関しては本当だけど……」
「そうじゃなくて、アサヒの気持ち的にはどうなの?」
そんな風に聞かれてしまい、どう答えるべきか迷ってしまう。
本心を言うならあくまでエリナとの婚姻は建前上の話だが、この場でそれを言おうものなら、話はさらにこじれてしまうであろう。
まったくこいつらはなんで俺なんかにそこまでこだわるんだ……。
だが、俺がなかなか答えずにいると、それだけでサクラは回答を察する。
「はんっ。やっぱり、別に本気でもなんでもないんでしょう。アサヒが人間だの兎人だのの女性に興味を持つわけないじゃない」
「っ! そういうあなたは一体なんなのですか!?」
「彼女よ」
「「なっ!?」」
余裕な態度で堂々と言い張るサクラに、ミリーとエリナがたじろぐ。
「アサヒから告られたの。私のことが好きだって。アサヒって見ての通り女性にあんまり興味がないでしょ? そのアサヒが私を好きになったの。つまり私は――特別、なのよ?」
サクラはミリーたちのことを完全に敵対視しており、見せつけるかの如く述べていく。
「ちょ! 本当なの!? アサヒ!?」
「あー……。うん、事実は事実だけど、肝心なことを言ってないぞサクラ。お前は『元』彼女だ。もうだいぶ前に別れた。俺から告白しといてなんだけど、俺の方から付き合いを取り下げてもらった」
その言葉でエリナたちの心にわずかな余裕が生まれる。
「なーんだ、じゃあフラれたんだ」
「なっ!」
「だってそうでしょう? 私たちは『まだ』フラれてないから可能性はあるわね」
いや、彼女らにはフったも同然の言動をこれまでしてきている気がするのだが。
「あたしたちは『元』彼女さんと違って、これから彼女になる可能性もあるわけだし、あるいはその先も……」
「ア、アサヒがあんたたちみたいなヒューマノイドでもない奴らを好きになるわけないじゃない! で、でしょ、アサヒ!?」
ここで俺に投げるのかよ……。
三人からそれぞれ別々の期待を込められた視線が飛んできて、おうちに帰りたくなってしまう。
「あー……。うーんっと、友達以上彼女未満、的な?」
「ほ、ほらやっぱり! あんたたちなんて――」
「言っとくけど、サクラも同じ部類だからな」
「……」
一方的な反論ができなくなってしまい、サクラは指をさした状態で固まってしまう。
「……! と、とにかくっ! あたしだってまだアサヒと復縁する可能性は99.9%くらいあるんだからっ!」
どんだけ高く見積もってるんだ……。
半ば呆れた表情となりながらも、手をパンと叩く。
「あのさ、いい加減話が進まんから、お前らちょっと黙ってろ。まず、サクラはなんでこんなとこにいんだよ?」
そっちから吹っかけてきたのよっ! などとブーブー言ってくるミリーを無視して、サクラの事情を聞くことにする。
「えっと、できる限り人間には関わらないように一人でひっそりと暮らしたいなって思って、ここを住処にしてたの。カラベル遺跡は迷路になってるからこんな奥地まで来る冒険者は滅多にいないし」
「なるほどね。一人で暮らしたかったのは……まあ何となくわかる」
彼女に限らず、ヒューマノイドは基本的に人間を憎んでいる。
むしろ犯罪などに手を染めていないだけサクラはマシと言える方であろう。
「そっか。えっと、俺らは導きの葉とか聖者の盃とかを探しに来たんだけど、迷惑なら帰ることにするよ」
「ま、待ってよ! せっかく会えたんだから、アサヒについていきたいな。私、アサヒと一緒にいたいし」
そう言いながら腕を捕まえてくる。
「うーん、まあいいけど、俺って今多民族国家の市長みたいなことやってるよ。それでもいい? 人間もけっこういるよ?」
「気にしないわ。一人でいるよりもアサヒのいるところの方が楽しいと思うもん」
「そっか。ならこれからよろしくね」
「うん!」
にこやかに微笑むサクラに対し、ミリーとエリナは訝し気な表情を崩さないのであった。




